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4巻
4-2
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突然大きな声を上げた梓に、その場にいる者の注目が集まる。
「……梓? ……何かわかったの?」
困惑顔で恵梨花が尋ねると梓は額に手を当てて目を閉じ、もう片方の手を恵梨花に向けて突き出した。「ちょっと待って」のポーズである。そして、またもブツブツと呟き始めた。
「じゃあ、助けるため……? そして、それが必要かを見極めるため……? でも、それで、あの男が……」
更にブツブツ呟いた梓は、やがて目を開けるとサッと恵梨花に振り向いた。
「行きましょう、恵梨花……亮くんと、郷田さんのところへ」
「……でも、どこに? 小路くん、知ってる?」
「いや、俺も知ら――」
明が答えようとしたところで、梓が割り込んだ。
「恐らく……武道場」
◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ、話を聞かせてもらえますか?」
薄らと流れる汗を拭いながらも、涼しい顔をした亮が郷田に尋ねた。
郷田も同じく汗を拭っているが、こちらは不満そのものを絵に描いたような、険しい表情である。
それもそのはず、亮がまるで本気を出さずに、郷田との勝負に負けたからだ。
大勢の目の前で、今日まで秘密にしてきた自分の実力を晒す気になれない亮からしたら、当然のことだ。
十数分前に武道場に入った亮と郷田は、困惑気味な部員達の前で、武道場の半分を使って試合の準備を始めた。郷田は女子剣道部の主将、古橋花澄に頼み、亮が不慣れな防具をつけるのを手助けさせ、更には試合の審判まで頼んだ。
郷田は部員達には練習を続けるように指示したが、彼らは最近、何かと噂になっている桜木亮と自分達の主将が試合をするのを、勝敗はともかく気になったようだ。
誰もが興味深そうに、二人の試合を観戦し始めた。
だが、すぐに彼らは鼻白んだ顔になり、中には嘲りの色を浮かべる者までいた。
もう少し正確に彼らの表情を語るなら「もうちょっと根性出せよ」が正しいか。
しかし、そうなるのも無理はない。
試合での亮は一応攻撃を仕掛けるものの、郷田が避けたり受けたりすれば、追撃などせず、ノロノロと竹刀を振るだけ。明らかに加減された郷田のゆっくりとした振りにすらまるで反応せず、すぐに竹刀を叩き落とされる。
亮がそんな調子だったためアッサリと勝敗はついたが、郷田は「もう一本だ」と口にした。
審判の古橋が亮を気遣うような目を向ける中、同じような試合が何度か行われた。
その内に部員達も興味を失くしたようで、自分達の練習に戻っていく。
そんな、亮に対してひたすら空気の悪くなった武道場内に、郷田の「わかった、もういい」の一言が響く。
こうしてようやく試合は終わり、またも手伝ってもらって防具を外したのが、つい先ほどのことである。
「……一応は、約束だからな。もうちょっとこっちへ来い」
面だけを外した郷田が不承不承といった顔で、亮にすぐ近くまで来るよう手招きし、小声で言った。
「何故、本気を出さなかった」
恵梨花の話が始まると思っていた亮は若干、うんざりしながら肩を竦める。
「十分、本気でしたよ……第一、剣道素人の俺と、剣道部の主将である先輩とじゃ、勝負になる訳ないじゃないですか」
「そういうことでは無い。言っただろ、俺は話をするより、竹刀で打ち合った方が相手を理解できると……お前の振る竹刀には、力も思いもろくに込められていなかった」
そりゃ、そうだと思った亮だが、それがわかる程度には腕はあるらしいと再認識した。
「俺に何を期待したのか、知りませんが……約束は約束なんですから、話してくださいよ」
郷田は諦めたのか、険しい目をして息を吐いた。
「いいか……お前が、先週友達になった三年の三人だが……」
亮は早速その内容に首を傾げた。
「…………三年の三人? ……友達?」
「……『友達』になったんじゃないのか?」
「誰のこと……ですか?」
「ああ……ちゃんとした『友達』では無かったか? ……三年の真壁と林と細川だ」
それを言っても、名前をすぐに忘れる亮には無意味だったが、郷田には知る由もない。
「……えーっと……?」
「……先週お前を訪ねた三人だ」
「? …………あ、ああ!」
亮はようやく思い出した。それに対して流石に郷田が呆れの目を向けてくる。
「何故、すぐに思い出せんのだ」
「あー、まあ、余り気にしないでください…………ん? その三人の話ですか?」
亮は三人が来たこと自体失念していたが、今になって思い出し、ここでそれを言う郷田に嫌な予感を覚えた。
「ああ……お前があの三人をどう言いくるめたか知らんが、気をつけるんだな。何か企んでいる様子だったからな」
「あー…………そい……つは、どう、も……」
亮の声には丸っきり力がなく、郷田は一瞬不思議そうな顔をする。
「? ……いいか、あの三人が手に負えなくなったら、いつでも俺に言え。無理しようと考えるな」
真剣な様子で言葉を続ける郷田に対して、亮は体からどんどん力が抜けていくのを感じていた。
ここに来て、亮はようやく郷田の真意を悟った。
彼はつまり、自分の味方になると申し出ているのだ。全力でやっていなかったことは明白ながら、先の試合で亮が喧嘩の弱い人間だと確かめた後で。
しかしそれは、ありがたいことかもしれないが、亮にとっては完全に不必要である。
そんな話を聞くために、こんな大勢の前で目立つ行為をしてしまい、亮はどうしようもないほどに気落ちしていた。
更に、恵梨花を守る自分の策の欠点に、このような形で気づかされ、心が折れそうになった。
「それは……どうも……ありがとうございます……」
亮は力なくそれだけ言うと、露骨に嘲るような視線や、ホッとしながらもどこか納得いかないような視線に晒されつつ、哀愁漂う背を見せてトボトボと帰り始めた。
しかし、扉の前まで来て取っ手に手を伸ばした次の瞬間、手を引っ込めて後ろに一歩下がる。
郷田や部員達が首を傾げていると、その扉が勢いよく開いた。扉の前にいたままだったら、亮は思いきりぶつかっていたかもしれない。
そんなことを知る由もない、扉を開けた張本人は、目の前に亮がいたせいか、少し驚きに目を瞠って、つい、といった感じで名前を口にした。
「亮くん!」
「恵梨花……梓に咲……明まで来たのか」
扉を開けた恵梨花、そのすぐ後ろに梓と咲がいる。最後尾にいた明が、亮の鞄を掲げて見せた。
「鞄、持ってきた」
「ああ、ありがとよ……よく、ここだとわかったな」
亮の疑問に、明は簡潔に答える。
「わかったのは鈴木さんだけどな」
武道場内の男子が、美少女三人の登場に色めき立つ。
そんな背後の喧噪をよそに、亮は恵梨花達にここに来た理由を聞こうとしたが、先に向こうから焦った声で尋ねられた。
「こんなところに来て何してたの亮くん? 物騒なこととかしてない!?」
「いや、物騒なことって――」
頬をポリポリと掻きながら亮がチラッと、後方にいる郷田を見る。そこで気づいたのだが、気のせいでなければ、郷田は少し焦ったような顔をしていた。
「……ちょっと、剣道の試合してたな」
「剣道の試合!? 誰と!?」
「誰とって……あの大きい人」
言いながら亮が後ろを親指で指し示すと、恵梨花はその先にいる郷田に視線を移し、途端に険しい目つきになった。が、すぐに表情を戻して亮と目を合わせた。
「何で試合することになったの?」
「ああ……頼まれてな」
「それで、何でめんどくさがりの亮くんが試合するの!?」
「……いや、本当にそうだよな」
これにはもう苦笑するしかない亮である。
「君、何で、その頼みを引き受けたの?」
ここまで黙っていた梓が口を開いた。
「……色々、事情があってな」
「ふうん、事情ねえ……」
言いながら、梓は恵梨花を一瞥する。
そんな梓に、わかってんじゃねえかと思いつつも、亮は何も言わなかった。
「――それで、試合の結果は?」
梓の質問に、皆が亮に注目する。
「結果? ……ああ、負けた負けた……コテンパンにな」
言っている内容とは裏腹に、亮の顔に悔しさは一切なく、あっけらかんとしていた。
事実、真面目にやるつもりはなかったので、負けたからといって何とも思わない。
だが、なぜか恵梨花の表情は優れない。
「……負けたの?」
「おお……何回もな」
答えた途端に、恵梨花が血相を変えて詰め寄ってくる。
「……何回も!?」
「……お、おう」
その剣幕に少したじろぎながらも頷くと、恵梨花は亮の後方をキッと睨んだ。
「タケちゃん!!」
亮の知らない名を叫んだ恵梨花は、ズシズシと、道場内を歩いて行く。
突然の大声に驚いた亮だが、力強く足を動かす恵梨花を見てすぐにはっとする。
治りかけてはいるものの、まだ万全ではないのだから無理をするな、と声をかけようとしたところで、梓が小声で尋ねてきた。
「一応聞くけど、君、本気出してないよね?」
「ああ。当たり前だろ」
「やっぱり……」
梓が嘆息するのと同時に、再び恵梨花の怒鳴り声が響いた。
「タケちゃん! 何で、亮くんをここに!! それも何回も試合!? コテンパンにしたですって!?」
また少し『お母さん化』してるかも、なんて思いながら、亮は郷田に詰め寄る恵梨花を、武道場内にいる大多数の男子と同じように傍観する。
郷田は焦った顔で両手を前に突き出し、後ずさりながら反論の言葉を口にした。
「ちょっと待ってくれ、ハナちゃん……これには深い事情があるんだ」
「何の事情よ! 人の彼氏を勝手に連れてきて! 言いなさい! 聞いたげるから!!」
二人の力関係が実によくわかる図だったが、それよりも亮には気になることがあった。
「タケちゃん……ハナちゃん……?」
誰ともなしに呟いた疑問だったが、隣で聞いていた梓が答える。
「あの二人の小さい頃からのアダ名ですって」
「小さい頃……?」
続いて湧いた亮の疑問に、梓は少し愉快そうに口の端を釣り上げた。
「あの二人、幼馴染なのよ」
「な……」
亮は驚愕を浮かべた顔で二人に顔を向け、その中でも郷田を凝視しながら愕然と呟いた。
「あのおっさんヅラで幼馴染なのか……!」
それを横で聞いていた梓と明は「は?」と首を傾げた後、すぐに揃って突っ込んだ。
「いや、顔は関係ないでしょ!?」
「驚くとこがそこなのかよ!」
「幼馴染の男と言ったら……何だ、こう……爽やか? いや、二枚目……じゃねえな……優男? ……とにかくだ、あのおっさんヅラは違うだろ」
手振りを交えて幼馴染についての持論を語る亮に、梓と明が呆れた目を向ける。
咲はツボに入ったのか、無表情ながらも笑うまいと堪えてるようだ。肩が震えている。
「……とりあえず、君が幼馴染について随分偏った考えを持っているのはわかったわ」
梓が諦めたように言うと、亮は至極真面目な顔で返した。
「何言ってんだ……俺に限ってじゃなく、世間一般のイメージだろうが」
明は含み笑いをしながら言う。
「亮、言いたいことは何となくわかるが――」
「だろ?」
「……けど、やっぱり顔は関係ないな」
何故わからないのかと眉をひそめる亮に、梓がため息を吐いた。
「一体、何を幼馴染の基準に……?」
「何って……」
亮は一度武道場内を振り返り、とある男女を見た後、すぐに肩を竦める。
「――まあ、いいか……それにしても、ハナちゃんにタケちゃん? ……ハナはもしかして、恵梨花の字の『花』から来てんのか?」
「ええ、そうよ」
「……? 何で、そうなるんだ? 普通に『恵梨花』でいいだろうに」
首を捻る亮に、梓が意味ありげな微笑を浮かべる。
「――それは恵梨花の家に行けば、わかるわ」
「ふうん? ……あとタケちゃん? 不似合いにも程があるようなあだ名だな……『タケシ』って名前なのか、あのおっさん?」
亮の失礼な物言いに、明が突っ込む。
「いや、『ツヨシ』って言ってただろ……さっき、教室来た時」
「……そういえば、そんな気もするな」
つい先ほど郷田に名を名乗られたことは、亮にとってもはや遠い過去だった。
「……じゃあ、何で『ツヨシ』が『タケちゃん』になるんだ?」
このもっともな疑問に答えるのは、やはり梓だ。
「……郷田さんの名前の剛(つよし)の読みを変えると、剛(たけし)になるでしょ? ……だから」
そう答える梓は、検分するような目を亮に向けていた。
「わざわざ読みを変えて、それをあだ名にしたのか……? 随分と変わったことするもんだな」
またも首を捻る亮だが、すぐに笑みを浮かべた。
「フルネームにすると、郷田剛(ごうだたけし)ってとこか……ん、ごうだたけし?」
亮がはっとして何かに気づいたような声を出すと、明も同じような表情になる。
ここまでは両者共通していたが、その後は違った。
亮だけが少し難しい顔を作ったのだ。
「……聞いていいか、梓」
「何?」
「『タヌえもん』に出てくる『シャイアン』のフルネームって?」
「……剛田剛(ごうだたけし)。ひっくり返しても字面は一緒ね」
淡々と答えた梓に、亮がため息を吐く。
「……だったよな」
流石の亮でも、国民的人気アニメのメインキャラクターの名前ぐらいは覚えている。
梓にわざわざ確認したのは、そうせずにはいられない心境に陥ったからだ。
(……おっさんが、以前恵梨花を助けたっていう、あのシャイアン……?)
流石に安易過ぎやしないかと思うも、否定できる材料が見つからない。
真壁達のことで亮に助力を申し出るということは、恵梨花を助ける意思の表れであり、尚且つ二人は幼馴染である。
幼馴染が必ず仲が良いとは限らないし、今の、恵梨花が郷田を叱っている場面も決して仲が良さそうではなかった。ただ、『敵』と言える関係でないのは確かだろう。
真壁達は、シャイアンに小汚い角材らしき棒で打ち据えられたと言っていた。
亮は視線を郷田に向ける。
自然と、先ほどまでの竹刀を持っていた姿が目に浮かぶ。
それを角材に換えても、さぞかし似合うだろうと亮は思った。
三人を一人で相手にするのだから、剣道をしている人間が得物を使うのも自然だ。
(……普通に考えたら、三人を敵に回して一人で喧嘩に勝つって、けっこうたいしたこと……だよな)
人は知らず知らずの内に、自分を基準に物を考える傾向がある。
当たり前のように真壁達を圧倒した亮は、同じようにシャイアンが三人を負かしたと聞いても、何ら特別なことだとは思わなかった。
そして、亮は今更ながらに気づく。シャイアンが、それなりの『強さ』を持っていなければいけないということに。
その『強さ』は、一年前の郷田も持ち合わせていたはずだ。
ここまで考えた亮は、先ほどからずっと黙っている、恐らく最初から答えを知っていただろう梓に声をかけた。
「……去年の話になるが、恵梨花をあの三人から守ったってやつがどんな格好してたか、あんたは知ってんのか?」
「ええ」
表情を変えずに頷く梓はこちらを見ようともしなかったが、亮はその様子から推測を確信に変えた。
「笑えることに、シャイアンの覆面を被ってたらしいぜ」
「みたいね」
亮は一拍の間を置き、郷田に目をやりながら確認するように尋ねる。
「……あのおっさんなんだな?」
「おっさんって……」
ここでようやく振り向いた梓は、呆れた顔をしていた。そして亮と目が合うと、ため息を吐いた。
「――こうなったら、義理立てして隠していても無意味……どころか、状況がひどくなるだけね。そうよ、彼――郷田さんが、一年前、恵梨花を助けた覆面男よ」
「……まんまか……それにしても義理立て? 俺に話さなかったのはそのためか?」
「ええ……郷田さんから、誰にも話してくれるなと言われてね」
「ふうん……それは恵梨花にもだな?」
「そう。恵梨花は、自分が助けられたこと自体知らないわ。だから、そのシャイアンが誰かなんて考えたこともない」
「……やっぱりか」
先週、真壁達とイザコザがあった時も、恵梨花は彼らに強い反応を示さず、しきりに亮に怪我がないか確認するだけだった。
そんな様子から、もしかしたら……と考えたが、知らずに済んでいるかもしれない恐怖をわざわざ話す気にはなれなかった。
郷田も、恵梨花を想えばこそ語らなかったのだろうと簡単に推察できる。
そんな考えに耽っていると、梓が亮の方に向き直った。
「亮くん」
首を回すと、梓は小さく頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……あんたにしては、随分しおらしいじゃねえか……何に対して謝ってんだ?」
突然の梓の態度に驚いて、軽口を叩きながら訳を問うと、顔を上げた梓がジロリと睨んできた。
「その台詞から、君が普段、あたしをどう思ってるかよくわかるわね……」
思わず、亮はすっと目を逸らした。
だが、そう思われても仕方ないと思っている節があるのか、梓もそれ以上は言い返さず、苛立ちを振り払うように首を振って続ける。
「謝ってる理由は……君と郷田さん、双方の事情を知っているあたしなら、この事態を予測して防げたはずなのに、それができなかったから」
「……この事態って?」
「郷田さんは君と勝負をした後、何て言ってきた?」
「あの三人が俺の手に余るなら相談しに来い、だったな」
亮の答えに梓がやっぱり、とため息を吐く。
「じゃあ、勝負をしたのは、君がどれぐらい強いか確認するため?」
「……大体、そんなとこだろう」
加えて、亮自身にも興味を持っている様子だったが、一番の目的は梓の言った通りだと思ったため、亮はそれ以上言わなかった。
「勝負を受けた理由は、恵梨花のことを何か言われたからよね?」
「……ああ」
「それでめんどくさがりで目立つことを嫌う君が、こんなとこで勝負を受けた訳よね」
「……もう言うなよ」
改めて人から聞くと、受けた精神的ダメージが倍になったように感じる。
不必要な味方を得るための代償は大きかったと、改めて認識してしまう。
気落ちを表すように眉を寄せて苦笑する亮に対し、梓が珍しく、申し訳なさそうな口調で切り出した。
「だからよ」
「……うん?」
「君にも郷田さんにも、少しでもお互いについて話しておけば、君がここで目立つ必要はなかったでしょ? ……それを防げるのはあたししかいなかった」
「……それを気にして謝ったのか?」
「そうよ」
流石にこれには驚いた亮である。
これまでそのような素振りをまったく見せたことのない梓が、自分のせいで亮が目立ったことを気にして謝罪したのだ。
「おい、あんた、どうしたんだ? ……変なものでも食べたのか?」
亮がそう言ってしまうのも無理はないが、言われた本人は若干、口元をヒクつかせている。
「君、年頃の女の子に、すごく失礼なこと言ってる自覚ある?」
「……いや、すまん。けど、あんた、日頃から俺が目立つことを気にしねえじゃねえか……球技大会の時とか」
亮の脳裏を過ったのは、梓の策略がなければ自分の出番などなかったはずのサッカーの試合である。
「……梓? ……何かわかったの?」
困惑顔で恵梨花が尋ねると梓は額に手を当てて目を閉じ、もう片方の手を恵梨花に向けて突き出した。「ちょっと待って」のポーズである。そして、またもブツブツと呟き始めた。
「じゃあ、助けるため……? そして、それが必要かを見極めるため……? でも、それで、あの男が……」
更にブツブツ呟いた梓は、やがて目を開けるとサッと恵梨花に振り向いた。
「行きましょう、恵梨花……亮くんと、郷田さんのところへ」
「……でも、どこに? 小路くん、知ってる?」
「いや、俺も知ら――」
明が答えようとしたところで、梓が割り込んだ。
「恐らく……武道場」
◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ、話を聞かせてもらえますか?」
薄らと流れる汗を拭いながらも、涼しい顔をした亮が郷田に尋ねた。
郷田も同じく汗を拭っているが、こちらは不満そのものを絵に描いたような、険しい表情である。
それもそのはず、亮がまるで本気を出さずに、郷田との勝負に負けたからだ。
大勢の目の前で、今日まで秘密にしてきた自分の実力を晒す気になれない亮からしたら、当然のことだ。
十数分前に武道場に入った亮と郷田は、困惑気味な部員達の前で、武道場の半分を使って試合の準備を始めた。郷田は女子剣道部の主将、古橋花澄に頼み、亮が不慣れな防具をつけるのを手助けさせ、更には試合の審判まで頼んだ。
郷田は部員達には練習を続けるように指示したが、彼らは最近、何かと噂になっている桜木亮と自分達の主将が試合をするのを、勝敗はともかく気になったようだ。
誰もが興味深そうに、二人の試合を観戦し始めた。
だが、すぐに彼らは鼻白んだ顔になり、中には嘲りの色を浮かべる者までいた。
もう少し正確に彼らの表情を語るなら「もうちょっと根性出せよ」が正しいか。
しかし、そうなるのも無理はない。
試合での亮は一応攻撃を仕掛けるものの、郷田が避けたり受けたりすれば、追撃などせず、ノロノロと竹刀を振るだけ。明らかに加減された郷田のゆっくりとした振りにすらまるで反応せず、すぐに竹刀を叩き落とされる。
亮がそんな調子だったためアッサリと勝敗はついたが、郷田は「もう一本だ」と口にした。
審判の古橋が亮を気遣うような目を向ける中、同じような試合が何度か行われた。
その内に部員達も興味を失くしたようで、自分達の練習に戻っていく。
そんな、亮に対してひたすら空気の悪くなった武道場内に、郷田の「わかった、もういい」の一言が響く。
こうしてようやく試合は終わり、またも手伝ってもらって防具を外したのが、つい先ほどのことである。
「……一応は、約束だからな。もうちょっとこっちへ来い」
面だけを外した郷田が不承不承といった顔で、亮にすぐ近くまで来るよう手招きし、小声で言った。
「何故、本気を出さなかった」
恵梨花の話が始まると思っていた亮は若干、うんざりしながら肩を竦める。
「十分、本気でしたよ……第一、剣道素人の俺と、剣道部の主将である先輩とじゃ、勝負になる訳ないじゃないですか」
「そういうことでは無い。言っただろ、俺は話をするより、竹刀で打ち合った方が相手を理解できると……お前の振る竹刀には、力も思いもろくに込められていなかった」
そりゃ、そうだと思った亮だが、それがわかる程度には腕はあるらしいと再認識した。
「俺に何を期待したのか、知りませんが……約束は約束なんですから、話してくださいよ」
郷田は諦めたのか、険しい目をして息を吐いた。
「いいか……お前が、先週友達になった三年の三人だが……」
亮は早速その内容に首を傾げた。
「…………三年の三人? ……友達?」
「……『友達』になったんじゃないのか?」
「誰のこと……ですか?」
「ああ……ちゃんとした『友達』では無かったか? ……三年の真壁と林と細川だ」
それを言っても、名前をすぐに忘れる亮には無意味だったが、郷田には知る由もない。
「……えーっと……?」
「……先週お前を訪ねた三人だ」
「? …………あ、ああ!」
亮はようやく思い出した。それに対して流石に郷田が呆れの目を向けてくる。
「何故、すぐに思い出せんのだ」
「あー、まあ、余り気にしないでください…………ん? その三人の話ですか?」
亮は三人が来たこと自体失念していたが、今になって思い出し、ここでそれを言う郷田に嫌な予感を覚えた。
「ああ……お前があの三人をどう言いくるめたか知らんが、気をつけるんだな。何か企んでいる様子だったからな」
「あー…………そい……つは、どう、も……」
亮の声には丸っきり力がなく、郷田は一瞬不思議そうな顔をする。
「? ……いいか、あの三人が手に負えなくなったら、いつでも俺に言え。無理しようと考えるな」
真剣な様子で言葉を続ける郷田に対して、亮は体からどんどん力が抜けていくのを感じていた。
ここに来て、亮はようやく郷田の真意を悟った。
彼はつまり、自分の味方になると申し出ているのだ。全力でやっていなかったことは明白ながら、先の試合で亮が喧嘩の弱い人間だと確かめた後で。
しかしそれは、ありがたいことかもしれないが、亮にとっては完全に不必要である。
そんな話を聞くために、こんな大勢の前で目立つ行為をしてしまい、亮はどうしようもないほどに気落ちしていた。
更に、恵梨花を守る自分の策の欠点に、このような形で気づかされ、心が折れそうになった。
「それは……どうも……ありがとうございます……」
亮は力なくそれだけ言うと、露骨に嘲るような視線や、ホッとしながらもどこか納得いかないような視線に晒されつつ、哀愁漂う背を見せてトボトボと帰り始めた。
しかし、扉の前まで来て取っ手に手を伸ばした次の瞬間、手を引っ込めて後ろに一歩下がる。
郷田や部員達が首を傾げていると、その扉が勢いよく開いた。扉の前にいたままだったら、亮は思いきりぶつかっていたかもしれない。
そんなことを知る由もない、扉を開けた張本人は、目の前に亮がいたせいか、少し驚きに目を瞠って、つい、といった感じで名前を口にした。
「亮くん!」
「恵梨花……梓に咲……明まで来たのか」
扉を開けた恵梨花、そのすぐ後ろに梓と咲がいる。最後尾にいた明が、亮の鞄を掲げて見せた。
「鞄、持ってきた」
「ああ、ありがとよ……よく、ここだとわかったな」
亮の疑問に、明は簡潔に答える。
「わかったのは鈴木さんだけどな」
武道場内の男子が、美少女三人の登場に色めき立つ。
そんな背後の喧噪をよそに、亮は恵梨花達にここに来た理由を聞こうとしたが、先に向こうから焦った声で尋ねられた。
「こんなところに来て何してたの亮くん? 物騒なこととかしてない!?」
「いや、物騒なことって――」
頬をポリポリと掻きながら亮がチラッと、後方にいる郷田を見る。そこで気づいたのだが、気のせいでなければ、郷田は少し焦ったような顔をしていた。
「……ちょっと、剣道の試合してたな」
「剣道の試合!? 誰と!?」
「誰とって……あの大きい人」
言いながら亮が後ろを親指で指し示すと、恵梨花はその先にいる郷田に視線を移し、途端に険しい目つきになった。が、すぐに表情を戻して亮と目を合わせた。
「何で試合することになったの?」
「ああ……頼まれてな」
「それで、何でめんどくさがりの亮くんが試合するの!?」
「……いや、本当にそうだよな」
これにはもう苦笑するしかない亮である。
「君、何で、その頼みを引き受けたの?」
ここまで黙っていた梓が口を開いた。
「……色々、事情があってな」
「ふうん、事情ねえ……」
言いながら、梓は恵梨花を一瞥する。
そんな梓に、わかってんじゃねえかと思いつつも、亮は何も言わなかった。
「――それで、試合の結果は?」
梓の質問に、皆が亮に注目する。
「結果? ……ああ、負けた負けた……コテンパンにな」
言っている内容とは裏腹に、亮の顔に悔しさは一切なく、あっけらかんとしていた。
事実、真面目にやるつもりはなかったので、負けたからといって何とも思わない。
だが、なぜか恵梨花の表情は優れない。
「……負けたの?」
「おお……何回もな」
答えた途端に、恵梨花が血相を変えて詰め寄ってくる。
「……何回も!?」
「……お、おう」
その剣幕に少したじろぎながらも頷くと、恵梨花は亮の後方をキッと睨んだ。
「タケちゃん!!」
亮の知らない名を叫んだ恵梨花は、ズシズシと、道場内を歩いて行く。
突然の大声に驚いた亮だが、力強く足を動かす恵梨花を見てすぐにはっとする。
治りかけてはいるものの、まだ万全ではないのだから無理をするな、と声をかけようとしたところで、梓が小声で尋ねてきた。
「一応聞くけど、君、本気出してないよね?」
「ああ。当たり前だろ」
「やっぱり……」
梓が嘆息するのと同時に、再び恵梨花の怒鳴り声が響いた。
「タケちゃん! 何で、亮くんをここに!! それも何回も試合!? コテンパンにしたですって!?」
また少し『お母さん化』してるかも、なんて思いながら、亮は郷田に詰め寄る恵梨花を、武道場内にいる大多数の男子と同じように傍観する。
郷田は焦った顔で両手を前に突き出し、後ずさりながら反論の言葉を口にした。
「ちょっと待ってくれ、ハナちゃん……これには深い事情があるんだ」
「何の事情よ! 人の彼氏を勝手に連れてきて! 言いなさい! 聞いたげるから!!」
二人の力関係が実によくわかる図だったが、それよりも亮には気になることがあった。
「タケちゃん……ハナちゃん……?」
誰ともなしに呟いた疑問だったが、隣で聞いていた梓が答える。
「あの二人の小さい頃からのアダ名ですって」
「小さい頃……?」
続いて湧いた亮の疑問に、梓は少し愉快そうに口の端を釣り上げた。
「あの二人、幼馴染なのよ」
「な……」
亮は驚愕を浮かべた顔で二人に顔を向け、その中でも郷田を凝視しながら愕然と呟いた。
「あのおっさんヅラで幼馴染なのか……!」
それを横で聞いていた梓と明は「は?」と首を傾げた後、すぐに揃って突っ込んだ。
「いや、顔は関係ないでしょ!?」
「驚くとこがそこなのかよ!」
「幼馴染の男と言ったら……何だ、こう……爽やか? いや、二枚目……じゃねえな……優男? ……とにかくだ、あのおっさんヅラは違うだろ」
手振りを交えて幼馴染についての持論を語る亮に、梓と明が呆れた目を向ける。
咲はツボに入ったのか、無表情ながらも笑うまいと堪えてるようだ。肩が震えている。
「……とりあえず、君が幼馴染について随分偏った考えを持っているのはわかったわ」
梓が諦めたように言うと、亮は至極真面目な顔で返した。
「何言ってんだ……俺に限ってじゃなく、世間一般のイメージだろうが」
明は含み笑いをしながら言う。
「亮、言いたいことは何となくわかるが――」
「だろ?」
「……けど、やっぱり顔は関係ないな」
何故わからないのかと眉をひそめる亮に、梓がため息を吐いた。
「一体、何を幼馴染の基準に……?」
「何って……」
亮は一度武道場内を振り返り、とある男女を見た後、すぐに肩を竦める。
「――まあ、いいか……それにしても、ハナちゃんにタケちゃん? ……ハナはもしかして、恵梨花の字の『花』から来てんのか?」
「ええ、そうよ」
「……? 何で、そうなるんだ? 普通に『恵梨花』でいいだろうに」
首を捻る亮に、梓が意味ありげな微笑を浮かべる。
「――それは恵梨花の家に行けば、わかるわ」
「ふうん? ……あとタケちゃん? 不似合いにも程があるようなあだ名だな……『タケシ』って名前なのか、あのおっさん?」
亮の失礼な物言いに、明が突っ込む。
「いや、『ツヨシ』って言ってただろ……さっき、教室来た時」
「……そういえば、そんな気もするな」
つい先ほど郷田に名を名乗られたことは、亮にとってもはや遠い過去だった。
「……じゃあ、何で『ツヨシ』が『タケちゃん』になるんだ?」
このもっともな疑問に答えるのは、やはり梓だ。
「……郷田さんの名前の剛(つよし)の読みを変えると、剛(たけし)になるでしょ? ……だから」
そう答える梓は、検分するような目を亮に向けていた。
「わざわざ読みを変えて、それをあだ名にしたのか……? 随分と変わったことするもんだな」
またも首を捻る亮だが、すぐに笑みを浮かべた。
「フルネームにすると、郷田剛(ごうだたけし)ってとこか……ん、ごうだたけし?」
亮がはっとして何かに気づいたような声を出すと、明も同じような表情になる。
ここまでは両者共通していたが、その後は違った。
亮だけが少し難しい顔を作ったのだ。
「……聞いていいか、梓」
「何?」
「『タヌえもん』に出てくる『シャイアン』のフルネームって?」
「……剛田剛(ごうだたけし)。ひっくり返しても字面は一緒ね」
淡々と答えた梓に、亮がため息を吐く。
「……だったよな」
流石の亮でも、国民的人気アニメのメインキャラクターの名前ぐらいは覚えている。
梓にわざわざ確認したのは、そうせずにはいられない心境に陥ったからだ。
(……おっさんが、以前恵梨花を助けたっていう、あのシャイアン……?)
流石に安易過ぎやしないかと思うも、否定できる材料が見つからない。
真壁達のことで亮に助力を申し出るということは、恵梨花を助ける意思の表れであり、尚且つ二人は幼馴染である。
幼馴染が必ず仲が良いとは限らないし、今の、恵梨花が郷田を叱っている場面も決して仲が良さそうではなかった。ただ、『敵』と言える関係でないのは確かだろう。
真壁達は、シャイアンに小汚い角材らしき棒で打ち据えられたと言っていた。
亮は視線を郷田に向ける。
自然と、先ほどまでの竹刀を持っていた姿が目に浮かぶ。
それを角材に換えても、さぞかし似合うだろうと亮は思った。
三人を一人で相手にするのだから、剣道をしている人間が得物を使うのも自然だ。
(……普通に考えたら、三人を敵に回して一人で喧嘩に勝つって、けっこうたいしたこと……だよな)
人は知らず知らずの内に、自分を基準に物を考える傾向がある。
当たり前のように真壁達を圧倒した亮は、同じようにシャイアンが三人を負かしたと聞いても、何ら特別なことだとは思わなかった。
そして、亮は今更ながらに気づく。シャイアンが、それなりの『強さ』を持っていなければいけないということに。
その『強さ』は、一年前の郷田も持ち合わせていたはずだ。
ここまで考えた亮は、先ほどからずっと黙っている、恐らく最初から答えを知っていただろう梓に声をかけた。
「……去年の話になるが、恵梨花をあの三人から守ったってやつがどんな格好してたか、あんたは知ってんのか?」
「ええ」
表情を変えずに頷く梓はこちらを見ようともしなかったが、亮はその様子から推測を確信に変えた。
「笑えることに、シャイアンの覆面を被ってたらしいぜ」
「みたいね」
亮は一拍の間を置き、郷田に目をやりながら確認するように尋ねる。
「……あのおっさんなんだな?」
「おっさんって……」
ここでようやく振り向いた梓は、呆れた顔をしていた。そして亮と目が合うと、ため息を吐いた。
「――こうなったら、義理立てして隠していても無意味……どころか、状況がひどくなるだけね。そうよ、彼――郷田さんが、一年前、恵梨花を助けた覆面男よ」
「……まんまか……それにしても義理立て? 俺に話さなかったのはそのためか?」
「ええ……郷田さんから、誰にも話してくれるなと言われてね」
「ふうん……それは恵梨花にもだな?」
「そう。恵梨花は、自分が助けられたこと自体知らないわ。だから、そのシャイアンが誰かなんて考えたこともない」
「……やっぱりか」
先週、真壁達とイザコザがあった時も、恵梨花は彼らに強い反応を示さず、しきりに亮に怪我がないか確認するだけだった。
そんな様子から、もしかしたら……と考えたが、知らずに済んでいるかもしれない恐怖をわざわざ話す気にはなれなかった。
郷田も、恵梨花を想えばこそ語らなかったのだろうと簡単に推察できる。
そんな考えに耽っていると、梓が亮の方に向き直った。
「亮くん」
首を回すと、梓は小さく頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……あんたにしては、随分しおらしいじゃねえか……何に対して謝ってんだ?」
突然の梓の態度に驚いて、軽口を叩きながら訳を問うと、顔を上げた梓がジロリと睨んできた。
「その台詞から、君が普段、あたしをどう思ってるかよくわかるわね……」
思わず、亮はすっと目を逸らした。
だが、そう思われても仕方ないと思っている節があるのか、梓もそれ以上は言い返さず、苛立ちを振り払うように首を振って続ける。
「謝ってる理由は……君と郷田さん、双方の事情を知っているあたしなら、この事態を予測して防げたはずなのに、それができなかったから」
「……この事態って?」
「郷田さんは君と勝負をした後、何て言ってきた?」
「あの三人が俺の手に余るなら相談しに来い、だったな」
亮の答えに梓がやっぱり、とため息を吐く。
「じゃあ、勝負をしたのは、君がどれぐらい強いか確認するため?」
「……大体、そんなとこだろう」
加えて、亮自身にも興味を持っている様子だったが、一番の目的は梓の言った通りだと思ったため、亮はそれ以上言わなかった。
「勝負を受けた理由は、恵梨花のことを何か言われたからよね?」
「……ああ」
「それでめんどくさがりで目立つことを嫌う君が、こんなとこで勝負を受けた訳よね」
「……もう言うなよ」
改めて人から聞くと、受けた精神的ダメージが倍になったように感じる。
不必要な味方を得るための代償は大きかったと、改めて認識してしまう。
気落ちを表すように眉を寄せて苦笑する亮に対し、梓が珍しく、申し訳なさそうな口調で切り出した。
「だからよ」
「……うん?」
「君にも郷田さんにも、少しでもお互いについて話しておけば、君がここで目立つ必要はなかったでしょ? ……それを防げるのはあたししかいなかった」
「……それを気にして謝ったのか?」
「そうよ」
流石にこれには驚いた亮である。
これまでそのような素振りをまったく見せたことのない梓が、自分のせいで亮が目立ったことを気にして謝罪したのだ。
「おい、あんた、どうしたんだ? ……変なものでも食べたのか?」
亮がそう言ってしまうのも無理はないが、言われた本人は若干、口元をヒクつかせている。
「君、年頃の女の子に、すごく失礼なこと言ってる自覚ある?」
「……いや、すまん。けど、あんた、日頃から俺が目立つことを気にしねえじゃねえか……球技大会の時とか」
亮の脳裏を過ったのは、梓の策略がなければ自分の出番などなかったはずのサッカーの試合である。
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