魔術じゃ呪いに打ち勝てない

琥珀

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3章 狩人

#13 暴走花と狩人と魔術士

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 ツバサがいきなり花の怪物とは逆の方向に走っていった。しかし、花の怪物は地面から飛び上がりツバサの前に立ち塞がった。

 「何だこの花!! 空まで飛びやがった!」
 「こんなデカブツの相手している間に、あいつはきっとベティを探しに行くはずよ!一刻も早く"この人"を何とかしなきゃ!」

  ツバサの後をアルルとレンは追いかけてきていた。するとツバサが言った。

 「狩人は魔法の矢で物を操ってるんだ。だからあの刺さっている矢を抜けば、花は元通りになるはずだ」
 「そんなことが簡単にできたらの話だけど……ね!!」

  ツバサ達を潰そうと叩きつける葉から何とか避けながら、どう近づこうかとそれぞれ考えた。花の怪物が暴走する振動で、周りにいた人々が顔を覗かせては逃げていった。

 「アルル! レン! フラワーモンスターのことは頼んだぞ! 俺は狩人を捕獲してくる!」
 「ええっ一人で?!」

  そう、一人で。金欠だからこそ報酬が欲しくて仕方が無いということもあるが、何よりも戦いたくてうずうずしていた。
  狩人は待ち構えているかのように、こちらに向かって突っ立っていた。背中に弓矢を担ぎこちらを黙って伺っていた。アスカの噂通り、4本の足はヒヅメだった。上半身の凛々しい肉体と整った顔を見て、ツバサは思わず言った。

 「賢人なケンタウロスが何で暗殺者になんかなっちまったんだか」
 「我は我の任務を遂行しているのみっ! 対象外の者はあまり殺したくないのだがっ! 我の道を邪魔する者は遠慮なく成敗させていただくっ!」

  兵隊のように堂々と声を上げて狩人は答えると、背中に担ぐ弓矢を構えた。それを見てツバサも手に力を込め、意識を集中させた。徐々に拳から黒い光がもれだし、輝いた。
  狩人はまっすぐ矢を放った。1本だと思っていた矢が分裂して、数十本になってツバサに向かって飛んでくる。

 「何っ?!」

  ツバサは慌ててバリアを作った。ツバサのバリアにぐにゃんと矢は刺さり、萎れるようにして地面に落下した。その時背後から狩人が突進してきた。ツバサは地面を転がるようにして避けた。
  すぐさま体勢を整え直し、また手に力を込める。手に溜まった2つのエネルギー源を狩人の前足に向けて、ツバサは思いきり投げつけた。

 「転べコラーー!!!」

  狩人は前から転び顔面を地面に強打した。そのせいなのか、狩人は目を回し地面に突っ伏したままになった。



  一方その頃、怪物と戦っていたアルルとレンは矢を抜こうと必死になっていた。

 「暗くて全然見えない!」
 「アルル! 俺が姿を消して怪物に近づく! だから君は力を貯めていて!」
 「わかった! とびきりでっかいの貯めておくね!」

  そう返事をしてアルルは空に向かって両手を伸ばした。真っ暗だった辺りが一気にアルルの魔術で照らされる。レンは闇のミストを発動させて、その霧とともに姿をくらませた。モンスターの背後までやってきた頃、アルルの魔術を感じた。全身に鳥肌が立った。

 「何だ……この感覚は……」

  不思議なくらいに冷や汗までかいている。ぼーっとしている場合ではない。レンは姿を消したまま、モンスターの丈夫な硬い葉に捕まり矢が刺さっている茎の元へと登っていった。花が巨大化したせいで、魔法の矢はただの棒のように見える。
  矢の前まで来ると、レンは姿を現した。そしてそっと魔法の矢に触れる。特に何も起きない。ただの矢だった。

 「……っ!! 駄目だ、綺麗にハマってるな」

  レンは右足を上げて茎を押しながら、矢を思いきり引っ張った。その時、モンスターが動き出してレンは慌てて矢を掴んだ。
  レンはちらりと茎の影からアルルの方を見た。しかしすぐに顔を引っ込め、目を手で覆った。アルルは頭上に特大サイズの光のエネルギー源を作っていた。両手を伸ばし、顔も光に向けながらアルルは目を閉じて深呼吸をしていた。

 「行け」

  ばっとアルルは目を見開いた。青い瞳は眩しい光によってきらきらと輝いている。アルルは伸ばしていた両手をモンスターとレンに向かって振りかざした。
  レンは辺りがアルルの魔術――光り輝く天術――で包まれる時、微かに自分の血がざわついたような感覚を覚えた。天術は花に命中して、矢がその反動でスポンと抜けた。それと共にレンも宙に投げられた。花は元の小さな大きさに戻り、魔法の矢は効果を無くして砂になり消えていった。レンは地上に落下した。

 「レン! 大丈夫?」
 「ああ……何とかね……」
 「……やり過ぎちゃったかな?」

  アルルはおどけてそう言った。その時、アルルの後ろを疾走しているベティのダミーの姿をレンはとらえた。
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