魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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5章 氷民族

#21 日常的非日常

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  「まさかアース人しか居ないとはな」

  ツバサの目の前には母親と父親違いの兄と姉が倒れていた。知らない魔術士の集団は突然やってきた。幼いアスカは震えてツバサの腕にしがみついた。

 「さあ次はカーティスのガキどもの番かな? 俺達の辛さをお前らにも分からせて……あっ……何だ……」

  集団の1人がいきなりばたりと倒れた。後ろにはツバサとアスカの父親カーティスが立っていた。カーティスは一瞬にして集団を殺した。それを子どもたちは強ばった様子で見ていた。
  騒ぎが静まった後、カーティスはこちらへ歩み寄ってきた。彼は決して良い父親ではなかった。怖かったろう、と子ども達を抱きしめるような父親では無かった。カーティスはツバサとアスカの頬を平手打ちした。

 「どうしてだ!!!」

  震える唇をぐっと噛み締め、今にも泣きそうになっているアスカの手をツバサはぎゅっと掴んだ。

 「どうしてお前らが居るのに、死んでるんだ! どうして戦わなかった? 魔術士はお前らだけだと言うのに! こんな弱々しい魔術士がどこにいるって言うんだ!!」
 「で……でも……でも……アスカ、怖かった……」
 「怖い? 怖いからって母親と兄弟を皆殺しされているのをただ黙って見ているのかお前らは!!」

  カーティスはツバサに目をやると、その洋服を乱暴に掴んだ。

 「サングスターの名に恥じるぞお前は! お前らは家族を守れなかった! お前らは負けたんだよ!!」
 「俺はツバサだ! アスカはアスカだ! サングスターなんて俺達には関係ねえ! ろくに戦い方も教わってないのにどうやって戦えって言うんだよ! どうやって……」

  その時息をしていない母親の遺体が目に入り、ツバサは自然と涙が溢れ始めて妹よりも先に泣きわめいた。

 「情けない。話にならない」

  カーティスはそう言い捨てると、家から出ていった。それから父親は家には帰ってくることは無かった。父親が死んだと知らされた時はざまあみろとツバサは思っていた。生きていない方が良かった。むしろ死んでいた方がせいせいした。



 「うわっ!!」

  ツバサは飛び起き、辺りを見回した。特に何も変わらない自分の部屋だ。

 「嫌な夢だな」

  いつも通り朝食を取り、掃除をして部屋を出た。
  学校は明日からだった。だからと言って依頼を引き受けたと言うわけでもなかった。部屋にずっと居るのだけは退屈である。散歩がてらにツバサは宿舎から外へ出た。

 「あ、ルーク」
 「おう」

  すっかり打ち解けたルークはこちらに気づくと片手を上げて反応した。どうやら彼も今日は仕事がオフらしい。

 「図書館の仕事は休み?」
 「ああ。元々あれは本業じゃないからな。俺は学生」
 「そうなの?!」
 「そんなに老けて見えたのかよ」

  ツバサはふとこの間のアースの一戦のことを思い出した。ルークと融合魔術を完成させた時、ルークと魔術の相性が合う、とツバサは感じたのだ。チームに入って欲しかった。だが、ルークは悪いね、と言って手を振った。

 「僕もうチームには一応入ってるんだ。兼部は辛いからさ」
 「そうなの?!」
 「何で驚くんだよさっきからリアクションが過剰だな」
 「なんてチームだ?」
 「チームって言うか……団体かな。大体1人で仕事をしている奴はそこの団体に属している奴が多いと思う。王宮公認の魔術士団体だ」
 「王宮公認?!お前意外と凄いんだな!」
 「ま……まあ……僕は司書の資格を持っているのは確かだけど、本命は司書じゃなくてあそこに納められている図書達だ。図書こそ情報の倉庫だからな」

  返す言葉が見当たらなくなり、ツバサが黙っているとルークは明るい声で言った。

 「僕の力が欲しくなったらいつでも相談してくれよ。高確率で一緒に行ってやるから。まあ報酬次第だけどな」
 「流石だぜルーク様様」
 「僕達は同じ一族でもあるし、助け合っていかないとな」
 「ああ」

  ルークは手を振ってサークル帝国の方角へ歩いていってしまった。リッチェルに会いに行くのだろう。それからしばらくツバサは1人でうろうろとレクタングルの街を歩いた。すれ違う若い魔術士は皆、友達と一緒に笑い合っている。何回か学校で見かけたことのある魔術士も1人で歩いていたりしたが、誰もツバサに声をかけてくることは無かった。
  祈祷師に激しい訓練はまだ控えるように、と言われていたが、そんなことはお構い無しに学校の訓練所へ行き1人で訓練に明け暮れた。
  チームが出来たからこそ、もっと強くならなければいけない。狩人の一件のようにベティを守ろうとして結局レンに横抱きにされて逃げたなんて情けなさすぎて話にもならない。

 「話にならない、か」

  またカーティスのことを思い出す。ツバサは舌打ちをすると、訓練所を後にした。シャワーを浴びて汗だくになった体を洗い、帰ろうとした時名前を呼ばれた。
  普段人にあまり声をかけられないツバサは少し驚いて振り向いた。それも、女の声だったからだ。しかしその顔を見て、ツバサは期待していた気持ちが一瞬にして冷めた。

 「ツバサ君、とうとうチームは解散したの?ベティとは仲良くやってる?」
 「俺はあんたらのチームの評判は聞かないね。というか名前すら知らないけど」
 「あんたのチームに良い男居るでしょう?」
 「何それー俺のこと?」

  ツバサが嫌味たらたらで答えると少女は睨みつけた。彼女はかつてベティに嫌がらせをしていた女子グループのリーダー格である。モデル体型の彼女はすらりと背が高く、悔しいことにツバサと対して身長が変わらなかった。

 「てかお前名前なんて言うんだっけ」
 「レイナよ! レイナ・ボワー!!」
 「はいはいわかったわかった。ちゃんと名前は覚えたから。で、レイナちゃんは俺のことを口説きに来たってことね?」
 「違うわよ。あんたなんかに興味無いわ。私が興味あるのは、いつもアルルと一緒にいる男の子のこと」
 「へーお前"ああいうの"がタイプなの?」
 「お前って呼び方やめてくれる?」
 「あいつはアルル一途なんだよ。振り向いて欲しいんなら第2のアルルに生まれ変わりでもしたら? そうしたらキスくらいはしてくれるかもよ」
 「あんた私のこと馬鹿にしてるでしょ」
 「あんたって呼び方やめてくれるー?」

  ツバサは自分からレイナから逃げた。もうこれ以上面倒くさいことには構っていられないのだ(訓練後でとても腹が減っていたということもある)。
  学校の近くにあるベティのレストランに入ると、ベティはすぐに気づいて出迎えた。

 「今日は1人なのね」

  ティータイムぎりぎりに行ったせいで、客はほとんど居なかった。もう1人の店員が気を利かせてベティに早めの休憩をさせてくれた。ベティはツバサの前に座った。おやつのお店お手製クッキーが乗った皿を置き、1枚かじった。ボロボロとこぼれ、ベティは半ば気恥しそうに払い除けた。ツバサが何事も無かったかのように口を開く。

 「ベティこの後も仕事?」
 「え? ううん。もう終わるし、夜はバイトの子が来るからフリーよ」
 「じゃあ俺暇だからさぁ、デートしようよ」
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