魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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7章 迷宮

#42 魔術士の休息

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 今年はレクタングル国王の即位30周年記念。国王は色んな意味で"元気"で、記念式典というよりも国民が楽しめるようなイベントを企画したがる傾向があった。国王自身ももちろん遊びに来る。
  涼しい気候の別世界の海は特殊な魔術によって海水浴場のみが少し水温が上げられている。海水浴によって訓練を行う魔術士は少なくない。泳ぐとなるとローブを脱いで水着にならなければならないため、普段よりも身体から自分の魔術の力を試すことができたり、感じ取ることができるのだった。
  勿論、水着目当てでやってくる魔術士も少なからず居るが。

 「着いた!」

  レクタングル王国の南端にある砂浜、通称"星の砂浜"でそのイベントは行われていた。砂の中に星の形をしたものが混じっていることからそう呼ばれるようになった。既に海上遊園地で遊んでいる子どもや大人も居て、わいわいと盛り上がっていた。
  ハネハネを指定の場所に停めて、ツバサ達は会場の本部へ向かった。

 「監視員は制服があります。これを着てください」

  そう言って渡されたのは薄い黄色のTシャツに、黒のハーフパンツ、紐付きの笛だった。それと何故かサングラスがあった。

 「女性の方は制服の下に水着を着てくださいね。男性はもう水着になってますから」
 「はーい」
 「何でサングラス……」
 「目印ってやつですよ。何か起きましたら笛を吹いてお知らせください。周辺の魔法遊具が全て止まりますので」

  3人は指定の制服に着替えて、仕事(監視)を始めた。しかしその約30分後。

 「それっ!」
 「よっと!」
 「ちょっとツバサ!どこに飛ばしてんの!」

  ベティが頭上を飛んでいったビーチボールを追いかけて走っていく。レンはサングラスをかけたまま監視を続けていた。楽しそうに水を掛け合っているカップル、水着姿の彼女によって砂に埋められている彼氏、そして仕事を放棄して目の前でビーチバレーを始めている監視員の2人。

 「あーもうつまんねーー!!」
 「おう、レンどうした!何か叫んでるけど痛っ!」

  ツバサの頭にビーチボールが突撃した。ツバサはレンの肩に腕を起き、レンのサングラスを外して言った。

 「監視していれば素敵なものもたくさん見つかるよ?ほら、あそことか?」

  ツバサが首で指した方向には、若い女子軍団がビーチバレーを楽しんでいるところだった。レン達よりも少し年上ではあるが、高く弾んだ声を上げてジャンプしたり、砂浜に転んだりしていた。軍団は皆派手な色の露出度が高いビキニを着ていた。レンがまじまじとビーチバレーの様子を見ていると、ツバサが言った。

 「あのロング髪の子とか凄くない?」
 「どれ何色の?」
 「黒だよ黒」
 「おお」
 「スパイク打つ時に大丈夫なのかなぁ、ビキニ。俺達も後であのビーチバレーに入れてもらおうぜ」
 「良いな」
 「ビーチバレーって、良いな」
 「ああ、こんなスポーツ考えた奴は天才」       「てかあの黒髪ロング本当に爆乳―」

  突然視界にベティが入り込んでくる。ベティはツバサとレンの頬を思いきりつねり叫んだ。

 「これは人の胸を監視する監視員じゃないの!!変態!!」
 「痛い痛い痛い!!」
 「ごめんなさいちゃんと仕事に戻ります!……いやベティもさっきまで遊んでただろ!」

  レンが反抗するとベティは気取って答えた。

 「あれは下見よ、下見」
 「言い訳にもなってないけど」
 「何でこう男って馬鹿なの?!」
 「仕方ないじゃん魔術士と言えど俺達だって18歳の男だよ!女の子の体に興味あるのは生理現象でしょう?」
 「何でもいいけどこんな公共の場でしかも仕事中にそんなことするのは駄目よ野郎共!」
 「大丈夫ですか?」

  いつの間にか本部の職員が背後にいて、3人は急いで向き直ると大丈夫です、と返事をした。本部の職員はチケットのようなものを3枚持っていて、それをベティに渡した。

 「向こうのブースで氷術士が特製アイスを作っています。差し入れです」

  アイスを貰い、3人は横に並んで日陰の砂浜に座った。アイスと言うよりも氷の塊が棒に突き刺さっているというような感じだった。食べる時に自分の魔術に合ったアイスに変化する、と氷術士は言っていた。

 「いただきます」

  そう言うとアイスの色が変化した。ベティはアイスを食べた途端に叫んだ。

 「美味しい!何これ!めっちゃ美味しい!」
 「……俺のアイス真っ黒になっちゃったんだけど」
 「……俺なんか消えたぞ」
 「……消えた?!レン、消えたってどういうことだ?!」

  レンの手には棒しか無かった。レンは恐る恐る棒に触ろうとすると、見えない冷たい物体に手が触れた。手には黒っぽい色の水が付着した。

 「やっぱり黒だな、レンのも。何か俺達ってこういう時損している気がする……ってうま!チョコの味だ!」
 「じゃあ俺ももしかしたら……酸っぱ!何だこれ?!酸っぱ!」
 「何回言ってんのよ」
 「ベリーみたいな味がする……ブラックベリーかな」
 「こんなものよく考えたよね、あの氷術士も」

  ベティは笑いながら言うと、ツバサに自分のアイスを向けて食べるか、と尋ねた。ツバサは首を振った。

 「えー食べないの?ほら、一口」
 「結構です」
 「何でよ美味しいのにー食べかけは嫌?」
 「だ、だって何か火花出てるしそれ」

  ツバサが指さすと、バチバチとベティのアイスから火花が散った。ベティは今気づいたような顔をした。

 「なるほどね。ツバサのベロが火傷じゃ済まなかったかも」
 「さらっと怖いこと言うなよ……」

  その様子を眺めていたレンはいたずらっぽそうな目でツバサのことを見る。ツバサはむっとして視線をそらした。アイスをたいらげると3人はいつの間にか砂浜に横になっていた。さらさらとしている砂は気持ちが良い。少し砂浜は温かいが、時折吹く風が涼しく感じた。

 「アルルも来れば良かったのになー」
 「ねー。凄い快適ねー」
 「やっぱり結果レンが一番可哀想だよなー」
 「こうやって休めるの、ほぼ無かったよね」
 「……ふう」

  レンがハコを咥えたまま黙りこくってしまい、ツバサが今までと同じトーンで付け加えた。

 「今度は遊び目的で来るのも良いかもなー」
 「良いわねー」
    「ったくお前は寝ながらハコを吸うな。そんな姿アルルに見られたら終わりだぞ」

  ちょうどその時、連絡鳥であるチリフがレンの元へ飛んできた。
  レンが体を起こすと、メモが開かれ、アルルの顔が現れた。

 「アルル!」
 「はぁ……やっとかかった!……その格好は何?」
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