51 / 65
第二章
舞台上にて
しおりを挟む
エリスは、披露会の出場者に選抜されてから舞台に上がるまで、自分の身に降りかかる災いのことで頭の大半を占めていた。しかし、舞台に上がり、観客の前に立つと、そんなことを考える余裕は一切なくなった。
エリスとて、今まで人前で演奏をしたことがないわけではなかったが、こんなに大勢の前で演奏するのは初めてだった。
――これだけ多くの人がいる前で、私の身に危害を加えるのは不可能だわ。それに、今まで何もなかったのだから、きっと大丈夫、私の思い過ごし。
大観衆の前での演奏は、大変緊張することであったが、余計な不安を払しょくするには十分であった。
エリスは演奏を始めた。
全校生徒の視線が、一斉にエリスへ集中した。
しんと静まり返った講堂に、バイオリンの音だけが響く。広い空間で演奏すると、音の響きが違って聞こえた。
いつもと異なる音色に戸惑いながらも、エリスは演奏を続ける。
それでも演奏を続けていると、自分でも調子が上がってくるのを感じた。
(何とか調子がつかめてきたわ。この調子で最後まで……)
エリスが調子を取り戻し始めた時、それは起こった――。
曲が最大の見せ場を迎えようとしていた、まさにその時――。
エリスの頭上で何かがぶつかる音がした。
避ける余裕もなく、次の瞬間、悪臭とともに何かがエリスの体に降り注いだ。
突然の出来事に、エリスは呆然とし、その場に立ち尽くし、また、客席にいる生徒たちも何が起こったかわからず、水を打ったように静まり返った。
だがそのうち、状況を理解した生徒たちが徐々に騒ぎ始めた。
エリスも生徒たちのざわめきで我に返った。
(バイオリン、バイオリンはどこ? 演奏を続けなければ……)
我に返ったエリスは、自分の身に起こったことを案ずるよりも、無意識のうちに、このまま演奏を続けることを選んでいた。
バイオリンは、エリスの手を離れ、下に落ちていた。汚物を頭からかぶった時に、思わず手から落としてしまったようだ。
バイオリンを拾い上げ、演奏を再開しようとしたエリスは、またしても不運に見舞われていることに気がつく。
落としてしまい、変な衝撃をバイオリンに与えてしまったのが原因だったのか、バイオリンの絃が、二本も切れてしまっていたのだ。
エリスとて、今まで人前で演奏をしたことがないわけではなかったが、こんなに大勢の前で演奏するのは初めてだった。
――これだけ多くの人がいる前で、私の身に危害を加えるのは不可能だわ。それに、今まで何もなかったのだから、きっと大丈夫、私の思い過ごし。
大観衆の前での演奏は、大変緊張することであったが、余計な不安を払しょくするには十分であった。
エリスは演奏を始めた。
全校生徒の視線が、一斉にエリスへ集中した。
しんと静まり返った講堂に、バイオリンの音だけが響く。広い空間で演奏すると、音の響きが違って聞こえた。
いつもと異なる音色に戸惑いながらも、エリスは演奏を続ける。
それでも演奏を続けていると、自分でも調子が上がってくるのを感じた。
(何とか調子がつかめてきたわ。この調子で最後まで……)
エリスが調子を取り戻し始めた時、それは起こった――。
曲が最大の見せ場を迎えようとしていた、まさにその時――。
エリスの頭上で何かがぶつかる音がした。
避ける余裕もなく、次の瞬間、悪臭とともに何かがエリスの体に降り注いだ。
突然の出来事に、エリスは呆然とし、その場に立ち尽くし、また、客席にいる生徒たちも何が起こったかわからず、水を打ったように静まり返った。
だがそのうち、状況を理解した生徒たちが徐々に騒ぎ始めた。
エリスも生徒たちのざわめきで我に返った。
(バイオリン、バイオリンはどこ? 演奏を続けなければ……)
我に返ったエリスは、自分の身に起こったことを案ずるよりも、無意識のうちに、このまま演奏を続けることを選んでいた。
バイオリンは、エリスの手を離れ、下に落ちていた。汚物を頭からかぶった時に、思わず手から落としてしまったようだ。
バイオリンを拾い上げ、演奏を再開しようとしたエリスは、またしても不運に見舞われていることに気がつく。
落としてしまい、変な衝撃をバイオリンに与えてしまったのが原因だったのか、バイオリンの絃が、二本も切れてしまっていたのだ。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ツキヒカリ
MoonLite
恋愛
ツキアカリ〜親友と思っていた彼女は
旦那の不倫相手でした…
蓮扉が好きな唯は、愛菜に嫉妬をしてしまう。
仲のいい3人はいつの間か三角関係に!?
蓮扉に興味のない愛菜が恋に落ちてしまう
3人の行方はどうなるのか。
最後まで鳥肌がとまらん
甘くて切ない、グローリーな人間関係…

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる