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8章 神界
#54 間違ってなんか
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「じ、自己紹介ですって?」
驚いたアルルの声が裏返り、レンまでもがくすりと笑った。そうそう、とツバサはうなずくと、立ち上がり、アルルが立っている隣へ行く。
「アルルはそっちに座ってて」
「ええ……分かったわ」
「別にエロい意味じゃないけど、俺は、俺はね?みんなの事をもっと知りたいんだよね。だから、自己紹介をしよう。今まで色んな都合で話せなかったこと、本当は話したかったこと、今までどう生きてきたか、何でもいい。リアおばさんは、言い方はキツイけど言ってる内容は間違ってない。戦わなければいけない日が来る。多分それは本当のことだ。正直、オセロを解散すべきか俺でさえ迷った」
「い、一応迷ったのね……何だか安心したわ。本当に軽く考えてるかと思ってた」
「アルルがそんなにしんどそうなのに、俺まで重くなったらここの空気終わるぜ?」
「ごめんなさい……」
「その戦争とやらが起きた時、判断を間違えないように、互いのことをよく知っておくべきだと俺は思ったんだ……っていうことで、まず俺から話す。俺は、ツバサ・サングスター」
ツバサは淡々と話す。母親がいた頃の家族の話。カーティスにぶたれた話。アスカと孤児院に入り、リアとアルルに出会い、城の下働きをしていた話。魔術高校に入った初めの1年間はアルルと2人で過ごしていた話。時折アルルは懐かしそうな顔をした。それを見てレンとベティはそれぞれ複雑な気持ちになった。
「あともう1つ。俺の身体のことなんだけど」
ツバサは"悪魔化"について説明した。過去に一度、カーティスから少しだけ話を聞いたことがあった。
サングスターの一族に起こる"悪魔化"とは、2つの条件のどちらかを満たすと発生することがあると言う。
1つ目は、悪魔の意識を無理やり体内に取り込んだ時。このパターンは、主に殺し屋グループの魔術士達を強化するために取られた方法だった。しかし、力を制御することが難しく、優秀な魔術士でなければ暴走することが多いとされていた。
2つ目は、サングスターの魔術士が自身の魔力以上の力を発動させようとした時―限界を超えた時―、稀に発生する現象だ。両者に共通することは、見た目も怪物のような手足へ変わり、頭に角が生えたりすることである。
「いわゆる"悪魔化"をした人達と俺は戦ったことがある。どこかで聞いたことがあるけど、悪魔の邪悪な力の影響で見た目が変わるとか何とか」
レンが淡々とそう語るので、ツバサは苦笑いをした。
「この後者のパターンだと力のコントロールができる。俺はこの前、アスカの迷宮に入った時にこの力を発動した。ちなみにアスカは前者のパターンだったわけだ」
唖然としているベティとは裏腹に、アルルがとっさに質問した。
「"悪魔化"をすることで魔術は強くなるのかもだけど、代償は無いのかしら」
「詳しいことは分かんないけど、たぶんダメージはあると思う。まあ、俺はただでさえ普通に黒術を使うだけで体は傷つけられてるし、それとはあまり変わらないかな」
「そ、そう……でも、考えものね」
沈黙が流れ、それをすぐに断ち切るかのようにツバサが口を開いた。
「そんなこんなで、ベティに出会い、レンに出会ったというわけです。さあ、次は誰か―」
「はい」
3人が同時に手を挙げたのを見て、ツバサは仰天したのと同時に少し嬉しくなった。そんなに乗り気になってくれたなんて。
「いや、こういうのは早めに話しておいた方がいいかと思って」
「私もレンに同意見ー」
「じゃあレンはトリな!」
「なんでだ!」
「次はベティが話しなさい。指名だ」
ベティは3人のことを順番に見つめ、ゆっくりと話しだした。
「2人目の私は、ベティ・アケロイド。雷術士で、雷神ニアの直系子孫です」
ついこの前ツバサに話したばかりの、地球での過去の出来事を語る。アルルとレンは息を飲んで聞いていた。ベティの話が終ると、アルルがかけよりぎゅっとハグをした。
「ありがとう、アルル。私、このチームに入ってからハグされることめちゃくちゃ多いのよね」
困ったように微笑みながらそう話すベティを見て、アルルとツバサが涙目になっている。レンが笑いながら肩をすくめる。
「じゃあ次は……私、アルル・フェアリー」
アルルはいつも通りの話し方に戻ってきていた。地球で暮らしていたこと、ツバサとアスカに出会ったこと、レンに出会ったこと。それらを物語のようにスラスラと話していく。アルルは頭の片隅に、ツバサの好意の件が引っかかっていた。しかしここで話しては修羅場になりかねない。
「アルルお前何か隠してるだろ」
「いや何も」
「本当かな?まあいいや。じゃあ、レン君よ、お願いしますね」
「何なんだよその話し方」
こんな日が来るなんて。レンの手はもう既に少し震えていた。目をつぶり深呼吸をして、レンは口を開いた。
「俺は、レン・グレイ。グレイの一族で、黒の女王の子孫だ。歳は19、実は皆よりも1つ上。ツバサにスカウトされる前、俺はアサシンだった。サングスターのグループに所属している人達、俺を追う人達の命を奪ってきた。これは許されないことだ」
レンは話す。サングスターの格子で過ごしたこと。地球の学校に通い、母と2人で暮らしたこと。アルルに出会ったこと。母が亡くなり、復讐心でアサシンとして生きたこと。瀕死のところをジュリに助けられ、ツバサに出会ったこと。アルルに再会し、ベティに出会ったこと。レンは異界の話もした。
「そんな前から俺がサングスターだって知ってたのか」
「怖くて言い出せなかったけどね。まじで殺されるかと思った」
「俺バカだから、何も知らなかったよ。一族のことも」
「ずっとタブーなのかと思ってたからこれからは少し気が楽だよ」
「ツバサはレンのこと本当好きだもんね」
茶化すようにベティが言うと、ベティにも見せたことがないくらいツバサは顔を真っ赤にした。
「急に変な事言うなよ!」
ベティが笑う。レンが笑う。ツバサが笑う。
この時間がずっと続けばいいのに。アルルは心の中でそう思った。血なんて無くなってしまえばいいのに。
これが、間違った関係だなんて誰が思うのだろう。いいや、間違ってなんかいない。
私たちは、私たちの関係が間違っていないということを取り戻すために戦うんだ。
敢えてアルルは口には出さなかった。
驚いたアルルの声が裏返り、レンまでもがくすりと笑った。そうそう、とツバサはうなずくと、立ち上がり、アルルが立っている隣へ行く。
「アルルはそっちに座ってて」
「ええ……分かったわ」
「別にエロい意味じゃないけど、俺は、俺はね?みんなの事をもっと知りたいんだよね。だから、自己紹介をしよう。今まで色んな都合で話せなかったこと、本当は話したかったこと、今までどう生きてきたか、何でもいい。リアおばさんは、言い方はキツイけど言ってる内容は間違ってない。戦わなければいけない日が来る。多分それは本当のことだ。正直、オセロを解散すべきか俺でさえ迷った」
「い、一応迷ったのね……何だか安心したわ。本当に軽く考えてるかと思ってた」
「アルルがそんなにしんどそうなのに、俺まで重くなったらここの空気終わるぜ?」
「ごめんなさい……」
「その戦争とやらが起きた時、判断を間違えないように、互いのことをよく知っておくべきだと俺は思ったんだ……っていうことで、まず俺から話す。俺は、ツバサ・サングスター」
ツバサは淡々と話す。母親がいた頃の家族の話。カーティスにぶたれた話。アスカと孤児院に入り、リアとアルルに出会い、城の下働きをしていた話。魔術高校に入った初めの1年間はアルルと2人で過ごしていた話。時折アルルは懐かしそうな顔をした。それを見てレンとベティはそれぞれ複雑な気持ちになった。
「あともう1つ。俺の身体のことなんだけど」
ツバサは"悪魔化"について説明した。過去に一度、カーティスから少しだけ話を聞いたことがあった。
サングスターの一族に起こる"悪魔化"とは、2つの条件のどちらかを満たすと発生することがあると言う。
1つ目は、悪魔の意識を無理やり体内に取り込んだ時。このパターンは、主に殺し屋グループの魔術士達を強化するために取られた方法だった。しかし、力を制御することが難しく、優秀な魔術士でなければ暴走することが多いとされていた。
2つ目は、サングスターの魔術士が自身の魔力以上の力を発動させようとした時―限界を超えた時―、稀に発生する現象だ。両者に共通することは、見た目も怪物のような手足へ変わり、頭に角が生えたりすることである。
「いわゆる"悪魔化"をした人達と俺は戦ったことがある。どこかで聞いたことがあるけど、悪魔の邪悪な力の影響で見た目が変わるとか何とか」
レンが淡々とそう語るので、ツバサは苦笑いをした。
「この後者のパターンだと力のコントロールができる。俺はこの前、アスカの迷宮に入った時にこの力を発動した。ちなみにアスカは前者のパターンだったわけだ」
唖然としているベティとは裏腹に、アルルがとっさに質問した。
「"悪魔化"をすることで魔術は強くなるのかもだけど、代償は無いのかしら」
「詳しいことは分かんないけど、たぶんダメージはあると思う。まあ、俺はただでさえ普通に黒術を使うだけで体は傷つけられてるし、それとはあまり変わらないかな」
「そ、そう……でも、考えものね」
沈黙が流れ、それをすぐに断ち切るかのようにツバサが口を開いた。
「そんなこんなで、ベティに出会い、レンに出会ったというわけです。さあ、次は誰か―」
「はい」
3人が同時に手を挙げたのを見て、ツバサは仰天したのと同時に少し嬉しくなった。そんなに乗り気になってくれたなんて。
「いや、こういうのは早めに話しておいた方がいいかと思って」
「私もレンに同意見ー」
「じゃあレンはトリな!」
「なんでだ!」
「次はベティが話しなさい。指名だ」
ベティは3人のことを順番に見つめ、ゆっくりと話しだした。
「2人目の私は、ベティ・アケロイド。雷術士で、雷神ニアの直系子孫です」
ついこの前ツバサに話したばかりの、地球での過去の出来事を語る。アルルとレンは息を飲んで聞いていた。ベティの話が終ると、アルルがかけよりぎゅっとハグをした。
「ありがとう、アルル。私、このチームに入ってからハグされることめちゃくちゃ多いのよね」
困ったように微笑みながらそう話すベティを見て、アルルとツバサが涙目になっている。レンが笑いながら肩をすくめる。
「じゃあ次は……私、アルル・フェアリー」
アルルはいつも通りの話し方に戻ってきていた。地球で暮らしていたこと、ツバサとアスカに出会ったこと、レンに出会ったこと。それらを物語のようにスラスラと話していく。アルルは頭の片隅に、ツバサの好意の件が引っかかっていた。しかしここで話しては修羅場になりかねない。
「アルルお前何か隠してるだろ」
「いや何も」
「本当かな?まあいいや。じゃあ、レン君よ、お願いしますね」
「何なんだよその話し方」
こんな日が来るなんて。レンの手はもう既に少し震えていた。目をつぶり深呼吸をして、レンは口を開いた。
「俺は、レン・グレイ。グレイの一族で、黒の女王の子孫だ。歳は19、実は皆よりも1つ上。ツバサにスカウトされる前、俺はアサシンだった。サングスターのグループに所属している人達、俺を追う人達の命を奪ってきた。これは許されないことだ」
レンは話す。サングスターの格子で過ごしたこと。地球の学校に通い、母と2人で暮らしたこと。アルルに出会ったこと。母が亡くなり、復讐心でアサシンとして生きたこと。瀕死のところをジュリに助けられ、ツバサに出会ったこと。アルルに再会し、ベティに出会ったこと。レンは異界の話もした。
「そんな前から俺がサングスターだって知ってたのか」
「怖くて言い出せなかったけどね。まじで殺されるかと思った」
「俺バカだから、何も知らなかったよ。一族のことも」
「ずっとタブーなのかと思ってたからこれからは少し気が楽だよ」
「ツバサはレンのこと本当好きだもんね」
茶化すようにベティが言うと、ベティにも見せたことがないくらいツバサは顔を真っ赤にした。
「急に変な事言うなよ!」
ベティが笑う。レンが笑う。ツバサが笑う。
この時間がずっと続けばいいのに。アルルは心の中でそう思った。血なんて無くなってしまえばいいのに。
これが、間違った関係だなんて誰が思うのだろう。いいや、間違ってなんかいない。
私たちは、私たちの関係が間違っていないということを取り戻すために戦うんだ。
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