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臥した観音菩薩
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「そういえば、牙蛇あの時の女はどうしたのだ」
「おお、あやつは高く売れたぞ、お陰で粟や稗がかなり手にはいったわ、当人も喜んでおってのう、これで、股さえ開けば飯が食える、もう飢えが来ぬとな」
明るく笑いながら言うておる
まあ、皆が喜ぶ結末であればそれで良いわ
女一人の幸せも叶えられない儂なんぞより、牙蛇の方が余程出来ておる
楓が戻った、牙蛇が話し掛ける
「お前も口が聞ける奴らと一緒だと苦労だの」
敵意が無いのは、たちどころに通じたのか、楓は大体の雰囲気で頷いている
成る程、十造は思い付いた
「牙蛇、策を思いついたわ、待たなくともよいぞ
来てくれぬか
楓お前も来るのだ」
もう一度二人は牙蛇の住まいに入っていった、楓も十造に促され二人に続いた
十造はついていた、最初の偵察で、比叡山からの部隊が、街道を北上して来るとの知らせが入った
宇佐山城よりも、琵琶湖を北上し移動する兵は、浅井・朝倉に加担するものである
昼日中、十造と楓は、迫り来る兵に向け、爆薬を準備している、楓が導火線に点火して、十造に渡す、受け取った十造が相手に放り投げる
その爆薬は、音と煙は大袈裟だが、さほど威力はない、言わば目眩ましと、耳塞ぎ、煙の中身は、小便を、天日で干し、粉にしたもので、矢鱈目に沁みる
来た、爆薬に点火して楓が十造に渡して来る
「それっ、ほい、それ」
ドーン、バコーン、と大音響が辺りに轟き渡る、牙蛇を先頭に山賊達が、僧兵達に襲い掛かる、大音響と目つぶし粉に、耳と目をやられた相手は、山賊達に成す術もなかった
訳も解らず全員身ぐるみ剥がされて、丸裸にされた、頃合いを見計らって、牙蛇が「よーし、皆の者船に戻れい、早うせんかー、戻れー、もやいはしてはおらぬ、風は順風、山瀬が吹く前に、波に乗ろうぞ」
牙蛇は、十造に聞かされた船の専門用語を訳も解らずがなりたてた
手下達が一端琵琶湖に向かって、歓声を挙げながら走り出し、無言で回れ右をして、反対の山方向、朽ち木街道へと帰っていった
爆薬で目も耳も遣られていた僧兵達は、虚ろな記憶で、敵は船で湖から襲って来たと思うだろう
山賊達は、満足していた、何しろかつて無い、一番の収穫だったのだ
牙蛇が、興奮気味に早口で話しだす
「儂はあの坊主どもが大嫌いでの、いまや町中、田舎どこを見回しても、流浪の民や亡者が溢れ帰っておると言うに、あやつらの山門までにも、然るに何の救いも与えずにの
専ら、手前達の私利私欲を、み仏の名のもとで溜め込み、あまつさえ、飲酒、女犯までも、一体全体自分達を、真っ先に桃源郷へと誘う導師など、何処の世界にいようか
そんな者達は、地獄の業火で焼き尽くされるが良いわ」
山賊の頭が、自分の女を売り飛ばし、食糧を買い、手下どころか、いく宛の無い者達に食い物を与えている
山賊の業と坊主達の業、御仏はどちらに、祝福を与えるおつもりなのだろう
そういえば、牙蛇と同じ考えの、殿様がおるわ
「牙蛇、書状めいた物は無かったかの、儂らはそれだけが分け前よ」
「おうよ、探しておるわ
なんじゃ、そうか、あったぞ、これではないのか」
「うむ、正しくそれよ、儂らは、これだけで何もいらぬわ
牙蛇、世話になった、儂らは帰るぞ」
「そうか、稼ぎの口が有るならばまた来よ
それから、楓に言うてくれ、儂らは、、、いや、なんでもない、よいわ」
山賊との共同作業が終わり二人は帰途につく
はて書状を手に入れたは良いが、誰に渡すか
三郎は摂津に行くと言っていたのう、又もや仕事は早仕舞いしたし、良し大阪に行くのも、たまには良いかも知れぬ
二人は摂津にいる筈の、三郎に会いに歩き出した、ところが、おっとり刀で来てみたのだが、そこは織田の軍勢により厳重に管理されて、出入りもままならぬ、戦こそ無いが、ものものしさがあった
「もし、蜂須賀様の後家来衆とお見受けする、それがしは、金ヶ崎で共に戦こうた、甲賀の十造、大至急お渡ししたい書状がござる」
蜂須賀の陣屋に、書状を預けて帰途につく
三郎には、会えなかったが、仕事は早仕舞の上、書状をおまけにつけたのだ
それにしても、畿内は、何処もかしこも戦ばかり、一向に収まる気配もないわ
「おろ、楓やーい、言うても聞こえんわな、やれやれ」
十造は、考え事をしていたせいで、楓とはぐれてしまい、元来た道を歩き出した、楓は一軒の小間物屋の前で立ち止まっていた、何かを、じっと見つめている
どうやら、銀の手鏡が気になるらしい、十造は楓に少し女を感じ、好ましく思えた
どうやら店の者は、楓に声をかけても、うんでもすんでもなく、諦めて奥で仕事をしているのであろう
「ごめん、この鏡を、それと、そこにあるビードロ玉もな、店主負けんと買わぬぞ」
ここは、大阪だ正価でも良いのだが、一応値切る
「良し、貰おう、砂金で良いかの」
店主は、その鏡を、鏡用の巾着に入れ、ビードロ玉は和紙に包み、お捻りにして砂金と交換した
それらを受け取った十造は、楓に渡した、楓は手を振り、首を振りしたが、十造は、強引に手渡しして
「何をしている、お前は、これ以上の仕事をこなしたのだ、さあ、受け取ってくれぬか
儂が鏡を見ても仕方無かろう、ビードロ玉を弄くっても絵にならんわ、ほれ」
「ほっ」
そう一声発して、楓はただの嬢、女になっていた
嬉しさの表現が、ぎこちなく、初々しかった
「そうか、そこまで喜んで貰えるならば、儂としても嬉しいぞ」
十造は、楓が初めて自分に、笑顔を見せてくれて、ほっとしていた
「それにつけても、儂に笑顔を見せたのは、鳥の後だの、儂は雀以下だわ」
そう考えると、笑えて来る
瀬田の手前にある、廃寺で一晩横になり、二人は、翌朝帰って行った、楓は、休んでいるあいだ中、手鏡を触っていた
その状態で楓が、十造の肘を突いた、それが合図だった、二人は左右に倒れながら別れる、楓は姿を消した、十造は、敢えて的になる
「何奴ぞ、出て来ぬか」
打ち合わせは出来ていた、あくまでも十造が標的で、楓は、姿を眩まし反撃に移る、この場合襲った者が気の毒だ、致命傷はあり得ない、楓に命乞いは通じない、急所を突かれ、死あるのみ
儂が生きていようが、死んでいようが、二人に害を成した者には、勝てるならば攻撃、叶わぬなら、逃げる
そう教えた、今頭を巡らせ楓は、的を絞っている最中であろう
「何人居るのかわからんが、そろそろ姿を現したが良いぞ
今なら助かる、出て来ぬか、儂はお前達の為に言うておる」
今、気配は、三つ
「悪い事は言わぬ、出てこい、助かりたければだがな」
ガサリと草薮を分ける音がした
「待て、殺すな」
「運が、良ければ助かる、残り二人、共に早う出てこぬか」
楓は姿を現さない、出て来てはいない、そいつらを何処かで狙っているのだ
だから、十造は余裕があった
「儂らを狙う目的は、なんじゃ、お前達は何処の手の者だ
まあ、言うわけもあるまいが、だが同業のよしみよ、ひとつだけ教えてくれ、儂らを何処の者と観たのだ」
十造と同じ年格好の男は
「織田か徳川」
ふうん、そう言う事か
「良く聞け、もう遅い諦めよ、全ての面でお前達は遅れを取った、お主は特にの、自信があったから、姿を見せたのであろうが、これまでよ」
男は、いきなり口を力なく開け、顔から地面に倒れた
背後には、無表情の楓が立って、全て終わりとばかりに、頷いた
屈んで、男の服で、殺し道具の、長い針を拭い、指を三本立てた
敵は、三人だったと告げている
そうか、書状は余程の事が書いてあったと見える
早う手放して正解ではないか
十造が奪った書状は、その日の内に、織田信長まで届いていた
その内容は、有り体に言えば、反信長勢力に対する檄文であった
今までも、その様な報せは届いては居たが、こうしてはっきりと証拠が示された
これまでのところは、足利将軍義昭と信長の関係は、微妙な部分であったが、この書状により、お互い反目であることが、はっきりしたのだ
こうして、戦だけが、激しさを増して行く事になった
十造も、楓と共に大なり小なりの戦へと駆り出される日々が続いた
ある日、十造は自分の家近くで、かっこうの鳴き声を耳にした
その途端に、胸を締め付けられた
静を忘れようと、がむしゃらに、仕事を引き受け、こなして来た、ところが、かっこうの鳴き声を聞いただけで、全てがよみがえってしまった
あれから一年近くよの、考えないように、考えないようにしていたのに、かっこうめが、石で持って追い払うてやろうか、いかんいかん、そんな事をすれば、今度は楓に、命を狙われかねない
いやはや、辛い季節よ
十造は、全てを忘れるためにも、生活の為にも、一心不乱に、畑をたがやし、肥料を撒き、種を植える、そして、手が空いたら、薬や毒を調合する事に没頭した
そのかいがあって、数日後四郎がやって来た
「そろそろ、来る頃だと思うておった
今度は、何処に行くのだ」
「本願寺です、姉川の合戦で勝利しても、織田は四方八方敵だらけ、特にここは、かなり苦戦しておる様子です
町中のあちこちにある、砦を一つずつ潰しながら、進んでおるそうな」
「成る程、砦の門を壊したり、中の者達の腹を壊したり」
「仰せの通りで、、、」
四郎が笑顔で答える
「おお、ならば、此度の仕事は、楓はいらぬでは無いか」
「いえ、やはり二人揃わねば、仕事が早く終わりませぬので」
ニヤリと笑って言う
「馬鹿を申せ、たまたまの事を、大袈裟に」
「しかし、貴方と仕事をするようになってから、楓はかなり、変わりましぞ、道具の手入れから、なにもかもが真剣で、慎重になりました」
「もうよいわ、で、儂と楓の二人か」
「いえ、今回は着いてから、何処の砦になるのか解りませんので、私が連絡と案内を兼ねます、勿論手伝いも」
「そうか、ではくれぐれも、楓の邪魔をするではないぞ」
「ぐっ、はいはい、かしこまりました」
「不満そうだの、まあ、四郎とも、久しぶりの仕事だの」
「はい、近頃、父、三郎兄はどうしても、服部様の関係で徳川様の仕事が主になって、ただ偏るのは未だ早いと、、、」
「そうよ、今のところは、それが良いわ、儂でもそうするぞ」
本願寺近辺は、以前に、楓と途中まで訪れた時以上に、荒んでいた
特に、銃声が凄まじい、織田も寺側も、銃を撃ちあって、攻防を続けていた
「四郎、向こうの鉄砲も、かなり激しいが、何処ぞの大名の兵か」
「雑賀と根来の衆がついてます、ですから雑賀は、お互いに撃ち合いとなっています」
雑賀衆は、織田にも傭兵として、働いていた
また、雑賀・根来衆は、金だけでは無く、自分達の信仰から、参加する者もいて、他の地域の宗教一揆と同様、強固な団結力を持っていた
見せしめの為なのか、町中至る所に、晒し首が掲げられており、殺伐としていた
「十造殿、正面に見える、砦の門を破壊して貰えぬかと、蜂須賀の兵から頼まれました」
「ふーん、先程から見ておるのだが、狙い打ちの正確さが、異常だの
三十間以内では、外さぬわ」
「忍び入る事はできますか」
「うむ、儂らが中へ入ったとして、恐らく根来の忍が居るのなら、爆薬を仕掛ける時間がないのう、ふーむ」
「四郎、儂が言う物を、至急用意してくれぬか、爆薬の樽、大きさはそう、金ヶ崎の時より、一回りかふた回り小さな物を、壺でもよいわ、丈夫そうな笊か籠、太くて長い竹、長さは儂が調節するで、切ったそのままでの、後、火薬、炭の粉、そして、石垣作業の杭四ヶ所分と人足もな」
「ハッ、承知」
「火薬と壺、竹を早く頼む、楓と急ぎ、作業にはいるで
暗く成るまでに仕上げたいからの」
「十造殿の実力を知る、蜂須賀の兵ですから、幾らでも、力になってくれましょう、では、後程」
夜になり、本願寺側の砦は静まりかえっている、何処かから、ヒュー、ヒューと音がする、途端にガシャンと何かが割れた、一瞬辺りが黒い霧に包まれた、次に爆発音がきこえたが、全てを話せる者は、既に死んでいた
先端に笊が付いた竹を
支柱にくくりつけ、笊の中に、火薬壺や炭の粉を入れた壺を載せて、竹竿の様にしならせ、砦の中へ放り込む
炎が揚がると今度は、弓矢の先に竹筒が付いたものが幾つも飛んで来た、それらは、炎の中に入ると簡単に爆発し、近くにいた者達を、ひどく傷つけていった
「十造殿、やはり十造殿です、お見事です、味方で本当に良かった」
「それは、儂が楓と、初めて仕事をした時、思うた事よ」
十造は、笑いもせずに言った
「さあ、そろそろ行かねば、門が開くぞ、雑賀の鉄砲衆が、感を頼りに撃って来よる、気をつけろ」
爆発音に、隠れてはいるが、敵方の銃での反撃は、激しく、あちこちに着弾の音と、掠める音が交差していた
門が落ちようとしているのに、反撃は止まらない、ただ織田方としても、ここまでお膳立てして、手をこまねいている訳にも行かない
相手も解っているのだ、少しでも反撃がゆるめば、一気呵成に押されて、終わることを、援軍が来ようが来るまいが、戦うしかないのだ
「よし、儂らも、爆薬を持って中へ入るぞ、準備は良いな、最後の仕上げよ
くれぐれも油断するな」
三人は正門に向かい走る、建物からは、紅蓮のい炎が立ち上がっている、炎は揺らめき、あちこちを斑に照らしていた、偶然にも一瞬四郎が炎に照らされた、ズドーン、四郎は声もなく崩れ落ちる
「あぎじゃー」兄者と言ったのだろう、楓が回らない口で叫んだ、それを見透かす様に風切り音が、シューと空気を裂いた、十造は咄嗟に、楓の腕を掴み、自身の方へ楓を引き寄せた
しまった、楓の何処かを掠めたな、十中八九毒矢であろう
「楓、しっかりしろ、四郎は諦めるのだ、楓」
楓の体を確かめる、着物の右一の腕(右上腕)にかすり傷、布を破き、クナイで傷を少し広げた、そして吸い出す、その間も、楓は兄四郎の元に行こうと、十造を渾身の力で離そうとする
楓は、十造を引摺りながら、四郎の元に辿り着いた
その間も、十造は楓の腕の血を吸っては吐き出す、を繰り返し続けた
四郎は諦めた、だが、お前は生きて居る、絶対に儂が生きて藤六殿に返す、絶対に死なせるものか、絶対にだ
砦は未明に落ちた、十造達の働きは、又も蜂須賀の部隊を有名にしたのだった
十造はそれどころではなかった、夜が明け、一番恐れていた事が起きつつあった
楓が熱を出し始めた
寝て居れと言っても、無理な状況ではあった
それも既に言わなくとも、床に臥せってしまった
しかし一晩経ってこうして生きているのだから何とか吸い出しは効を奏したのだろう
後は、楓の体力に賭ける外なかった
四郎は、もう動かない、難攻不落の、砦を落とした功労者は、綺麗な布を纏っていた
それがどうした、綺麗に着飾っても自分には、なにも見えぬぞ、どんなに誉められても、何も聞こえぬわ、どんなに一緒に酒を飲みたくとも、もう叶わぬでわないか、のう、四郎、四郎よ、どんなに寂しくとも、楓はまだ、其方には遣らぬわ、儂が絶対に助ける、約束ぞ、楓は儂が絶対に助ける
十造は、楓が持っていた懐刀を出して、四郎の髷を切って、懐紙にくるみ懐に入れた
「去らばぞ、四郎」
本来ならば、埋葬まで一緒に居たいのだが、楓が心配であった、十造は、うなだれて宿坊へと向かった
途中に色街に差し掛かった、冷やかす気力なぞ有る訳もない、たまたま、顔を上げたら、見覚えの有る女が目に止まる
「はて、お前儂に見覚えが無いか、何処かで会うたような」
流石に商売女だった
「会ったに決まってるじゃないか、お前さん、もう半年ぶりだよう、早く抱いておくれよ、思い出すからさ、いや、思い出させてあげるよ」
すかさず、女の仲間が
「ほらあ~、あの時、病気を貰ったろう~」
一斉に「ギャっはははは」
と煽り立て出した
「ああ、お前、牙蛇のところの、、、」
「ふん、アタシも思い出したよ、仕事してんだから、帰んな、お互い関係無いだろ」
「いや、お前えを身請けする、主人は何処だ」
突然の成り行きに、騒然とし出す
大体、女を身請けだの、どうこうするような、そんな場所ですらないのだ、揉みてをしながら男が出て来た
「幾らだ、この女を身請けする」
「へえ、三百で、何しろ家の三番手なもんでして」
「ほう、お前、織田を敵に廻すつもりか」
「げえ、ひひひゃくごごじゅうでどどどうか」
「良かろう、ほれ受け取れ、急いで居る、早うしてくれ」
女は店を出て来た、少しばかりの荷物を抱え、黙って後ろから付いてくる
「ねえ、何で私、あんた私を抱いたこと無いじゃないの」
「お前に頼みたい事がある、黙って付いこい」
「身請けの礼は言わないよ、どうせ、されようが、されまいが、男の遣るこた同じさ、専用にしたいか、共用か、それだけさ
でも、あんたは身請けしてくれたから、特別さ、何でもしてあげる、どうしてほしい」
「おお、何でもか、楽しみよ、あれも、これも、してほしいことだらけよ」
宿坊に着いて、臥せている楓を見せた
顔色が未だ赤く、呼吸は浅い、毒矢がかすった傷は周囲が赤黒く変色していた
「すまぬが、この娘の世話をしてくれぬか、治療は儂がやる、頼む、無論断っても良いのだ、儂は、牙蛇に世話になったでの、嫌ならそのまま、牙蛇のもとへ帰るがよい」
「いいよ、それくらいやったげるよ、でも、助かるのかい、この娘」
「まだ、解らんのだ、ただ、お前が引き受けてくれたお陰で、治療の幅が広がる
そう言えば、お前の名を知らなんだ
何と呼べば良いのかの」
「むぎ、でいいよ、死ぬまでに食べてみたいからさ、米はもう諦めたよで、あんた達は」
「儂は十造、そして楓だ
宜しく頼む」
十造は深く頭を下げた
「止しなよ、それよかさ、たらいだの、手拭いだの、櫛とか持って来てよ、身体を拭いてあげなきゃ」
「おう、直ぐに持ってくる、湯も必要だの」
十造は、自分がかなり動揺していた事に、今、気が付いた
普段ならとうに気が付くはず、むぎに言われやっと、何をすべきか解り始めた
楓の治療に必要な物を、あれこれ手配して、戻って来た
「十造、三郎って人が来てるよ」
四郎の事は、三河に知らせてあったのだ
床に臥している、楓をうなだれて、見ていた
「三郎、済まぬ、この様な事に、、、」
恐らく、三郎が駆け付けると思っていた、来たなら、あれも話そう、これも話そうと思っていたが、何も思い付かない
三郎が重い口を開く
「父が言うておりました、十造殿だから、これで済んだのだと、戦場で埋めて貰えた四郎は、運が良いのだ申し訳も無いが、楓の事は、宜しく頼むと」
「そうか、墓の場所は図面に書いておいた、お主も忙しいのであろう」
むぎが話しを遮るように
「悪いけど、生きてる人を先に面倒見なきゃ、楓の身体を拭いてあげるんだからどこかに行って」
「おう、済まぬ、さあ、三郎」
三郎は、三河へと引き返して行った
「十造、その薬は何」
「鳥兜よ、楓に飲ますわい」
「ええっ、鳥兜って誰でも知ってる猛毒ではないのか、楓も恐らくそれでやられたと、、、あんたが」
「うむ、時としてそれが、薬になるのよ、匙加減一つでな、湯は沸いて居るか、ぬるま湯に溶いて飲ます
少し体が、回復した今が頃合い、明日辺りは、目を醒ます、調合が合えばな」
「合わない時は、どうなんの」
「聞くな、考えたくもないわ、さあ、楓を抱え起こしてくれ」
十造は夢を見ていた、静が迎えの輿に乗る時、二人は、最後に固く手を握った
十造は、その手を離さなかった、静は嬉しそうに微笑んでいた、二人の手を、ぶらぶらと、何時までも揺する、、、いつまでも
これは夢よ、とそこで目が醒めて来る、はて、手を握る感触が、、、なにかおかしい
楓の脈を計り、そのまま手を握り、寝てしまったのだ、
ん、楓も十造の手を握っていた
「楓お前、そうか、良くなったか
もう大丈夫よ、もうすぐ帰れるぞ
今少し休むのだ」
「おや、お姫さま起きたのかい、十造あんた、腕がいいんだねえ
見直したよ
駄目だよ、楓未だ寝てなくちゃさぁ、そのくらいアタシにでも解るよ
アタシの言うこと聞かないと、十造に、お前の黒子が何処にあるか、全部おしえるよ
アハハハハハ」
二日後、楓は元に戻った、十造は、牙蛇に使いをやり、むぎを迎えに来させた
「むぎ、世話になったのう、荷車に雑穀を積んでおいたぞ、これは、少しだがお前用の麦と米だ、必ずお前が食え」
「うわー、こんなにくれるのかい、悪いから、アタシを抱かせてあげようか、それとも、口とか手でしてあげようか」
「いらん、いらん、早う引き揚げい、牙蛇にしてやれ」
むぎは引き揚げる日に、楓の髪を手入れし、顔に剃刀をあててくれていた
楓が別れ際、むぎを抱き締めた
「楓、止しなよ、違う病気になるよ、元気になって良かったね、もう行くよ
十造アタシこそ世話になったよ、こんなにしてくれてさ」
十造と楓も、四郎の墓に、墓と言っても、土饅頭なのだが、手を合わせてから、帰路についた
街道を南近江に向けて、歩いていた二人は、先ず楓が姿を消した、そして気配を絶つ
「何か用か、姿を見せねば殺す」
「お待ちくだされ、織田方でございます、急ぎ駆け付けました」
男が一人姿を現した、それでも楓は出てこない、気配も消したままである
十造も楓も気が立っていた、色々な事が有りすぎた
この先、面倒なことが起きたなら、全て破壊し、殺すそう決めていた
「申し訳御座らん、いきなり呼びかけようものならば、即、命が無さそうだったので迷っておった」
「で、何用かな、儂らの仕事は全て終えたと思うが」
「実を申すと、堅田方面で織田が苦戦中でして、宇佐山城主、森可成様が昨夜討ち死にしました、これを少しでも、北へ押し上げ和議を有利にはこびたく、十造様にも加勢頂きたく、、」
「承知と伝えてほしい、ただし、火薬を十分に運んでくれぬか、荷車を三台、火縄もな」
「はっ、取り急ぎ仕度致します」
楓には申し訳無いが、無性に、暴れたかった、四郎の死を、未だ受け入れられない十造だった
そんな自分の考えと、予定の変更を楓に伝える、静かに頷いてくれた
大津に着いた時は、既に戦場後になっていた、堅田は今や最前線となり、朝倉、浅井の兵はかなり優勢に戦っていた、比叡山延暦寺の僧兵達も反信長に加わり、京都もかなり危うい状況になった
そんな中、十造は大津の織田陣地に入り、楓と爆薬を作っていた、諸諸の状況を考えると、十造は攻撃は、このたった一度で終わると読んだ
珍しく、織田方の消耗が激しいのだ、結構な重臣達が
、犠牲になったのも大きいかも知れない
「願ったり叶ったりよ、でかいのを、ドドーンと一発お見舞いして、引き揚げよ、のう、楓」
楓は、きょとんとしていたが、十造は、何でもないとばかりに、肩口で手を廻す
近頃の二人は、簡単なみぶり、手振りで会話が成立しつつあったのだ
爆薬の準備は整った、後は夜を待つのみ、そんな思いを秘めて、そこいらを宛もなく彷徨いていると、何と牙蛇が居るではないか
「おいおい、牙蛇、そなた何時から侍になったのだ」
「おう、むぎが、大層世話になった、炊きたての米を喰ろうて泣いておったわ」
「ふん、大袈裟な、ところで何故ここに」
「おう、死体運びと、儲け口が有るかと思うての
十造がおるなら、ありつけそうだの、何をすれば良いのか」
牙蛇には、包み隠さず、ここの仕事を、引き受けた経過を説明した
「ふーん、お主、自棄になっておるな、どうだ、爆薬運びを儂らにやらせぬか、
何台の荷車を運ぶのだ」
「馬鹿な事を、死ぬかも知れぬのに、たのめるか」
「確実に死ぬ奴等が運べば、文句は無かろうが、どうだ
おい、がま目、びっこたっこ達を呼んで来てくれ」
河原で、楓が鳥を集めていた時に、集まっていた、手足の無い者達が、十人位よって来た
「はっきりしているのは、こいつらは、冬は越せないのよ、食いものも、着るものもない
こうやって、死体運び位しか出来ずに、そのうち壊死したり、お前なら分かろう、五体満足の者でさえ、生きて行くのが、難しい事を
それに、あの者達は、河原で観音様を見たのよ、楓が鳥を集めて、微笑んでいるのを見た時、あいつらは、心が落ち着いた、腹が減ったり、あちこちの痛みも忘れての
あの世はきっと、こんな感じで、苦しみから解放されるのだとな
どうだ、十造、読み書きも出来ず、経典も読まないこいつらは、悟りを開いて居る
破戒坊主達には、一生わからんだろうがな」
「解った、やって貰おうではないか、話しは簡単よ、荷車に、敵方の死体を積んで、そこに爆薬を仕込む、線香を持って導火線に火を着けるだけよ
後は、ドカーンとな
その騒ぎの内に、儂と楓が
陣幕に忍び込み、兜首を取る」
荷車が出発している、全員が手足の何処かを、無くしていた、朝倉方に入り込んでも、誰も、咎める者など居なかった、荷車は三台、爆薬の導火線は、逃げる必要がないのでやたら短い、ふたつ数えたら爆発する、三台が集団の中程に着いた、荷車の一人ずつが、火の着いた線香を持っていた、突然だった、ズドドドーン、ものすごい轟音が辺りに響く、その後から、吹き飛ばされた、人やら武器やらが雨のように降り注ぐ
十造と楓は、爆発と同時に、走っていた、そしてまだ事態を飲み込めず、呆然と突っ立っている、煌びやかな鎧武者に、狙いを定めた
簡単な作業ではあった、十造が其奴の前に立ち、突然しゃがむ、爆発で呆然としているのであろう、刀も抜かずに、十造を見ようとする、そうすると、後ろの錣(しころ)に隙間が空くのだ、楓には、それで十分だった、鋭い針が、相手の盆の窪を突いて、仕事は終わった
自陣に戻った十造達は、牙蛇に別れを告げて、今度こそ、帰途についた
「おお、あやつは高く売れたぞ、お陰で粟や稗がかなり手にはいったわ、当人も喜んでおってのう、これで、股さえ開けば飯が食える、もう飢えが来ぬとな」
明るく笑いながら言うておる
まあ、皆が喜ぶ結末であればそれで良いわ
女一人の幸せも叶えられない儂なんぞより、牙蛇の方が余程出来ておる
楓が戻った、牙蛇が話し掛ける
「お前も口が聞ける奴らと一緒だと苦労だの」
敵意が無いのは、たちどころに通じたのか、楓は大体の雰囲気で頷いている
成る程、十造は思い付いた
「牙蛇、策を思いついたわ、待たなくともよいぞ
来てくれぬか
楓お前も来るのだ」
もう一度二人は牙蛇の住まいに入っていった、楓も十造に促され二人に続いた
十造はついていた、最初の偵察で、比叡山からの部隊が、街道を北上して来るとの知らせが入った
宇佐山城よりも、琵琶湖を北上し移動する兵は、浅井・朝倉に加担するものである
昼日中、十造と楓は、迫り来る兵に向け、爆薬を準備している、楓が導火線に点火して、十造に渡す、受け取った十造が相手に放り投げる
その爆薬は、音と煙は大袈裟だが、さほど威力はない、言わば目眩ましと、耳塞ぎ、煙の中身は、小便を、天日で干し、粉にしたもので、矢鱈目に沁みる
来た、爆薬に点火して楓が十造に渡して来る
「それっ、ほい、それ」
ドーン、バコーン、と大音響が辺りに轟き渡る、牙蛇を先頭に山賊達が、僧兵達に襲い掛かる、大音響と目つぶし粉に、耳と目をやられた相手は、山賊達に成す術もなかった
訳も解らず全員身ぐるみ剥がされて、丸裸にされた、頃合いを見計らって、牙蛇が「よーし、皆の者船に戻れい、早うせんかー、戻れー、もやいはしてはおらぬ、風は順風、山瀬が吹く前に、波に乗ろうぞ」
牙蛇は、十造に聞かされた船の専門用語を訳も解らずがなりたてた
手下達が一端琵琶湖に向かって、歓声を挙げながら走り出し、無言で回れ右をして、反対の山方向、朽ち木街道へと帰っていった
爆薬で目も耳も遣られていた僧兵達は、虚ろな記憶で、敵は船で湖から襲って来たと思うだろう
山賊達は、満足していた、何しろかつて無い、一番の収穫だったのだ
牙蛇が、興奮気味に早口で話しだす
「儂はあの坊主どもが大嫌いでの、いまや町中、田舎どこを見回しても、流浪の民や亡者が溢れ帰っておると言うに、あやつらの山門までにも、然るに何の救いも与えずにの
専ら、手前達の私利私欲を、み仏の名のもとで溜め込み、あまつさえ、飲酒、女犯までも、一体全体自分達を、真っ先に桃源郷へと誘う導師など、何処の世界にいようか
そんな者達は、地獄の業火で焼き尽くされるが良いわ」
山賊の頭が、自分の女を売り飛ばし、食糧を買い、手下どころか、いく宛の無い者達に食い物を与えている
山賊の業と坊主達の業、御仏はどちらに、祝福を与えるおつもりなのだろう
そういえば、牙蛇と同じ考えの、殿様がおるわ
「牙蛇、書状めいた物は無かったかの、儂らはそれだけが分け前よ」
「おうよ、探しておるわ
なんじゃ、そうか、あったぞ、これではないのか」
「うむ、正しくそれよ、儂らは、これだけで何もいらぬわ
牙蛇、世話になった、儂らは帰るぞ」
「そうか、稼ぎの口が有るならばまた来よ
それから、楓に言うてくれ、儂らは、、、いや、なんでもない、よいわ」
山賊との共同作業が終わり二人は帰途につく
はて書状を手に入れたは良いが、誰に渡すか
三郎は摂津に行くと言っていたのう、又もや仕事は早仕舞いしたし、良し大阪に行くのも、たまには良いかも知れぬ
二人は摂津にいる筈の、三郎に会いに歩き出した、ところが、おっとり刀で来てみたのだが、そこは織田の軍勢により厳重に管理されて、出入りもままならぬ、戦こそ無いが、ものものしさがあった
「もし、蜂須賀様の後家来衆とお見受けする、それがしは、金ヶ崎で共に戦こうた、甲賀の十造、大至急お渡ししたい書状がござる」
蜂須賀の陣屋に、書状を預けて帰途につく
三郎には、会えなかったが、仕事は早仕舞の上、書状をおまけにつけたのだ
それにしても、畿内は、何処もかしこも戦ばかり、一向に収まる気配もないわ
「おろ、楓やーい、言うても聞こえんわな、やれやれ」
十造は、考え事をしていたせいで、楓とはぐれてしまい、元来た道を歩き出した、楓は一軒の小間物屋の前で立ち止まっていた、何かを、じっと見つめている
どうやら、銀の手鏡が気になるらしい、十造は楓に少し女を感じ、好ましく思えた
どうやら店の者は、楓に声をかけても、うんでもすんでもなく、諦めて奥で仕事をしているのであろう
「ごめん、この鏡を、それと、そこにあるビードロ玉もな、店主負けんと買わぬぞ」
ここは、大阪だ正価でも良いのだが、一応値切る
「良し、貰おう、砂金で良いかの」
店主は、その鏡を、鏡用の巾着に入れ、ビードロ玉は和紙に包み、お捻りにして砂金と交換した
それらを受け取った十造は、楓に渡した、楓は手を振り、首を振りしたが、十造は、強引に手渡しして
「何をしている、お前は、これ以上の仕事をこなしたのだ、さあ、受け取ってくれぬか
儂が鏡を見ても仕方無かろう、ビードロ玉を弄くっても絵にならんわ、ほれ」
「ほっ」
そう一声発して、楓はただの嬢、女になっていた
嬉しさの表現が、ぎこちなく、初々しかった
「そうか、そこまで喜んで貰えるならば、儂としても嬉しいぞ」
十造は、楓が初めて自分に、笑顔を見せてくれて、ほっとしていた
「それにつけても、儂に笑顔を見せたのは、鳥の後だの、儂は雀以下だわ」
そう考えると、笑えて来る
瀬田の手前にある、廃寺で一晩横になり、二人は、翌朝帰って行った、楓は、休んでいるあいだ中、手鏡を触っていた
その状態で楓が、十造の肘を突いた、それが合図だった、二人は左右に倒れながら別れる、楓は姿を消した、十造は、敢えて的になる
「何奴ぞ、出て来ぬか」
打ち合わせは出来ていた、あくまでも十造が標的で、楓は、姿を眩まし反撃に移る、この場合襲った者が気の毒だ、致命傷はあり得ない、楓に命乞いは通じない、急所を突かれ、死あるのみ
儂が生きていようが、死んでいようが、二人に害を成した者には、勝てるならば攻撃、叶わぬなら、逃げる
そう教えた、今頭を巡らせ楓は、的を絞っている最中であろう
「何人居るのかわからんが、そろそろ姿を現したが良いぞ
今なら助かる、出て来ぬか、儂はお前達の為に言うておる」
今、気配は、三つ
「悪い事は言わぬ、出てこい、助かりたければだがな」
ガサリと草薮を分ける音がした
「待て、殺すな」
「運が、良ければ助かる、残り二人、共に早う出てこぬか」
楓は姿を現さない、出て来てはいない、そいつらを何処かで狙っているのだ
だから、十造は余裕があった
「儂らを狙う目的は、なんじゃ、お前達は何処の手の者だ
まあ、言うわけもあるまいが、だが同業のよしみよ、ひとつだけ教えてくれ、儂らを何処の者と観たのだ」
十造と同じ年格好の男は
「織田か徳川」
ふうん、そう言う事か
「良く聞け、もう遅い諦めよ、全ての面でお前達は遅れを取った、お主は特にの、自信があったから、姿を見せたのであろうが、これまでよ」
男は、いきなり口を力なく開け、顔から地面に倒れた
背後には、無表情の楓が立って、全て終わりとばかりに、頷いた
屈んで、男の服で、殺し道具の、長い針を拭い、指を三本立てた
敵は、三人だったと告げている
そうか、書状は余程の事が書いてあったと見える
早う手放して正解ではないか
十造が奪った書状は、その日の内に、織田信長まで届いていた
その内容は、有り体に言えば、反信長勢力に対する檄文であった
今までも、その様な報せは届いては居たが、こうしてはっきりと証拠が示された
これまでのところは、足利将軍義昭と信長の関係は、微妙な部分であったが、この書状により、お互い反目であることが、はっきりしたのだ
こうして、戦だけが、激しさを増して行く事になった
十造も、楓と共に大なり小なりの戦へと駆り出される日々が続いた
ある日、十造は自分の家近くで、かっこうの鳴き声を耳にした
その途端に、胸を締め付けられた
静を忘れようと、がむしゃらに、仕事を引き受け、こなして来た、ところが、かっこうの鳴き声を聞いただけで、全てがよみがえってしまった
あれから一年近くよの、考えないように、考えないようにしていたのに、かっこうめが、石で持って追い払うてやろうか、いかんいかん、そんな事をすれば、今度は楓に、命を狙われかねない
いやはや、辛い季節よ
十造は、全てを忘れるためにも、生活の為にも、一心不乱に、畑をたがやし、肥料を撒き、種を植える、そして、手が空いたら、薬や毒を調合する事に没頭した
そのかいがあって、数日後四郎がやって来た
「そろそろ、来る頃だと思うておった
今度は、何処に行くのだ」
「本願寺です、姉川の合戦で勝利しても、織田は四方八方敵だらけ、特にここは、かなり苦戦しておる様子です
町中のあちこちにある、砦を一つずつ潰しながら、進んでおるそうな」
「成る程、砦の門を壊したり、中の者達の腹を壊したり」
「仰せの通りで、、、」
四郎が笑顔で答える
「おお、ならば、此度の仕事は、楓はいらぬでは無いか」
「いえ、やはり二人揃わねば、仕事が早く終わりませぬので」
ニヤリと笑って言う
「馬鹿を申せ、たまたまの事を、大袈裟に」
「しかし、貴方と仕事をするようになってから、楓はかなり、変わりましぞ、道具の手入れから、なにもかもが真剣で、慎重になりました」
「もうよいわ、で、儂と楓の二人か」
「いえ、今回は着いてから、何処の砦になるのか解りませんので、私が連絡と案内を兼ねます、勿論手伝いも」
「そうか、ではくれぐれも、楓の邪魔をするではないぞ」
「ぐっ、はいはい、かしこまりました」
「不満そうだの、まあ、四郎とも、久しぶりの仕事だの」
「はい、近頃、父、三郎兄はどうしても、服部様の関係で徳川様の仕事が主になって、ただ偏るのは未だ早いと、、、」
「そうよ、今のところは、それが良いわ、儂でもそうするぞ」
本願寺近辺は、以前に、楓と途中まで訪れた時以上に、荒んでいた
特に、銃声が凄まじい、織田も寺側も、銃を撃ちあって、攻防を続けていた
「四郎、向こうの鉄砲も、かなり激しいが、何処ぞの大名の兵か」
「雑賀と根来の衆がついてます、ですから雑賀は、お互いに撃ち合いとなっています」
雑賀衆は、織田にも傭兵として、働いていた
また、雑賀・根来衆は、金だけでは無く、自分達の信仰から、参加する者もいて、他の地域の宗教一揆と同様、強固な団結力を持っていた
見せしめの為なのか、町中至る所に、晒し首が掲げられており、殺伐としていた
「十造殿、正面に見える、砦の門を破壊して貰えぬかと、蜂須賀の兵から頼まれました」
「ふーん、先程から見ておるのだが、狙い打ちの正確さが、異常だの
三十間以内では、外さぬわ」
「忍び入る事はできますか」
「うむ、儂らが中へ入ったとして、恐らく根来の忍が居るのなら、爆薬を仕掛ける時間がないのう、ふーむ」
「四郎、儂が言う物を、至急用意してくれぬか、爆薬の樽、大きさはそう、金ヶ崎の時より、一回りかふた回り小さな物を、壺でもよいわ、丈夫そうな笊か籠、太くて長い竹、長さは儂が調節するで、切ったそのままでの、後、火薬、炭の粉、そして、石垣作業の杭四ヶ所分と人足もな」
「ハッ、承知」
「火薬と壺、竹を早く頼む、楓と急ぎ、作業にはいるで
暗く成るまでに仕上げたいからの」
「十造殿の実力を知る、蜂須賀の兵ですから、幾らでも、力になってくれましょう、では、後程」
夜になり、本願寺側の砦は静まりかえっている、何処かから、ヒュー、ヒューと音がする、途端にガシャンと何かが割れた、一瞬辺りが黒い霧に包まれた、次に爆発音がきこえたが、全てを話せる者は、既に死んでいた
先端に笊が付いた竹を
支柱にくくりつけ、笊の中に、火薬壺や炭の粉を入れた壺を載せて、竹竿の様にしならせ、砦の中へ放り込む
炎が揚がると今度は、弓矢の先に竹筒が付いたものが幾つも飛んで来た、それらは、炎の中に入ると簡単に爆発し、近くにいた者達を、ひどく傷つけていった
「十造殿、やはり十造殿です、お見事です、味方で本当に良かった」
「それは、儂が楓と、初めて仕事をした時、思うた事よ」
十造は、笑いもせずに言った
「さあ、そろそろ行かねば、門が開くぞ、雑賀の鉄砲衆が、感を頼りに撃って来よる、気をつけろ」
爆発音に、隠れてはいるが、敵方の銃での反撃は、激しく、あちこちに着弾の音と、掠める音が交差していた
門が落ちようとしているのに、反撃は止まらない、ただ織田方としても、ここまでお膳立てして、手をこまねいている訳にも行かない
相手も解っているのだ、少しでも反撃がゆるめば、一気呵成に押されて、終わることを、援軍が来ようが来るまいが、戦うしかないのだ
「よし、儂らも、爆薬を持って中へ入るぞ、準備は良いな、最後の仕上げよ
くれぐれも油断するな」
三人は正門に向かい走る、建物からは、紅蓮のい炎が立ち上がっている、炎は揺らめき、あちこちを斑に照らしていた、偶然にも一瞬四郎が炎に照らされた、ズドーン、四郎は声もなく崩れ落ちる
「あぎじゃー」兄者と言ったのだろう、楓が回らない口で叫んだ、それを見透かす様に風切り音が、シューと空気を裂いた、十造は咄嗟に、楓の腕を掴み、自身の方へ楓を引き寄せた
しまった、楓の何処かを掠めたな、十中八九毒矢であろう
「楓、しっかりしろ、四郎は諦めるのだ、楓」
楓の体を確かめる、着物の右一の腕(右上腕)にかすり傷、布を破き、クナイで傷を少し広げた、そして吸い出す、その間も、楓は兄四郎の元に行こうと、十造を渾身の力で離そうとする
楓は、十造を引摺りながら、四郎の元に辿り着いた
その間も、十造は楓の腕の血を吸っては吐き出す、を繰り返し続けた
四郎は諦めた、だが、お前は生きて居る、絶対に儂が生きて藤六殿に返す、絶対に死なせるものか、絶対にだ
砦は未明に落ちた、十造達の働きは、又も蜂須賀の部隊を有名にしたのだった
十造はそれどころではなかった、夜が明け、一番恐れていた事が起きつつあった
楓が熱を出し始めた
寝て居れと言っても、無理な状況ではあった
それも既に言わなくとも、床に臥せってしまった
しかし一晩経ってこうして生きているのだから何とか吸い出しは効を奏したのだろう
後は、楓の体力に賭ける外なかった
四郎は、もう動かない、難攻不落の、砦を落とした功労者は、綺麗な布を纏っていた
それがどうした、綺麗に着飾っても自分には、なにも見えぬぞ、どんなに誉められても、何も聞こえぬわ、どんなに一緒に酒を飲みたくとも、もう叶わぬでわないか、のう、四郎、四郎よ、どんなに寂しくとも、楓はまだ、其方には遣らぬわ、儂が絶対に助ける、約束ぞ、楓は儂が絶対に助ける
十造は、楓が持っていた懐刀を出して、四郎の髷を切って、懐紙にくるみ懐に入れた
「去らばぞ、四郎」
本来ならば、埋葬まで一緒に居たいのだが、楓が心配であった、十造は、うなだれて宿坊へと向かった
途中に色街に差し掛かった、冷やかす気力なぞ有る訳もない、たまたま、顔を上げたら、見覚えの有る女が目に止まる
「はて、お前儂に見覚えが無いか、何処かで会うたような」
流石に商売女だった
「会ったに決まってるじゃないか、お前さん、もう半年ぶりだよう、早く抱いておくれよ、思い出すからさ、いや、思い出させてあげるよ」
すかさず、女の仲間が
「ほらあ~、あの時、病気を貰ったろう~」
一斉に「ギャっはははは」
と煽り立て出した
「ああ、お前、牙蛇のところの、、、」
「ふん、アタシも思い出したよ、仕事してんだから、帰んな、お互い関係無いだろ」
「いや、お前えを身請けする、主人は何処だ」
突然の成り行きに、騒然とし出す
大体、女を身請けだの、どうこうするような、そんな場所ですらないのだ、揉みてをしながら男が出て来た
「幾らだ、この女を身請けする」
「へえ、三百で、何しろ家の三番手なもんでして」
「ほう、お前、織田を敵に廻すつもりか」
「げえ、ひひひゃくごごじゅうでどどどうか」
「良かろう、ほれ受け取れ、急いで居る、早うしてくれ」
女は店を出て来た、少しばかりの荷物を抱え、黙って後ろから付いてくる
「ねえ、何で私、あんた私を抱いたこと無いじゃないの」
「お前に頼みたい事がある、黙って付いこい」
「身請けの礼は言わないよ、どうせ、されようが、されまいが、男の遣るこた同じさ、専用にしたいか、共用か、それだけさ
でも、あんたは身請けしてくれたから、特別さ、何でもしてあげる、どうしてほしい」
「おお、何でもか、楽しみよ、あれも、これも、してほしいことだらけよ」
宿坊に着いて、臥せている楓を見せた
顔色が未だ赤く、呼吸は浅い、毒矢がかすった傷は周囲が赤黒く変色していた
「すまぬが、この娘の世話をしてくれぬか、治療は儂がやる、頼む、無論断っても良いのだ、儂は、牙蛇に世話になったでの、嫌ならそのまま、牙蛇のもとへ帰るがよい」
「いいよ、それくらいやったげるよ、でも、助かるのかい、この娘」
「まだ、解らんのだ、ただ、お前が引き受けてくれたお陰で、治療の幅が広がる
そう言えば、お前の名を知らなんだ
何と呼べば良いのかの」
「むぎ、でいいよ、死ぬまでに食べてみたいからさ、米はもう諦めたよで、あんた達は」
「儂は十造、そして楓だ
宜しく頼む」
十造は深く頭を下げた
「止しなよ、それよかさ、たらいだの、手拭いだの、櫛とか持って来てよ、身体を拭いてあげなきゃ」
「おう、直ぐに持ってくる、湯も必要だの」
十造は、自分がかなり動揺していた事に、今、気が付いた
普段ならとうに気が付くはず、むぎに言われやっと、何をすべきか解り始めた
楓の治療に必要な物を、あれこれ手配して、戻って来た
「十造、三郎って人が来てるよ」
四郎の事は、三河に知らせてあったのだ
床に臥している、楓をうなだれて、見ていた
「三郎、済まぬ、この様な事に、、、」
恐らく、三郎が駆け付けると思っていた、来たなら、あれも話そう、これも話そうと思っていたが、何も思い付かない
三郎が重い口を開く
「父が言うておりました、十造殿だから、これで済んだのだと、戦場で埋めて貰えた四郎は、運が良いのだ申し訳も無いが、楓の事は、宜しく頼むと」
「そうか、墓の場所は図面に書いておいた、お主も忙しいのであろう」
むぎが話しを遮るように
「悪いけど、生きてる人を先に面倒見なきゃ、楓の身体を拭いてあげるんだからどこかに行って」
「おう、済まぬ、さあ、三郎」
三郎は、三河へと引き返して行った
「十造、その薬は何」
「鳥兜よ、楓に飲ますわい」
「ええっ、鳥兜って誰でも知ってる猛毒ではないのか、楓も恐らくそれでやられたと、、、あんたが」
「うむ、時としてそれが、薬になるのよ、匙加減一つでな、湯は沸いて居るか、ぬるま湯に溶いて飲ます
少し体が、回復した今が頃合い、明日辺りは、目を醒ます、調合が合えばな」
「合わない時は、どうなんの」
「聞くな、考えたくもないわ、さあ、楓を抱え起こしてくれ」
十造は夢を見ていた、静が迎えの輿に乗る時、二人は、最後に固く手を握った
十造は、その手を離さなかった、静は嬉しそうに微笑んでいた、二人の手を、ぶらぶらと、何時までも揺する、、、いつまでも
これは夢よ、とそこで目が醒めて来る、はて、手を握る感触が、、、なにかおかしい
楓の脈を計り、そのまま手を握り、寝てしまったのだ、
ん、楓も十造の手を握っていた
「楓お前、そうか、良くなったか
もう大丈夫よ、もうすぐ帰れるぞ
今少し休むのだ」
「おや、お姫さま起きたのかい、十造あんた、腕がいいんだねえ
見直したよ
駄目だよ、楓未だ寝てなくちゃさぁ、そのくらいアタシにでも解るよ
アタシの言うこと聞かないと、十造に、お前の黒子が何処にあるか、全部おしえるよ
アハハハハハ」
二日後、楓は元に戻った、十造は、牙蛇に使いをやり、むぎを迎えに来させた
「むぎ、世話になったのう、荷車に雑穀を積んでおいたぞ、これは、少しだがお前用の麦と米だ、必ずお前が食え」
「うわー、こんなにくれるのかい、悪いから、アタシを抱かせてあげようか、それとも、口とか手でしてあげようか」
「いらん、いらん、早う引き揚げい、牙蛇にしてやれ」
むぎは引き揚げる日に、楓の髪を手入れし、顔に剃刀をあててくれていた
楓が別れ際、むぎを抱き締めた
「楓、止しなよ、違う病気になるよ、元気になって良かったね、もう行くよ
十造アタシこそ世話になったよ、こんなにしてくれてさ」
十造と楓も、四郎の墓に、墓と言っても、土饅頭なのだが、手を合わせてから、帰路についた
街道を南近江に向けて、歩いていた二人は、先ず楓が姿を消した、そして気配を絶つ
「何か用か、姿を見せねば殺す」
「お待ちくだされ、織田方でございます、急ぎ駆け付けました」
男が一人姿を現した、それでも楓は出てこない、気配も消したままである
十造も楓も気が立っていた、色々な事が有りすぎた
この先、面倒なことが起きたなら、全て破壊し、殺すそう決めていた
「申し訳御座らん、いきなり呼びかけようものならば、即、命が無さそうだったので迷っておった」
「で、何用かな、儂らの仕事は全て終えたと思うが」
「実を申すと、堅田方面で織田が苦戦中でして、宇佐山城主、森可成様が昨夜討ち死にしました、これを少しでも、北へ押し上げ和議を有利にはこびたく、十造様にも加勢頂きたく、、」
「承知と伝えてほしい、ただし、火薬を十分に運んでくれぬか、荷車を三台、火縄もな」
「はっ、取り急ぎ仕度致します」
楓には申し訳無いが、無性に、暴れたかった、四郎の死を、未だ受け入れられない十造だった
そんな自分の考えと、予定の変更を楓に伝える、静かに頷いてくれた
大津に着いた時は、既に戦場後になっていた、堅田は今や最前線となり、朝倉、浅井の兵はかなり優勢に戦っていた、比叡山延暦寺の僧兵達も反信長に加わり、京都もかなり危うい状況になった
そんな中、十造は大津の織田陣地に入り、楓と爆薬を作っていた、諸諸の状況を考えると、十造は攻撃は、このたった一度で終わると読んだ
珍しく、織田方の消耗が激しいのだ、結構な重臣達が
、犠牲になったのも大きいかも知れない
「願ったり叶ったりよ、でかいのを、ドドーンと一発お見舞いして、引き揚げよ、のう、楓」
楓は、きょとんとしていたが、十造は、何でもないとばかりに、肩口で手を廻す
近頃の二人は、簡単なみぶり、手振りで会話が成立しつつあったのだ
爆薬の準備は整った、後は夜を待つのみ、そんな思いを秘めて、そこいらを宛もなく彷徨いていると、何と牙蛇が居るではないか
「おいおい、牙蛇、そなた何時から侍になったのだ」
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「ふん、大袈裟な、ところで何故ここに」
「おう、死体運びと、儲け口が有るかと思うての
十造がおるなら、ありつけそうだの、何をすれば良いのか」
牙蛇には、包み隠さず、ここの仕事を、引き受けた経過を説明した
「ふーん、お主、自棄になっておるな、どうだ、爆薬運びを儂らにやらせぬか、
何台の荷車を運ぶのだ」
「馬鹿な事を、死ぬかも知れぬのに、たのめるか」
「確実に死ぬ奴等が運べば、文句は無かろうが、どうだ
おい、がま目、びっこたっこ達を呼んで来てくれ」
河原で、楓が鳥を集めていた時に、集まっていた、手足の無い者達が、十人位よって来た
「はっきりしているのは、こいつらは、冬は越せないのよ、食いものも、着るものもない
こうやって、死体運び位しか出来ずに、そのうち壊死したり、お前なら分かろう、五体満足の者でさえ、生きて行くのが、難しい事を
それに、あの者達は、河原で観音様を見たのよ、楓が鳥を集めて、微笑んでいるのを見た時、あいつらは、心が落ち着いた、腹が減ったり、あちこちの痛みも忘れての
あの世はきっと、こんな感じで、苦しみから解放されるのだとな
どうだ、十造、読み書きも出来ず、経典も読まないこいつらは、悟りを開いて居る
破戒坊主達には、一生わからんだろうがな」
「解った、やって貰おうではないか、話しは簡単よ、荷車に、敵方の死体を積んで、そこに爆薬を仕込む、線香を持って導火線に火を着けるだけよ
後は、ドカーンとな
その騒ぎの内に、儂と楓が
陣幕に忍び込み、兜首を取る」
荷車が出発している、全員が手足の何処かを、無くしていた、朝倉方に入り込んでも、誰も、咎める者など居なかった、荷車は三台、爆薬の導火線は、逃げる必要がないのでやたら短い、ふたつ数えたら爆発する、三台が集団の中程に着いた、荷車の一人ずつが、火の着いた線香を持っていた、突然だった、ズドドドーン、ものすごい轟音が辺りに響く、その後から、吹き飛ばされた、人やら武器やらが雨のように降り注ぐ
十造と楓は、爆発と同時に、走っていた、そしてまだ事態を飲み込めず、呆然と突っ立っている、煌びやかな鎧武者に、狙いを定めた
簡単な作業ではあった、十造が其奴の前に立ち、突然しゃがむ、爆発で呆然としているのであろう、刀も抜かずに、十造を見ようとする、そうすると、後ろの錣(しころ)に隙間が空くのだ、楓には、それで十分だった、鋭い針が、相手の盆の窪を突いて、仕事は終わった
自陣に戻った十造達は、牙蛇に別れを告げて、今度こそ、帰途についた
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桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
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