20 / 65
第二章
試験勉強
しおりを挟む
エリスとクロードは廊下から室内に移動していた。
「編入試験と言っても、難しく考える必要はありません。筆記と実技、そして形式だけの面接。たったこれだけです。さらに、ハーバード侯爵家の推薦状付きですので、まず不合格になることはないでしょう」
「だったら……」
エリスは思わず安堵の言葉を漏らしてしまった。
「今、何とおっしゃいましたか?」
クロードはそれを決して聞き漏らすことはしなかった。
「え! あ、あの……それは……」
「ハーバート侯爵家が推薦状を出すのです。それ相応の成績を取らなければ、ハーバート侯爵家に泥を塗ることになります」
「では、一体、何点取れば……」
エリスがおずおずとクロードに尋ねると、
「満点です。満点以外あり得ません!」
とクロードは言い切った。
「満点……?」
「ええ。簡単でしょう? 王妃になることに比べたら、こんなに楽なことはありません!」
「……」
エリスはこっそりとクロードの顔を見上げていたが、本気で満点が取れると信じて疑っていない様子だった。
「それに、この私が三か月間、直々に指導するのです。満点以外の点数などあり得ますか?」
「……」
クロードの勢いに押されているエリスを尻目に、クロードは続ける。
「確かに……いきなり男子校への編入試験の話を聞かされ、『満点を取れ』と言われても驚くのも理解できなくありません」
エリスは大きく頷いた。
「よろしい。では少しばかり安心できる話をしておきましょう」
「まず、筆記試験についてですが……、ここへ来る前に、奥様から成績表を見せていただいたのですが、本番で実力が発揮できればまず大丈夫でしょう。次に実技ですが……剣術のご経験は?」
「剣術ですか? 剣を握ったことがある程度です。ほんのさわりだけ」
「ほう。貴族のご令嬢にしては珍しい」
クロードが珍しく感嘆の声を上げた。
「うちは私と妹しかいないので……父の考えで、たとえ女の身であっても、最低限自分の身は自分で守れるようにと。護身術を一通りやった程度です」
「それはお父上に感謝しなくてはいけませんね。ならば、剣術の稽古により多くの時間を割くことにしましょう」
「はい……」
エリスは、剣術も護身術も特に嫌いではなかったが、どうして父であるスチュアート伯爵が、エリスたち姉妹にそのようなものを学ばせているのか不思議に思っていた。
エリスの友人たちの中には、スチュアート家のように娘しかいない家の者も複数名いた。しかし、誰一人として剣術や護身術を学ばされている者はいなかった。むしろ、エリスや妹がそのようなことをやっていると知ると、大いに驚かれた。
だから、エリスは、父は特別に変わり者なのだろうと考えていた。それに、父はとても息子を欲しがっていたと聞く。本当は息子にしてあげたかったことを、娘にしていたのかも知れない。
だがその父も、娘が、男装して男子校に潜入を試みていると知ったら、驚きを隠せないだろう。
「編入試験と言っても、難しく考える必要はありません。筆記と実技、そして形式だけの面接。たったこれだけです。さらに、ハーバード侯爵家の推薦状付きですので、まず不合格になることはないでしょう」
「だったら……」
エリスは思わず安堵の言葉を漏らしてしまった。
「今、何とおっしゃいましたか?」
クロードはそれを決して聞き漏らすことはしなかった。
「え! あ、あの……それは……」
「ハーバート侯爵家が推薦状を出すのです。それ相応の成績を取らなければ、ハーバート侯爵家に泥を塗ることになります」
「では、一体、何点取れば……」
エリスがおずおずとクロードに尋ねると、
「満点です。満点以外あり得ません!」
とクロードは言い切った。
「満点……?」
「ええ。簡単でしょう? 王妃になることに比べたら、こんなに楽なことはありません!」
「……」
エリスはこっそりとクロードの顔を見上げていたが、本気で満点が取れると信じて疑っていない様子だった。
「それに、この私が三か月間、直々に指導するのです。満点以外の点数などあり得ますか?」
「……」
クロードの勢いに押されているエリスを尻目に、クロードは続ける。
「確かに……いきなり男子校への編入試験の話を聞かされ、『満点を取れ』と言われても驚くのも理解できなくありません」
エリスは大きく頷いた。
「よろしい。では少しばかり安心できる話をしておきましょう」
「まず、筆記試験についてですが……、ここへ来る前に、奥様から成績表を見せていただいたのですが、本番で実力が発揮できればまず大丈夫でしょう。次に実技ですが……剣術のご経験は?」
「剣術ですか? 剣を握ったことがある程度です。ほんのさわりだけ」
「ほう。貴族のご令嬢にしては珍しい」
クロードが珍しく感嘆の声を上げた。
「うちは私と妹しかいないので……父の考えで、たとえ女の身であっても、最低限自分の身は自分で守れるようにと。護身術を一通りやった程度です」
「それはお父上に感謝しなくてはいけませんね。ならば、剣術の稽古により多くの時間を割くことにしましょう」
「はい……」
エリスは、剣術も護身術も特に嫌いではなかったが、どうして父であるスチュアート伯爵が、エリスたち姉妹にそのようなものを学ばせているのか不思議に思っていた。
エリスの友人たちの中には、スチュアート家のように娘しかいない家の者も複数名いた。しかし、誰一人として剣術や護身術を学ばされている者はいなかった。むしろ、エリスや妹がそのようなことをやっていると知ると、大いに驚かれた。
だから、エリスは、父は特別に変わり者なのだろうと考えていた。それに、父はとても息子を欲しがっていたと聞く。本当は息子にしてあげたかったことを、娘にしていたのかも知れない。
だがその父も、娘が、男装して男子校に潜入を試みていると知ったら、驚きを隠せないだろう。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる