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第3話 僕だけの特別
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あの日以来、僕達は何かと話すようになり、先輩は図書館に僕だけだと暑い日にはネクタイを緩めるようになった。それがなんだか僕だけが特別に許されているような気がして嬉しかったのだ。
すっかり季節は秋となり、先輩が暑いねと呟く事もなくなった。もちろんブレザーが椅子の背もたれに掛けられる事も、制服を崩す先輩の姿も見る事はなくなった。
午後五時を報せる町内放送が微かに図書館内にも届くと、先輩は慌てた様子で参考書を閉じると荷物をまとめ始めた。あまりに慌てているものだから、つい
「あ、椅子とか、僕、やっておきますから」
図書委員らしく声をかけた。
先輩は一瞬、動きを止めて
「ごめんね。答辞の練習なんだ!」
と顰めっ面をしつつも嬉しそうに早足で図書館を出て行く。
「答辞の、練習……ぁ」
担当は現代国語の雪島先生じゃないか。
「ダメ出しばっかりだよ」
と嘆く先輩と、ちらりと見せてもらった赤ペンで細かく書き込まれた原稿用紙を思い出す。
「先輩、ホントに答辞読むんだぁ……」
僕のバカみたいな独り言は、僕が独占している茜色に染まった空間に吸い込まれて消えた。
すっかり季節は秋となり、先輩が暑いねと呟く事もなくなった。もちろんブレザーが椅子の背もたれに掛けられる事も、制服を崩す先輩の姿も見る事はなくなった。
午後五時を報せる町内放送が微かに図書館内にも届くと、先輩は慌てた様子で参考書を閉じると荷物をまとめ始めた。あまりに慌てているものだから、つい
「あ、椅子とか、僕、やっておきますから」
図書委員らしく声をかけた。
先輩は一瞬、動きを止めて
「ごめんね。答辞の練習なんだ!」
と顰めっ面をしつつも嬉しそうに早足で図書館を出て行く。
「答辞の、練習……ぁ」
担当は現代国語の雪島先生じゃないか。
「ダメ出しばっかりだよ」
と嘆く先輩と、ちらりと見せてもらった赤ペンで細かく書き込まれた原稿用紙を思い出す。
「先輩、ホントに答辞読むんだぁ……」
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