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皇帝陛下は○○厨

不穏な贈り物2

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「よく聞け、ベネトナーシュ」

静かに凪いだお父様の声が、諭すように言う。

「先日の暗殺者……アレを内部から手引きした者を我々は未だ特定出来ていない。今回は中々頭の回る奴がバックに付いているようでな、手間取っているというのが正直な話だ」

曰く、皇族付き騎士団の中では最弱の部類であっても、私の警備を担当していたのは比類なき強さを誇る帝国騎士団の中でもトップクラスの実力、品格、身分まで兼ね備えた選ばれし騎士達。

職務に忠実な彼らの目を掻い潜り、皇女宮に暗殺者が入り込むことは本来であれば難しい。
今回は警備している騎士達が交代する隙をついて入り込んでいたことまでは分かっているらしいが……そのような情報を知っているのは、皇族付き騎士団の幹部と傍仕えの中でも一握りの者だけ。

ちなみに警備担当の騎士達は皆隊舎で生活し、突然交代のお呼び出しがかかるシステムなので交代時はどうしても人が動くため隙が生まれてしまう。そのため、非常に高度な機密情報として扱われているのだ。

それが暗殺者側に知られてしまったということは、皇女宮でも重要なポストにいる者……もっと言えば、上級貴族あたりが絡んでいる可能性が非常に高いそうな。幹部連中は軒並み高位の爵位持ちだからだ。

しかし踏み込むには確固たる証拠のない状況では難しい。お父様自身は捜査に非協力的な者は皇族に対して謀叛ありとして首を(物理で)飛ばそうと考えていたそうだが……宰相様に止められてしまったらしい。

そりゃそうだ。上級貴族といえば歴史ある名家が多く、その分プライドが高い。
証拠もないのに疑いをかけられた上、捜査という名目で周囲を嗅ぎまわられれば良い気分はしないだろう。

繰り返してきた侵略戦争によって外に敵の多いスターリア帝国において、内部の結束は必至。
だからこそ、上級貴族の自尊心を損ねるような行為は極力控えるべきだと私は考えている。今回の件のように一方的に皇族が強権を振るえば、下手をすると自国貴族と軋轢を生みかねない。そしてその隙を、他国が見逃すことはないだろう。

まあ今までの皇族の方々の横暴で残虐な振舞いのお陰で、鬱憤が堪りまくっているだろうから……手遅れかもしれないけれど。最弱末っ子皇女としては、これ以上恨みを買うのは勘弁してほしい。

……ありがとう、顔も見たことがないお祖父様。お父様の暴走を止めてくれて。

まだ見ぬお祖父様へそっと感謝を捧げる私。
お父様は無表情だが、微妙に曲がった口の端が今回の件に納得していないことを教えてくれる。

「私はまどろっこしい真似は好かぬ。疑わしいモノなど、全て潰してしまえば楽なものを……どのみち、手引きした者は殺すのだ。死体の数が多少前後したところでなんだと言うのだ」

大問題ですお父様。
どうか他人様のお命をもっと大切にしてください。

この世が可笑しいのか。それとも、皇族の皆さんが可笑しいのか。それとも全てか。とにかくお父様の命に対する、あまりにも軽すぎる評価に私は一生慣れることはないだろう。慣れてもいけないのだけれど。

「宰相の言葉に従うのは癪だが……今、国内が荒れることは私も望まぬところだ」

ため息交じりに言うお父様の節くれだった指先が、私の顎先をスルリと撫でる。
見上げた先にあった切れ長の青い目は、存外に穏やかな光を宿していた。

「お前は我が皇族の血を引いているにしては、随分とぼんやりしているからな。私が庇護するにしても、もう少し育たねばとても乱世を生き抜くことは出来まい」


――――だからまだ、この国を維持する必要がある。

至極当然な顔で語ったお父様は……本当にどうしたのだろうか。今日はちょっとなんだか、全体的に様子がおかしいよ。
相変わらず無表情な、冴え冴えとした怜悧な美貌。過激で、冷酷非道で。随所に伺える血も涙もない人でなしっぷりも通常運転……なんだけれど、所々が変というか。認識しているお父様との齟齬を感じて、落ち着かない気持ちになる。

宰相様の言葉を渋々でも受け入れているのもアレだし……不服そうだけれど、私を心配するような言葉を口にするなんて。

何かあったのだろうか。不安になってお父様を見つめるものの、無表情・無感情がデフォのお父様に対して私の空気読みスキルは沈黙したままだ。


「処罰する者をある程度絞り込むまでには、暫し時間が必要だ。それまでは、敵はお前の近くに居る」

頬をつん、と突く大きな指先。
きっと彼の一突きで私の顔なんて吹っ飛ぶに違いないのに。
不意に気が付いたのだ。お父様は壊れ物を扱うような、慎重な手つきで今、私に触れている。

「四六時中、私が傍でお前を守ることはできない。だから、お前が殺すのだ。時間を稼ぐだけでも良い。お前を害するものを……この腕輪はそれを教えてくれる。お前に、そして私にも」
「あう(お父様)……」

美しく形作られた唇を上げ、凄絶な色香をまとうお父様。
無意識なのか、意識しているのか。無力だと蔑んでいた私を守りたい思ってくれた……言葉にしてくれた、その気持ちは大変ありがたいというか、とんでもない大進歩、達成感を感じずにはいられない訳だけれども。

唯一つ、私は物申したい。
私イズ赤子! 0歳もうすぐ9か月児!

そんな私に暗殺者を撃退できる訳ないでしょうが! むしろこの話、理解出来ていることが奇跡なんだからね!

それとも皇族の皆さんは赤ちゃんでも暗殺者を撃退しちゃったりするんでしょうか……お父様の小難しいお話を理解できたりするんでしょうか。

だとすると、末恐ろしすぎるよ、スターリア皇室一家。

そんな一家を攻略するなんて……とんでもなく無謀な気がしてきて、私は元日本人らしい曖昧な微笑みを浮かべることしかできなかった。 


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感想 1

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みんなの感想(1件)

yume
2021.07.24 yume

とても面白かったです!
普段は専ら恋愛ジャンルを読んでいるのですが、とても面白くて一気に読んでしまいました。
続き楽しみに待っています!
体調には気を付けて頑張ってください、応援しています!

解除

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