元神対応アイドル皇女は悪逆非道な皇帝一家の最推しになりたい

本田 八重

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皇帝陛下は○○厨

空気、読みます

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己では対処できない、圧倒的な驚異を前にした時……人がとる行動はそう多くないだろう。


一つ目は、目線を逸らさないようにしつつ、可及的速やかに戦略的撤退を図ること。

二つ目は、奇跡的な逆転に懸けて、もしくは捨て身覚悟で向かっていくこと。

そして最後は、息を殺し、嵐が過ぎ去るのをじっと待つこと。


「相変わらず貧弱だな」

常ならば、私は迷わず最後の選択肢を実行したことだろう。
赤ん坊のこの体では走ることなんて出来ないし、ましてや戦うことなど不可能だからだ。(他兄姉は生後すぐから攻撃魔法を使っていたらしいが……)

――――けれど。

「あうぅ……」

ベビーベッドに寝転んでいる私を見下ろす、男の温度の無い威圧的な紺青の眼差し。

前世から引き継いだ、私の空気読みエアリーディングスキルが警告するのだ。

この男から決して目を逸らしてはいけない、と。
逸らしてしまえば――――きっともう二度と、男は私に声をかけることも、その目に映すこともないだろう、と。


なんでだろう……こんな殺人ロボットみたいな、無感情で冷酷な恐ろしい人は見たことがないのに。

この青い目を、分厚いガラスに覆われたその向こうにあるものを……私は確かに知っている。どこかで見かけたはずなのだ。まあもっとマイルドな感じだったとは思うけれど。

暫し見詰め合うも、残念ながら答えはすぐに出てこなかった。

……仕方がない。だったら、私に残された選択肢は一つ。

「……きゃぁい!」

口はイ、の形に。
しっかり相手の目をみつつ、ふんわりと柔らかな弧を描くように目尻を下げて。

ついでにほんの少しだけ、首を傾げる。

――――必殺・アイドルスマイル、である。

前世では自然な感じにするのが大変難しく、マネージャーと何ヵ月も割り箸を咥えヨダレでべったべたになりながら特訓した、私の数少ない武器。

首傾げとかね……あざといとは思うのよ。でもそれで喜んでいただけるならね……。

だって満面の笑みって家族でも恋人でもない人から向けられる機会はそうそうないのだ。

でも敵意のない、自分に真っ直ぐ向けられる笑顔に安心する人や心癒される人は確かにいる訳で……。

つまり何が言いたいかと言うと、とりあえずお父様に私は敵意はないですよー!
むしろ好意的ですよー! という、幼子なりの精一杯のアピールをしてみたのだ。

「ッ、な……」


反応はあった。
効果は……良いか悪いかは不明である。

無視されて終わりかもと思ったけれど、お父様は僅かに美しく澄んだその紺青の目(相変わらずガラス玉だけれども)を見開いたのだ。

そして私から少しも目を逸らすことなく、じーっと。唯じーっと見ている。

あの、穴が空きそうなんですけどね……。

このまま膠着状態が続くのは耐えられないと考えた私は、笑顔を維持しながら次のモーションに出た。

「あいあー!」

コロリと寝返りをうってうつ伏せになり、ふらふらしつつも両腕に力を込めて上体をおこす。

次いでオムツに包まれたごわごわのお尻を落として、ちょっとだけ後ろに重心を傾ければ……先日習得したばかりのお座りの完成。

そして、安定性を確認した私はこちらを凝視する男へ両手を伸ばしたのだ。


――――曰く、抱っこ! である。


さぁどうする! とドキドキしていた私。
しかし血の海の中央に立つお父様の行動は、予想外のものだった。

「……、」

二度、三度。形の良い肉厚の唇を動かしたかと思えば――――消えたのだ。

瞬きの間すらない。煙のように、まさに一瞬の出来事だった。

部屋の入り口の方で何かを踏みつける音と、男性のくぐもった呻き声が聞こえたので……転移魔法ではなく、とんでもない素早さでこのただっ広い部屋を駆け抜けて出て行ったのだろう。

流石、スターリア帝国歴代皇帝の中で最も武勇に優れた生きた兵器……もしくはチート。

その身体能力が桁外れの化け物級というのは本当だったのね……。
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