魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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8章 神界

#52 もう1つの名

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 「ねえこの人、本当に悪魔なの?ニア。何だかとっても……」
 「かっこいい、だろう?」
 「ええ。それに顔も普通の人間みたい。だけど悪魔ってことが何だか分かるわ。で、何でツバサは歓迎されるの?」
 「彼は婿殿の祖先だからさ」
 「……はあ?」

  ツバサもベティも同時にニアに尋ねた。するとニアは少し考え込んで、ツバサのフードを掴みその顔を指さして言った。

 「悪魔王、オウバルAとオウバルBに住む悪魔は皆整った顔つきをしているんだ。その気になれば人間なんて簡単に色気にやられる。男も誘ってくるような目で見つめてくるし、女も体も立派だし……まあ色々立派なんだ!」
 「……何でこんなに興奮してるのこの神」
 「婿殿!!一度は思ったことがあるんじゃないのかい!!自分のルックスのこと!自分がかっこいいと思ったことがあるんじゃないのかい!!」
 「そ、そんな俺モテないし」
 「ああ、確かにそれは君の魔術が関係するが……でも普通に居れば君はイケメンの類だろう?この二重瞼!それからキリッとした眉毛!まつ毛も多く長い!顔も小さい!1、2……8頭身あるし!歯並びも綺麗だし!それに!いくら汗をかいても独特の男臭が無い!キスも上手ければ夜の契りも上手い!婿殿が笑顔になれば世の中の女は簡単に落ちる!」
 「後半の方の言葉は何ですか神様?」
 「え?あーうん……ちょっと喋りすぎたかなぁ、なんて」

  ベティの剣幕にニアは少ししどろもどろになって弁解した。流石の神も可愛い子孫に睨まれると弱ってしまうようだ。そしてニアはベティの頭に軽くキスをして、婿殿のことをちゃんと守るんだぞ、と助言した。その様子を見てツバサがベティの肩の上に顎を乗せながら口を挟んだ。

 「普通は逆だろうが」
 「いやいや。魔術士は別名、戦士だ。男性が女性を守るっていうのもまあ……ある意味基本的なことかもしれんが、この世界では女性だって強い。お互いに助け合い守り合えるような仲に深めていくことが大事」
 「確かにベティは強いけどな」
 「……婿殿、本当に君は頑張っていると私からも見て思うぞ。君はちゃんと己の信じる道を進んでいる。君の進む道をこれからもたくさんの壁が邪魔してくるだろう。でも君、ツバサ・サングスターと仲間達ならもしかしたら……」
 「何で俺の名字知って……」
 「誇り高き子孫の恋人のことなどとっくに調査済みだ。もちろん仲間達もな!」

  サングスター。その名字を聞いてベティはスズナの言っていたことを思い出した。
 
 " サングスターっていう一族の、殺し屋グループです。私達の敵です。奴らが狙っているのは、私やレンさんの命なんです。"

  ツバサは知っているのか?知っててレン達と行動を共にしているのか?
  悩んだような顔つきをしたベティに雷神は明るい声で言った。

 「大丈夫さ」

  その一言だけで少しベティに笑みが戻った。もう遅いから帰りなさい、とニアは言うとその場で2人にワープの魔術をかけた。
  やはり行先はツバサの部屋のベッドの上だった。ツバサはベティの下敷きになった。ベティは馬乗りになったままツバサに尋ねた。

 「ツバサって、ツバサ・サングスターって言うんだね。初めて知った」
 「別に知らなくても良い情報だよ」
 「私、聞いたの。サングスターって殺し屋グループなんでしょ?この間の要塞、ツバサの親戚って言うか一族の人で構成されているんでしょ」
 「サングスターの話、誰から聞いた?」
 「……スズナ。迷いの森でレンと私が助けた氷術士の女の子」
 「レン……」

  それまで視線をずらしていたツバサは急に起き上がり、同時によろめいたベティの腰に手をやって支えた。一瞬ベティはドキッとした。

 「俺は味方だよ。これは仲間として言ってる。俺、は味方で居続けるって決めたんだ……これこの前も誰かに言ったな」

  ツバサはベティの肩に顔を埋めると、もごもごと喋った。

 「やっぱベティはいい匂いがする……えっ?!待って今、夜の1時?!まじかよ」
 「そんな、早く帰らな――」
 「ここは俺の部屋だ!帰らせないよ。今日はお泊まりしてって」
 「ええっ」
 「何もしないよ、今日は。……今日はな!こんな時間に外なんか出たら危ないって!あ、でもベッド狭いんだよね、ごめん」

  ドキドキしていたはずが、結局睡魔には勝てず、2人はすぐに眠ってしまった。翌日ベティは早朝に起きた。異性と寝たことなんて無いのに、不思議なくらい安心感があってよく眠ってしまった。ツバサは自分に背を向けてすやすや寝ていた。
   シャワーを借りようと思い、ツバサが目覚めないうちにシャワー室に忍び込んだ。シャワーの音ですぐにツバサは目を覚まし、一瞬昨夜何かしたかと自分を責めたが、何もしていないことに気づいてベッドに体だけ倒した。

 「あ、ベティおはよう」
 「おはよ」

  ツバサは起き上がりキスを求めるようにわざとらしく唇を尖らしたが、唇には人差し指が当てられただけだった。ベティが髪を乾かしながらツバサに言った。

 「ここの部屋って、朝食付いてないの」
 「わかりました、お嬢様。シャワーを浴びてから早急に支度をします」

  ツバサは速攻でシャワー室へ向かった。2人が簡単な朝食をとっている時、部屋のドアがノックされた。ツバサはため息をついた。

 「アスカかーー??……ベティ、何か変な声出せ」
 「変な声って」
 「来客が立ち去るような声だよ」
 「や、やだ……そんな朝から変なことしてるなんて思われたくない……」
 「うん、何か鼻血でそうな反応したな」
 「実際ちょっと鼻血出てるわよ!!」

  慌ててベティが半笑いでティッシュを掴み彼に渡した。それでもまだノックは止まらない。ツバサがティッシュで鼻血を拭いながら、しぶしぶドアを開けると、そこにはレンがいた。

 「何だお前か」
 「何だお前かって何だよ……あれ、ベティじゃん。朝食タイム?」
 「……別に何もしてないから」
 「え、あ、うん……別に何も疑ってないよ。お前、忘れてないだろうなぁ、アルルとの約束」
 「ああ、話が何たらってやつか?リアおばさんが顧問の。……で?」
 「でって……一緒に城へ行かないか?」
 「レン、サークル城への行き方忘れたのか?」
 「いやそういう事じゃなくて」
 「女子かお前は!!1人で行けよ何緊張してんだよ」

  結局、3人は一緒に城へと向かった。3人を出迎えたのは使用人で、アルルは出てこなかった。3人は城の会議室へ通された。そこには既にアルルとリアが着席していた。
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