35 / 65
第二章
ルードヴィッヒとロイ
しおりを挟む
「それはどういう意味?」
「いや、だから……こんなことをされているのに、その……あまり動揺している様子がないっていうか……」
ロイに言われて改めてエリスは自覚した。今回のようなあからさまな嫌がらせを受けているにも関わらず、エリスは冷静であった。
(婚約者を娼婦に寝取られて、一家離散したことに比べれば、大抵のことには動じなくなるわ……)
「生きていれば、もっと酷い目に遭うことだってあるよ。ところで、どうしてここに教科書が捨てられていることがわかったの?」
「実は、僕も同じことをやられたんだ」
「え!?」
「うん……」
ロイはぽつりぽつりと語り始めた。
「この学校では、生徒同士の人間関係に影響が出ないように、自分の出自について言及することは禁止されている。でもね、そんなことをやっても無駄なんだ」
「そうなの……?」
「僕みたいに、飛び級で入ってきた人間なんて特にね」
「えっ、飛び級!?」
エリスはすっとんきょうな声を上げた。
「言ってなかった? 僕、今、十三歳なんだ」
初めてロイを見たときから、幼い感じがするとは思っていたが、まさか十三歳だったとは考えもしなかった。
「飛び級で、しかも学費免除で入学してくるくらいだもの……訳ありなのはすぐわかる。みんな出自を隠していても、この学校に入れるのは、王族か、それなりに名のある貴族だってわかっている。庶民もいるけど、桁違いの大富豪とかね。そもそも学費が払えない連中じゃない」
「……」
「だから目障りなんだろうね。僕みたいに特別扱いされて目立つ人間は。君もそうだけど」
「僕も?」
エリスは信じられない、と言った口ぶりでロイに尋ねた。
「目立ちっぷりだけ見たら、僕以上かも。特別室もそうだけど、一番はルーイ兄さまのことだろうね」
「生徒会長のことって言っても……試験の時に、ちょっと顔見知りになった縁で話しかけられたってだけに過ぎない。それって嫌がらせを受けるようなことなのかな?」
「この学校の生徒にとって、ルーイ兄さまは単なる生徒会長の枠を超えた特別な人なんだ。みんながルーイ兄さまに憧れてるし、話しかけてもらいたいと思っている。それを入ってきたばかりの新入生が、あっさりとやってのけたんだよ。あーあ、うらやましい! 僕もルーイ兄さまにあんな風に親し気に話しかけられたい!」
「……ロイは生徒会長のことが本当に好きなんだね」
「うん! ルーイ兄さまは僕の恩人だから……」
「恩人……?」
ロイがルードヴィッヒに心酔している理由は、ここにありそうだった。
「いや、だから……こんなことをされているのに、その……あまり動揺している様子がないっていうか……」
ロイに言われて改めてエリスは自覚した。今回のようなあからさまな嫌がらせを受けているにも関わらず、エリスは冷静であった。
(婚約者を娼婦に寝取られて、一家離散したことに比べれば、大抵のことには動じなくなるわ……)
「生きていれば、もっと酷い目に遭うことだってあるよ。ところで、どうしてここに教科書が捨てられていることがわかったの?」
「実は、僕も同じことをやられたんだ」
「え!?」
「うん……」
ロイはぽつりぽつりと語り始めた。
「この学校では、生徒同士の人間関係に影響が出ないように、自分の出自について言及することは禁止されている。でもね、そんなことをやっても無駄なんだ」
「そうなの……?」
「僕みたいに、飛び級で入ってきた人間なんて特にね」
「えっ、飛び級!?」
エリスはすっとんきょうな声を上げた。
「言ってなかった? 僕、今、十三歳なんだ」
初めてロイを見たときから、幼い感じがするとは思っていたが、まさか十三歳だったとは考えもしなかった。
「飛び級で、しかも学費免除で入学してくるくらいだもの……訳ありなのはすぐわかる。みんな出自を隠していても、この学校に入れるのは、王族か、それなりに名のある貴族だってわかっている。庶民もいるけど、桁違いの大富豪とかね。そもそも学費が払えない連中じゃない」
「……」
「だから目障りなんだろうね。僕みたいに特別扱いされて目立つ人間は。君もそうだけど」
「僕も?」
エリスは信じられない、と言った口ぶりでロイに尋ねた。
「目立ちっぷりだけ見たら、僕以上かも。特別室もそうだけど、一番はルーイ兄さまのことだろうね」
「生徒会長のことって言っても……試験の時に、ちょっと顔見知りになった縁で話しかけられたってだけに過ぎない。それって嫌がらせを受けるようなことなのかな?」
「この学校の生徒にとって、ルーイ兄さまは単なる生徒会長の枠を超えた特別な人なんだ。みんながルーイ兄さまに憧れてるし、話しかけてもらいたいと思っている。それを入ってきたばかりの新入生が、あっさりとやってのけたんだよ。あーあ、うらやましい! 僕もルーイ兄さまにあんな風に親し気に話しかけられたい!」
「……ロイは生徒会長のことが本当に好きなんだね」
「うん! ルーイ兄さまは僕の恩人だから……」
「恩人……?」
ロイがルードヴィッヒに心酔している理由は、ここにありそうだった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる