起源召喚士〜魔法が使えないと宣言されたのに召喚魔法に目覚めた件〜

ドランクール遺跡

事件

　２日目には、何処かに行っていたシーナが戻って全員で遺跡に潜ることになる。

　ちなみにシーナは初日に任務から外れたことでカスパルからかなり説教をされたのかしょんぼりしながらついて来ていた。

　しかし、人数が増えたからと言って何かが変わるわけでもなく、エレナの作業をただ横で眺めるだけだ。

　１つ変わったことはシーナは一言も話をしなくなったことだった。

　ソウルは何度か声をかけたものの、徹底して無言を貫き続け、そうこうしているうちに任務も４日目の夜となっていた。

ーーーーーーー

「あの小娘はどうなっている？」

　真夜中のテントの中、ヨーゼフはマイケルに問いかける。

「そ、それが……なかなか上手く妨害作戦が……」

　そんなヨーゼフの姿にマイケルは冷や汗をかく。

「君には失望したよ」

「し、しかし【ジャガーノート】に加えてあのレイとかいう奴もなかなかに曲者でして」

　なぜだ、どうしてこうなったんだ。

　本来であれば学者の後をついて回るだけの楽な任務だった。それもヨーゼフという重鎮の護衛であれば出世にも繋がるかもしれないビッグチャンスだ。

　しかし、蓋を開けてみればヨーゼフから１０歳の少女への妨害工作を強制される日々。

　しかも相手は並大抵の相手ではないし下手をすれば自身が返り討ちに合うだろう。なんて損な役回りなんだ。

「ならばコレを使え」

　するとヨーゼフはマイケルに何やら薬の小瓶を渡してきた。

「こ、これは？」

　マイケルは瓶の中を覗きながら尋ねる。

　中には紫色の毒々しい色の液体が入っていた。

「それはスロート蛇の毒だ。即効性の毒で相手の動きと同時に声を奪うものだ」

「ど、毒ですか！？」

　マイケルは動揺する。いくらシャクに触る奴らだとはいえ、毒を盛るなど流石に抵抗が……。

「安心したまえ。別に命を奪うような代物ではないよ。君もあのチームの者たちには色々思うところがあるだろう？」

　ヨーゼフはマイケルの心を見透かすように告げる。

「そ、それは」

　確かに、【ジャガーノート】の化け物に睨まれたりレイとかいう男に剣を突きつけられたり……。何より、あの魔法の使えない男のことが気に食わない。

　何の力も持たない雑魚がこの俺と同じ土俵に立って物を宣っていることが許せなかった。

「だったら、これで一泡吹かせてやろう。私に計画がある。どうだ？やってみないか？」

　そんなマイケルの様子を見てヨーゼフは悪魔のように笑う。

「はは……」

　マイケルは悪魔に魅了された人間のようにヨーゼフの計画に耳を傾けた。

ーーーーーーー

「おい、シーナ！待てって！！」

　ついに痺れを切らしたソウルはシーナを追いかける。しかしそれでもシーナは聞く耳を持とうとせずに歩き去ろうとした。

　何なんだほんとに、何も言わないと分からないだろ！とソウルは憤慨する。


「よぉ、ソウルくん」


　その時テントの影からソウルを邪魔するものが現れた。

　マイケルだ。


「今お前に構ってる暇はねぇんだよ！そこどけ！」


　ソウルはマイケルを無視してシーナの後を追おうとする。しかしマイケルはそんなソウルの肩を捕まえた。

「何だよ。分かってんだぜ、こっちはよ」

　そしてマイケルは下卑た笑みを晒す。

「あれだろ？お前、【ジャガーノート】を利用して成り上がるつもりなんだろ？」

「そんなつもり、毛頭ねぇよ」

　ソウルは苛立ちを隠そうともせずにマイケルを睨みつける。

「まぁ、待てよ。いい話を持ってきたんだ」

　そんなソウルを気にもかけずにマイケルは肩を組み少し大きな声で告げた。


「あいつを上手く扱えるようにしつけとけ。それができたらおめえをうちの出世コースに入れてやる」


「……は？」

　こいつは一体何を言っているんだ？

「【ジャガーノート】。今ではほとんど絶滅した戦闘種族だぞ？その力を利用出来れば簡単に成り上がれる。馬鹿でも分かることだ。それを利用しない手がどこにあるって話さ」

　つまり、シーナを出世のための道具にしろと、そう言っているのだ。


　シーナは道具なんかじゃない！そんなことさせられるわけないだろう！？こいつら一体どこまで性根が腐ってるんだ！？


　ソウルがカチンと来て言い返そうとしたその時だった。


　ドスッ


　首筋に何かが刺さるような痛みが走る。

「……っ！？」

　そして次の瞬間、ソウルは喉がしびれるような感覚に襲われた。


「おー！そうかそうか、受け入れてくれるか！話が分かるじゃないか！」


　そんなソウルを他所目にマイケルはゲラゲラと笑う。


「それじゃあ……後は任せたぞ」


　そう言い残してマイケルはソウルを突き放して立ち去った。

「……っ！っ！？」

　ソウルは言い返そうと声をあげようとするが声が出ない。何だ！？何をされたんだ！？



「……そう」



　そこに響くシーナの抑揚のない冷たい声。

　ソウルは背中から氷水をかけられたような感覚に襲われる。

　おい……今の話をまさか聞かれていた……？



「……っ！」



　違うんだ！

　ソウルはシーナに必死に言葉をかけようとするが、声にならない。


「……別に、分かってたよ」


　そう告げながらシーナは目を伏せた。


「……私に近づいてくる人間なんて……みんなそうだから」


　そう告げる彼女の声は震えている。待ってくれ、そうじゃない！


　俺は……俺は、お前と……！


「……っ！～！！！」

　どうやらマイケルに刺されたのは神経系の毒らしい。声が発せないと同時にどんどん身体の自由が奪われる。

「.......さよなら、ソウル」

　そして振り返らずにシーナは立ち去っていく。

　ソウルは必死にその背中を追いかけようとするが、もう身体を動かすことはできなかった。

　去っていくシーナの背中に手を差し伸ばしながらその場に倒れ込んだ。