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第十章

441:IMPU

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 IMPUを構成する企業群にとって、取引先の確保は急務である。
 最大かつ唯一ともいえる取引先であったOP社との取引は今後望めそうもない。
 アカシは痛いほどそれらの事情を理解しており、IMPUとして行動を起こさなければならないことを誰よりも深く理解していた。
 その証拠にOP社の代替取引先として、ECN社との交渉を纏め上げていたのだ。
 ECN社の「金属分野への参入はしないが、自社利用分の金属材料はIMPUから直接購入する」という回答はアカシにとって正直やや期待はずれ、と言いたくなる内容ではあった。
 それでも収入がないよりはましである。
 ECN社の社内需要だけでも相当な量を見込むことができるうえ、買い付け価格がOP社よりも二割程度高いのだ。
 これならIMPU参加企業群の当面の資金需要をそれなりに満たすことができる水準である。
 一方でアカシは金属材料をそのまま納入するだけではなく、製品レベルまでの加工をインデストで行い、ポータル・シティなどに売り込むことも考えていた。

 インデストはポータル・シティ、ハモネスなどサブマリン島主要都市から遠く離れている。
 それにも関わらず産業は鉄鉱石等金属の採掘、材料レベルまでの加工に大きく偏っており、その他は人口分を何とか支えるだけの農林水産業と発電事業が行われているのみである。また、観光産業にも力を入れているが、こちらは今のところ大した成果を出せていない。
 こうした状況であるため機械、電気製品などの金属を使った製品の大部分は、ポータル・シティなどの主要都市から買い入れていた。
 これらの製品は長距離の輸送と途中にあるフジミ・タウンの賊による略奪や破壊の危険がコストとして上乗せされており、非常に高価であった。
 フジミ・タウンはハドリ率いるOP社治安改革部隊によって解放されたため、賊による危険は解消されていたが、距離の問題は未だに克服できていない。
 こうした金属を使った製品の製造を行えば、わざわざ遠くから高いコストをかけて製品を買い入れる必要もなくなるのだ。
 また、アカシは将来的にインデスト-ポータル・シティ間に鉄道を建設するという壮大なプランも持っていた。
 同様のプランは過去に何度か計画されたことがあったが、建設資材の確保の困難さと道中の安全性の問題とが重なって、実行に移されたことはなかった。
 建設資材に関しては、インデストである程度調達できる。
 そして、現在ではフジミ・タウンの危険性がなくなっている。
 鉄道建設の最大の障壁が取り除かれたのだ。
 アカシは障壁を取り除いた相手を必ずしも快くは思っていなかったが、障壁が取り除かれたという事実については素直に受け入れている。
(鉄道を建設する原資を得るためにも、金属加工品の産業化が必要だな。とにかく、最初の一歩を踏み出すことだ)
 いきなり鉄道建設に着手できるほどIMPUが資源を有していないことくらい、アカシも重々承知している。
 当面は金属材料そのものに依存しない体制を作り上げること。
 これがIMPUにアカシが与えた最初の課題であった。
 これ以外にもIMPUが抱える問題は多い。
 抱える問題の多さに対し、アカシが抱えるスタッフはそれほど多くない。
 IMPUの理事はアカシを含めて五名である。
 IMPUに属する企業の従業員数は合計で二万人を超えていたから、組織の規模に対して著しく幹部が少ないことがわかる。

 アカシがIMPUの代表に就任する際、参加企業は「OP社グループ労働者組合」がIMPUを牛耳るのではないかと懸念していた。
 一方、アカシは「労働者組合」の幹部がIMPUの上層部と深く関わることを望まなかった。
「労働者組合」には、IMPU上層部の暴走を牽制する役割を期待していたためである。
 実際、アカシは「労働者組合」の幹部の一人だけをIMPUの幹部として迎えた。
 IMPU最年長の幹部にして、唯一出生地が地球というカイト・タマノという人物である。
 一八歳で当時まだ宇宙ステーションであったルナ・ヘヴンスにECN社のアルバイトとして乗り込んでおり、現在七〇歳になる。
 この世代はエクザロームに多数居住しており、人口比でも多数派を占めているのだが、年齢が原因で産業の中枢からはその多くが外れている。
 アカシがタマノを「労働者組合」やIMPUの幹部に引き入れたのは、この年齢にしてなお不正や横暴と戦う気概に満ち溢れていたからである。
 OP社治安改革部隊との戦闘でも後方で組合員の鼓舞に当たっており、多くの非戦闘員である組合員は彼に励まされたといってよかった。
 IMPUも必ずしも望まれて誕生した組織ではなく、今後の運営には相当の困難が予想されたから、彼のような鼓舞役が強く求められる。
 他の理事はアカシとほぼ同年代であり、どちらもOP社の元系列会社の出身である。
 ワジマというアカシと同い年の理事は、社命でIMPUの様子見のために派遣されたようであった。
 もう一人のマナベ、という理事は鋼材生産設備のメンテナンス会社の社長である。
 こちらはIMPUに商機を見出して、自ら身を投じたようであった。
 マナベのようにIMPUに攻めの姿勢で参加した企業はそう多くない。
 IMPUの構想が明らかにされたのは、多くのOP社系列企業がOP社との取引を一方的に打ち切られ、転業や他の取引先の開拓など手を打ち尽くしたのとほぼ同じ頃である。
 次の手を考えるよりも、途方に暮れていた企業が圧倒的多数だったのだ。
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