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6章 要塞
#39 殺すのは俺だ
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スズナはまた猛スピードで戻ってくると、下の階にいたアース人に声をかけた。
「怪我人を運ぶの手伝って!!」
レンの怪我は酷いものだった。右足、右肩、左目の3ヶ所が緑色に染まっていた。足、肩は何とかなったものの、目だけは時間がかかった。目から毒を抽出するのは、肩や足と違って強烈な痛みを共にしたからだ。
レンが苦しそうに声を上げる度に、スズナは泣きそうな顔になった。
「ごめんなさい、私が力不足のせいで」
スズナが抽出をする横で、少しでも痛みが和らぐようにとベティが治癒魔術をかけていたが、痛みはそんなもので癒されるほど軽いものではなかった。
レンは痛みで自然と目に涙が溜まり、右目は充血して真っ赤になっていた。
「私がアルルだったら、もうちょっとマシだったかもね」
ベティが元気づけるようにジョークを口にすると、レンは少し鼻が詰まった声で答えた。
「アルルとは魔術の相性はあんま良くなくてね。ベティで良かったよ、逆に」
「……レンさん、あともうちょっとです」
「また1人、新しい恩人が出来ちゃったみたいだな」
「レンさんだって、私にとっては恩人みたいなものですよ」
スズナが治療中にレンへ向ける眼差しには特別な好意がこもっているとベティはつくづく感じた。レンの治療は何とか終わったが、レンは左目が少し見えにくくなったと言った。
「そんな大したことないから」
「でも、実際に左目の毒だけ取り出すのに苦戦しました。何だか、魔術の中に憎しみが込められていて」
「憎しみか。……まあ、恨まれても仕方ないよな」
「……誘拐されたお友達、助けに行くんですか?」
「ああ、レイナ嬢のことか。ツバサやアルルが多分連れて帰ってくるんじゃ……」
「……ツバサ達の事なんだけど。スズナが言うには、捕まった可能性が高いかもってさっき……」
ベティがそう口を挟むと、レンは顔つきを変えた。正直なところ、レンはまだ病み上がりだ。辺りはいつの間にか深夜0時を越えていた。
「……真夜中の間は俺は結構戦える。ベティはどうだ?」
「私はまだちゃんと魔術を使って戦ってないわ。全然大丈夫よ」
「よし、じゃあもう1回行くか」
「貴方達、どうかしてます」
スズナがため息混じりに言うと、レンとベティは少し笑った。
治癒魔術のお陰で、ツバサは少し歩けるようにはなっていた。魔術を使ったせいで今度はアルルの体力がかなり消耗していた。人が居なくなったフロアを通り過ぎて、2人はたくさん扉がある廊下に出会った。
「……魔力は何も感じない。というよりも、防術壁かしらね」
「分からん。もう意識が朦朧としてて何が何だか」
「……ねえツバサ。何だか昔に戻ったみたいじゃない?」
アルルはもう一度ツバサの腕を肩にかけ直すと言った。
「……何で」
「昔、私達はずっと2人っきりだったよね。こんな瀕死の状態になったことなんか、無かったけど」
「本当それな。一体誰のせいでカーティスの組織なんかに……」
「元はと言えばツバサが悪いんでしょ!レイナをハメようとするから!もうあのニセレンが登場してきた時点で私達ハメられてたのよ」
「レイナ……?そういや、あのクソ女ってどうなったんだ?」
「わかんない。……助けてあげる?」
「何であんな奴」
「レイナはあんたの悪戯に巻き込まれたんでしょ。……それに、レイナがもしもベティに絡んでなかったらベティは私達のチームには居なかったかもしれないでしょ」
「何でベティが出てくるんだよ」
「ベティを贈ってくれたのはレイナかもしれないよって言ってるの。だったらレイナを助けに行かなきゃ」
「アルルは、アルルはね、優しすぎるんだよ。もうちょっと心を鬼にした方が良いよ」
2人は前方に血を流して倒れている男が居るのに気付いた。男は這って移動してきたようで、血がその道筋を示していた。男は2人の足音に気づいたが、何も攻撃をすることなく一人で笑っていた。
「こんな風にぶちのめされたのは久しぶりだなぁ……しかも治癒魔術が効かない傷だよ、これ。まさか最終兵器が地球製の拳銃だとは……おかしくて腹が痛いよ」
わざとらしく独り言を言っている男の横を、2人は無言で通り過ぎようとした。男は目を腕で被ったまま、ツバサに尋ねてきた。
「君、ツバサ君だろ。ボスの息子さんだろ?ありがとね、女の子紹介してくれて。キスは下手くそな子だったけど、誘い方は10点中8点って感じだった。本当に一発やろうかと思ったよ」
「……そう」
「レイナちゃんはね、真っ直ぐ行って右手の部屋の中に居るよ。何にもしていない、ずっと放っておいた。一人で逃げちゃってるかもしれないけど、その後までは俺も保証できないから」
「ご親切にどうも」
「……君はどうしてレンと行動を共にしているんだい」
ツバサはそこで足を止めた。アルルも驚いたような顔をして男の方を見る。ツバサは横たわっている男とバッチリ目が合った。
「レンと戦ったんだ、あんた。それで負けたんだ?」
「どうかな。引き分けかもしれない。レン君は落っこちてった、下に。残念ながら、俺はこれでは勝ったとは言えないからな」
「レン、強かっただろ」
「ああ。噂通り。楽しませて貰ったよ」
「レンは強いんだ。だからお前らみたいな無名の魔術士には殺らせない。レンを殺すのは俺だ」
「俺は無名でもないんだけどねー。俺はカーター、覚えといてよ」
カーターはVサインをして笑って見せた。恐ろしいほどの生命力だ、とツバサはつくづく思った。カーターは付け加えるようにして言った。
「後それからツバサ君!その右の彼女、ちゃんと守ってやれよ!頼んだぞー」
「おう、任せとけ」
ツバサは背中を向けたまま手を振った。男からだいぶ離れたところで、アルルはツバサにささやいた。
「レンを殺すってどういうこと?」
「そんなの嘘に決まってるだろー?そんなことしたら俺がお前に殺されるだろうが」
「じゃ、じゃあ最後のやつは?」
「最後のやつ?」
「私のこと、守ってってやつ」
少し間を置いてから、ツバサは前を見たまま答えた。
「……本当に決まってるだろ」
ツバサの口元は少し緩んだ。そして、レイナのいる部屋のドアを思い切り足で蹴って壊した。
「怪我人を運ぶの手伝って!!」
レンの怪我は酷いものだった。右足、右肩、左目の3ヶ所が緑色に染まっていた。足、肩は何とかなったものの、目だけは時間がかかった。目から毒を抽出するのは、肩や足と違って強烈な痛みを共にしたからだ。
レンが苦しそうに声を上げる度に、スズナは泣きそうな顔になった。
「ごめんなさい、私が力不足のせいで」
スズナが抽出をする横で、少しでも痛みが和らぐようにとベティが治癒魔術をかけていたが、痛みはそんなもので癒されるほど軽いものではなかった。
レンは痛みで自然と目に涙が溜まり、右目は充血して真っ赤になっていた。
「私がアルルだったら、もうちょっとマシだったかもね」
ベティが元気づけるようにジョークを口にすると、レンは少し鼻が詰まった声で答えた。
「アルルとは魔術の相性はあんま良くなくてね。ベティで良かったよ、逆に」
「……レンさん、あともうちょっとです」
「また1人、新しい恩人が出来ちゃったみたいだな」
「レンさんだって、私にとっては恩人みたいなものですよ」
スズナが治療中にレンへ向ける眼差しには特別な好意がこもっているとベティはつくづく感じた。レンの治療は何とか終わったが、レンは左目が少し見えにくくなったと言った。
「そんな大したことないから」
「でも、実際に左目の毒だけ取り出すのに苦戦しました。何だか、魔術の中に憎しみが込められていて」
「憎しみか。……まあ、恨まれても仕方ないよな」
「……誘拐されたお友達、助けに行くんですか?」
「ああ、レイナ嬢のことか。ツバサやアルルが多分連れて帰ってくるんじゃ……」
「……ツバサ達の事なんだけど。スズナが言うには、捕まった可能性が高いかもってさっき……」
ベティがそう口を挟むと、レンは顔つきを変えた。正直なところ、レンはまだ病み上がりだ。辺りはいつの間にか深夜0時を越えていた。
「……真夜中の間は俺は結構戦える。ベティはどうだ?」
「私はまだちゃんと魔術を使って戦ってないわ。全然大丈夫よ」
「よし、じゃあもう1回行くか」
「貴方達、どうかしてます」
スズナがため息混じりに言うと、レンとベティは少し笑った。
治癒魔術のお陰で、ツバサは少し歩けるようにはなっていた。魔術を使ったせいで今度はアルルの体力がかなり消耗していた。人が居なくなったフロアを通り過ぎて、2人はたくさん扉がある廊下に出会った。
「……魔力は何も感じない。というよりも、防術壁かしらね」
「分からん。もう意識が朦朧としてて何が何だか」
「……ねえツバサ。何だか昔に戻ったみたいじゃない?」
アルルはもう一度ツバサの腕を肩にかけ直すと言った。
「……何で」
「昔、私達はずっと2人っきりだったよね。こんな瀕死の状態になったことなんか、無かったけど」
「本当それな。一体誰のせいでカーティスの組織なんかに……」
「元はと言えばツバサが悪いんでしょ!レイナをハメようとするから!もうあのニセレンが登場してきた時点で私達ハメられてたのよ」
「レイナ……?そういや、あのクソ女ってどうなったんだ?」
「わかんない。……助けてあげる?」
「何であんな奴」
「レイナはあんたの悪戯に巻き込まれたんでしょ。……それに、レイナがもしもベティに絡んでなかったらベティは私達のチームには居なかったかもしれないでしょ」
「何でベティが出てくるんだよ」
「ベティを贈ってくれたのはレイナかもしれないよって言ってるの。だったらレイナを助けに行かなきゃ」
「アルルは、アルルはね、優しすぎるんだよ。もうちょっと心を鬼にした方が良いよ」
2人は前方に血を流して倒れている男が居るのに気付いた。男は這って移動してきたようで、血がその道筋を示していた。男は2人の足音に気づいたが、何も攻撃をすることなく一人で笑っていた。
「こんな風にぶちのめされたのは久しぶりだなぁ……しかも治癒魔術が効かない傷だよ、これ。まさか最終兵器が地球製の拳銃だとは……おかしくて腹が痛いよ」
わざとらしく独り言を言っている男の横を、2人は無言で通り過ぎようとした。男は目を腕で被ったまま、ツバサに尋ねてきた。
「君、ツバサ君だろ。ボスの息子さんだろ?ありがとね、女の子紹介してくれて。キスは下手くそな子だったけど、誘い方は10点中8点って感じだった。本当に一発やろうかと思ったよ」
「……そう」
「レイナちゃんはね、真っ直ぐ行って右手の部屋の中に居るよ。何にもしていない、ずっと放っておいた。一人で逃げちゃってるかもしれないけど、その後までは俺も保証できないから」
「ご親切にどうも」
「……君はどうしてレンと行動を共にしているんだい」
ツバサはそこで足を止めた。アルルも驚いたような顔をして男の方を見る。ツバサは横たわっている男とバッチリ目が合った。
「レンと戦ったんだ、あんた。それで負けたんだ?」
「どうかな。引き分けかもしれない。レン君は落っこちてった、下に。残念ながら、俺はこれでは勝ったとは言えないからな」
「レン、強かっただろ」
「ああ。噂通り。楽しませて貰ったよ」
「レンは強いんだ。だからお前らみたいな無名の魔術士には殺らせない。レンを殺すのは俺だ」
「俺は無名でもないんだけどねー。俺はカーター、覚えといてよ」
カーターはVサインをして笑って見せた。恐ろしいほどの生命力だ、とツバサはつくづく思った。カーターは付け加えるようにして言った。
「後それからツバサ君!その右の彼女、ちゃんと守ってやれよ!頼んだぞー」
「おう、任せとけ」
ツバサは背中を向けたまま手を振った。男からだいぶ離れたところで、アルルはツバサにささやいた。
「レンを殺すってどういうこと?」
「そんなの嘘に決まってるだろー?そんなことしたら俺がお前に殺されるだろうが」
「じゃ、じゃあ最後のやつは?」
「最後のやつ?」
「私のこと、守ってってやつ」
少し間を置いてから、ツバサは前を見たまま答えた。
「……本当に決まってるだろ」
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