上 下
16 / 111
第十章

439:ナンバーツーの役割

しおりを挟む
 セスの死に対する対応が決まったところで、サクライが再び「東部探索隊」についての状況説明をエリックに求めた。
 「東部探索隊」について、今のところエリックに説明できる情報はそれほど多くない。
 出発を急いだため、隊との通信インフラの構築が後回しになっており、現時点においても、ECN社本社から隊と直接連絡を取る手段がないのである。
 数週間以内に通信回線が開通するはずではあるが、ロビーの持つ小型の端末では通信時間や範囲も限られている。
 特に範囲についてはかなり厳しい状況で、数週間後に開通する回線では山越えのルートを探索しているときには電波が届かないことが予想されている。
 これに対する対策も実行される予定だが、そちらは通信回線開通よりも更に数週間後になる見込みだ。
 こうした状況からロビーたちと十分な情報を交換するためには、それ相応の時間がかかるとエリックは考えている。

 一方、サクライはミヤハラと並んで、「東部探索隊」の事業について利害関係者に説明を求められる立場である。
 動きの重いミヤハラに対して、幾分かは腰の軽いサクライがミヤハラに代わって利害関係者への説明を担当している。
 サクライもミヤハラ同様面倒ごとは嫌いなのだが、「東部探索隊」に関する問い合わせが彼に集中するので、仕方なく対応している面があるのは否めない。
 サクライに問い合わせが集中したのは、彼の外見のせいである。
 大柄で外見に威圧感のあるミヤハラに対し、サクライはやや小柄だ。
 ミヤハラに問い合わせるのは怖いが、サクライなら、という程度の理由である。
 交渉相手としてはサクライの方が厳しい相手なのだが、説明を求める方は相手の外見に左右されるようであった。

 エリックが「東部探索隊」の状況について説明するにはもう少し時間が必要だ、と回答すると、サクライが近日中の状況報告を求めた。
 財務を預かるサクライの立場では、利益の期待できない事業に無駄な投資はできないのである。
 事業の責任者がたとえエリックだとしても、例外ではない。
 仲間うちの話であれば別だが、一〇万人を超える従業員を預かる立場では決断に私情を挟むわけにはいかない。
 しかし、サクライも私情から完全に逃れられているわけではなかった。

 もともとサクライは望んでECN社に入社した訳ではない。
 他に志望していた企業があったのだが、サクライの入社直前に解散してしまったのである。
 そのため仕方なくECN社を受験して入社したという経緯がある以上、社に対する愛着はそれほどのものではなかった。
 しかし、故ウォーリー・トワとした仕事には愛着があり、仕事をした仲間にも同じような愛着を持っていた。
 財務担当という性質上、仲間と対立した意見を述べることが多かったとはいえ、あくまでも彼としては職責を果たしただけである。
 ウォーリーが亡くなってからというもの、旧「タブーなきエンジニア集団」の幹部で先導役を果たすのはサクライとなることが多かった。
 ミヤハラは腰が重い上に大雑把すぎるところがあるし、エリックは腰が軽いが他人を牽引するという意識がやや薄い。
 本来、サクライも腰が重い方である。
 ウォーリーが健在のうちはミヤハラ、サクライが事務所に腰を落ち着かせ、周辺に安心感と威圧感を漂わせていたくらいだ。
 年長のミヤハラに対してはともかく、生前、ウォーリーはサクライの腰の重さに何度も彼を叱りつけた。
 それでもサクライの腰の重さは改まらなかったのだが、それもウォーリーの死をきっかけに変わりつつある。
 ウォーリーはサクライよりもエリックとヌマタのコンビに牽引役を期待していた節があるが、肝心のヌマタが依然行方不明である。
 これではサクライ本人も大いに不本意ではあるのだが、社の牽引役として自らが動かざるを得ない。
 ただ、サクライは前任の牽引役と異なり、感情の沸点がやや高い。
 ミヤハラ相手に何とかサクライが爆発せずに済んでいるのも、感情の沸点の高さがなせる業であろう。
 また、サクライには都合の悪いことを忘れることができる、という性質があった。
 この点においても前任者ほど極端ではないのだが、今回のケースでは十分な程度ではある。
 結局、三人ともがこれ以上IMPUや「東部探索隊」を話題にすることはなく、会食が終わるまで世間話に終始することとなった。藪を突いて蛇を出したくないといった信条なのだろう。

 帰り際にミヤハラがエリックに対して、アカシへの返答の文面を考えるよう指示し、会は散会となった。
 翌々日、アカシ宛てにECN社社長代行ノリオ・ミヤハラの名前で、IMPUと金属材料の調達取引の契約を締結したい旨が通知されたのである。
 更に三日後の一二月一日、サン・アカシはIMPUの設立と、自らの代表就任をサブマリン島全島に向けて発表したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...