ホタルのようちゅう

つかさ農研

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藤原さん

将来の夢

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夜の中央線は、半蔵門線とは比べ物にならないほど混んでいた。毎日この電車に乗って出勤しているんだ、と少し可哀想になった。初めて降りる阿佐ヶ谷駅は新しいもの、昔からのものが混在している、賑やかな街だった。ようちゃんはこの街から色んなインスピレーションをもらってるんだ。
薬局で多すぎるほどゼリー飲料やスポーツドリンクを買い込んで彼女のマンションに向かう。ここ毎週会ってるけど、家に行くとなるとやっぱり緊張する。
オートロック操作盤で部屋番号を押す。ピンポーンと鳴らす。
全く反応がない。ドアノブにかけようかと思ったが、部屋の前まで行けなければ意味がない。宅配ボックスの空きのところに入れてメッセージだけして帰ろうか。
「はーい。ごめん、今開けます」
そうこう考えていたらドアが開いた。寝起きの声をしていた。

ようちゃんの部屋は書きかけのラフ画、乾かしたままの水彩画が無造作に置かれていた。
ふと小学校時代を思い出す。

 「ようちゃんは将来絵を描く人になりたいの?」
 「う~ん。漫画家もいいし、アニメの絵描く人もいいな~。魔法使いの女の子描きたい!」
 「いいね、ようちゃんならなれるよ」
 「ありがと!ホタちゃんは?」
 「え?」
 「ホタちゃんは大人になったら何になりたいの?」

俺はなんて答えたんだっけ。

「ごめん、散らかってて」
「いいよ、ようちゃん小学校の時から部屋画用紙だらけだったし」
「はずいからやめてよ」
あの頃と同じようにようちゃんは描き続けてるんだ。絵を描くのが好きで、努力もしてるんだ。

殺風景な冷蔵庫に飲み物を入れていると靴入れに合鍵があるからそれで鍵を閉めて勝手に帰ってくれと言い残し、彼女はベッドに向かって寝てしまった。
流しにはコップだけが洗われてなく残っている。普段どれだけ自炊してないかがここから垣間見える。自分も残業続きで自炊なんてしないけど。ようちゃんは家にいても他に色々と優先するべきものがあるのだろう。
静かに寝息を立てる彼女を横目にふと部屋にある本棚に目がいく。画集や設定資料集が多い。漫画も結構あった。知らないものもある。ジョジョが全巻揃っている。小学生の頃は絵が苦手だって読んでなかったのにな。
彼女の寝顔は20年前と変わらないな。

―――

「藤原~!誕生日どこにする~?当日は難しいから金曜でいいよな?」
遥先輩はいつもこちらの都合を無視で勝手に話を進めてくる。
「金曜日は無理です」
「え~!毎年お互いのお誕生日会してるじゃな~い!」
たまに出るこのオカマっぽい喋り方は周りの目線がキツい。
「俺もう30歳ですよ。もう誕生日会とかいいですって」
「アタシなんてもう33ですわよ!結婚したいですわよ!」
「知らないっすよ」
「そうやって女ができるとすぐ男の友情を捨てるんだから!憤っちゃう!プンプン」
「そういうんじゃないっすよ」
「へいへい!そういうことにするわ。でも、飲み会はしようぜ~!サシで」
「まあ、知らない人来ないなら別にいいですけど」
「近況教えろよ~!」
絶対嫌だ。
でも、実際俺とようちゃんの関係は世間一般的に見たら付き合ってる状態なのだろうか。どちらかがアクションを起こしたら恋人関係になるとは思う。居心地はいいけど、好きかと言われたらまだ分からない。でも、この先ずっと一緒にいられるかと問われたら「はい」と即答はできる。

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