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4章 地球
#20 決断
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「……また右腕だけ怪物化したの? 大丈夫なの、お兄ちゃんそれ……」
「分かんない。でも怪物化すると強くなるのは確かなんだけど、体に来る負担が凄くてさ。昨日は本当にあのお姉さんの言った通り死ぬかと思ったよ」
「リッチェルをさらったお姉さんって何者なの?」
「何かよく分からねえ。でも俺の名字を知ってたんだ。邪悪な魔力だとか何とか言ってさ。俺の魔術邪悪なのかな? アスカとルークは全然怪物化なんかしないだろ」
「しないけど……。やっぱりお父さんに会って聞いた方が良いのかな」
「父さんは俺達の事を見捨てたんだから放っておけば良いんだよ」
「だけど、お兄ちゃんが魔術使いすぎると命の危険にさらされることとか、怪物化することとか、一族……サングスターに関係する事だったら……お父さんしか分からないよ! ルークは知らないっぽかったんでしょ? 他にサングスターの人なんて居ないじゃない」
レンは後ずさりした。そして宿舎の出口へと真っ直ぐ向かっていった。魔術が発動しそうになるのを必死に堪える。自分の腕を強く握りしめ、レンは呼吸を整えた。
サングスター。聞きたくない単語だった。レンの頭の中に様々な記憶が浮かび上がった。レンはぼーっとしながら家に帰った。
「サングスター一族の言う事が聞けないのか? お前らは仲間の名前を吐けば良いんだよ、そうすりゃいくらでも自由にしてやるしここからだって出してやる」
男達の恐ろしい声をレンは思い出した。幼い頃に大嫌いだった声だ。レンの最も古い記憶には格子が常にあった。毎日毎日恐怖で涙を流した。そんなレンを支えたのは両親という存在だった。
父親はレジスタンスのリーダーだった。レン達、囚われていたグレイ一族は脱出作戦を実行した。父親は犠牲となったが、レンは母親と2人でアースで生活することを決意したのだ。
しかし、そんな平和な日々はいつまでも続かなかった。レンがイングランドの中学校から帰宅した時、母親は家で倒れていた。既に息はしていなかった。レンはその数日後、アルルに別れを告げて別世界へ旅立った。両親を殺した"殺し屋グループ"に復讐するために。そのグループに所属する魔術士は皆、サングスターの人間だった。
「信じられない……ツバサがサングスターの人間だなんて……」
ツバサは元から自分のことを知っていて近づいてきたのかもしれない。ツバサとアルルがどう知り合ったかなんてレンは知らない。レンよりも前なのか後なのか、そんなことも分からない。本当はもう、自分の正体に気付いているのかもしれない。
考え出すとキリがなかった。情けないことに悪いことばかりが頭に浮かぶ。これまで依頼をともに引き受けたチームの仲間だったのに、それが全て偽りに感じてならない。
レンはいつの間にか泣いていた。部屋の明かりをつけないまま、声を出さずに泣いた。悔しくてたまらなかった。
その夜色々と考えた末、翌日にアルルの部屋を訪ねた。
「レン、おはよう。朝からどうしたの?」
「……話があるんだ。こんな朝からごめん」
「気にしないで。レンが来るのはいつでも大歓迎だから」
アルルが部屋に通しドアを閉めた時、レンは堪えきれずにアルルのことを黙って抱きしめた。アルルはきょとんとしていたが、抵抗することなく抱きしめられていた。
自分の気持ちを確かめるようにレンは抱きしめたまま言った。
「やっぱり俺、アルルが好きだ」
「うん」
アルルは静かにうなずくと、その手で抱きしめ返した。レンは体を離して、そしてまっすぐに言った。
「しばらく旅をしないか。……俺とアルル、2人だけで」
「分かんない。でも怪物化すると強くなるのは確かなんだけど、体に来る負担が凄くてさ。昨日は本当にあのお姉さんの言った通り死ぬかと思ったよ」
「リッチェルをさらったお姉さんって何者なの?」
「何かよく分からねえ。でも俺の名字を知ってたんだ。邪悪な魔力だとか何とか言ってさ。俺の魔術邪悪なのかな? アスカとルークは全然怪物化なんかしないだろ」
「しないけど……。やっぱりお父さんに会って聞いた方が良いのかな」
「父さんは俺達の事を見捨てたんだから放っておけば良いんだよ」
「だけど、お兄ちゃんが魔術使いすぎると命の危険にさらされることとか、怪物化することとか、一族……サングスターに関係する事だったら……お父さんしか分からないよ! ルークは知らないっぽかったんでしょ? 他にサングスターの人なんて居ないじゃない」
レンは後ずさりした。そして宿舎の出口へと真っ直ぐ向かっていった。魔術が発動しそうになるのを必死に堪える。自分の腕を強く握りしめ、レンは呼吸を整えた。
サングスター。聞きたくない単語だった。レンの頭の中に様々な記憶が浮かび上がった。レンはぼーっとしながら家に帰った。
「サングスター一族の言う事が聞けないのか? お前らは仲間の名前を吐けば良いんだよ、そうすりゃいくらでも自由にしてやるしここからだって出してやる」
男達の恐ろしい声をレンは思い出した。幼い頃に大嫌いだった声だ。レンの最も古い記憶には格子が常にあった。毎日毎日恐怖で涙を流した。そんなレンを支えたのは両親という存在だった。
父親はレジスタンスのリーダーだった。レン達、囚われていたグレイ一族は脱出作戦を実行した。父親は犠牲となったが、レンは母親と2人でアースで生活することを決意したのだ。
しかし、そんな平和な日々はいつまでも続かなかった。レンがイングランドの中学校から帰宅した時、母親は家で倒れていた。既に息はしていなかった。レンはその数日後、アルルに別れを告げて別世界へ旅立った。両親を殺した"殺し屋グループ"に復讐するために。そのグループに所属する魔術士は皆、サングスターの人間だった。
「信じられない……ツバサがサングスターの人間だなんて……」
ツバサは元から自分のことを知っていて近づいてきたのかもしれない。ツバサとアルルがどう知り合ったかなんてレンは知らない。レンよりも前なのか後なのか、そんなことも分からない。本当はもう、自分の正体に気付いているのかもしれない。
考え出すとキリがなかった。情けないことに悪いことばかりが頭に浮かぶ。これまで依頼をともに引き受けたチームの仲間だったのに、それが全て偽りに感じてならない。
レンはいつの間にか泣いていた。部屋の明かりをつけないまま、声を出さずに泣いた。悔しくてたまらなかった。
その夜色々と考えた末、翌日にアルルの部屋を訪ねた。
「レン、おはよう。朝からどうしたの?」
「……話があるんだ。こんな朝からごめん」
「気にしないで。レンが来るのはいつでも大歓迎だから」
アルルが部屋に通しドアを閉めた時、レンは堪えきれずにアルルのことを黙って抱きしめた。アルルはきょとんとしていたが、抵抗することなく抱きしめられていた。
自分の気持ちを確かめるようにレンは抱きしめたまま言った。
「やっぱり俺、アルルが好きだ」
「うん」
アルルは静かにうなずくと、その手で抱きしめ返した。レンは体を離して、そしてまっすぐに言った。
「しばらく旅をしないか。……俺とアルル、2人だけで」
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