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第二章
舞台上にて
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エリスは、披露会の出場者に選抜されてから舞台に上がるまで、自分の身に降りかかる災いのことで頭の大半を占めていた。しかし、舞台に上がり、観客の前に立つと、そんなことを考える余裕は一切なくなった。
エリスとて、今まで人前で演奏をしたことがないわけではなかったが、こんなに大勢の前で演奏するのは初めてだった。
――これだけ多くの人がいる前で、私の身に危害を加えるのは不可能だわ。それに、今まで何もなかったのだから、きっと大丈夫、私の思い過ごし。
大観衆の前での演奏は、大変緊張することであったが、余計な不安を払しょくするには十分であった。
エリスは演奏を始めた。
全校生徒の視線が、一斉にエリスへ集中した。
しんと静まり返った講堂に、バイオリンの音だけが響く。広い空間で演奏すると、音の響きが違って聞こえた。
いつもと異なる音色に戸惑いながらも、エリスは演奏を続ける。
それでも演奏を続けていると、自分でも調子が上がってくるのを感じた。
(何とか調子がつかめてきたわ。この調子で最後まで……)
エリスが調子を取り戻し始めた時、それは起こった――。
曲が最大の見せ場を迎えようとしていた、まさにその時――。
エリスの頭上で何かがぶつかる音がした。
避ける余裕もなく、次の瞬間、悪臭とともに何かがエリスの体に降り注いだ。
突然の出来事に、エリスは呆然とし、その場に立ち尽くし、また、客席にいる生徒たちも何が起こったかわからず、水を打ったように静まり返った。
だがそのうち、状況を理解した生徒たちが徐々に騒ぎ始めた。
エリスも生徒たちのざわめきで我に返った。
(バイオリン、バイオリンはどこ? 演奏を続けなければ……)
我に返ったエリスは、自分の身に起こったことを案ずるよりも、無意識のうちに、このまま演奏を続けることを選んでいた。
バイオリンは、エリスの手を離れ、下に落ちていた。汚物を頭からかぶった時に、思わず手から落としてしまったようだ。
バイオリンを拾い上げ、演奏を再開しようとしたエリスは、またしても不運に見舞われていることに気がつく。
落としてしまい、変な衝撃をバイオリンに与えてしまったのが原因だったのか、バイオリンの絃が、二本も切れてしまっていたのだ。
エリスとて、今まで人前で演奏をしたことがないわけではなかったが、こんなに大勢の前で演奏するのは初めてだった。
――これだけ多くの人がいる前で、私の身に危害を加えるのは不可能だわ。それに、今まで何もなかったのだから、きっと大丈夫、私の思い過ごし。
大観衆の前での演奏は、大変緊張することであったが、余計な不安を払しょくするには十分であった。
エリスは演奏を始めた。
全校生徒の視線が、一斉にエリスへ集中した。
しんと静まり返った講堂に、バイオリンの音だけが響く。広い空間で演奏すると、音の響きが違って聞こえた。
いつもと異なる音色に戸惑いながらも、エリスは演奏を続ける。
それでも演奏を続けていると、自分でも調子が上がってくるのを感じた。
(何とか調子がつかめてきたわ。この調子で最後まで……)
エリスが調子を取り戻し始めた時、それは起こった――。
曲が最大の見せ場を迎えようとしていた、まさにその時――。
エリスの頭上で何かがぶつかる音がした。
避ける余裕もなく、次の瞬間、悪臭とともに何かがエリスの体に降り注いだ。
突然の出来事に、エリスは呆然とし、その場に立ち尽くし、また、客席にいる生徒たちも何が起こったかわからず、水を打ったように静まり返った。
だがそのうち、状況を理解した生徒たちが徐々に騒ぎ始めた。
エリスも生徒たちのざわめきで我に返った。
(バイオリン、バイオリンはどこ? 演奏を続けなければ……)
我に返ったエリスは、自分の身に起こったことを案ずるよりも、無意識のうちに、このまま演奏を続けることを選んでいた。
バイオリンは、エリスの手を離れ、下に落ちていた。汚物を頭からかぶった時に、思わず手から落としてしまったようだ。
バイオリンを拾い上げ、演奏を再開しようとしたエリスは、またしても不運に見舞われていることに気がつく。
落としてしまい、変な衝撃をバイオリンに与えてしまったのが原因だったのか、バイオリンの絃が、二本も切れてしまっていたのだ。
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