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第十章
447:広報企画室長、お願いする
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OP社がECN社の発電技術者を受け入れる、と回答してからわずか十数分後に、ECN社広報企画室からこの旨が発表された。
レイカがミヤハラを急かし、発表を急がせたのである。
発表の効果はてきめんであった。
電力の危機はサブマリン島全体の危機である。
その危機にいち早く立ち上がったECN社の評価は高まった。
マスコミなどからの取材は広報企画室が対応することになったのだが、室長であるレイカの対応もECN社の評価を更に高めたのである。
レイカはマーケター時代からマスコミ対応には慣れている。
その能力は今回もいかんなく発揮され、数々の取材を確実にこなしていったのである。
その一方でレイカは、OP社に派遣するメンバーの選定にも携わった。
彼女の基本方針は、「『タブーなきエンジニア集団』出身の者を優先的にOP社へ派遣する」というものであった。
「タブーなきエンジニア集団」の者を意図的に状況の厳しいOP社に派遣することで、ECN社の古参従業員からの批判をかわすためだ。
プロジェクトチームに参加していたタカシ・モリタも、本人の希望とは裏腹にOP社派遣組に入った。
彼は本来であればロビー率いる「東部探索隊」に組み入れられるべきであったのだが、レイカが彼の残留を強く求めたのだ。
モリタはレイカと親しいといえる間柄ではあった。
そこでモリタは、派遣が決まった日にレイカに直接クレームを入れるためにレイカの席へと巨体を走らせた。
「メルツ室長! 今回の派遣の話ですけど、発電技術者としての実務経験が少ない私のような者を派遣するというのは、社としての姿勢が問われると思うのですが、いかがでしょうか?」
レイカは少しも騒がず、ミーティングスペースで話をすることを提案した。
モリタはかなり渋ったのだが、レイカがどうしてもというのでしぶしぶ提案を受け入れた。
「モリタ君には、どうしてもOP社でしてもらいたいことがあるの」
社内でレイカはモリタのことを通常「モリタさん」と呼ぶ。
「さん」付けにするのは、彼女なりに気を遣っているのだ。
役職者を除いてすべて「さん」付けにすることで、従業員を公平に扱おうと考えているのである。
それが「モリタ君」になるのは、プライベートの話だということを意味している。
「それは……非公式のお願い、ということでしょうか?」
「そう。モリタ君以外にできないし、頼める人がいない仕事だから」
「説明をお願いします。それで受けるかどうか決めたいと思います」
レイカと異なり、モリタの口調はどこか他人行儀である。
「いいわ。モリタ君にお願いしたいのは、OP社の中の様子をできるだけ調べて私に報告することなの。特に発電事業がどういう状況にあるのかを」
「……何故私なのでしょうか?」
「技術者としての目を持っていて、状況を事細かにチェックできる人でないとダメなの。そして私のお願いでこうしたことをしてくれる人、となるとモリタ君以外に考えられないから。勿論、有用な情報を伝えてくれれば査定に反映させます。広報企画室長権限で特別ボーナスを出すこともできると思うし……」
しばらくの間、モリタはレイカの申し出を拒否していたのだが、結局はレイカの必死の説得により折れた。
こうして、一二月二一日にECN社から派遣された発電技術者がOP社に到着した。
これに伴ってOP社本社からインデストへと発電技術者が戻されることとなり、一月上旬にポータル・シティを出発することとなった。
すぐに技術者をインデストへ出発させなかったのは、業務の引継ぎと移動前の休暇を考慮したヤマガタの判断だった。
この判断が後にインデストに災禍を招くこととなる。
ヤマガタが判断の誤りを知ったのは、技術者がインデストへ向けて出発した数日後のことであった。
レイカがミヤハラを急かし、発表を急がせたのである。
発表の効果はてきめんであった。
電力の危機はサブマリン島全体の危機である。
その危機にいち早く立ち上がったECN社の評価は高まった。
マスコミなどからの取材は広報企画室が対応することになったのだが、室長であるレイカの対応もECN社の評価を更に高めたのである。
レイカはマーケター時代からマスコミ対応には慣れている。
その能力は今回もいかんなく発揮され、数々の取材を確実にこなしていったのである。
その一方でレイカは、OP社に派遣するメンバーの選定にも携わった。
彼女の基本方針は、「『タブーなきエンジニア集団』出身の者を優先的にOP社へ派遣する」というものであった。
「タブーなきエンジニア集団」の者を意図的に状況の厳しいOP社に派遣することで、ECN社の古参従業員からの批判をかわすためだ。
プロジェクトチームに参加していたタカシ・モリタも、本人の希望とは裏腹にOP社派遣組に入った。
彼は本来であればロビー率いる「東部探索隊」に組み入れられるべきであったのだが、レイカが彼の残留を強く求めたのだ。
モリタはレイカと親しいといえる間柄ではあった。
そこでモリタは、派遣が決まった日にレイカに直接クレームを入れるためにレイカの席へと巨体を走らせた。
「メルツ室長! 今回の派遣の話ですけど、発電技術者としての実務経験が少ない私のような者を派遣するというのは、社としての姿勢が問われると思うのですが、いかがでしょうか?」
レイカは少しも騒がず、ミーティングスペースで話をすることを提案した。
モリタはかなり渋ったのだが、レイカがどうしてもというのでしぶしぶ提案を受け入れた。
「モリタ君には、どうしてもOP社でしてもらいたいことがあるの」
社内でレイカはモリタのことを通常「モリタさん」と呼ぶ。
「さん」付けにするのは、彼女なりに気を遣っているのだ。
役職者を除いてすべて「さん」付けにすることで、従業員を公平に扱おうと考えているのである。
それが「モリタ君」になるのは、プライベートの話だということを意味している。
「それは……非公式のお願い、ということでしょうか?」
「そう。モリタ君以外にできないし、頼める人がいない仕事だから」
「説明をお願いします。それで受けるかどうか決めたいと思います」
レイカと異なり、モリタの口調はどこか他人行儀である。
「いいわ。モリタ君にお願いしたいのは、OP社の中の様子をできるだけ調べて私に報告することなの。特に発電事業がどういう状況にあるのかを」
「……何故私なのでしょうか?」
「技術者としての目を持っていて、状況を事細かにチェックできる人でないとダメなの。そして私のお願いでこうしたことをしてくれる人、となるとモリタ君以外に考えられないから。勿論、有用な情報を伝えてくれれば査定に反映させます。広報企画室長権限で特別ボーナスを出すこともできると思うし……」
しばらくの間、モリタはレイカの申し出を拒否していたのだが、結局はレイカの必死の説得により折れた。
こうして、一二月二一日にECN社から派遣された発電技術者がOP社に到着した。
これに伴ってOP社本社からインデストへと発電技術者が戻されることとなり、一月上旬にポータル・シティを出発することとなった。
すぐに技術者をインデストへ出発させなかったのは、業務の引継ぎと移動前の休暇を考慮したヤマガタの判断だった。
この判断が後にインデストに災禍を招くこととなる。
ヤマガタが判断の誤りを知ったのは、技術者がインデストへ向けて出発した数日後のことであった。
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