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マイマスク
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人類は誕生以来、様々なウイルスと戦い、生き抜いてきた。そんな人類の前に、二〇三○年代になって突如「最強のウイルス」が出現した。これにより、人類は人前では常にマスクを被って生活しなければならなくなった。マスクと言っても従来の鼻と口を覆うものではない。ルチャ・リブレの選手が被るようなものだ。
それまであったマイナンバーカードの代わりに、「マイマスク」が国民一人一人に支給されるようになった。ICタグが入っており、このマスク一つであらゆる公的サービスを受けられるようになった。いろいろな決済も「マスク認証」により行えるようになった。
三人の高校生が無人コンビニへ入り、冷蔵庫から飲み物を取り出した。店にはセルフレジもなく、商品を持って店を出るだけで決済が完了する。三人は公園のベンチに腰掛けた。それぞれ色の異なる鮮やかなマスクを被っている。
「久しぶりの登校だったね。いつもオンライン授業だからなあ。」
「そう言えば、佐藤はAO入試に合格したんだって? おめでとう!」
「ありがとう。これで、夢に一歩前進したよ」
「佐藤の夢って何だっけ?」
「タイムマシンを作ること。昔の人類を直に見てみたいんだ」
「へぇー。がんばれよ」
彼らは、しばらく談笑したあと別れた。
佐藤は家に着き、玄関の扉をマスク認証で開けた。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
「おかえり、遅かったわね」
出迎えた母親の顔は両目が大きく鼻と口が小さく顎の尖ったものだった。毛髪はない。
「大学に合格したからって、浮かれすぎるなよ」
テレワークの手を止め、書斎からのぞいた父親も同じ顔をしていた。
「わかっているよ。大学でやりたいことがあるから高校卒業までしっかり勉強するよ」
マスクを脱いだ佐藤も同じ顔だった。
二○三○年代に突如人類の前に出現した「最強のウイルス」は瞬く間に広がり、全人類が感染した。そのウイルスは人類には、無害なものだった。有害なウイルスの体内への侵入を防いでくれる最強のウイルスだった。ウイルスは人類の体内の中で共存し、次第に細胞の一つになり、以後の人類に受け継がれるようになった。
このウイルスに感染することで一つだけ不便になったことがある。顔が皆同じになってしまったのだ。そのため、見分けがつかなくなり人類はマスクを被らざるをえなくなった。
佐藤は、自分の部屋へ入り、ノートを開いた。そこには、構想中の円盤型のタイムマシンが描かれていた。
数十年後、佐藤はタイムマシンを完成させ、昔の人類を見るという夢を叶えた。
何度も夕刊紙の一面を飾ることになるが、それはまた別の話。(了)
それまであったマイナンバーカードの代わりに、「マイマスク」が国民一人一人に支給されるようになった。ICタグが入っており、このマスク一つであらゆる公的サービスを受けられるようになった。いろいろな決済も「マスク認証」により行えるようになった。
三人の高校生が無人コンビニへ入り、冷蔵庫から飲み物を取り出した。店にはセルフレジもなく、商品を持って店を出るだけで決済が完了する。三人は公園のベンチに腰掛けた。それぞれ色の異なる鮮やかなマスクを被っている。
「久しぶりの登校だったね。いつもオンライン授業だからなあ。」
「そう言えば、佐藤はAO入試に合格したんだって? おめでとう!」
「ありがとう。これで、夢に一歩前進したよ」
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「へぇー。がんばれよ」
彼らは、しばらく談笑したあと別れた。
佐藤は家に着き、玄関の扉をマスク認証で開けた。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
「おかえり、遅かったわね」
出迎えた母親の顔は両目が大きく鼻と口が小さく顎の尖ったものだった。毛髪はない。
「大学に合格したからって、浮かれすぎるなよ」
テレワークの手を止め、書斎からのぞいた父親も同じ顔をしていた。
「わかっているよ。大学でやりたいことがあるから高校卒業までしっかり勉強するよ」
マスクを脱いだ佐藤も同じ顔だった。
二○三○年代に突如人類の前に出現した「最強のウイルス」は瞬く間に広がり、全人類が感染した。そのウイルスは人類には、無害なものだった。有害なウイルスの体内への侵入を防いでくれる最強のウイルスだった。ウイルスは人類の体内の中で共存し、次第に細胞の一つになり、以後の人類に受け継がれるようになった。
このウイルスに感染することで一つだけ不便になったことがある。顔が皆同じになってしまったのだ。そのため、見分けがつかなくなり人類はマスクを被らざるをえなくなった。
佐藤は、自分の部屋へ入り、ノートを開いた。そこには、構想中の円盤型のタイムマシンが描かれていた。
数十年後、佐藤はタイムマシンを完成させ、昔の人類を見るという夢を叶えた。
何度も夕刊紙の一面を飾ることになるが、それはまた別の話。(了)
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