元神対応アイドル皇女は悪逆非道な皇帝一家の最推しになりたい

本田 八重

文字の大きさ
上 下
4 / 13
皇帝陛下は○○厨

末っ子皇女の決意

しおりを挟む
思わずぼんやりと見送ってしまった私は、ハッと我に返った。

「あうー!たいたいやー!うがー!(まってー!お母様達を診てくれー!誰かー!)」

きっともう、お母様達は手遅れだろう。けれどこんな、血溜まりの中に朝まで沈めておくことなんて……ッ

どうにかして彼らをお医者さんのもとまで連れていきたい。それが無理だとしても、せめてその体を綺麗にしたかった。

けれど悲しいかな、私は赤子。

駆け寄ることもできず途方にくれていると、部屋の外からガチャガチャと鎧が擦れる音、そして複数の慌ただしい足音が聴こえてきて。

「皇女殿下!ご無事ですか……ッ」
「ベネトナーシュ殿下……!」

暗闇を切り裂いた、眩しいほどに光輝く二つの黄金。

その正体は、私の専属護衛であるスターリア帝国騎士団第七部隊の若き隊長、アル・ファルドの固く結ばれた長い黄金の髪の毛と。

「あぁ、私の可愛いベネトナーシュ殿下、間に合って良かった……ッ」
「あうー!」

ベビーベッドから私を抱き上げ、存在を確かめるように苦しいほどの抱擁を披露する侍女、マルティアの金茶の瞳だった。

ぐりぐりとマルティアが自身の豊満な胸元に私を押し付けている間に、アルの方は部屋の惨状に気付いたらしい。
秀麗な顔を痛ましげに歪め、遅れてきた他の騎士達とともに手早く止血を済ませると、お母様方を医務官の居る天星宮へ運ぶよう指示を出す。

「暗殺者はもう死んでいますが、剣も魔法も使われた形跡がないということはおそらく陛下御自ら……」
「今まで一度として殿下の皇女宮には訪れなかったお方が、まさかそのような」

そのまさかです、マルティア。
ナイスとしか言えないタイミングで、なぜ今まで無関心だったお父様が来たのかは謎だったのだけれど……それは続くアルの言葉であっさり解決した。

「おそらく皇后陛下が身に付けられていたスターリアブルーのネックレスのお陰かと。あれは宝石でもありますが強力な魔石でもあります……生体反応を感知するなんらかの魔法が付与されていたのでしょう」

そしてお母様の生体反応が薄れたのを感じて、様子を見にきたのだろう、とのこと。

反応が薄れる前にどうして助けに来なかったのか……憤りはあるけれど、この王宮では己の身は己で守るのが当たり前。

此処はとにかく弱者に厳しい。力無き者が淘汰されていくのは自然の摂理とさえ思われている。

現代日本で暮らしていた私には、とても受け入れ難い考えだけれど……これがこの国の、皇族の常識。
だからこそ、お母様が私を傍に置き守っていたことは異例中の異例だったのだ。


「たぃう……(お母様……)」


お父様や兄姉たちが死んでしまった母を蔑むことはあれど、悼むことなど……きっと無いのだろう。

だって、お母様自身も少ない魔力しか持たず、さらに体が弱いことで家族から蔑まれ、冷遇されていたのだから。

縁あって家族になったはずなのにね……。

待っていて、お母様。
いつか必ず、私が立派なお墓を立てて、ちゃんと供養するからね。

ほんの短い間しか一緒には居られなかったけれど、私は母の優しさに随分と助けられた。
唯一、私を抱きしめてくれたこの世界の家族。前世の記憶が強すぎて、母というよりも同志というか……同じグループで活動するメンバーのように感じていたことはここだけの秘密で。(もっとも、前世の私はソロのアイドルだったけれど)


私のせいで死んでしまったのだと……後悔するだけでは、お母様の犠牲を無駄にしてしまうようなものだから。

生きるよ。生き延びてみせるよ。
貴女が守ってくれたこの命、無駄になどするものか。

しかし母亡き今、私がこの皇宮で生き残る確率は限りなくゼロに近い。

何故なら、母の性質を受け継いだ私は超がつく虚弱体質。
ちょっと無理をしたらすぐに熱が出るし、風邪なんて日常茶飯事だ。正直、まだまだ免疫の未熟な赤ちゃんの体だし……これぐらい、前の世では普通のことなんだと思う。

が、比較対象はスターリア皇族の子ども達である。
彼らは皆風邪一つ引かないどころか、ぶん投げられても皇宮の建物から突き落とされてもケロリとしているほど頑丈なのだとか。(マルティア情報)
さらに魔法も生まれてすぐに使いこなし、気に入らないことがあればその能力で宮殿を破壊することもざらという。(アル情報)

ちなみに私は魔力はあるのだが、使おうとしたら体が先に悲鳴をあげる……具体的には熱を出したり、吐血したりという残念なポンコツ仕様。

でも。物理的な力は全くない私だけれど……他の兄姉たちにはない、特別な力がある。

前世で数多の修羅場を潜り抜け、地下アイドルからトップアイドルへ上り詰めた私の記憶。そしてその経験によって磨かれたスキル。

叩き上げアイドルだった私は、お父様にも、兄妹にも真似できない方法で生き延びてみせる。


すなわち――――皇帝一家、ベネトナーシュ・アステリ・スターリア皇女最推し化計画である!


『最推し』……それはファンになってくれた人が一番応援している人を表す言葉。

そこには、対象者がどんなにポンコツだろうと、ダメダメだろうと見捨てることなく見守る優しい心と……ともに成長しようとする、尊い支え合いの精神があるのだ。

まさに今、我が家族であるスターリア皇族に足りないどころか、全くないそれら。

芽生えさせてみせようじゃないか。

だって私は、神対応アイドルと呼ばれていた存在。
鍛え抜かれた私の唯一無二の武器・空気読みエアリーディングスキルを駆使した神対応で、必ずや彼らの満足のいく素晴らしい対応を、サービスを提供してみせる。

そうして、その心地良さを知り―――――どうか気付いてくれれば良い。

己の蔑ろにしてきた者が、無価値だと蔑んできた者達が。

どれほど掛け替えのない存在で、価値あるものであったのかを。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...