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第四章
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輝成はアルバイト先から松井天音というデザイナーを引っ張ってきたが、残りは賢吾の元暴走族の仲間で良いと言った。
その時の驚愕と戸惑い、混乱した自分の感情を、賢吾は今でも鮮明に思い出す。
賢吾の仲間を各自三十分ほど面談した後、輝成は悩む様子もなく役割分担を決めていた。しかもそれが全て的確であり、本当に適材適所なのが恐ろしい。
【滅殺】時代からサポート役だった平田が、プログラミングやサーバー調整を任されたのは何となく賢吾でも想像できたが、脳筋武闘派の栗山が一番プログラマーの適性があっただなんて、どうやったらわかったのだろうか。
『つうかおめぇよ。賢吾さんの頼みだから一応やってやんけど、俺マジで頭わりーし算数とか全然できねぇから期待すんなよ』
初日にそう嫌々ながら始めた栗山は、
『輝成君。これおもしれぇじゃん。もしかして、俺天才なん?』
と三ヶ月経過したらあっさり順応した。
アプリ開発の準備期間の最中、どの内容、どういう方向性で勝負するか皆で協議をした。
賢吾はゲームが好きなので、パズルゲームやRPGがいいのではと一応挙手したが、輝成にすぐさま下げさせられた。
輝成は前職の大手IT企業の井端から、起業するにあたっての注意点をかなり叩き込まれたらしく、熱弁をふるった。
世の中の流れ、ニーズをしっかり把握すること。
強者と弱者の戦法の説明。
今は弱者だから、ニーズを捉え一点突破が望ましいこと。
協議とは名ばかりの輝成の独壇場であり、皆一様に輝成の案に従った。
そうして、まだ世間に浸透していなかった写真加工アプリFlameが誕生した。
とはいえ、ならず者の寄せ集め集団なことに変わりはない。開発進行の遅延や運営方法の不手際、揉め事の類などの綻びが生まれると賢吾は危惧していた。だが、滞りなく進み、順調に会社は成長していった。
理由は簡単で、指揮していたのが輝成だからであった。輝成は自身の単体能力の高さもさることながら、社員の潜在能力を引き出すことが抜群に上手く、尚且つ稀有なモチベーターだった。
繰り返すが、社員のほとんどは元暴走族であり、IT業務とは全くの無縁だった。なぜこいつらがここまで生き生きと仕事ができるのか、実力以上のものを発揮できているのか。賢吾の理解を超越しているが、現実として結果が出ていた。全て杞憂に終わったのである。
そうして、いつの間にか賢吾は何もしないで社長になっていた。
童話だとしても、もう少し抑揚をつけるか何かしら賢吾にも努力をさせた。しかしながら事実として、賢吾は労せず社長となった。
『井端部長は輝成君を気に入っていて、月収三百万、年俸に換算すると三千万以上というオファーを出した。未成年の子にそんな額を提示すること自体おかしいって思ったけど、私もみくびっていたのかな。井端部長は慧眼だった。いや、もしかしたらその額でも全然足りない子だよ……輝成君はね。だから賢吾、あんたもできることを精一杯やんなよ』
Flameの初動が上手くいっている中、松井が賢吾にそう言った。
賢吾はその時改めて認識をした。
もしかして輝成は、とんでもない奴なのではないか……と。
幼少時から始めていたピアノは何度もコンクールで受賞、有名な女学園へ初等部から入学、初等部児童生徒会の会長、中等部生徒会の会長、中等部時代に交換留学をし英語をマスター、全国弁論大会優勝、水泳とテニスが得意で全国レベル。
これが大宮真利亜。
近所では神童と呼ばれ、同じ人間ではないと賢吾に錯覚させた天才である。
だが、そんな真利亜が骨の髄まで惚れたのが輝成だった。真利亜曰く、輝成の顔も性格も全部好みだが、何より底が見えない才能が凄まじいとのことだった。
『天才のお前がそこまで言うんだ? コウってそんなに凄いのか?』
リビングでアイスを食べている最中、賢吾は真利亜に聞いた。すると、真利亜はアイスを一口食べてからせせら笑う。
『私が天才? 優秀であることは自認しているけど、私は天才といえるような器じゃないし、自惚れてもいない。天才はね、コウ君みたいな人のことをいうの。理屈の範疇を越えている存在のことをさす』
『俺からしたら、お前も常軌を逸しているがな』
『それはお兄ちゃんがクソなだけでしょ。大分下から見上げているからわからないのよ』
と笑う真利亜に、賢吾は苦々しい顔で頭をかいた。
『お兄ちゃんドラゴンボーイ好きだよね? それで例えると、私とお兄ちゃんは地球人、コウ君はガイア人。優劣云々は関係ない、根本から違うの。Is that clear?』
『最後の英語以外は何となく伝わった』
賢吾は不満げな顔でアイスを頬張った。
『私の夢はコウ君と日本を変えること。コウ君には総理大臣になってもらって、私は秘書をやりたい。コウ君の能力は申し分ないし、あとは私のサポート次第だからめっちゃ燃えるわ』
『本気で言ってんのかお前?』
真剣な面持ちで語る真利亜に、賢吾は小馬鹿にするような言い草だった。しかし、真利亜は賢吾を見据え、
『残念だけど、お兄ちゃんは選挙カーを運転するくらいの役しか与えられない。他には体力仕事くらいかな。だってバカだし』
と冷たく言い放った。
その態度にムスッとする賢吾であった。
『それでは、コウ君大好き党の皆さん。政権奪取に向かって、えい、えい、おー』
そう拳を振り上げた。
しかし、握っていたアイスが床に落ち、真利亜が半泣き状態へと変わる。締まりきらなかった真利亜に、賢吾は爆笑していた。
思い出の再生が停止した頃、賢吾は丁度象の鼻パークの中にいた。大さん橋に停泊している大型客船と、真っ暗闇の海を眺めながら歩く。
……総理大臣にもなれた奴。真利亜、お前の言う通り輝成は正真正銘の化け物だったぞ。
楓に注意された揶揄だが、賢吾はそう心で呟いた。
輝成は自分には勿体ないほどの逸材、宝物、そして全て。
必ず会社をもっと大きくして社長を続けるから、あの世で二人仲良く笑いながら俺を見ていてくれよな。
賢吾はそう夜空を見上げ、泣き顔から無理やり口角を上げていた。
その時の驚愕と戸惑い、混乱した自分の感情を、賢吾は今でも鮮明に思い出す。
賢吾の仲間を各自三十分ほど面談した後、輝成は悩む様子もなく役割分担を決めていた。しかもそれが全て的確であり、本当に適材適所なのが恐ろしい。
【滅殺】時代からサポート役だった平田が、プログラミングやサーバー調整を任されたのは何となく賢吾でも想像できたが、脳筋武闘派の栗山が一番プログラマーの適性があっただなんて、どうやったらわかったのだろうか。
『つうかおめぇよ。賢吾さんの頼みだから一応やってやんけど、俺マジで頭わりーし算数とか全然できねぇから期待すんなよ』
初日にそう嫌々ながら始めた栗山は、
『輝成君。これおもしれぇじゃん。もしかして、俺天才なん?』
と三ヶ月経過したらあっさり順応した。
アプリ開発の準備期間の最中、どの内容、どういう方向性で勝負するか皆で協議をした。
賢吾はゲームが好きなので、パズルゲームやRPGがいいのではと一応挙手したが、輝成にすぐさま下げさせられた。
輝成は前職の大手IT企業の井端から、起業するにあたっての注意点をかなり叩き込まれたらしく、熱弁をふるった。
世の中の流れ、ニーズをしっかり把握すること。
強者と弱者の戦法の説明。
今は弱者だから、ニーズを捉え一点突破が望ましいこと。
協議とは名ばかりの輝成の独壇場であり、皆一様に輝成の案に従った。
そうして、まだ世間に浸透していなかった写真加工アプリFlameが誕生した。
とはいえ、ならず者の寄せ集め集団なことに変わりはない。開発進行の遅延や運営方法の不手際、揉め事の類などの綻びが生まれると賢吾は危惧していた。だが、滞りなく進み、順調に会社は成長していった。
理由は簡単で、指揮していたのが輝成だからであった。輝成は自身の単体能力の高さもさることながら、社員の潜在能力を引き出すことが抜群に上手く、尚且つ稀有なモチベーターだった。
繰り返すが、社員のほとんどは元暴走族であり、IT業務とは全くの無縁だった。なぜこいつらがここまで生き生きと仕事ができるのか、実力以上のものを発揮できているのか。賢吾の理解を超越しているが、現実として結果が出ていた。全て杞憂に終わったのである。
そうして、いつの間にか賢吾は何もしないで社長になっていた。
童話だとしても、もう少し抑揚をつけるか何かしら賢吾にも努力をさせた。しかしながら事実として、賢吾は労せず社長となった。
『井端部長は輝成君を気に入っていて、月収三百万、年俸に換算すると三千万以上というオファーを出した。未成年の子にそんな額を提示すること自体おかしいって思ったけど、私もみくびっていたのかな。井端部長は慧眼だった。いや、もしかしたらその額でも全然足りない子だよ……輝成君はね。だから賢吾、あんたもできることを精一杯やんなよ』
Flameの初動が上手くいっている中、松井が賢吾にそう言った。
賢吾はその時改めて認識をした。
もしかして輝成は、とんでもない奴なのではないか……と。
幼少時から始めていたピアノは何度もコンクールで受賞、有名な女学園へ初等部から入学、初等部児童生徒会の会長、中等部生徒会の会長、中等部時代に交換留学をし英語をマスター、全国弁論大会優勝、水泳とテニスが得意で全国レベル。
これが大宮真利亜。
近所では神童と呼ばれ、同じ人間ではないと賢吾に錯覚させた天才である。
だが、そんな真利亜が骨の髄まで惚れたのが輝成だった。真利亜曰く、輝成の顔も性格も全部好みだが、何より底が見えない才能が凄まじいとのことだった。
『天才のお前がそこまで言うんだ? コウってそんなに凄いのか?』
リビングでアイスを食べている最中、賢吾は真利亜に聞いた。すると、真利亜はアイスを一口食べてからせせら笑う。
『私が天才? 優秀であることは自認しているけど、私は天才といえるような器じゃないし、自惚れてもいない。天才はね、コウ君みたいな人のことをいうの。理屈の範疇を越えている存在のことをさす』
『俺からしたら、お前も常軌を逸しているがな』
『それはお兄ちゃんがクソなだけでしょ。大分下から見上げているからわからないのよ』
と笑う真利亜に、賢吾は苦々しい顔で頭をかいた。
『お兄ちゃんドラゴンボーイ好きだよね? それで例えると、私とお兄ちゃんは地球人、コウ君はガイア人。優劣云々は関係ない、根本から違うの。Is that clear?』
『最後の英語以外は何となく伝わった』
賢吾は不満げな顔でアイスを頬張った。
『私の夢はコウ君と日本を変えること。コウ君には総理大臣になってもらって、私は秘書をやりたい。コウ君の能力は申し分ないし、あとは私のサポート次第だからめっちゃ燃えるわ』
『本気で言ってんのかお前?』
真剣な面持ちで語る真利亜に、賢吾は小馬鹿にするような言い草だった。しかし、真利亜は賢吾を見据え、
『残念だけど、お兄ちゃんは選挙カーを運転するくらいの役しか与えられない。他には体力仕事くらいかな。だってバカだし』
と冷たく言い放った。
その態度にムスッとする賢吾であった。
『それでは、コウ君大好き党の皆さん。政権奪取に向かって、えい、えい、おー』
そう拳を振り上げた。
しかし、握っていたアイスが床に落ち、真利亜が半泣き状態へと変わる。締まりきらなかった真利亜に、賢吾は爆笑していた。
思い出の再生が停止した頃、賢吾は丁度象の鼻パークの中にいた。大さん橋に停泊している大型客船と、真っ暗闇の海を眺めながら歩く。
……総理大臣にもなれた奴。真利亜、お前の言う通り輝成は正真正銘の化け物だったぞ。
楓に注意された揶揄だが、賢吾はそう心で呟いた。
輝成は自分には勿体ないほどの逸材、宝物、そして全て。
必ず会社をもっと大きくして社長を続けるから、あの世で二人仲良く笑いながら俺を見ていてくれよな。
賢吾はそう夜空を見上げ、泣き顔から無理やり口角を上げていた。
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