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第十章

435:積み上がり続ける問題

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 ミヤハラやECN社を取り巻く問題や課題は「東部探索隊」事業に関するもの、アカシからの要請によるもの、自家発電に関するもの以外にも山積している。
 OP社からは発電事業に協力する人員の増員を求められている。
 ハドリが社長である時代に一方的にECN社の自家発電能力を縮小させておいた過去があるので、ECN社から見れば虫が良すぎる話ではある。
 だが、通信インフラを担うECN社にとって電力の確保は死活問題であったから、社として協力を惜しむつもりはない。
 しかし、誰でもよいから人を送り込めばよい、という状況でもない。
 人員が不足している現在、現場で人材を育成するだけの余力がない。
 こうした中、スキルの無い人員を現場に投入するのは、現場に混乱を招き、短期的に発電能力を落とす可能性が高い。
 発電能力が落ちることを許容できる状況ならば対応策もあるが、現在は発電能力の低下が到底許される状況ではないだろう。
 現状では推定される電力需要に対して、供給量は平均すればかろうじて一〇〇パーセントを上回ってはいる。
 しかし、瞬間瞬間で見れば、供給量が不足することも度々あり、ECN社をはじめとした事業者などは、その都度電力の供給を制限される。
 市民生活に対する影響は今のところそれほど大きくないが、影響が大きくなるのも時間の問題だとされている。この対応も近い将来必要になってくるであろう。
 市民が利用するエネルギーのほとんどをOP社が供給する電力に頼っている状況では、OP社の発電能力を維持向上させない限り、エネルギーの問題は解決しそうにもない。

「おい、サクライ。企画室の野郎はどうにかならないのか?」
 ミヤハラの怒りの矛先は唐突に、ECN社経営企画室を離れ「リスク管理研究所」を立ち上げたメンバーに向けられた。
「だったら社長が直接責任を問えばいいでしょうが。そのくらいやっても、問題はないでしょうに」
 サクライが唐突なミヤハラの文句に面倒くさそうに答えた。
「とは言え、今は別企業だからなぁ……」
「だったら、文句を言わなければいいじゃないですか」
 サクライがミヤハラの文句をバッサリ切り捨てた。
 ミヤハラが腹を立てているのは「リスク管理研究所」の主要メンバーがECN社に在籍していた際に、社内の発電関連の技術者を他の業務に回すよう提言したことと、このことに対する責任を取っていないことである。
「奴らは言うだけ言って、結果が悪ければ『やり方が悪い』『こうすべきだったのにしなかった』と言うだけだからな……」
「確かに性質が悪かったですね。だからマネージャーは嫌っていたのでしょうけど」
 ミヤハラの文句を切り捨てたサクライも「リスク管理研究所」に対する感情はミヤハラと大差ない。この点では二人の意見は一致している。

 ミヤハラやサクライだけではなく、「タブーなきエンジニア集団」の主だったメンバーは、概ね「リスク管理研究所」に良い感情を持っていない。
 これには一時的に手を組んだこともあるが、半ば言いがかりにも等しい理由で手を切られたということも影響している。
 もちろん、「リスク管理研究所」の方にも言い分がある。
 発電関連の技術者を他業務に回したのは、社の収益と独立性を確保するために必要であった。
 当時のECN社はOP社への吸収統合の魔手にさらされていたが、ECN社単独で対抗するのは困難であったのだ。
 経営をサポートする立場として、経営企画室は社の経営に与える悪影響を最小限にとどめる方策を提言すべきと判断した。
 事実、この提言によってECN社は大きな打撃を受けることもなく、現在も存続している。
 また、「タブーなきエンジニア集団」と手を切ったのは、当初の約束を違え、通信封鎖を破ったからに他ならない。
 双方の意見は平行線で、歩み寄りの余地はなかった。
 ECN社在籍時代から双方の仲は険悪であったから、それも仕方のないことなのかもしれない。

 愚痴だけ言っていても始まらないことは承知しているが、ミヤハラとしては愚痴の一つや二つ言っていないと気がすまない状況でもあったのである。

 (……まあ、すべてはエリックが戻ってからだ)
 ミヤハラは重そうに身体をソファに沈めた。意思決定という経営者の責務から一時的とはいえ逃れたともいえる。
 その間にも動乱の足音は、着実に近づいている……
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