Bグループの少年

櫻井春輝

文字の大きさ
表紙へ
上 下
131 / 154
9巻

9-3

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇


 ダブルデートの待ち合わせ場所である駅前のロータリーに、恵梨花の興奮した声が響く。

「キャー!? ちょ、ちょっと、なんで!? 亮くん、なんでバイクなの!? なんでスーツなの!? え、なんでバイクなの――!?」
「ちょ、ちょっと、落ち着けって恵梨花」
「もう、ちょっと、なんで!? 本当、もう――やだ、格好いい――!!」

 友人である恵梨花が、突然現れた、彼氏らしい男に興奮して詰め寄っている。それを、香は頬を引き攣らせながら見ていた。

(嘘でしょ……あれが恵梨花の彼……!? 話に聞いてたのと違って、普通に全然格好いいじゃない!? しかもスーツ着てバイクで遅れて登場って何なの……!? ……てか、スーツはすごく高級そうだし、バイクも格好いいし、両方とも似合っててすごくになってるし……! 恵梨花なんてわかりやすいぐらい目がハートになってるし!! ……ああ、恵梨花、可愛い)

 横目でチラと自分の彼である淳也を見ると、香と同じく頬を引き攣らせていた。
 それが今の恵梨花の騒ぎっぷりを見てなのか、色々と突っ込みどころのある彼氏に対してなのか香にはわからなかった。

「なんか……色々とすごそうな彼氏が来ましたね」

 香が淳也にそっと言ってみると、淳也はハッとして、無理しているのがわかる微笑びしょうを浮かべた。

「そ、そうだね……まさか、たまたま見てたバイクに乗ってるのが、待ってた相手だなんて……ね?」

 香は無言でコクリと頷いた。

「しかし、あの藤本さんが、あんな風に興奮するなんてね……彼女にもあんな一面があったんだね」
「あー……そうですね、かなり珍しい方だと思います」

 自分の彼である淳也が恵梨花について話すのは色々複雑な気持ちになるが、香はそれについては深く考えないことにする。
 しみじみとしたように「やっぱりか」と頷く淳也を横目に、香が恵梨花を見ると、バイクにまたがる亮の周りをグルグル回りながら、スマホで写真を撮っていた。

「今度はこうヘルメット抱えてみて! そう! あ、足はもっとこう――」

 しかも亮への指示が細かい。来た時には既にどこかくたびれていたように見えた亮は、げっそりしていた。

(……てか、どういうことよ。本当に聞いてた話と全然違うじゃない!? ダサい眼鏡はどうしたの!? パッとしてないんじゃないの!? 冴えない感じ――はあるけど、あれは疲れてるだけよね……)

 改めて見てみても、聞いてた話のようには見えない。バイクやスーツというオプションを除いてもだ。そしてハッと気づく。
 今日のダブルデートの目的は恵梨花の彼より、自分の彼の方が素敵だと自慢することであるが、果たしてそれは叶うのだろうか。
 香は横目で淳也を見てみる。少し険しい顔をしているが、香がいつも思う通りにイケメンだ。

(う、うん、負けてない――!)

 さらには年上というアドバンテージもある。高校生とは違って大学生なのだ。大人な一面で圧勝して、きっと恵梨花もうらやましがるはずである。

(そ、そうよ。恵梨花だって、年上の良さを羨ましがるはずよ――!)

 自信を取り戻した香は安堵の息を吐くと、撮影が一段落した恵梨花に声をかけた。

「ねえ、恵梨花ー? その人が彼なのよね? いい加減、紹介してくれない?」

 すると恵梨花は我に返り、誤魔化ごまかすような笑みを浮かべ、亮の方はホッとした顔になり、香へ感謝がこもったような視線を送った。

「あ、あはは――ご、ごめんね? ――えっと、私の彼の桜木亮くんです」

 恵梨花が嬉しそうな顔をして亮を手で示す。

(もう、やだ可愛い、恵梨花……)
「あー、どうも、遅れてすまない。桜木亮だ」

 紹介された亮がペコリと頭を下げる。

「いや、気にしなくていいよ。山本淳也だ」
「私は折原香! 今日はよろしくねー」

 淳也と香が自己紹介を返すと、亮は「よろしく」と会釈する。

「あ、そうそう、この人、私達より二つ上の大学生だから!」

 香が付け足すと、亮は「ああ、年上か……」と納得したように頷いた。

「あまり年上だなんて気にせず、楽な口調で話してくれていいから。でないと、疎外感そがいかんを覚えそうだしさ」

 淳也がさわやかに告げると、亮はあからさまにホッとしたような顔になった。

「ああ、そりゃ助かる。改めて、遅れて悪かった」

 亮が本当に遠慮えんりょなくタメ口で話しかけてきたのに、香は少し驚いた。
 恵梨花など「もう……」と言いたげに肘で亮を突いている。
 淳也は笑顔だが、亮の言葉に少しピクッと反応したように見えて、香は少し焦った。

「――て、てか、恵梨花さ、さっきのあんた、完全に私達のこと忘れてたよね? 一体どれだけ彼氏に夢中になってんのよ!」

 香が場をなごませるように冗談っぽく言うと、恵梨花は気まずげに口を動かす。

「ご、ごめん――だって、亮くんが不意打ちみたいにスーツを着てくるし、おまけにバイクなんて乗ってくるし――」
「なに? じゃあ、やっぱり恵梨花も彼がバイクに乗ってくるって知らなかったの?」
「そ、そうなの! 知らなかったの! どころか免許持ってることも、バイクも持ってるなんて知らなかったの!!」
「え……何それ。付き合ってるんじゃないの、あんた達……?」
「つ、付き合ってるわよ!? でも、ねえ!? 香もそう思うよね!? ねえ、なんで教えてくれてなかったの、亮くん!?」

 恵梨花が興奮しながら問いただすと、亮は気まずげに苦笑しながら頭を掻いた。

「いや、その、何だ……話すの忘れてた」
「もう! また、それ――!?」
「い、いや、バイクは俺にとっては仕事に行く時に使うだけみたいなとこがあってだな、だから、なんだ、いちいち話すようなことでもないと思ってて――はは」
「もう! 亮くん、そんなんばっかし!!」

 プンスカ怒る恵梨花と、タジタジとなっている亮の二人を、香は観察する。

(……仲は良いみたいね。彼氏の方、尻にかれてる感あるけど、恵梨花のおかんスキルを考えたら仕方ないか……やだ、怒って頬を膨らましてる恵梨花も可愛い……)

 そうして一しきり文句を言ったところで、恵梨花が気づいたように聞く。

「でも、なんで亮くん、スーツなの? 似合ってるし格好良いから私は全然いいんだけど……」

 やっとその突っ込みが入ったところで、亮は苦笑いしながら口を開く。

「それがスーツの方はな……さっき恵梨花に言われて気づいた」
「……と言うと……?」
「ああ、それがな――着替えるの忘れてた」

 恵梨花だけでなく、香も淳也も呆れた顔となった。
 誤魔化すように苦笑を浮かべる亮に、恵梨花はハッとなった。

「え? あれ? じゃあ、もしかして亮くん、昨日バイト行ってから帰ってないの?」
「ああ」
「え、なんで? 夜には終わるって言ってなかったっけ?」

 そう聞かれた亮は、重苦しいため息を吐いた。

「いや、それがな、手持ちの現金が少なくなってきたから、帰りに事務所に寄って給料を貰って帰ろうとしたら、溜まってる書類仕事片付けていけって言われて捕まってな……」
「しょ、書類仕事……? 亮くんが……?」
「ああ……なんで俺が評価表なんて書かなくちゃいけねえんだろうな……」

 遠い目をして言う亮に、恵梨花はなんて声をかけたらと苦笑している。

(……さっきから、書類仕事だとか評価表とか……何のバイトなんだろ。バイトからそのままってことはスーツでバイト……? 高校生が……?)

 そう不思議に思ってるのは香だけでなく淳也も同じようで、首を傾げている。

「あれ、家に帰ってないってことは……え、それ朝までやってて遅れたの!? もしかして寝てないの!?」

 恵梨花が心配そうにそう聞く。話を統合するとそうなるのだが、亮は首を横に振った。

「いや、そういう訳じゃない」
「え……? じゃあ、どういう……?」

 亮は「ああ」と頷くと、太陽に顔を向けて目を細めて言ったのである。

「――気づいたらキーボードの上で爆睡ばくすいしてた」

 恵梨花の体がズッコケたかのように傾いた。
 香も内心ではそのような心境で、隣にいる淳也は苦笑していた。

「へえ、けっこう面白そうなやつみたいだな――藤本さんはそういうやつの方が好みだってことか……?」

 ボソッと呟いたのが聞こえて、香はドキっとした。が、淳也が納得したような顔をしているのを見て、危惧きぐしたようなこととは違うようだとホッとした。

「はあ、もう、亮くんったら……それで起きたら時間が迫ってたってわけ?」

 恵梨花が呆れを隠さず聞くと、亮は首を横に振った。

「いや、時間は余裕だった。けど、仕事の方がまったく終わってなくてな――」
「あ、そこから慌ててやって、この時間になったってこと?」

 そういうことかと香も納得しかけたが、亮は再度首を横に振る。

「いや、そうじゃねえ。今からやっても時間ギリギリそうだったから、これは仕方ない、今度やろうとして――」
「亮くん――!?」
「いや、仕方ねえだろ?」
「え、ええー?」
「ともかくだ。仕事は今度すればいいと判断した俺は、事務所にあるシャワーをまず浴びてだな」
「……」

 恵梨花がジト目を向けるも、亮は気にせず続きを話す。

「いや、だって昨日風呂に入らずに寝てしまったしな? ……それから、着替えの服は事務所にないから一回家帰って着替えるか、と事務所出ようとしたら――」
「――したら?」
「……事務の人にまた捕まった。帰らずに俺を待ってたなんてな……」

 無念そうな亮に、恵梨花が特大のため息を吐いた。

「それで、どうにも仕事終わらせるまで帰らせてもらえなさそうな雰囲気だったから――」
「当たり前でしょ!? 一晩中、亮くんのこと待ってたんなら!?」
「……帰ってたらよかったのにな。そしたら逃げれたんだが」
「そういうの良くなーい」
「……と、ともかくだ。それからなんとか仕事終わらせて、時計見たら――」
「私にメッセージ送った時間だったと」
「……うむ。んで、慌ててバイクかっ飛ばして来たら、結果として――」
「家に帰って着替えるのを忘れてたってこと……?」
「――その通りだ」

 ふてぶてしい顔で頷く亮に、恵梨花は困ったように笑う。

「んー、もー、とりあえずお疲れ様!」
「おう。すまんな、遅れて」
「あと、スーツは……スーツは――もう、格好いい!」

 亮の全身を改めて眺めていた恵梨花は、感極かんきわまったように亮の腕に抱きついた。

(ええー……ちょっと、こんなとこで何やってんのよ……てか、これは私達のこと……)

 公衆の面前とは思えない距離感の二人に、香は呆れてしまう。

「恵梨花ー? 私達のこと忘れないでくれるー?」

 隣の淳也と同じく頬を引き攣らせた香が呼びかけると、二人してハッとなって離れる。

(彼氏の方もかい――!!)

 どうやらこの二人は似た者同士なのかもしれないと香は察し始めた。

「あ、あはは……」

 誤魔化し笑いを浮かべる恵梨花の横で、亮は気まずそうに視線を逸らしている。

「えーっと、そうだ、とりあえず俺バイクめてきた方がいいな……あっちに駐車場あったよな?」
「あ、うん、あったと思う――ごめん、香、ちょっと一緒に行ってきていい?」
「あー、うん。どうぞー、いってらー」

 手を振って送ると、バイクを押す亮の横に恵梨花が並んで歩く――かと思ったら、恵梨花が走り出して、亮の前に立った。
 何をしてるのかと見ていると、恵梨花はスマホを構えて、バイクを押している彼の姿を正面からパシャパシャと撮っているようだ。

(いや、うん、格好いいと思うけどさ……)

 どうやら恵梨花は、相当彼氏に参ってしまっているということがよくわかった。

「なんか……藤本さんのイメージ変わったかも……」

 淳也が複雑そうな顔をして呟くのを聞いて、香は苦笑する。

「淳也さん、恵梨花って確かに信じられないぐらい可愛いけど、中身は案外普通なんですよ? あそこまで熱を上げているのは珍しいですけど……」

 香は知っている。恵梨花は外見以外は割と普通な女の子であることを。外見が浮世離れした可愛いさだから、中身もとんでもないと思われがちだが、そうでもない。

「それは……確かにそうかもしれないね……」

 淳也は変わらず複雑そうな顔をしているが、どこか納得したようにも見える。

「……やっぱり、まだ気になってるんですか、恵梨花のこと……?」

 つい出てしまった疑問に、淳也はハッとしてから微笑んでみせた。

「――いや、まったく気になってないと言えば嘘になるけど、付き合いたいとか思ってる訳じゃないよ」

 そう言って頭を撫でられ、香はホッとする。続けて淳也は口を開く。

「でも――」
「……でも?」
「……いや、なんでもないよ」
「……そうですか」

 何を言おうとしたのか気になったが、にごした辺り聞いても答えてはもらえないだろう。
 香は淳也が亮と恵梨花の方へ目を向けているのを見て、ふと気になった。
 ――どっちを見ているのかを。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「あーあ、付き合って一ヶ月以上経つのに、免許取ってたこともバイク持ってたことも話してくれなかったなんてー」

 バイクを駐車場に置いてから、香の元へ戻る中で恵梨花が冗談っぽく愚痴ぐちると、亮は「うっ……」と唸った。

「わ、悪かったって。さっきも言ったが、本当に忘れてただけって言うか……な?」

 頬を引き攣らせながら苦笑する亮に、恵梨花はジト目を向けた。

「……亮くんって、本当にそういうの多いよね」
「はは――すまんって」
「む……でも、亮くんらしいけどさ」

 恵梨花が許してくれそうな雰囲気を出したので、亮はホッと安堵の息を吐く。

「ねえ、亮くんのあのバイクって二人乗りできるの?」
「ん? ああ、出来るぜ」
「……それならやっぱりもっと早く知りたかったなー」
「うん……? ああ、バイクで遠出したいってことか?」
「うん。色々出かけられるとこ増えるじゃない?」
「……言われてみればそうだな……」

 本当に今気づいたような反応をする辺り、仕事でしかろくに使ってなかったようだとわかる。

「ふふっ。ねえ、あのバイクって亮くんがバイト代で買ったの? 高かったんじゃない?」
「うん? ああ、俺が買ったんじゃないから、値段はわからねえな」
「えっ、そうなの? もしかして借りてるの?」
「いや、違う。俺名義のだな」
「へえ、じゃあ、貰ったものなの?」

 恵梨花がそう聞くと、亮が眉をひそめた。

「貰った……? ああ……まあ、そう、だな。確かに貰ったことになるのか……?」

 どうにも歯切れの悪い答えに、恵梨花は小首を傾げた。

「……どういうこと?」
「ああ、去年の誕生日を過ぎてから、バイト先で言われてな。免許を取ってきてくれって。いざという時に運転が出来ると出来ないとじゃ、かなり違うからって。身分証としてもあった方が便利なのはわかるから、面倒くさかったけど、教習代もあっちが持つからって言われてな。それで教習所に通った訳だ」
「ふんふん。教習代を出してくれるなんて、随分ずいぶん太っ腹じゃない?」
「まあ――な。で、免許が取れたタイミングで、バイト先の事務の方から、バイクのカタログか? それ渡されてな。んで、聞かれた訳だ。欲しいと思うのはどれか、ってな」
「……」

 恵梨花は、まさかという思いで耳を傾けた。

「免許を取ったばかりだから、雑談の延長だと思った俺は、ページをパラパラめくってなんとなく気に入ったのを適当に選んだ。それで三日ぐらいしたら、アパートにあのバイクが届いたんだ」

 あんぐり口を開ける恵梨花に、亮は続けて言う。

「流石に俺も驚いて、慌てて事務所に電話したら『これでいつでも仕事に駆けつけれますね。あ、仕事以外でももちろん使って構いませんよ――』だと。つまりは俺をこき使うためにあのバイクは届けられたという訳だ……まあ、貰ったと言えば貰ったと言えるかもしれん。そういう経緯だから、なんだ、こう――あのバイクをプレゼントのようには思えねえんだよな」

 それは無理もない話と言えた。

「は、はは……亮くんのバイト先ってすごいね……」

 恵梨花がそれだけ言うと、亮は疲れたように肩を竦めた。

「まあ、でも、バイクは乗ったら乗ったらでやっぱり気持ちいいもんだからな。ほとんど移動にしか使ってねえけど――けっこう気に入ってるぜ」

 苦笑しながらのその言葉を聞いて、恵梨花は身を乗り出した。

「いいなー! あ、ねえ亮くん、今日の帰り、後ろ乗っけてくれる?」
「ああ、別に構わね……あ、でもな――」
「え、何?」
「いや、ヘルメットが俺のしかねえなって」
「あ……そっか、二人乗りでもヘルメットは必須だったっけ……」

 それでは今日は無理かと恵梨花が気落ちすると、亮は少し考えてから言った。

「いや……もうこの際だから、帰る前に適当なとこで、恵梨花用のメット買うか。バイクのこと話してなかったび代わりに、買ってやるよ」
「え? そ、そんなの――」
「いいから。買わせてくれって。そうだよな、二人乗りしたら行けるとこが増えるもんな。それでちょっと連れて行きたいとこ思いついたから、今日もう買って帰ろうぜ」

 亮にニヤリと笑って言われて、恵梨花は困った気持ちと嬉しさが混じった複雑な笑みを浮かべた。

「い、いいの……?」
「ああ。てか、最近、恵梨花の家で飯食ってるせいか、金の減りが少なくてな。その分、お母さんに食費渡そうとしたんだが、受け取ってくれねえし。『それはデートにでも使いなさい』なんて言われてな。だから、遠慮するな。いや、本当に藤本家に還元かんげんさせてくれ」
「う、うん――わかった、ありがとう」
「ああ、受け取ってくれると俺も助かる」
「ん――それで、連れて行きたいって、どこ――?」

 恵梨花がソワソワしながら亮が口にしてから気になって仕方ないことを聞くと、亮は悪戯いたずらっぽく笑った。

「そいつは行ってからのお楽しみ、だな」
「え、ええー?」
「はは、この季節ならではのとびきり場所でな、楽しみにしとけよ」

 恵梨花はからからと笑う亮の腕を、思わず引っ張った。

「そ、そんなこと言われたらますます気になっちゃうじゃない!」
「おう、気にしとけ気にしとけ。その方が楽しみも大きくなるぜ?」
「もう――!」

 どうあっても今は教えてくれないことがわかると、恵梨花は行き場のない感情をぶつけるように、亮の腕を強く揺さぶった。

「はあ――あ、早く香のとこ戻らないと」
「ああ……いや、ちょっと、そこのコンビニ寄らせてくれ」
「ええ? なんで? もうけっこう待たせてるよ?」
「適当におにぎりでも買いたい。起きてから何も食わずに仕事したり、バイク乗って来たりしたから、腹減って死にそう……すまん」

 言ってるそばから亮の腹が盛大に鳴って、恵梨花はため息を吐いた。
 これは何か食べさせないと、まともに動けそうにないとわかったからだ。それはこれからのダブルデートでのことを考えたら、非常に良くないことである。

「……メッセージ送っておく。もうちょっと待ってって」

 この日の目的であるダブルデートはまだ始まってすらいない。そのことに気づいた恵梨花は少し気が遠くなった。


しおりを挟む
表紙へ

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。