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第十章
440:前途多難
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「OP社の対応は論外です。再三の私どもの質問に対し、一つとして内容のある回答がありません。彼らには既に回答をする能力そのものがないと思われます。これ以上の交渉は意味をなさないのではないでしょうか? 速やかに違約金を請求すべきだと思います」
口調は極めて穏やかであるが、非常に厳しい内容の言葉が一人の女性の口から発せされていた。
女性の話の聞き役となっているのは、つい先日IMPU代表となったサン・アカシである。
「確かにOP社には誠意が感じられない。違約金もいいが、彼らに非を認めさせる方が先ではないか?」
「いえ、それは意味がありません。OP社は私どもに鉄鉱石の採掘から加工、その輸送を委託していました。私どもは契約に基づいて鉄鉱石を採掘・加工し、鉄材をポータル・シティまで輸送していたのです。その契約を不当に打ち切ろうとしたのですから、我々の回答は二つに一つです!」
「契約打ち切りを撤回させるか、違約金を支払わせるか、だな」
「仰るとおりです。しかし、現在のOP社に契約を維持するだけの能力はないでしょう。ヤマガタ社長では無理と言うものです!」
女性の言葉にアカシは少し考えるそぶりを見せた。
あまり彼の趣味に合う選択肢ではない。
「……わかった。OP社に契約打ち切りの撤回か違約金の支払かを求める文書を私の名前で出す。サカデさん、文面を考えてくれないか?」
「代表名で出される文書なら、代表自ら作成されるのが良いと思いますが?」
「契約関係は苦手だ。文面の最終チェックは私がやるから、文案を考えて欲しい。誰かその手の仕事が得意そうなのに頼んでやってもらっても構わない」
「……そういうことでしたら仕方ありません。承知しました」
渋々ながらという表情を隠そうともせず女性はそう答えて、その場を去った。
「どうも考えがズレているな。……」
アカシが小さくぼやいた。
アカシから見て先ほどの女性、ナナミ・サカデの考えは趣味に合わない。
彼女はIMPUの五名の理事で唯一の女性であり、かつ唯一のOP社の元社員であった。
OP社治安改革部隊と「タブーなきエンジニア集団」「OP社グループ労働者組合」の連合軍とが戦っていた際には採掘場で生産管理の業務に就いており、戦闘そのものには参加していなかった。
戦闘終結後も生産管理の業務を続けていたが、アカシがIMPU設立の構想を発表したときにOP社を退職し、IMPUに転じたのである。
理事の選任に当たって、アカシは参加企業に推薦を募った。
最も多くの推薦を得たのが彼女である。
アカシにも彼女の理事就任に反対する理由は無かったし、現在でも理事にしたこと自体は正しかったと考えている。ただ一つの問題を除いては。
考え方が徹底的に合わないのである。
組合活動に力を注いでいたため忘れられがちであるが、アカシの本来の業務は鉄鉱石の採掘を行う作業員のリーダーである。
リーダーといえども、自ら先頭に立って採掘作業に従事する完全無欠の現場作業員である。
一方、サカデは完全なデスクワークの部隊である。
この二人の意識の隔たりは大きい。
もっとも、これはアカシが一方的に感じているだけなのかもしれないが。
「これだから、現場を知らん奴は……何もわかっちゃいねえ、か」
アカシからすれば、こうぼやきたくもなるくらいサカデは「わかっていない」のだ。
相談もなしに一方的に契約を打ち切るのは、企業としての仁義に反する。
仁義に反する行為は、正さなければならない。
そのためにはこうした行為を見逃さず相手に指摘し、仁義に反していることを気付かせ、反省させる必要がある。
もちろん、時と場合によっては見逃してもよいこともあるのだが、少なくとも今回はそうした状況にない。
それを契約と違約金レベルの話に落とし込むのは、企業としての仁義を軽んじ、何でも書面と金で解決するという悪習であるとアカシは考えている。
(企業ってのは、数字と文書だけでは動かないのだがな。OP社本体で画面や紙と格闘していた相手じゃ、それもわからんのだろう。根気良く教えていくしかない!)
「教える」という言葉に、アカシにも若干の抵抗はある。
サカデの方がアカシより一〇年近く年長であり、その分職業人としての経験も長い、
それなのに何故、経験の少ない自分がサカデに企業としての仁義を教えなければならないのか?
簡単に言えば「この程度のこともわからんのか」ということになる。
(やはり現場を知らないお嬢さん、だからな)
「お嬢さん」というあたりには、かなりの皮肉が込められている。
アカシより九歳年長で三六歳のサカデは、ここエクザロームでも一般的に「お嬢さん」と呼ばれる年齢ではないのだ。
しかし、ぼやいてばかりいるわけにもいかない、ということはアカシも承知していた。
口調は極めて穏やかであるが、非常に厳しい内容の言葉が一人の女性の口から発せされていた。
女性の話の聞き役となっているのは、つい先日IMPU代表となったサン・アカシである。
「確かにOP社には誠意が感じられない。違約金もいいが、彼らに非を認めさせる方が先ではないか?」
「いえ、それは意味がありません。OP社は私どもに鉄鉱石の採掘から加工、その輸送を委託していました。私どもは契約に基づいて鉄鉱石を採掘・加工し、鉄材をポータル・シティまで輸送していたのです。その契約を不当に打ち切ろうとしたのですから、我々の回答は二つに一つです!」
「契約打ち切りを撤回させるか、違約金を支払わせるか、だな」
「仰るとおりです。しかし、現在のOP社に契約を維持するだけの能力はないでしょう。ヤマガタ社長では無理と言うものです!」
女性の言葉にアカシは少し考えるそぶりを見せた。
あまり彼の趣味に合う選択肢ではない。
「……わかった。OP社に契約打ち切りの撤回か違約金の支払かを求める文書を私の名前で出す。サカデさん、文面を考えてくれないか?」
「代表名で出される文書なら、代表自ら作成されるのが良いと思いますが?」
「契約関係は苦手だ。文面の最終チェックは私がやるから、文案を考えて欲しい。誰かその手の仕事が得意そうなのに頼んでやってもらっても構わない」
「……そういうことでしたら仕方ありません。承知しました」
渋々ながらという表情を隠そうともせず女性はそう答えて、その場を去った。
「どうも考えがズレているな。……」
アカシが小さくぼやいた。
アカシから見て先ほどの女性、ナナミ・サカデの考えは趣味に合わない。
彼女はIMPUの五名の理事で唯一の女性であり、かつ唯一のOP社の元社員であった。
OP社治安改革部隊と「タブーなきエンジニア集団」「OP社グループ労働者組合」の連合軍とが戦っていた際には採掘場で生産管理の業務に就いており、戦闘そのものには参加していなかった。
戦闘終結後も生産管理の業務を続けていたが、アカシがIMPU設立の構想を発表したときにOP社を退職し、IMPUに転じたのである。
理事の選任に当たって、アカシは参加企業に推薦を募った。
最も多くの推薦を得たのが彼女である。
アカシにも彼女の理事就任に反対する理由は無かったし、現在でも理事にしたこと自体は正しかったと考えている。ただ一つの問題を除いては。
考え方が徹底的に合わないのである。
組合活動に力を注いでいたため忘れられがちであるが、アカシの本来の業務は鉄鉱石の採掘を行う作業員のリーダーである。
リーダーといえども、自ら先頭に立って採掘作業に従事する完全無欠の現場作業員である。
一方、サカデは完全なデスクワークの部隊である。
この二人の意識の隔たりは大きい。
もっとも、これはアカシが一方的に感じているだけなのかもしれないが。
「これだから、現場を知らん奴は……何もわかっちゃいねえ、か」
アカシからすれば、こうぼやきたくもなるくらいサカデは「わかっていない」のだ。
相談もなしに一方的に契約を打ち切るのは、企業としての仁義に反する。
仁義に反する行為は、正さなければならない。
そのためにはこうした行為を見逃さず相手に指摘し、仁義に反していることを気付かせ、反省させる必要がある。
もちろん、時と場合によっては見逃してもよいこともあるのだが、少なくとも今回はそうした状況にない。
それを契約と違約金レベルの話に落とし込むのは、企業としての仁義を軽んじ、何でも書面と金で解決するという悪習であるとアカシは考えている。
(企業ってのは、数字と文書だけでは動かないのだがな。OP社本体で画面や紙と格闘していた相手じゃ、それもわからんのだろう。根気良く教えていくしかない!)
「教える」という言葉に、アカシにも若干の抵抗はある。
サカデの方がアカシより一〇年近く年長であり、その分職業人としての経験も長い、
それなのに何故、経験の少ない自分がサカデに企業としての仁義を教えなければならないのか?
簡単に言えば「この程度のこともわからんのか」ということになる。
(やはり現場を知らないお嬢さん、だからな)
「お嬢さん」というあたりには、かなりの皮肉が込められている。
アカシより九歳年長で三六歳のサカデは、ここエクザロームでも一般的に「お嬢さん」と呼ばれる年齢ではないのだ。
しかし、ぼやいてばかりいるわけにもいかない、ということはアカシも承知していた。
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