53 / 65
第二章
浴室
しおりを挟む
「ここで汚れを落とすといい。自由に使ってくれ」
「ここは……?」
「ああ、ここは泊まり込みで作業するときに使っているんだ。わざわざ寮に戻るのは面倒だからね」
「あの、お構いなく。部屋の浴室を使いますので……」
ルードヴィッヒは、エリスに気を使わせないよう説明をしたが、その説明を聞いた上でもエリスは浴室の使用を固辞した。自室以外で着ているものを脱ぐことは避けたかったのだ。たとえ自分しかいない密室であっても。
「遠慮することはない。それに、君の部屋はここから遠いだろう? その格好で部屋まで戻るつもりか?」
「……」
そう言われてしまうと、ぐうの音も出なかった。
エリスがルードヴィッヒに連れて来られた生徒会の建物は、講堂のすぐ近くにあるが、エリスの自室はその対極にある。
「それでは、クロードを呼んできて下さいませんか? 着替えが必要なので」
最後の手段だった。
「それなら俺が取りに行こう」
ルードヴィッヒの反応は、エリスが予期していないものであった。
「着替えを持ってきたら、わかるところに置いておくから、ドアに鍵をかけないでおいてくれ。なに、心配することはない。入り口にはロイがいるから誰も入って来やしないよ」
ルードヴィッヒは、エリスを浴室に残し、さっさとクロードの元に向かってしまった。
一人きりになると、様々な考えがエリスの頭に浮かんでは打ち消されていった。
しかし、何れも現実的ではなく、エリスは大人しくルードヴィッヒの厚意に甘えるしかなかった。
いくら〈誰も入って来ない〉と言われていても、ドアに鍵もかけずに入浴するのは不安であった。バスタブの前には、目隠しのための衝立が辛うじてある程度だ。
エリスは、極力裸でいる時間を短くしたかった。ルードヴィッヒが着替えを受け取って帰ってくるまで、三十分程度かかると予測し、ぎりぎりまで風呂に入らないことにした。
(先輩、まだ帰って来ないのかしら……? それとも、私が気がつかなかっただけかしら?)
一通り全身を洗い終えたエリスは、湯の張ってあるバスタブに浸かり、ルードヴィッヒの帰りを待っていた。
(それにしても熱い、お湯が熱すぎたみたい……)
長い時間、熱い湯に浸かっていたせいか、エリスの体は完全にのぼせ上ってしまっていた。
(もう耐えられないわ……)
エリスは、立ち上がりバスタブから出た。次の瞬間、エリスは立ち眩みを起こし、気を失い倒れた。
そこにルードヴィッヒが、着替えを持って帰って来た。
「ここは……?」
「ああ、ここは泊まり込みで作業するときに使っているんだ。わざわざ寮に戻るのは面倒だからね」
「あの、お構いなく。部屋の浴室を使いますので……」
ルードヴィッヒは、エリスに気を使わせないよう説明をしたが、その説明を聞いた上でもエリスは浴室の使用を固辞した。自室以外で着ているものを脱ぐことは避けたかったのだ。たとえ自分しかいない密室であっても。
「遠慮することはない。それに、君の部屋はここから遠いだろう? その格好で部屋まで戻るつもりか?」
「……」
そう言われてしまうと、ぐうの音も出なかった。
エリスがルードヴィッヒに連れて来られた生徒会の建物は、講堂のすぐ近くにあるが、エリスの自室はその対極にある。
「それでは、クロードを呼んできて下さいませんか? 着替えが必要なので」
最後の手段だった。
「それなら俺が取りに行こう」
ルードヴィッヒの反応は、エリスが予期していないものであった。
「着替えを持ってきたら、わかるところに置いておくから、ドアに鍵をかけないでおいてくれ。なに、心配することはない。入り口にはロイがいるから誰も入って来やしないよ」
ルードヴィッヒは、エリスを浴室に残し、さっさとクロードの元に向かってしまった。
一人きりになると、様々な考えがエリスの頭に浮かんでは打ち消されていった。
しかし、何れも現実的ではなく、エリスは大人しくルードヴィッヒの厚意に甘えるしかなかった。
いくら〈誰も入って来ない〉と言われていても、ドアに鍵もかけずに入浴するのは不安であった。バスタブの前には、目隠しのための衝立が辛うじてある程度だ。
エリスは、極力裸でいる時間を短くしたかった。ルードヴィッヒが着替えを受け取って帰ってくるまで、三十分程度かかると予測し、ぎりぎりまで風呂に入らないことにした。
(先輩、まだ帰って来ないのかしら……? それとも、私が気がつかなかっただけかしら?)
一通り全身を洗い終えたエリスは、湯の張ってあるバスタブに浸かり、ルードヴィッヒの帰りを待っていた。
(それにしても熱い、お湯が熱すぎたみたい……)
長い時間、熱い湯に浸かっていたせいか、エリスの体は完全にのぼせ上ってしまっていた。
(もう耐えられないわ……)
エリスは、立ち上がりバスタブから出た。次の瞬間、エリスは立ち眩みを起こし、気を失い倒れた。
そこにルードヴィッヒが、着替えを持って帰って来た。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
完結まで執筆済み、毎日更新
もう少しだけお付き合いください
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
幸せな帝国生活 ~「失敗作」と呼ばれていた王女、人質として差し出された帝国で「最重要人物」に指定される~
絢乃
恋愛
魔力が低いと蔑まれ「失敗作」扱いだった王女ソフィアは、人質として宗主国の帝国に送られる。
しかし、実は彼女の持つ魔力には魔物を追い払う特殊な属性が備わっていた。
そのことに気づいた帝国の皇太子アルトは、ソフィアに力を貸してほしいと頼む。
ソフィアは承諾し、二人は帝国の各地を回る旅に出る――。
もう失敗作とは言わせない!
落ちこぼれ扱いされていた王女の幸せな帝国生活が幕を開ける。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
イケオジ王様の頭上の猫耳が私にだけ見えている
植野あい
恋愛
長年の敵対国に輿入れしたセヴィッツ国の王女、リミュア。
政略結婚の相手は遥かに年上ながら、輝く銀髪に金色の瞳を持つ渋さのある美貌の国王マディウス。だが、どう見ても頭に猫耳が生えていた。
三角の耳はとてもかわいらしかった。嫌なことがあるときはへにょりと後ろ向きになり、嬉しいときはピクッと相手に向いている。
(獣人って絶滅したんじゃなかった?というか、おとぎ話だと思ってた)
侍女や専属騎士に聞いてみても、やはり猫耳に気づいていない。肖像画にも描かれていない。誰にも見えないものが、リュミアにだけ見えていた。
頭がおかしいと思われないよう口をつぐむリュミアだが、触れば確かめられるのではと初夜を楽しみにしてしまう。
無事に婚儀を済ませたあとは、ついに二人っきりの夜が訪れて……?!
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる