ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
17 / 233
第十章

440:前途多難

しおりを挟む
「OP社の対応は論外です。再三の私どもの質問に対し、一つとして内容のある回答がありません。彼らには既に回答をする能力そのものがないと思われます。これ以上の交渉は意味をなさないのではないでしょうか? 速やかに違約金を請求すべきだと思います」
 口調は極めて穏やかであるが、非常に厳しい内容の言葉が一人の女性の口から発せされていた。
 女性の話の聞き役となっているのは、つい先日IMPU代表となったサン・アカシである。
「確かにOP社には誠意が感じられない。違約金もいいが、彼らに非を認めさせる方が先ではないか?」
「いえ、それは意味がありません。OP社は私どもに鉄鉱石の採掘から加工、その輸送を委託していました。私どもは契約に基づいて鉄鉱石を採掘・加工し、鉄材をポータル・シティまで輸送していたのです。その契約を不当に打ち切ろうとしたのですから、我々の回答は二つに一つです!」
「契約打ち切りを撤回させるか、違約金を支払わせるか、だな」
「仰るとおりです。しかし、現在のOP社に契約を維持するだけの能力はないでしょう。ヤマガタ社長では無理と言うものです!」
 女性の言葉にアカシは少し考えるそぶりを見せた。
 あまり彼の趣味に合う選択肢ではない。
「……わかった。OP社に契約打ち切りの撤回か違約金の支払かを求める文書を私の名前で出す。サカデさん、文面を考えてくれないか?」
「代表名で出される文書なら、代表自ら作成されるのが良いと思いますが?」
「契約関係は苦手だ。文面の最終チェックは私がやるから、文案を考えて欲しい。誰かその手の仕事が得意そうなのに頼んでやってもらっても構わない」
「……そういうことでしたら仕方ありません。承知しました」
 渋々ながらという表情を隠そうともせず女性はそう答えて、その場を去った。
「どうも考えがズレているな。……」
 アカシが小さくぼやいた。
 アカシから見て先ほどの女性、ナナミ・サカデの考えは趣味に合わない。
 彼女はIMPUの五名の理事で唯一の女性であり、かつ唯一のOP社の元社員であった。
 OP社治安改革部隊と「タブーなきエンジニア集団」「OP社グループ労働者組合」の連合軍とが戦っていた際には採掘場で生産管理の業務に就いており、戦闘そのものには参加していなかった。
 戦闘終結後も生産管理の業務を続けていたが、アカシがIMPU設立の構想を発表したときにOP社を退職し、IMPUに転じたのである。
 理事の選任に当たって、アカシは参加企業に推薦を募った。
 最も多くの推薦を得たのが彼女である。
 アカシにも彼女の理事就任に反対する理由は無かったし、現在でも理事にしたこと自体は正しかったと考えている。ただ一つの問題を除いては。
 考え方が徹底的に合わないのである。
 組合活動に力を注いでいたため忘れられがちであるが、アカシの本来の業務は鉄鉱石の採掘を行う作業員のリーダーである。
 リーダーといえども、自ら先頭に立って採掘作業に従事する完全無欠の現場作業員である。
 一方、サカデは完全なデスクワークの部隊である。
 この二人の意識の隔たりは大きい。
 もっとも、これはアカシが一方的に感じているだけなのかもしれないが。
「これだから、現場を知らん奴は……何もわかっちゃいねえ、か」
 アカシからすれば、こうぼやきたくもなるくらいサカデは「わかっていない」のだ。
 相談もなしに一方的に契約を打ち切るのは、企業としての仁義に反する。
 仁義に反する行為は、正さなければならない。
 そのためにはこうした行為を見逃さず相手に指摘し、仁義に反していることを気付かせ、反省させる必要がある。
 もちろん、時と場合によっては見逃してもよいこともあるのだが、少なくとも今回はそうした状況にない。
 それを契約と違約金レベルの話に落とし込むのは、企業としての仁義を軽んじ、何でも書面と金で解決するという悪習であるとアカシは考えている。
(企業ってのは、数字と文書だけでは動かないのだがな。OP社本体で画面や紙と格闘していた相手じゃ、それもわからんのだろう。根気良く教えていくしかない!)
「教える」という言葉に、アカシにも若干の抵抗はある。
 サカデの方がアカシより一〇年近く年長であり、その分職業人としての経験も長い、
 それなのに何故、経験の少ない自分がサカデに企業としての仁義を教えなければならないのか?
 簡単に言えば「この程度のこともわからんのか」ということになる。
(やはり現場を知らないお嬢さん、だからな)
「お嬢さん」というあたりには、かなりの皮肉が込められている。
 アカシより九歳年長で三六歳のサカデは、ここエクザロームでも一般的に「お嬢さん」と呼ばれる年齢ではないのだ。
 しかし、ぼやいてばかりいるわけにもいかない、ということはアカシも承知していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...