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第八章
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賢吾は近くにあったコンビニに入り、傘を買うわけでもなく、缶チューハイ五本を持ってレジへと向かった。
会計時に千円札を出し、缶チューハイが入ったレジ袋を手に取り足早に出ようとする。
「あの、お客様お釣りは?」
「そこの募金箱に入れておいてください」
戸惑う男性店員に、賢吾は感情を込めずに言い返しコンビニを出た。
丁度そのタイミングで、賢吾の携帯電話が振動した。賢吾は携帯電話を取り出し、応答をタップし耳へとあてる。
「どうだった? 守屋さんの居場所がわかったか?」
竜次が焦った様子で言ってきた。
賢吾は十秒近く反応しなかったが、
「俺明日休むわ」
と、いきなり話題を変えた。
「……は? まぁいいけど。それより、守屋さんの情報はあったのか?」
竜次は一旦呆れた声を出したが、再度賢吾へ聞き返してきた。
「竜次、守屋楓をクビにしてくれ」
賢吾は感情を込めずに言った。すると、絶句したような竜次の息遣いが聞こえた。
「お前……何を言い出すんだ!」
竜次の怒鳴り声が賢吾の鼓膜に響いた。
『必ず瀬戸や刑事に確認をしろ。絶対に自分だけで処理をするなよ』
刹那、また井端の言葉が頭をよぎった。
「いや、すまん。ちょっと混乱してるわ。明日、落ち着いたらまた連絡する」
「おい、賢吾! お前今どこにいるん……」
賢吾は通話を強制的に終了し、携帯電話をしまった。その後何度も着信するが、賢吾は完全に無視していた。
歩みを再開した賢吾は、山下公園の中に入っていった。
今日は平日の木曜日、時刻は午後十時を過ぎており、小雨が降り始めている状況である。そのため、園内に人はほとんどいなかった。
賢吾は、かつて楓と一緒に座ったベンチに目を向け足を進める。そのベンチは雨で濡れていたが賢吾は構わず座り、レジ袋から缶チューハイを取り出して開けた。
一気に半分近く飲み、アルコールがまじった溜め息を吐き出した。
海を眺めている賢吾の視界が次第にぼやけ、過去の映像が流れ始める。
『コウ。真利亜と付き合うって本気か? 俺個人としては、妹の恋人になってくれたのは嬉しいよ。でも、俺に気を使っているのであれば絶対にやめてくれ。俺はお前が幸せになる方が何より嬉しい』
『いや、賢さんのためにってわけではないですよ。真利亜さんは、こんな俺のことを一生懸命好きになってくれる大切な方です』
『そうそう。コウ君と私は相思相愛なのよ』
『ハッ……相思相愛だと? 真利亜の片思いだろ? コウ、お前は真利亜のどこが好きなんだ? こいつは気が強いし面倒くさいぞ』
『もうコウ君と私は恋人なの。Zip your lips』
『まぁ、どこがと言われると確かに難しいですね』
『コウ君ひっど! 私泣いちゃうよ!』
『今からでも遅くない、俺がコウに相応しい奴を見つけてきてやる』
『年齢イコール彼女いない歴なのに、よくもまぁそんなことが言えるね? コウ君よりまずは自分のことを心配したらいかが? 下半身が寂しがってるよ』
『な? 嫌な奴だろ? こうやって相手の嫌がることを平気で言うし、こいつは自分のことしか考えてないんだよ。しかも、下品で口が悪いし捻くれて我が強い女なわけ。コウ、マジで無理しなくていいからな』
『チッ……お兄ちゃんの分際で、私よりコウ君のことをわかっているとでも言いたいのかしら?』
『その自信はあるね。出会ったのは俺の方が先だしな』
『たった一ヶ月の差じゃん! 頭スッカラカンの癖に、どうやってコウ君を理解しているのやら、是非論文を提出していただきたいですわね』
『……いちいちムカつくなお前。はっきり言うが、俺はお前よりコウの方が大事なんだよ』
『私もそうでーす!』
『賢さん。心配してくれるのはありがたいんですが、俺にとって真利亜さんは太陽のような方です。代わりなんていませんよ』
『かたじけない。コウ殿、拙者ちょっと……』
『真利亜さん。嘘偽りのない、俺の気持ちです』
『……感無量でござる』
『ブハハハハ! 何だその喋り方?』
『賢さんは知らなかったんですか? 真利亜さんって、照れると武士みたいな口調になるんですよ』
『へぇー。そういやお前昔から時代劇好きだったし、歴女だもんな』
『ちょっと、バラさないでよ!』
賢吾はひたすらにまずい一缶を飲み終えた。
雨粒が顔に当たり始める。
『よっしゃあ! これで三連勝だよ。気持ち良かったぁ!』
『お帰りー。ホームラン三本も出たし、楽しかったろ?』
『もう最高!』
『コウはどうだった?』
『楽しかったですよ。初めて生で野球を見たんですけど、迫力が凄かったですね』
『だろー。今度は俺と行こうぜ』
『いいですよ』
『ダメダメ! コウ君の休日は、恋人の私と過ごすって決まっているのよ。お兄ちゃんは邪魔なんだから、ついて来ないで!』
『お前どんだけ束縛するんだよ。コウ、こんな奴は放っておいて俺と行こう』
『だからダメだって言ってんでしょ! Shut up!』
『三人で行きませんか?』
『俺は構わんが……』
『やだ!』
『……な?』
『じゃあ、私が戦国時代クイズを出すから、正解できたらついて来てもいいよ』
『お前の専門分野じゃねぇか』
『ででん! 備中高松城の戦いでの水攻めや類まれな戦術を駆使し、豊臣秀吉の天下取りに大貢献した武将とは? 正式名称でお答えください』
『フッ……お前、俺のことバカにしすぎたな。これくらい俺だってわかるわ。答えは……黒田官兵衛!』
『ぶっぶー。不正解でーす! 正解は黒田考高です』
『はぁ? 誰だそれ?』
『賢さん、黒田官兵衛ですよ。正式名称が黒田考高で、官兵衛は俗称なんです』
『おま……ずっる!』
『正式名称と私は言いました。黒田如水でも正解だったけど、無知な自分を呪うんだね。はい、私の勝ちー』
『真利亜さん、今のはかわいそうですよ。今度は賢さんが有利なルールで勝負しましょう』
『コウ、サンキューな。じゃあ真利亜、パロプロで勝負な』
『せめてミリオンカートにしてよ。私はゲームが得意じゃないんだからさ』
『いいだろう。甲羅ぶつけまくってやるからな!』
『うわぁ……大人気ない男。だからモテないんだよ』
『うるせぇなぁ! いいからやるぞ。コウ、お前も一緒にやろうぜ』
『はい、じゃあ三人プレイでやりましょうか』
賢吾は二本目を飲み切った。
会計時に千円札を出し、缶チューハイが入ったレジ袋を手に取り足早に出ようとする。
「あの、お客様お釣りは?」
「そこの募金箱に入れておいてください」
戸惑う男性店員に、賢吾は感情を込めずに言い返しコンビニを出た。
丁度そのタイミングで、賢吾の携帯電話が振動した。賢吾は携帯電話を取り出し、応答をタップし耳へとあてる。
「どうだった? 守屋さんの居場所がわかったか?」
竜次が焦った様子で言ってきた。
賢吾は十秒近く反応しなかったが、
「俺明日休むわ」
と、いきなり話題を変えた。
「……は? まぁいいけど。それより、守屋さんの情報はあったのか?」
竜次は一旦呆れた声を出したが、再度賢吾へ聞き返してきた。
「竜次、守屋楓をクビにしてくれ」
賢吾は感情を込めずに言った。すると、絶句したような竜次の息遣いが聞こえた。
「お前……何を言い出すんだ!」
竜次の怒鳴り声が賢吾の鼓膜に響いた。
『必ず瀬戸や刑事に確認をしろ。絶対に自分だけで処理をするなよ』
刹那、また井端の言葉が頭をよぎった。
「いや、すまん。ちょっと混乱してるわ。明日、落ち着いたらまた連絡する」
「おい、賢吾! お前今どこにいるん……」
賢吾は通話を強制的に終了し、携帯電話をしまった。その後何度も着信するが、賢吾は完全に無視していた。
歩みを再開した賢吾は、山下公園の中に入っていった。
今日は平日の木曜日、時刻は午後十時を過ぎており、小雨が降り始めている状況である。そのため、園内に人はほとんどいなかった。
賢吾は、かつて楓と一緒に座ったベンチに目を向け足を進める。そのベンチは雨で濡れていたが賢吾は構わず座り、レジ袋から缶チューハイを取り出して開けた。
一気に半分近く飲み、アルコールがまじった溜め息を吐き出した。
海を眺めている賢吾の視界が次第にぼやけ、過去の映像が流れ始める。
『コウ。真利亜と付き合うって本気か? 俺個人としては、妹の恋人になってくれたのは嬉しいよ。でも、俺に気を使っているのであれば絶対にやめてくれ。俺はお前が幸せになる方が何より嬉しい』
『いや、賢さんのためにってわけではないですよ。真利亜さんは、こんな俺のことを一生懸命好きになってくれる大切な方です』
『そうそう。コウ君と私は相思相愛なのよ』
『ハッ……相思相愛だと? 真利亜の片思いだろ? コウ、お前は真利亜のどこが好きなんだ? こいつは気が強いし面倒くさいぞ』
『もうコウ君と私は恋人なの。Zip your lips』
『まぁ、どこがと言われると確かに難しいですね』
『コウ君ひっど! 私泣いちゃうよ!』
『今からでも遅くない、俺がコウに相応しい奴を見つけてきてやる』
『年齢イコール彼女いない歴なのに、よくもまぁそんなことが言えるね? コウ君よりまずは自分のことを心配したらいかが? 下半身が寂しがってるよ』
『な? 嫌な奴だろ? こうやって相手の嫌がることを平気で言うし、こいつは自分のことしか考えてないんだよ。しかも、下品で口が悪いし捻くれて我が強い女なわけ。コウ、マジで無理しなくていいからな』
『チッ……お兄ちゃんの分際で、私よりコウ君のことをわかっているとでも言いたいのかしら?』
『その自信はあるね。出会ったのは俺の方が先だしな』
『たった一ヶ月の差じゃん! 頭スッカラカンの癖に、どうやってコウ君を理解しているのやら、是非論文を提出していただきたいですわね』
『……いちいちムカつくなお前。はっきり言うが、俺はお前よりコウの方が大事なんだよ』
『私もそうでーす!』
『賢さん。心配してくれるのはありがたいんですが、俺にとって真利亜さんは太陽のような方です。代わりなんていませんよ』
『かたじけない。コウ殿、拙者ちょっと……』
『真利亜さん。嘘偽りのない、俺の気持ちです』
『……感無量でござる』
『ブハハハハ! 何だその喋り方?』
『賢さんは知らなかったんですか? 真利亜さんって、照れると武士みたいな口調になるんですよ』
『へぇー。そういやお前昔から時代劇好きだったし、歴女だもんな』
『ちょっと、バラさないでよ!』
賢吾はひたすらにまずい一缶を飲み終えた。
雨粒が顔に当たり始める。
『よっしゃあ! これで三連勝だよ。気持ち良かったぁ!』
『お帰りー。ホームラン三本も出たし、楽しかったろ?』
『もう最高!』
『コウはどうだった?』
『楽しかったですよ。初めて生で野球を見たんですけど、迫力が凄かったですね』
『だろー。今度は俺と行こうぜ』
『いいですよ』
『ダメダメ! コウ君の休日は、恋人の私と過ごすって決まっているのよ。お兄ちゃんは邪魔なんだから、ついて来ないで!』
『お前どんだけ束縛するんだよ。コウ、こんな奴は放っておいて俺と行こう』
『だからダメだって言ってんでしょ! Shut up!』
『三人で行きませんか?』
『俺は構わんが……』
『やだ!』
『……な?』
『じゃあ、私が戦国時代クイズを出すから、正解できたらついて来てもいいよ』
『お前の専門分野じゃねぇか』
『ででん! 備中高松城の戦いでの水攻めや類まれな戦術を駆使し、豊臣秀吉の天下取りに大貢献した武将とは? 正式名称でお答えください』
『フッ……お前、俺のことバカにしすぎたな。これくらい俺だってわかるわ。答えは……黒田官兵衛!』
『ぶっぶー。不正解でーす! 正解は黒田考高です』
『はぁ? 誰だそれ?』
『賢さん、黒田官兵衛ですよ。正式名称が黒田考高で、官兵衛は俗称なんです』
『おま……ずっる!』
『正式名称と私は言いました。黒田如水でも正解だったけど、無知な自分を呪うんだね。はい、私の勝ちー』
『真利亜さん、今のはかわいそうですよ。今度は賢さんが有利なルールで勝負しましょう』
『コウ、サンキューな。じゃあ真利亜、パロプロで勝負な』
『せめてミリオンカートにしてよ。私はゲームが得意じゃないんだからさ』
『いいだろう。甲羅ぶつけまくってやるからな!』
『うわぁ……大人気ない男。だからモテないんだよ』
『うるせぇなぁ! いいからやるぞ。コウ、お前も一緒にやろうぜ』
『はい、じゃあ三人プレイでやりましょうか』
賢吾は二本目を飲み切った。
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