起源召喚士〜魔法が使えないと宣言されたのに召喚魔法に目覚めた件〜

始まりの日

岩蛇

「がはっ！？」

「ソウルっ！？」

　ガストは悲鳴をあげる。ソウルの足元から現れたのは岩でできた蛇。それはソウルの足元に現れたかと思うと次の瞬間には彼を空中に吹き飛ばしていた。

　そして空中に吹き飛ばされたソウルはそのままおもちゃのように蛇に噛みつかれる。


「あぎっ、ぎゃああああああぁ！！！！」


　ソウルは自身のあばらがボキボキと悲鳴を上げるのを聞いた。体に焼きつくような激痛が走る。痛みのあまり息を吸うこともままならなかった。

「あーあー、かわいそうに。魔法も使えずにやられちゃったねぇ。……あ、もしかして、この孤児院で魔法が使えないガキがいるって聞いたけど、あいつかぁ」

　男はケラケラと悪趣味な笑い声を上げる。

「やめて！ソウルを離して！」

「だぁからぁ、言ったっしょ？目当てはおめぇさんだけなのよ。おめぇさんが大人しく付いてきてくれりゃあ、俺はこれ以上なにもしねぇよ？」

　男はにやにやしながらガストに告げる。

「分かった……ついて行く。ついて行くからソウルを、みんなを離して！」

「や……やめろ、ガスト……！」

　ガストの声を聞いて、ライが何とか体を動かす。

「【雷】の……」

「うるせぇよ。【ロック】」

　ドゴッ

　男がライの方を睨み左手を振ると、ライの腹の下から岩が突き出し、ライを吹き飛ばした。

「ぐがっ？！」

「っ！！」

　それを見たガストは意を決したように男を睨み、叫んだ。

「こ、これ以上やるなら！」

　ガストはポケットからペンを取り出すと、自身の首に当てる。


「こ、このまま……ペンを刺します！」


　ガストは震えながら男を睨む。

「ちょ、待て待て！？おめぇは大事な商品なんだ！！」

　男は明らかに動揺し、頭を抱える。どうやらそれ程までにガストの身が重要らしい。

「……しゃーねぇなぁ。おら、離してやるよ」

　少し考えたあと、男はそう言って手を振る。すると、岩蛇は口を開けてソウルはどしゃりと地面に落ちた。

「ソウル！」

　ガストが咄嗟にソウルに駆け寄ろうとする。

「あぁー、行かせねぇよ？」

　しかし男はそんなガストの腕を捕まえてしまう。

「離して！ソウルが死んじゃう！」


「だーめだって、これ以上言う事聞かねぇなら……あのガキ、まじで殺すぞ？」


「っ！」

　男はガストの耳元で身も凍るようなドスの効いた声で宣告する。

　その脅しを聞いたガストは恐怖で固まってしまった。

　やはり。このガキにとってあいつは特別なのだろう。ならばあれを餌にこいつを言いなりにできるはずだ。

「よぉし、それでいい、それで……」

　男は満足気にそう言うとボロ雑巾になったソウルの方へ目をやる。

「……あ？」

　しかし、そこで横たわっているはずのソウルがいない。あのガキどこに行った？と、そう思った瞬間だった。



「うぉああああぁあぁあ！！！！」



　ガストの影からソウルが木剣を振りかざして飛び出してくる。

「……ちっ！」

　ソウルは男がガストに気を取られた一瞬の隙を見逃さず距離を詰めていた。

　いってえええええ！？体がぶっ壊れる！？

　心で悲鳴を上げて全身の痛みに震える。それでも、ソウルは止まらない。いや、止まるわけにはいかなかった。


　今この瞬間にかけるしかない。


「なめるなよ！？【ロッ」


「おせぇ！！」


　ソウルは男の脇腹に大きな横ぶりの一撃をぶつける。

　これでもか！と踏み込めるだけ大きく踏み込み、少しでも大きく男に衝撃を与えんとした。


　ドシィィッ！！


　あまりの衝撃に木剣は真っ二つに折れ、男はぶっ飛ばされる。


「ぐがぁぁぁあ！！」


　男は２・３転地を転がると、そのままうつ向けになって動かなくなった。

「……っ！はぁっはぁっ」

　ソウルはそのまま地面に転がりながらも男が倒れたことを確認する。どうやら動く気配はない。


「ソウル！大丈夫！？」


　すると、そんなソウルにガストが慌てて駆け寄ってきてくれた。

「【水霊】のマナ……【アクアキュア】」

　ガストは回復の魔法を発動させると、手から蒼い光がソウルを包み込み、ソウルの体から痛みを取り除いていく。

　相変わらずガストの治癒力の凄まじさを感じた。おそらく致命傷だった蛇に噛まれた傷もみるみる塞がっていく。

「……結局、いつも助けられてるのは俺だなぁ」

「ううん、ソウルが守ってくれたよ？」

　にっこりと笑いながらガストは答える。

「いや、お前だよ」

　ガストがあの男の気を引いてくれなければ、抵抗してくれなければ、確実に勝てなかった。

　やっぱり、昔からいざという時に１番凛としているのはガストだと思う。



「.......油断したねぇ？」



「「！？！？」」

　そこに投げかけられる男の声。

　声のする方へ顔を向けると男が立ち上がり、怒りの形相でソウルを睨みつけている。

　男もやられたふりをして様子を伺っていたのだ。

　まずい！？

　ソウルがたまらず身を起こそうと地に手をつく。


「【ロックボール】」


　しかし、それよりも早く男が左手をかざすと岩の球体が２人に向けて襲いかかる。

「きゃあっ」

「ぐあっ」

　岩の球体はソウルとガストを簡単に吹き飛ばす。

「このガキ……絶っ対許さねぇ」

　血走った目がソウルを射抜く。そしてそのまま冷たい声で詠唱を始めた。

　その声と表情には一切のためらいもない。

「【地】と【槍】.......」

　ソウルは身を動かそうと踏ん張るが体が動かない。男が一歩、また一歩と近づいてくる。

「く……そ……」

　木剣は折れて防ぐこともできない。


　諦めるな、何か手は……何か！


　ソウルは迫り来る恐怖に震えながらも策を考える。だが、何も浮かばない。


　そして男はソウルのその様を悪魔のような形相で見下し、冷酷に言い放つ。


「死ね、【ロックジャベリン】」


　ぐしゃあっという生々しい音と共に血飛沫が舞った。