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オヨビデナイヤツ

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「グレイス様、お客様がお見えになっています」

 朝食が済んで、例のごとく私室のベッドの上でゴロゴロしている私に、エマさんが客人の来訪を告げた。

「お客さん? 私に?」

 私には全く見当がつかなかった。この世界に、わざわざ私を訪ねて来てくれるような親しい人はいない。

 攻略法が全部上手く行っていたら、毎日誰かが代わる代わる来てくれて、デートに誘われていたんだけどねっ! ま、今さらこんなことを言ってもどうにもならないけど。

 あ、でも、こっちの世界の親戚とか、パパかママの弁護士さんかもね。この世界に弁護士という職業があればの話だけど。

 しかし、誰が来ようとも、私には会うつもりはない。でも、一応、誰が来たか聞いてみる。

「ギルバート様がいらっしゃっています」

「ギルバートって、あのギルバート?」

 私は思わずドアを開け、身を乗り出していた。

「はい……あの、支援者のギルバート様です」



 最悪だ。最も来て欲しくないヤツが来てしまった。しかも、支援者だから無下にできない。

(あ~、ユウウツだわ~)

 私がこんなにユウウツになっているのには、ちゃんと理由がある。

 私は、ギルバートが大っ嫌いなのだ。

 ギルバートは、生まれも育ちも貴族で、品行方正なアーサー様と正反対で、ハードな人生を送ってき過ぎたせいか、裏社会にお知り合いがたくさんいる。性格もよく言えばワイルド……。要は、デリカシーがないのだ。

 それに、あの見た目! 本人はカッコいいと思ってやっているのかも知れないけど、汚らしい無精ひげとか本当に勘弁して欲しい……。

 あんまりにも嫌いすぎて、ギルバートのルートでの恋愛エンドは一度も見たことがないし、ギルバートと接触するのは、必要最低限。だから親密度はいつも最低。

 だからこっちの世界に来てからも、一度もギルバートのところへは行っていない。



「ねー、エマさん。あいつ何の用事で来たって言ってた?」

 ギルバートが待つ部屋に行く途中、私はエマさんに尋ねた

「! グレイス様、『あいつ』というのはいくら何でも……」

「……いや、そんなに畏まる相手でもないでしょ」

 と私は吐き捨てるように言った。

「一応、支援者様なのですから、それなりに敬意を見せなくては」

 エマさんは、年上らしく私を窘める。本当は私の方がずっと年上なんだけど。

 そうこうしている内に、私たちはギルバートの待つ部屋の前まで来ていた。
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