Bグループの少年

櫻井春輝

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4巻

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   第一章 郷田ごうだのターン



 球技大会のけで負けたのか、他の教師におごるハメになったらしい担任の山下悟やましたさとるが、「今日は焼肉だー」と力無く、そしてヤケを感じさせる声でつぶやいた。
 そうしてHR(ホームルーム)が終わり、生徒達は次々に帰り支度じたくを始める。
 そんな中、迎えに来るであろう彼女――藤本ふじもと恵梨花えりかを寝て待とうと考えたさくらりょうがあくびをすると、前の席に座るしょう路明じあきらが振り向いた。

「亮、ここで待つのか?」
「ああ。お前も待って一緒に帰るか?」
遠慮えんりょしとく」

 微笑びしょうと共に丁重ていちょうに断りを入れた明に、亮は、はあ……とため息をいた。
 一緒に帰れないからといって、亮がこんな態度を取るなど、今までにないことである。
 そもそも二人が一緒に帰ること自体、それほど多くない。タイミングがちょうど合った時に、というぐらいで、どちらも無理に連れ立って帰ろうとはしなかった。
 では何故なぜ、亮はため息を吐いたか。これには理由がある。


 午後の休み時間、恵梨花の親友である鈴木梓すずきあずさ山岡咲やまおかさきが、別れ際に、今日は四人で帰ろうと提案してきたからだ。
 四人で帰るのが随分ずいぶん久し振りのような気がした亮は、「じゃあ、裏道で……」と言いかけた。しかし、咲が四人でプリクラを撮りたいと伝えてきたところで固まった。
 どうも咲には強く言えない亮は、続く梓の「時間が遅くて人も少ないだろうし、いいじゃない」といった援護射撃えんごしゃげきを聞き、抵抗の無駄を悟った。
 恐らく恵梨花を含む三人の中では、既に決定事項なのだろう。梓は生徒会の仕事をやってから、咲は部に顔を出してからこの教室に来ると言っていた。
 三人娘と一緒に表通りを歩いた時の注目具合を思った亮は、少し考えてから明も誘うことにした。
 その理由はもちろん、集まる視線を分散させるための生贄いけにえとしてだ。
 だが、亮の狙いを見抜いた明はにこやかに断った。
 そして今、再度さりげなく誘うも、同じように断られてしまった――それゆえの亮のため息という訳である。


「あの三人と一緒に帰れるっていうのにそんな風になるのは、亮ぐらいだぞ」

 あきれ調子で言う明に、亮は不満げに返す。

「いいか。恵梨花と二人で歩いてても、いまだに鬱陶うっとうしい視線が集まるんだぞ。それが単純計算で三倍になる。それを味わうことを考えてみろ」
「……まあ、わからんでもない」
「だろ? だから、お前も一緒に――」
「断る」

 涼しい顔で断られたので、亮が露骨ろこつな不機嫌顔になると、明は苦笑する。

「気にせず楽しめよ」
「楽しくないとは言わないがな……」
「あの三人と仲良くなったのは亮だろ? 初めて四人で撮るプリクラに、俺が交じるのは流石さすがに気が引ける」

 そう言われると、亮もそれ以上は言えない。そしてまたも、はあ、とため息を吐いた。

「それより、本当にここで待つのか?」
「? ああ、さっきから何を気にしてんだ、明?」

 同じ問いを繰り返してくるので、亮がいぶかしげな顔になる。

「いや。だって、亮が放課後の教室に残るなんて珍しいことをすると……」

 そう明が言いかけたところで、教室の空気が少し変わった。
 それを敏感に察した亮と明が教室の扉に目を向けると、そこには体格のいい男子生徒が一人立っている。
 放課後なのだから誰が入ってきてもおかしくは無い。それなのに空気が変わった原因は、クラスメイトの反応を見るに、その男子生徒が見慣れないかららしい(もちろん亮の記憶にはない)。
 それもそのはず、男子生徒の胸ポケットには、三年生であることを示す緑色のラインがあった。
 亮がそんなことを考えていると、男子生徒はゆっくりと教室を見回している。
 一瞬、亮と目が合ったかと思うと、真っ直ぐこちらへ向かって来た。
 その動きを横目に明が言う。

「ほらな……誰か、来た」
「……」

 今のはどちらかと言うと、明が余計なことを言ったせいじゃないのかと、勘繰かんぐってしまうほどのタイミングだった。
 教室に残っていた生徒達の大半が予想通り(見慣れぬ人間が来たら、亮が目的だろう)といった目で見る中、その三年男子は、案の定亮の前で立ち止まった。

「桜木亮だな?」

 低い声でたずねてくる男の背は高く、座っている亮はあごを上向きにして見上げた。

(……老けヅラだな)

 相当に失礼な第一印象を抱いた亮だが、流石に口にはしない。
 それにこの場合は老けていると言うよりも「老成した」、または「落ち着いた雰囲気がある」と言った方がいいかもしれない。
 男の問いに対して「違う」と言ってやろうかと思った亮だが、目が合って真っ直ぐ向かってきたあたり、面は完全に割れているらしい。
 もしかして作戦通り、恵梨花に手を出すやつがのだろうかと思うも、それなら、これほど人目があるところで接触してくるのはに落ちない。

「そうですが……先輩は?」

 厳格げんかくさを感じさせる男の目を見ながら亮は首肯しゅこうし、問い返した。
 すると男は少々気まずそうな顔になった。

「むう……すまんな。俺は、郷田剛ごうだつよしと言う」
「はあ……」

 丁寧ていねいに名乗られたので少し拍子抜けしていると、明が亮にだけ伝わる小声でささやく。

「亮、この人剣道部の主将だ」

 そんな相手に話しかけられる理由にまったく心当たりがなく、内心で首をかしげた亮の目を、郷田が真っ直ぐに見て言った。

「桜木、お前に話しておきたいことと、頼みたいことがある。少し時間をもらえないか?」

 その言葉に、亮は困惑に近いものを覚える。

(部活の主将をするような立場の人間が……? 釣れた訳じゃないのか? 『頼みたいこと』はともかく、『話しておきたいこと』……?)

 内心の困惑はおくびにも出さず、亮が尋ねる。

「……『話』と『頼み』って、何ですか?」
「……それを説明するには、場所を変える必要がある。付いてきてくれるか?」

 亮はクラスメイトの興味深そうな視線を意識して、ため息を吐いた。

「わかりました」


「『話』って何ですか?」
「まあ、待て。もうすぐ着く」

 一体何なんだと、亮は苛立いらだちから眉を寄せる。
 人目を避けるための移動かと、教室を出て郷田の後を付いてきた。一階に降り、人気ひとけの少ない、体育館へと通じる外のわた廊下ろうかまで来たので、ここならいいだろうと尋ねたのである。

「着くって……どこ向かってるんです?」
「行けば、わかる」

 返ってきた言葉には、亮の望んだ答えが一切含まれていなかった。
 期せずしてわかったのが、単なる人目を避けるための移動ではなく、どこか目的地へ向かっているということ。いや、もしかしたら人目を避けるつもりはないのかもしれない。
 先週、屋上で喧嘩けんかした時と違って、亮がおとなしく付いてきたのは、郷田が物騒ぶっそうな気配を放っていないためである。
 これはここ最近、教室にやって来ては亮に敵意ばかり向けてくる男達と違い、実に珍しいことなのだ。
 それに加えて、亮も少し確認したいことがあったため、『話』だけは聞く気になった。
『頼み』については応じる気もないが、とりあえず問いかける。

「じゃあ、『頼み』って何ですか?」
「……ああ、そのことだがな……」

 そこで郷田は一度言葉を切ると、思案するようにうなずいた。

「聞いてもいいか、桜木。もしお前が誰か……ある人のことをよく知りたいと思った時、お前はどうする?」

 はて、質問をしていたのは自分だったはずだと、亮は思ったが、深く考えずに返答する。

「……さあ、話でもするんじゃないですかね」

 郷田はもありなんという感じだった。

「確かにそれが一番かもしれん。だが、どうにも俺は口下手くちべたでな、会話をして相手のことがよくわかったためしがない」
「はあ……」

 どうにも話が見えてこず、調子が狂ってしまう。

「お前のことについては色々とうわさで聞いた」
「そうですか」

 さっさと忘れてくれと内心で呟きながら、亮はまたも気のない返事をした。

「球技大会の日は、お前が出た試合を見ていた」
「……」
「球技大会が終わった後の、階段での事故は見てなくてな……話で聞いた。……たいしたものだな、体重が軽いとは言え、女の子二人の下敷きになってろくに怪我けががないとは」

 こちらの質問には答えずに、こんな話ばかりが返ってくる。何が狙いだと、亮はいぶかしんだ。

「……運がよかったんですよ」

 ついに体育館横にある武道場の前まで来て、郷田は首を横に振った。

「――それで、どうにもわからなくなった」
「……何がですか?」

 亮が問いかけると、郷田は武道場の扉を背に振り返る。

「お前という人間がだ」
「……」

 別にわかってくれなくてもけっこうなのだが、亮は言い返さなかった。郷田の後方から、剣道部が練習しているのか、竹刀しないで打つ音が聞こえた。

「最初に噂でお前のことを聞いた時は、ろくな男だとは思わなかった。だが実際目にすると、そこまでひどくないという印象を受けた」
「……目にしたというのは?」
「球技大会の時だ……あの日、噂などやはり当てにならんものだ、と実感させられたな」
「……」

 目をらし、内心で舌打ちする亮を見下ろしながら郷田が続ける。

「そして、階段での事故だ……よく話を聞くし、目撃した者も多いから本当のことなんだろう……そして、わからなくなった」

 ここまで来ると薄々、話が見えてきたが空惚そらとぼけた。

「へえ、何がですか?」
「無論、お前のことだ。桜木亮」

 亮の軽い調子とは反対に、郷田は重々しい雰囲気のままだ。

「噂ではろくでもない男で、実際に目にするとそうでもなく、そして女子二人を事故から救ったという……俺にはお前という人間がわからなくなり……そして知りたくなった」
「……だから、何ですか?」

 郷田はおもむろに頷いた。

「先ほどの話の続きをする……『頼み』についてだ。桜木、俺と一本、勝負してもらいたい」
「…………は?」

 余りにも訳がわからず、間の抜けた声が亮の口かられるが、郷田は気にも留めない。

「さっき、お前は言ったな。ある人のことを知りたいと思った時、お前は話をすると」
「そう、ですが……」

 それが何故、勝負するという発想になるんだと口から出かかったが、なんとかとどまった。

「そして、俺はこう言ったな。話をしたからといって、相手のことがわかった例がないと」
「……」
「俺は剣道をずっと続けてきた身でな……そのせいか、竹刀で打ち合った相手なら、話をするよりもわかることが多い」

 随分と変わった意見だが、亮にも思い当たる節があった。
 だからといって、初対面の相手に言うことではないだろうと呆れていると、郷田は亮の目を真っ直ぐ見て言った。

「だから桜木、俺と剣道で一本、勝負してもらいたい。それが俺の頼みだ」

 顔だけでなく、こういった率直そっちょくさもおっさんくさいが、正直なところ、嫌いではない。
 だが、学校でとなると話は別だった。

「なんで俺のことを……それに俺は剣道、素人しろうとですよ」

 遠回しに遠慮の言葉を口にすると、郷田は首を左右に振った。

「かまわない、怪我はさせん。お前は全力で向かってきてくれたらそれでいい」

 そこは大いにかまってくれ、と亮は内心、全力で突っ込んだ。
 武道場の前に来てこんな話をするということは、ここでYESと言えば、中に入って勝負ということになるのだろう。
 剣道部にどれだけの部員がいるかなど、興味のない亮は知るよしもないが、道場から聞こえる喧噪けんそうから、かなりの人数がいることがうかがえる。
 そんな大勢の前で剣道部の主将と勝負など、どれだけ目立つ行為かはかるまでもなく、到底、聞ける頼みではない。

「それ、俺が応えなくちゃいけない義務は無いですよね? そんな物騒なこと、する気はありません。『話』とやらももういいです、失礼します」

 そう言って亮が来た道を引き返すべく、振り返ったところで郷田が告げた。

「話とは、ハナ……藤本ふじもと恵梨花さんのことだ」

 途端とたんにピタ、と止まった亮がゆっくり郷田に向き直る。

「恵梨花が……何なんですか?」

 恵梨花の名前を口に出した時、心なしか郷田が不機嫌そうに顔をしかめたのを、亮は見逃さなかった。

「……藤本さんの安全に関わることだ」
「……へえ? 何ですか?」

 尋ねる亮の目つきが剣呑けんのんなものになったのがわかったのか、郷田は手を左右に振った。

「勘違いするな、俺が彼女に危害を加えるという訳ではない」

 そんな反応から、自分が素になりかけていたことに気づいた亮は、自重じちょうを心がける。

「じゃあ、安全って何のことです?」
「安全と言うより……せまる危険性について、だな」
「……何ですか、それは?」

 まさかと思いながら問うと、郷田の返事はにべも無かった。

「それは俺の『頼み』を聞いてくれたら話そう」


 真っ直ぐ自分を見つめてくる目に、亮は舌打ちしそうになった。
 自分が一緒にいれば、危険が迫ろうと大抵の場合、恵梨花は安全だと思える。
 だが、それはあくまでも『一緒にいれば』の話である。
 自分が一緒にいない、もしくはいられない時についての話であるならば、聞き逃す訳にはいかない。
 もちろん杞憂きゆうに過ぎないかもしれないが、聞かずに放っておけるほど、亮にとって恵梨花の存在は小さいものではなくなっていた。
 郷田の顔を見るに、話の内容には確信を持っている様子である。
 れば、聞かなくてはいけない。
 だが、前提条件として今から郷田と武道場に入り、勝負をしなければならない。それも、決して少なくない人の前でだ。


 短い葛藤かっとうの末、亮は答えを出した。
 すぐに決断できたのは、最近、似たような葛藤をしたばかりのせいだろう。
 そして導き出された結論も、その時と同じく恵梨花の安全を優先するというもので、亮は諦めのため息を吐いた。

「もう一度言いますが、俺は剣道素人ですよ?」
「俺も、もう一度言うが……かまわん」

 亮の返事を肯定と受け取った郷田は頷き、振り返って武道場の扉に手をかけた。
 先ほどから響いていた音がしっかり耳に届くのと同時、道場内の様子が視界に入ってくる。
 郷田が中に入った途端に、「チーッス!」などと、部員達の挨拶あいさつが次々と飛んでくる。
 しかし、後ろに続く亮に気づいた彼らは、いぶかしげに眉をひそめていく。
 突き刺さるような視線を感じ、亮は目だけを動かして道場内をサラッと眺めた。
 そこには三十人程の男女がおり、学校内で見たことのある顔(当然、名前は知らない)、更には馴染なじみのある顔まで見えた。
 馴染みのある二人は口をあんぐりと開け、間の抜けた顔をしている。そうなるのも無理はないかと、亮は重苦しいため息を吐いた。
 勝負を受けることは了承したが、全力でやるつもりは元より、真面目にやるつもりも毛頭ない。

(適当に負けて、『話』を聞いてさっさと帰るか)


 ◇◆◇◆◇◆◇


 予定よりも早く球技大会の委員会が終わり、恵梨花は痛む足に無理をさせないように、亮が待っているはずの教室へと向かっていた。
 怪我をした時はひどい痛みだったが、今はそこまででもなく、ゆっくりとなら歩けるようになった。
 順調に痛みが引いていくので、自分の健康な体に感謝するが、少し名残なごりしい気持ちもあった。
 何しろ足を痛めたその日は、好きな人に抱きかかえられ、恥ずかしくもあったが夢のような心地を味わえたのだ。
 更には毎日――とは言っても、三日間だけだが――丁寧に手当までしてもらえた。
 学校の行き帰りに一緒に歩いている時など、さり気なく自分の足と動きを見ては、問題が無いか気にかけてくれる。
 そんな気遣いに申し訳なさを感じながらも、心から心配してくれることに、喜びを感じてしまう。
 足が不自由なことは不快だったものの、総じて、幸福感の方が大きい気がした。
 だからこそ今、こうして名残惜しい気持ちになってしまった。この痛みが無くなるよう、手当をしてくれた亮に悪いとは思いつつも。
 もちろん、怪我をしたままでいいと思うほど、恵梨花は我儘わがままではない。
 無理をせずしっかりと治すのが、あれほど丁寧に自分の足をてくれた亮へのお礼になるとわかっている。
 それを意識し、負担をかけないようゆっくりと廊下の角を曲がると、親友である梓の後ろ姿が見えた。

「梓ー!」

 振り返った梓は恵梨花に気づくと、そこで立ち止まり恵梨花が追いついてくるのを待った。

「早く終わったのね、恵梨花」
「うん、梓も生徒会の仕事、もういいの?」
「ええ。一年の三人がちゃんと掃除しているか、見に行っただけだしね。今日は」
「ああ……ちゃんとしてた?」
「まあね。一応、自分達が恵梨花に大怪我させるところだった、ってことはわかってて、反省もしてるみたいだからね」

 梓が言う『一年の三人』とは、恵梨花が階段から落ちる原因を作った男子生徒達である。
 あの事故の後、彼らを生徒会室に呼び出した梓は職員室に報告に行った。生活指導の教諭と話し合った結果、彼らには一ヶ月間、放課後に校内の掃除をさせることとなり、梓は生徒会役員として、その監督係となった。
「三人は不満そうだったけど、怒ってたの前に突き出すよりは百倍マシよね」と恵梨花が聞いたのは、つい昨日のことだ。
 ちなみに恵梨花と咲は、昨日の休み時間に、彼らから謝罪を受けている。
 あわや大事故になるところだったが、結果だけ見ると恵梨花が足をひねっただけであり、故意ではないのもわかっていたので、「これからは気をつけようね」と謝罪を受け入れた。
 彼らは神妙にしていたが、梓も含めて有名な美少女三人と相対することになったせいか、赤面して帰って行った。

「そっか、それならよかった」

 恵梨花が頷くと、二人は雑談を交わしつつ、一緒に亮の教室へと向かった。


「あれ? ……また、いない」

 恵梨花と梓が教室の扉を開けると、亮の席に座った咲と前の席の明しかおらず、二人は向かい合ってトランプをしていた。
 どうやら時間を潰していたようだ。

「えと……小路くん、亮くんは?」

 歩み寄りながら恵梨花が尋ねると、トランプから目を上げた明が答えた。

「亮なら、剣道部の主将とどこか行ったよ……それで、亮から伝言頼まれた。戻るまでここで待っててくれって」

 亮のかばんが置いてあるところを見ると、それの番も頼まれたらしい。
 だが、それよりも明の返答が意外過ぎた。

「剣道部の…………主将と!? え、何で!?」
「何か、『話しておきたいこと』と『頼みたいこと』があるとか言ってたけど……?」
「話……? 頼み……?」
「あ、物騒な感じでも喧嘩けんかになりそうな雰囲気でもなかったよ」

 呆然ぼうぜんとしている恵梨花に明が補足すると、今度はけわしい顔の梓が尋ねた。

「……小路くん、それっていつのこと?」
「えーっと……」

 黒板の上の時計に明が目を向けた。

「もう、三十~四十分ほど前かな」
「そんなに長く!?」
「三十~四十分……」

 恵梨花はその組み合わせで何を話すのかと驚き、梓は何を思ったか顎に手を当て、ブツブツと呟き始めた。

「何故……? こんなにも長く……? それも今日……? 何のため……? 話しておきたいこと? …………あ!」


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