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第十章
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賢吾は微笑んでいたが、真剣な顔つきへと変える。
「君に謝らなきゃいけないことがある。それは、コウが中途半端に君を庇護したことだ。あいつが君を幸せにしていれば、こんなことにはならなかった。けれどコウは、俺や真利亜への負い目からそれができなかった。だから俺の名前を使い、面を被って君に接した。本当に中途半端で不誠実だったと思う。コウに代わって、俺から謝罪をさせて欲しい。誠に申し訳ございませんでした」
賢吾が頭を上げると、楓は何度も首を振って涙を流していた。
「だが、コウの気持ちに偽りはない。君は……幸せになるべきだ」
「……はっ……は……う……」
「楽しんで、幸せになっていいんだ。誇れ、守屋楓」
「ううううううううううぅぁぁぁああああああ」
楓は面を抱き締め、泣き声を上げた。
賢吾はその様に涙が滲んだが、自分が泣いてどうすると無理やり涙を手で拭い、笑顔で楓を見守った。
「君が企画したメディタルは順調だな。仕事は楽しいか?」
まだ泣き続けている楓に、賢吾は聞いた。
「……うううっ……うっ……はい……楽しい……」
また、楓は目に涙を浮かべた。
賢吾は鞄から携帯電話を取り出した。画面を操作し、Flameを起動させる。
「じゃあこれを見てくれ」
賢吾は携帯電話を楓に渡し、代わりに猫の面を受け取った。
楓は泣きつつも、不思議そうな顔で賢吾へ確認した。賢吾は笑みで返し、Flameの動画を再生させた。
流れ始めたのは、今朝に賢吾が見た片倉からの動画。
『ブリッツ側でまた障害が出て、皆さん大忙しですね。全く、井端さんに文句言ってやろうかな。まぁ、こんな状況で恐縮ですが、まずはプログラマーチームから行きましょう』
片倉は仕方なさそうに言った後、画面はプログラマーチームのリーダーである山岡に近付いた。
『山岡さん、調子はどうですか?』
『あのさ、忙しいのは見てわかるよね?』
山岡は明らかに不愉快そうな顔だった。
『これ、メディタルで頑張っていた守屋さんへの応援メッセージなんですけど。山岡さんは薄情なしということで……』
『おい待て!』
片倉が去ろうとすると、焦った様子で山岡が片倉を引き留めた。片倉の笑った吐息が聞こえた後、
『はい、ではどうぞ』
と画面には山岡が再び映し出された。
『守屋さん。まずは身体が大事なので、ご自愛ください。僕でよければ相談にのりますので、気軽に声を掛けてください。僕はいつまでも君を待っています』
山岡は少し顔を赤く染め、背筋を正し真面目な顔で言った。
『山岡さん。守屋さんに惚れてるんだろうなと思っていましたけど、無理だと思うので諦めた方がいいですよ。じゃ、また!』
『デカ! 何で知って……』
そそくさと去る片倉の後方から、山岡の切ない声がした。
『次はサーバーチームです。あれ? 辰巳さんがいませんね』
片倉はサーバーチームを満遍なく撮影していたが、辰巳はいなかった。映像がサーバーチームから元来た方向へと変わる。
『あ……いました』
という声と同時に、辰巳が歩いてくる姿が映った。
『デカ、サーバーが足りねぇわ』
辰巳の顔は少しやつれていた。
『今、玲子さんにサーバー新設用の費用を計算してもらっていますので、もう少し待っていてください』
『サンキュー。……って何? これ撮ってんの?』
辰巳は撮影に気付いた所作をした。
『撮影中ですよ。守屋さんへの応援動画です』
『え? マジ? 何か言った方がいいよね?』
『是非に』
『えー、守屋さん。君とはもう戦友だ。心と身体を癒したら、また戻ってきてくれ』
言い終えると、辰巳は敬礼した。その直ぐ後、
『辰巳君、さっきの話だけどさぁ』
後方から声がした。
そして、声の主こと寺島が映り込む。
『あれ? 何やってんの?』
と寺島が画面に近付いてくると、片倉は舌打ちをした。
『守屋さんへの応援動画ですって』
辰巳が寺島に説明すると、片倉はまた舌打ちをした。
『俺にも! 俺にも言わせて!』
『寺島さんは結構です』
片倉の言葉と共に、画面は寺島と辰巳から外れた。
『おいちょっと待て! デカ!』
『守屋さん、あいつは可愛い女なら誰でもいいクズです。絶対に騙されちゃダメですよ』
後ろから聞こえる寺島の声を無視し、片倉は注意喚起をした。
それから片倉はグラフィッカーチームへと進み、画面は松井を捉えた。
『刑事君、何やってんの?』
松井は眉をひそめ、片倉に聞いていた。
『守屋さんへの応援動画を撮影しています。ソリッドの姉御である、松井さんからも一言もらえたらなって』
『その姉御って言うの、やめてよ』
一瞬困った表情をしたが、松井は画面を直視すると微笑んだ。
『楓ちゃん。輝成君もそうだったけど、君はちょっと頑張りすぎちゃうところがあるかな。無理はしなくていいんだよ。もっと気楽にやってね。それと、楓ちゃんの謙虚な姿勢は瑠衣ちゃんにはない美徳だけど、あまり自分を卑下しないでね。君は凄いんだから、自信を持ってやらないと。楓ちゃんの笑顔、また見せてね』
最後に軽く手を振る松井に、
『松井さん……完璧です』
と言い、親指を立てた片倉の手も映り込んだ。
『こういうことやったことないから、照れるなぁ』
『ありがとうございました!』
恥ずかしそうに笑う松井を映し、片倉の動作と一緒に画面も上下に動いた。
その後、片倉はフロアを出てエレベーターに乗った。そしてメイン階層の二十一階で降り、入口付近まで進んでいく。
『じゃあ、次は瀬戸ご夫妻にしましょうか』
片倉はそう言い、中に入っていった。進んで行く途中で竜次が映り込み、
『守屋さんへのメッセージをお願いします』
と片倉が言って画面は止まった。
『可愛いこと考えたな』
『僕、心は乙女ですからね』
片倉の言葉に竜次は鼻で笑った後、真面目な顔つきへと変わった。
『守屋さん、また慰労会をやり直しましょう。次は俺にも料理を作らせてください。それから、賢吾。お前はちゃんとやれよ』
『社長への激励もありがとうございます』
『激励じゃねぇけどな。やらなかったら殴るし』
『また青春ごっこしてー』
『お前は毎回うるさいなぁ! 早く行け!』
竜次は手で払う仕草をし、画面から消えた。
「君に謝らなきゃいけないことがある。それは、コウが中途半端に君を庇護したことだ。あいつが君を幸せにしていれば、こんなことにはならなかった。けれどコウは、俺や真利亜への負い目からそれができなかった。だから俺の名前を使い、面を被って君に接した。本当に中途半端で不誠実だったと思う。コウに代わって、俺から謝罪をさせて欲しい。誠に申し訳ございませんでした」
賢吾が頭を上げると、楓は何度も首を振って涙を流していた。
「だが、コウの気持ちに偽りはない。君は……幸せになるべきだ」
「……はっ……は……う……」
「楽しんで、幸せになっていいんだ。誇れ、守屋楓」
「ううううううううううぅぁぁぁああああああ」
楓は面を抱き締め、泣き声を上げた。
賢吾はその様に涙が滲んだが、自分が泣いてどうすると無理やり涙を手で拭い、笑顔で楓を見守った。
「君が企画したメディタルは順調だな。仕事は楽しいか?」
まだ泣き続けている楓に、賢吾は聞いた。
「……うううっ……うっ……はい……楽しい……」
また、楓は目に涙を浮かべた。
賢吾は鞄から携帯電話を取り出した。画面を操作し、Flameを起動させる。
「じゃあこれを見てくれ」
賢吾は携帯電話を楓に渡し、代わりに猫の面を受け取った。
楓は泣きつつも、不思議そうな顔で賢吾へ確認した。賢吾は笑みで返し、Flameの動画を再生させた。
流れ始めたのは、今朝に賢吾が見た片倉からの動画。
『ブリッツ側でまた障害が出て、皆さん大忙しですね。全く、井端さんに文句言ってやろうかな。まぁ、こんな状況で恐縮ですが、まずはプログラマーチームから行きましょう』
片倉は仕方なさそうに言った後、画面はプログラマーチームのリーダーである山岡に近付いた。
『山岡さん、調子はどうですか?』
『あのさ、忙しいのは見てわかるよね?』
山岡は明らかに不愉快そうな顔だった。
『これ、メディタルで頑張っていた守屋さんへの応援メッセージなんですけど。山岡さんは薄情なしということで……』
『おい待て!』
片倉が去ろうとすると、焦った様子で山岡が片倉を引き留めた。片倉の笑った吐息が聞こえた後、
『はい、ではどうぞ』
と画面には山岡が再び映し出された。
『守屋さん。まずは身体が大事なので、ご自愛ください。僕でよければ相談にのりますので、気軽に声を掛けてください。僕はいつまでも君を待っています』
山岡は少し顔を赤く染め、背筋を正し真面目な顔で言った。
『山岡さん。守屋さんに惚れてるんだろうなと思っていましたけど、無理だと思うので諦めた方がいいですよ。じゃ、また!』
『デカ! 何で知って……』
そそくさと去る片倉の後方から、山岡の切ない声がした。
『次はサーバーチームです。あれ? 辰巳さんがいませんね』
片倉はサーバーチームを満遍なく撮影していたが、辰巳はいなかった。映像がサーバーチームから元来た方向へと変わる。
『あ……いました』
という声と同時に、辰巳が歩いてくる姿が映った。
『デカ、サーバーが足りねぇわ』
辰巳の顔は少しやつれていた。
『今、玲子さんにサーバー新設用の費用を計算してもらっていますので、もう少し待っていてください』
『サンキュー。……って何? これ撮ってんの?』
辰巳は撮影に気付いた所作をした。
『撮影中ですよ。守屋さんへの応援動画です』
『え? マジ? 何か言った方がいいよね?』
『是非に』
『えー、守屋さん。君とはもう戦友だ。心と身体を癒したら、また戻ってきてくれ』
言い終えると、辰巳は敬礼した。その直ぐ後、
『辰巳君、さっきの話だけどさぁ』
後方から声がした。
そして、声の主こと寺島が映り込む。
『あれ? 何やってんの?』
と寺島が画面に近付いてくると、片倉は舌打ちをした。
『守屋さんへの応援動画ですって』
辰巳が寺島に説明すると、片倉はまた舌打ちをした。
『俺にも! 俺にも言わせて!』
『寺島さんは結構です』
片倉の言葉と共に、画面は寺島と辰巳から外れた。
『おいちょっと待て! デカ!』
『守屋さん、あいつは可愛い女なら誰でもいいクズです。絶対に騙されちゃダメですよ』
後ろから聞こえる寺島の声を無視し、片倉は注意喚起をした。
それから片倉はグラフィッカーチームへと進み、画面は松井を捉えた。
『刑事君、何やってんの?』
松井は眉をひそめ、片倉に聞いていた。
『守屋さんへの応援動画を撮影しています。ソリッドの姉御である、松井さんからも一言もらえたらなって』
『その姉御って言うの、やめてよ』
一瞬困った表情をしたが、松井は画面を直視すると微笑んだ。
『楓ちゃん。輝成君もそうだったけど、君はちょっと頑張りすぎちゃうところがあるかな。無理はしなくていいんだよ。もっと気楽にやってね。それと、楓ちゃんの謙虚な姿勢は瑠衣ちゃんにはない美徳だけど、あまり自分を卑下しないでね。君は凄いんだから、自信を持ってやらないと。楓ちゃんの笑顔、また見せてね』
最後に軽く手を振る松井に、
『松井さん……完璧です』
と言い、親指を立てた片倉の手も映り込んだ。
『こういうことやったことないから、照れるなぁ』
『ありがとうございました!』
恥ずかしそうに笑う松井を映し、片倉の動作と一緒に画面も上下に動いた。
その後、片倉はフロアを出てエレベーターに乗った。そしてメイン階層の二十一階で降り、入口付近まで進んでいく。
『じゃあ、次は瀬戸ご夫妻にしましょうか』
片倉はそう言い、中に入っていった。進んで行く途中で竜次が映り込み、
『守屋さんへのメッセージをお願いします』
と片倉が言って画面は止まった。
『可愛いこと考えたな』
『僕、心は乙女ですからね』
片倉の言葉に竜次は鼻で笑った後、真面目な顔つきへと変わった。
『守屋さん、また慰労会をやり直しましょう。次は俺にも料理を作らせてください。それから、賢吾。お前はちゃんとやれよ』
『社長への激励もありがとうございます』
『激励じゃねぇけどな。やらなかったら殴るし』
『また青春ごっこしてー』
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