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第二章
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橘は深く座り直すと、賢吾を睨み付けてから軽く息を吐いた。
「皆さん、忙しい中集まっていただきありがとうございます。私が提案した新規アプリ開発について、プレゼンをしたいと思います。では、渡辺さんお願いします」
橘から出される厳かな雰囲気に包まれ、会議は開始される。
動き出した渡辺は、持ってきていたノートパソコンを大型ディスプレイへと繋いだ。
「あれ? 紙なし?」
賢吾がそう聞くと、
「経費削減です。知りませんでしたか?」
橘が間髪入れずに言い返してきた。
賢吾は玲子へ確認するような目線を向けたが、そうだと頷いていた。
自分の知らないところで、会社が勝手に動いている。今までの自分ならどうでもいいかと思ったであろうが、賢吾は多少なりとも悔しさを感じた。
「あ、というわけで……画面にて説明させていだたきます」
渡辺は柔和な笑みを浮かべた。
「質疑応答はプレゼン後でお願いします」
橘がそう付け足し、また場が緊張感に満ちた。
「それでは、皆さんよろしくお願いいたします」
渡辺は深く頭を下げると、なぜか楓もペコペコとしていた。
「新規アプリは箱庭ゲームです」
フワフワしていた様子から一変し、渡辺は真面目な表情で切り出した。
「自分好みの箱庭を作る楽しさ、他ユーザーとのコミュニケーション、ユーザー同士の箱庭の出来映え比べ、等々を軸に置いています。通貨はゴールド。ショップでアイテムを買う、キャラを買う。レベルが上がるにつれて、ゴールドの上限も上がっていく仕組みです。ゴールドの初期設定は百にしており、五分置きに一ゴールド回復する予定です」
淀みないプレゼンテーション。
画面に映し出されたのは、可愛らしい家具に囲まれた部屋。その部屋の中にいるデフォルメされた愛らしいキャラクター達は、動いたり、笑ったりしていた。
しかしそれだけではなく、あぐらをかいて酒を飲んでいるおっさんのようなキャラクターもおり、シュールな面白さもあった。
「マネタイズは、ゴールドを全回復させることですが、こちらは時間が経てば回復しますので主軸ではありません」
最中、なぜか石橋が溜め息を吐いていた。
「主にはガチャです」
言い放った渡辺とは対照的に、石橋は気落ちしているようであった。
「ある特殊なアイテムやキャラは、ガチャで獲得できるようにする。基本的なアイテムやキャラは、ゴールドで買うような仕組みです。被ったアイテムやキャラは、ユーザー同士で交換できるシステムを設けたいと思います。他にもタイムセールなどを実施し、ゴールド回復で稼ぐことも考えてはいますが、メインはガチャです。ガチャでは自社で作る物だけではなく、市販されている家具や、有名デザイナーとのコラボ。キャラであれば、アニメや漫画のキャラとのコラボなどを考えており、より収益が見込めると思います」
渡辺は次々と変わる画面を的確に説明する。
「そして、本アプリの主なターゲットはFlameと同じく若年層です。Flameのネームバリューを利用することで、集客も見込めます。更に、Flameとの連携もできれば幅が広がると思っています」
言い終えると同時に、渡辺は賢吾達へ正対した。
「簡潔ではありますが、以上です。ご清聴ありがとうございました」
渡辺がお辞儀をした後、
「質問がある方はどうぞ」
と橘は手を軽く上げた。
誰からも言葉が出ないので、橘が渡辺に席へと戻るよう目配せをする。渡辺は片付けをしてから、座っていた席に戻った。
「いいんじゃない?」
「可愛いくて面白そうね」
まずは松井がそう言い、玲子も続いた。
しかし、
「私は反対」
と言った石橋は揺るがない様子だった。
「理由を聞きましょう」
橘に言われ、石橋は大きく息を吐く。
「結局はガチャゲーってことでしょう? 絶対に嫌です。ガチャは必ず課金周りでエラーが生じるし、被害額も半端じゃない。しかも、若年層をターゲットにしているところが殊更に質が悪いですね。未成年がどれだけ親の金を無断で使っているかご存知ですか? そしてそんなクソガキの親からクレームが来るのがウチなわけです」
「それがCSの仕事でしょう?」
間断なく言い放った橘に、石橋は顔を歪ませた。
「はぁ? CSはユーザーから怒られることが仕事じゃない! ユーザーを快適にもてなすことが仕事なんです!」
石橋が立ち上がって怒鳴り返す。ソリッドの獰猛なチワワが降臨した。
「トーカ、落ち着いて」
片倉が宥めると、石橋は不服そうに座り直した。
「私は、輝成さんからガチャはやらないって言われた。その前提でここに入社している。ウチの子達にも理不尽なクレームは受けさせたくない。やるんだったら辞める」
石橋は怒気を漲らせて述べた後、そっぽを向いた。
「ちょっと、話が飛躍しすぎじゃね? ガチャ云々で辞めるとかさ」
賢吾はそう笑って場を収めようとした。だが、逆にその態度が癪に障ったのか、
「時代の流れ的に、売るならガチャゲーは必須でしょ」
と辰巳が言い、
「まぁ……仕方ないよね」
更に山岡も乗っかってきた。
その二人を古参者の栗山と平田が強烈に睨み付けており、余計に空気が悪くなってしまったと賢吾は後悔した。
そんな中で、
「客観的に見て、内容自体は悪くないと思ったけどな。石橋さん的には面白くもないってこと?」
寺島は我関せずと明るい声だった。
「CSの肩書なしで、フラットな意見もください」
橘はトーンダウンし、石橋へ確認をした。
「Flameのネームバリューもある。今のところ、そこまで競合するアプリがない。売れるとは思いますよ。でも……やりたくない」
「本音が出てる」
不貞腐れて言う石橋に、辰巳は嘲笑っていた。石橋は目つきが鋭くなり、言い返そうと息を溜めたが片倉が手で制した。
「売れるし面白いとは思いますが、僕も反対です。トーカは、我が身可愛さやわがままで物事を決めません。全てはウチのブランドを護ること、ユーザーへの背徳行為が許せないだけです。元々は、ガチャゲーのCSで揉まれてきた奴ですからね」
石橋を暴走させないよう、片倉はその気持ちを代弁するかのようだった。
「……あ、あのぅ」
楓が小さな声を出した。
「皆さん、忙しい中集まっていただきありがとうございます。私が提案した新規アプリ開発について、プレゼンをしたいと思います。では、渡辺さんお願いします」
橘から出される厳かな雰囲気に包まれ、会議は開始される。
動き出した渡辺は、持ってきていたノートパソコンを大型ディスプレイへと繋いだ。
「あれ? 紙なし?」
賢吾がそう聞くと、
「経費削減です。知りませんでしたか?」
橘が間髪入れずに言い返してきた。
賢吾は玲子へ確認するような目線を向けたが、そうだと頷いていた。
自分の知らないところで、会社が勝手に動いている。今までの自分ならどうでもいいかと思ったであろうが、賢吾は多少なりとも悔しさを感じた。
「あ、というわけで……画面にて説明させていだたきます」
渡辺は柔和な笑みを浮かべた。
「質疑応答はプレゼン後でお願いします」
橘がそう付け足し、また場が緊張感に満ちた。
「それでは、皆さんよろしくお願いいたします」
渡辺は深く頭を下げると、なぜか楓もペコペコとしていた。
「新規アプリは箱庭ゲームです」
フワフワしていた様子から一変し、渡辺は真面目な表情で切り出した。
「自分好みの箱庭を作る楽しさ、他ユーザーとのコミュニケーション、ユーザー同士の箱庭の出来映え比べ、等々を軸に置いています。通貨はゴールド。ショップでアイテムを買う、キャラを買う。レベルが上がるにつれて、ゴールドの上限も上がっていく仕組みです。ゴールドの初期設定は百にしており、五分置きに一ゴールド回復する予定です」
淀みないプレゼンテーション。
画面に映し出されたのは、可愛らしい家具に囲まれた部屋。その部屋の中にいるデフォルメされた愛らしいキャラクター達は、動いたり、笑ったりしていた。
しかしそれだけではなく、あぐらをかいて酒を飲んでいるおっさんのようなキャラクターもおり、シュールな面白さもあった。
「マネタイズは、ゴールドを全回復させることですが、こちらは時間が経てば回復しますので主軸ではありません」
最中、なぜか石橋が溜め息を吐いていた。
「主にはガチャです」
言い放った渡辺とは対照的に、石橋は気落ちしているようであった。
「ある特殊なアイテムやキャラは、ガチャで獲得できるようにする。基本的なアイテムやキャラは、ゴールドで買うような仕組みです。被ったアイテムやキャラは、ユーザー同士で交換できるシステムを設けたいと思います。他にもタイムセールなどを実施し、ゴールド回復で稼ぐことも考えてはいますが、メインはガチャです。ガチャでは自社で作る物だけではなく、市販されている家具や、有名デザイナーとのコラボ。キャラであれば、アニメや漫画のキャラとのコラボなどを考えており、より収益が見込めると思います」
渡辺は次々と変わる画面を的確に説明する。
「そして、本アプリの主なターゲットはFlameと同じく若年層です。Flameのネームバリューを利用することで、集客も見込めます。更に、Flameとの連携もできれば幅が広がると思っています」
言い終えると同時に、渡辺は賢吾達へ正対した。
「簡潔ではありますが、以上です。ご清聴ありがとうございました」
渡辺がお辞儀をした後、
「質問がある方はどうぞ」
と橘は手を軽く上げた。
誰からも言葉が出ないので、橘が渡辺に席へと戻るよう目配せをする。渡辺は片付けをしてから、座っていた席に戻った。
「いいんじゃない?」
「可愛いくて面白そうね」
まずは松井がそう言い、玲子も続いた。
しかし、
「私は反対」
と言った石橋は揺るがない様子だった。
「理由を聞きましょう」
橘に言われ、石橋は大きく息を吐く。
「結局はガチャゲーってことでしょう? 絶対に嫌です。ガチャは必ず課金周りでエラーが生じるし、被害額も半端じゃない。しかも、若年層をターゲットにしているところが殊更に質が悪いですね。未成年がどれだけ親の金を無断で使っているかご存知ですか? そしてそんなクソガキの親からクレームが来るのがウチなわけです」
「それがCSの仕事でしょう?」
間断なく言い放った橘に、石橋は顔を歪ませた。
「はぁ? CSはユーザーから怒られることが仕事じゃない! ユーザーを快適にもてなすことが仕事なんです!」
石橋が立ち上がって怒鳴り返す。ソリッドの獰猛なチワワが降臨した。
「トーカ、落ち着いて」
片倉が宥めると、石橋は不服そうに座り直した。
「私は、輝成さんからガチャはやらないって言われた。その前提でここに入社している。ウチの子達にも理不尽なクレームは受けさせたくない。やるんだったら辞める」
石橋は怒気を漲らせて述べた後、そっぽを向いた。
「ちょっと、話が飛躍しすぎじゃね? ガチャ云々で辞めるとかさ」
賢吾はそう笑って場を収めようとした。だが、逆にその態度が癪に障ったのか、
「時代の流れ的に、売るならガチャゲーは必須でしょ」
と辰巳が言い、
「まぁ……仕方ないよね」
更に山岡も乗っかってきた。
その二人を古参者の栗山と平田が強烈に睨み付けており、余計に空気が悪くなってしまったと賢吾は後悔した。
そんな中で、
「客観的に見て、内容自体は悪くないと思ったけどな。石橋さん的には面白くもないってこと?」
寺島は我関せずと明るい声だった。
「CSの肩書なしで、フラットな意見もください」
橘はトーンダウンし、石橋へ確認をした。
「Flameのネームバリューもある。今のところ、そこまで競合するアプリがない。売れるとは思いますよ。でも……やりたくない」
「本音が出てる」
不貞腐れて言う石橋に、辰巳は嘲笑っていた。石橋は目つきが鋭くなり、言い返そうと息を溜めたが片倉が手で制した。
「売れるし面白いとは思いますが、僕も反対です。トーカは、我が身可愛さやわがままで物事を決めません。全てはウチのブランドを護ること、ユーザーへの背徳行為が許せないだけです。元々は、ガチャゲーのCSで揉まれてきた奴ですからね」
石橋を暴走させないよう、片倉はその気持ちを代弁するかのようだった。
「……あ、あのぅ」
楓が小さな声を出した。
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