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第十章
438:凶報
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アカシの申し出に対するミヤハラの考えはサクライとほぼ同じであったが、彼にはひとつの懸念していることがあった。
アカシはウォーリーに心酔して「タブーなきエンジニア集団」に協力していた節があるように見受けられる。
そのウォーリー亡き今、アカシがECN社に対してどこまで協力的に対応するか、ミヤハラには確信が持てなかった。
その気になれば、金属類の独占的な供給者という立場から、ECN社に対して著しく不利な取引を求めてくる可能性もあるのだ。
通信でやり取りしたことがあるとはいえ、直接会ったことのない相手である。
アカシと直接会ったことがないという点ついてはサクライも同様であったから、ミヤハラはアカシを直接知るエリックの意見も求めたのである。
ミヤハラがこうした懸念を簡単に説明してからエリックに問う。
「エリック、何か意見はないのか?」
「サクライさんの意見に賛成です。アカシさんは義理堅い人だと思っています。
インデストで戦っていたとき、マネージャーの部隊が敵中に孤立したことがありましたが、彼は自ら先頭に立って救出に向かいましたからね。
僕の状態も気に掛けていましたし、変な小細工をするようなタイプには思えないですね……」
ここまで話してから、エリックは何かを思い出したようにはっと声をあげる。
「何かあるのか?」
「そういえば……社長やサクライさんも御存知だとは思いますが、ジン・ヌマタさんを買っていましたね。彼がいれば、彼がIMPUのトップになったのではないでしょうか?」
「そのヌマタ、というのはどんな奴なんだ? 名前は何度も聞いているのだが」
言葉どおりミヤハラはヌマタのことをほとんど知らない。
サクライもその点ではミヤハラと大差ない。
二人とも通信で会話を交わしたことがあったか、という程度の記憶しかないのだ。
アカシからの連絡では頻繁に名前の登場する人物なのだが、先のハドリとの戦いでヌマタはウォーリーやエリックと別行動をとる期間が長かった。
当時ミヤハラやサクライが連絡を取っていたのはウォーリーかエリックであったから、彼らと一緒に行動していない者と話す機会は皆無に近い。
とはいえ、アカシがその捜索に固執している人物である。気にならないはずがなかった。
「ヌマタさんが見つかれば、アカシさんはヌマタさんをIMPUのトップに据えるかもしれません」
エリックの言葉にミヤハラが疑わしげな視線を向けた。
いくらなんでもそれはないだろう、と言いたげである。
「……そうかも知れませんが、ヌマタさんはもともとOP社のプロパーでアカシさんの会社を監督する立場でした。年はヌマタさんの方が下ですが、人望があったと聞いていますから可能性はゼロではないと思いますけど……」
エリックの説明にもミヤハラは納得できないという表情を見せていたが、まあいい、と言ってそれ以上の詮索を止めた。
正直なところ、エリックもヌマタのことはあまりよく知らない。
OP社の元社員であり、エリックより一歳年少でアカシよりは二歳年少になること。
OP社時代はアカシが勤務していた関係会社を監督する立場にあったこと。
ウォーリーを慕って、「タブーなきエンジニア集団」に参加したこと。
ハドリ率いるOP社治安改革部隊の動向を偵察し、そのまま行方知れずになったこと。
これが、ヌマタに関してエリックが知ることのほぼすべてである。
会話を交わしたことも幾度かあるが、特段印象に残っていることはない。
ただ、口は相当悪かったように思う。
エリックが他にヌマタに関する情報が無いか必死に記憶の糸を手繰り寄せていると、サクライが「東部探索隊」の状況について説明を求めてきた。
「そういえば……悪い話が一つあります」
サクライから説明を求められたエリックが表情を曇らせた。
「何だ?」
ミヤハラの問いに、エリックが呼吸を整える。
話すのにそれなりの覚悟が必要な内容らしい。
「……セス・クルス君が亡くなったそうです」
「……そうか。いつの話だ?」
ミヤハラは覚悟していたようで、その言葉も落ち着いている。
「九月……」と言いかけて、エリックが携帯端末を手にした。
「九月二四日、だったそうです。ユニヴァースさんによれば、夕方に丘の上で車椅子に腰掛けたまま事切れていた彼を見つけたとか。マネージャーの隣の場所に彼の墓所を建てておきました」
ミヤハラとサクライが沈痛な表情でうなずいた。
覚悟はしていたが、決して気分のよいものではない。
重苦しい空気の中、エリックが申し訳なさそうに口を開いた。
「このことはまだタカミ君には伝えていませんが、どうしましょうか……?」
エリックの質問にミヤハラとサクライが黙り込んだ。
判断に苦しむ質問ではある。
しばらくしてサクライが口を開いた。
「エリックはどうしたらいいと考えているんだ? 部下のことだから直属の上司が判断すべきだと思うが……」
「……タカミ君は、クルス君が生きているうちに探索を終えることを励みに頑張っています。その相手が亡くなったとしたら、目的の半分が失われてしまう……と僕は考えています」
「……で、どうなんだ?」
サクライがエリックに回答を促した。
「タカミ君が探索を終えるまで、クルス君のことは伏せておこうと思います。『東部探索隊』の他のメンバーについても同じです。彼らの任務は大きな危険が伴います。それは目的を失ったチームが乗り越えられるようなものではない、と僕は思うのです」
それはエリックにしては珍しく、明確な意思を持った回答であった。
あらかじめ答えを準備していたな、とサクライは思ったがそれを口には出さなかった。
「ならば、それでいこう。そうしてくれ」
ミヤハラの言葉でセスの死に対する対応が決まった。
アカシはウォーリーに心酔して「タブーなきエンジニア集団」に協力していた節があるように見受けられる。
そのウォーリー亡き今、アカシがECN社に対してどこまで協力的に対応するか、ミヤハラには確信が持てなかった。
その気になれば、金属類の独占的な供給者という立場から、ECN社に対して著しく不利な取引を求めてくる可能性もあるのだ。
通信でやり取りしたことがあるとはいえ、直接会ったことのない相手である。
アカシと直接会ったことがないという点ついてはサクライも同様であったから、ミヤハラはアカシを直接知るエリックの意見も求めたのである。
ミヤハラがこうした懸念を簡単に説明してからエリックに問う。
「エリック、何か意見はないのか?」
「サクライさんの意見に賛成です。アカシさんは義理堅い人だと思っています。
インデストで戦っていたとき、マネージャーの部隊が敵中に孤立したことがありましたが、彼は自ら先頭に立って救出に向かいましたからね。
僕の状態も気に掛けていましたし、変な小細工をするようなタイプには思えないですね……」
ここまで話してから、エリックは何かを思い出したようにはっと声をあげる。
「何かあるのか?」
「そういえば……社長やサクライさんも御存知だとは思いますが、ジン・ヌマタさんを買っていましたね。彼がいれば、彼がIMPUのトップになったのではないでしょうか?」
「そのヌマタ、というのはどんな奴なんだ? 名前は何度も聞いているのだが」
言葉どおりミヤハラはヌマタのことをほとんど知らない。
サクライもその点ではミヤハラと大差ない。
二人とも通信で会話を交わしたことがあったか、という程度の記憶しかないのだ。
アカシからの連絡では頻繁に名前の登場する人物なのだが、先のハドリとの戦いでヌマタはウォーリーやエリックと別行動をとる期間が長かった。
当時ミヤハラやサクライが連絡を取っていたのはウォーリーかエリックであったから、彼らと一緒に行動していない者と話す機会は皆無に近い。
とはいえ、アカシがその捜索に固執している人物である。気にならないはずがなかった。
「ヌマタさんが見つかれば、アカシさんはヌマタさんをIMPUのトップに据えるかもしれません」
エリックの言葉にミヤハラが疑わしげな視線を向けた。
いくらなんでもそれはないだろう、と言いたげである。
「……そうかも知れませんが、ヌマタさんはもともとOP社のプロパーでアカシさんの会社を監督する立場でした。年はヌマタさんの方が下ですが、人望があったと聞いていますから可能性はゼロではないと思いますけど……」
エリックの説明にもミヤハラは納得できないという表情を見せていたが、まあいい、と言ってそれ以上の詮索を止めた。
正直なところ、エリックもヌマタのことはあまりよく知らない。
OP社の元社員であり、エリックより一歳年少でアカシよりは二歳年少になること。
OP社時代はアカシが勤務していた関係会社を監督する立場にあったこと。
ウォーリーを慕って、「タブーなきエンジニア集団」に参加したこと。
ハドリ率いるOP社治安改革部隊の動向を偵察し、そのまま行方知れずになったこと。
これが、ヌマタに関してエリックが知ることのほぼすべてである。
会話を交わしたことも幾度かあるが、特段印象に残っていることはない。
ただ、口は相当悪かったように思う。
エリックが他にヌマタに関する情報が無いか必死に記憶の糸を手繰り寄せていると、サクライが「東部探索隊」の状況について説明を求めてきた。
「そういえば……悪い話が一つあります」
サクライから説明を求められたエリックが表情を曇らせた。
「何だ?」
ミヤハラの問いに、エリックが呼吸を整える。
話すのにそれなりの覚悟が必要な内容らしい。
「……セス・クルス君が亡くなったそうです」
「……そうか。いつの話だ?」
ミヤハラは覚悟していたようで、その言葉も落ち着いている。
「九月……」と言いかけて、エリックが携帯端末を手にした。
「九月二四日、だったそうです。ユニヴァースさんによれば、夕方に丘の上で車椅子に腰掛けたまま事切れていた彼を見つけたとか。マネージャーの隣の場所に彼の墓所を建てておきました」
ミヤハラとサクライが沈痛な表情でうなずいた。
覚悟はしていたが、決して気分のよいものではない。
重苦しい空気の中、エリックが申し訳なさそうに口を開いた。
「このことはまだタカミ君には伝えていませんが、どうしましょうか……?」
エリックの質問にミヤハラとサクライが黙り込んだ。
判断に苦しむ質問ではある。
しばらくしてサクライが口を開いた。
「エリックはどうしたらいいと考えているんだ? 部下のことだから直属の上司が判断すべきだと思うが……」
「……タカミ君は、クルス君が生きているうちに探索を終えることを励みに頑張っています。その相手が亡くなったとしたら、目的の半分が失われてしまう……と僕は考えています」
「……で、どうなんだ?」
サクライがエリックに回答を促した。
「タカミ君が探索を終えるまで、クルス君のことは伏せておこうと思います。『東部探索隊』の他のメンバーについても同じです。彼らの任務は大きな危険が伴います。それは目的を失ったチームが乗り越えられるようなものではない、と僕は思うのです」
それはエリックにしては珍しく、明確な意思を持った回答であった。
あらかじめ答えを準備していたな、とサクライは思ったがそれを口には出さなかった。
「ならば、それでいこう。そうしてくれ」
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