【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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84. 異世界1253日目 サビオニアの遺跡と襲われた村

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84. 異世界1253日目 サビオニアの遺跡と襲われた村
 面倒なことはいやなので途中の町は素通りして北上し、翌日の朝早い時間に遺跡の近くまでやってきた。途中からはちゃんとした道はなくなったけど、なんとか車で走れるレベルだったので良かったよ。

「ここが目的の遺跡?特に名前も付いていなかったんだっけ?」

「ああ、北部の遺跡と言われているだけで調査も行われていないみたいだしね。遺跡の監視をしている訳ではないみたいで誰もいないようだなあ。ほんと、わざわざ許可証は必要なかったみたいだ。」

 結構な広さの遺跡のようだが、建物はほとんどが崩れ落ちてしまっている。すでに使える物資などは回収されているようなのでここはもう考古学的な価値しかないのだろう。

「とりあえず一通り遺跡を見て回ろうかと思ってるけど、まずは魔獣退治が先かな?」

 さすがに放置されているせいか良階位までの魔獣がいるみたいなので注意しなければならない。

「確かにそうね。近くに何匹か良階位の魔獣もいるからそれを優先して倒したほうがいいわね。上階位だったら一人でもいいけど、良階位は二人で対応した方がいいわ。」

 まずは調査ではなく、遺跡付近の魔獣退治を行う。結構な広さがあるので大変だけど、先に倒しておかないとゆっくり調査もできないからね。


 近くにいた良階位の魔獣は初めて遭遇する巨魔鹿と何度も倒したことのある蹴兎だった。巨魔鹿は初めてだけど、白鹿を倒したことがあるので戦い方は似たようなものだろう。毒を持っていないのでその点はまだ楽なのかもしれない。

 遠くから風魔法を打ち込んだんだけど、簡単には体に傷が入らない。遺跡の建物があるので速度が出せないみたいで最も恐れられる突進の威力が弱いのが救いだ。水盾と風盾でも十分牽制できていい感じだ。土の盾を出すまでもないな。このあとは二人で囲んで少しずつ首筋に攻撃を加えていく。
 良階位になると雷魔法を使っても動きは止まらないものも多いので、地道に攻撃していくしかない。白鹿よりも角の攻撃が鋭いのが怖いけど、落ち着いて対処すれば盾で防ぐことができるので大丈夫だ。最後は首を切り落としてなんとか討伐する。

 蹴兎は動きがかなり素早いので結構大変だけど、動きが直線的なのが救いだ。相手が蹴り攻撃してくるタイミングでその軌道に剣を出すとうまく切りつけられる。最初の頃はこの動きが読めなくて苦労したけどね。
 ただ素早いために買い取り対象の毛皮が傷だらけになって価値がほとんど無くなってしまうのが悲しいところだ。このため傷がほとんど無い毛皮の買取額はかなり高くなっている。蹴兎は自動解体ができるのでその場で処理をしたけど、巨魔鹿は後で解体することにした。

 他にも並~上階位の魔獣も結構いるので結局この日は魔獣討伐だけで終わってしまった。良階位の魔獣は上階位の魔獣が進化した感じみたいなのでいったん討伐してしまえば良階位の魔獣は出てきそうにない。
 この日は遺跡の中にあるスペースに拠点を出して泊まることにした。食事をとって早めに眠りに落ちる。さすがに初日は交代で起きていたけど、特に魔獣がやってくることはなかった。


 翌日から遺跡の調査を開始したけど、特に目新しいものは見つからない。いくつかの文字は見つかったけど、単なる案内みたいなのでそこまで重要な感じはしない。教会のような建物には壁画があったみたいだけど、建物が崩壊しているのでほとんどわからない状態だった。
 町の地図らしき案内があったので確認してみると、町の北西の方に少し離れた設備があるみたいだった。せっかくなのでそっちに足を伸ばしてみると、大きな建物があったが、中には特に気になるようなものはない。ただこの建物と町の間には一定おきに台座があったので運搬用のレールとかでもあったのだろうか?

「町の中ではできないものをここで作って運んでいたのかねえ?」

「途中一定おきに台座があったから、なにかを運ぶか送るかしていたかもしれないけど、台座部分しかないからよくわからないわね。レールでも敷いていたのかしら?」

「そうなんだよね。建物もほとんどが崩れているし、加工できるものは取り外された後だから正直どんなものがあったのか判断するのが難しいんだよね。やっぱりちゃんと調査するには未発見のところにいかないと難しそうだなあ。撤去前の写真とかも残っていないからね。」

 結局この遺跡で5日ほど調査をして終了することにした。ほとんど収穫がなかったのが残念だ。まあ見つかってかなり経っている遺跡だから新たな収穫もないだろうね。



 遺跡を出発してからこの国の最南端にあるまだ見つかっていないと思われる遺跡に向かうため南下を開始する。距離を考えると1ヶ月くらいはかかるかな?変なトラブルもいやなのでできるだけどこにも寄らずに一気に走って行くことにした。
 10日ほど走ったところで西部エリアでは最大都市のオカロニアという大きな町の近くまでやってきた。あまり町には寄らないようにしていたんだけど、さすがに全く寄らないのも悲しいのでこの町には少し寄っていくことにした。

 この国の中では交易が盛んな方の町なのか、町を出入りする人は結構多くて行列ができていた。町に入ると、他の町に比べて店などに置いている商品が多い感じがする。

「なんか置いている商品が王都よりも多くないか?」

「ええ、品揃えの差が顕著ね。なにか闇での商売が行われているのかしら?」

「でも値段を考えても他よりも安いよね。何かの横流し品なのかな?」

 お昼は食堂で食べたんだけど、値段は同じくらいでも味と量が間違いなくかなり上だ。周りの声に耳を傾けているとちょっと気になる内容が聞こえてきた。どうも東の方の町で反乱が起きているらしい。鎮圧はされたということみたいだが、反乱が他の町にも飛び火しているようなことも言っている。

「ジェン、この話どう思う?」

「正直、この噂話だけじゃよくわからないけど、全くデマというわけでもなさそうだよね?」

 今まで少し聞いた話だと、貴族の横暴は昔からなんだけど、今は国王もひどいらしく、領主と国からの重税で生活がしゃれにならない状況のようだ。国政がうまくいっていないせいで外交もうまくいかなくなり、物資も不足しているみたいだしね。
 反乱自体は今までも時々起きていたみたいだけど、今回は結構規模が大きいというような話だ。さすがにあまりに政治がひどすぎて反乱が大きくなっているのか?

「貴族エリアでも平民エリアでも話が出ているからやっぱり反乱が起きたのは間違いないだろうね。どこまで拡大しているかはわからないけどね。」

「そうねえ。ただ単発での反乱ではないようだったら、他の国からの介入とかもあるかもしれないわね。組織的な反乱とかだと、その資金源とかその裏に何かしらのやりとりがないとうまくいかないはずだから。」

「そういうもの?」

「そういうものよ。」

 ジェンが言うにはどこかの国がこの国の利権を狙っていて、それに都合の良い国に変えるために反乱軍に資金援助をしたりすることはよくあるらしい。まあたしかに地球でもそんなことはあったよね。たしかこの国は鉱石とか宝石とかの鉱物資源が豊富だったはずだ。その当たりの利権かな?


 役場に行って他の町の情報を聞いてみたけど、あまり情報は得られなかった。まあ変に吹聴すると大変なことになるから情報統制はされているのだろう。
 とりあえず噂レベルだけど、反乱が起きたのは間違いなさそうなのでしばらく国の中が荒れてしまうかもしれないね。まあすぐにどうこうなるとは思わないけど、注意はしておいた方が良さそうだ。

 町の雰囲気も悪くなさそうだったので少し買い出しをしてからこの町の宿に泊まる。宿の値段は他と変わらないけど、レベル的には他よりもいい感じだった。



 町を出発したあと、ひたすら南下していく。結構な距離を走ってきたせいか、徐々に気候も変わってきた。まあ熱帯から温帯になってきたという感じだろうか?南半球なので今は春という感じかな?ちょうど南下してきているので気温はそれほど変わらない感じで良かったけどね。
 こっちの国も南の方は冬には雪が降るみたいだから冬になる前にはある程度北上しておかないといけないな。

 遺跡を出発してから20日ほどかかってサビオニア国の南にある結構大きなニンモニアという町までやってきた。規模としてはオカロニアと同じくらいだろうか?このあたりの海岸は切り立った断崖になっていることもあり、海岸沿いに大きな港町はできなかったらしい。このためこの町は内陸の方に位置している。
 戦争とは縁が無かったのか、魔獣対策と思われる城壁があるくらいなので町の大きさの割には城壁が低い。もちろん小さな町に比べると頑丈な造りにはなっているけどね。気になることもあるので、情報を仕入れる目的で町に寄っていくことにした。

 貴族用の門を抜けるとそのまま貴族エリアにつながっているのは他と同じだ。ちょうどお昼時だったのでまずは貴族エリアにある店に入って食事をしながら周りの情報に耳を傾けてみる。もちろんそんな大声でしゃべっているわけではないけど、こっそり魔法を使うので結構はっきり言っていることを聞くことができる。
 国の発表によるとすでに反乱は鎮圧されていると言っているみたいだけど、まだ反乱は収まっていなくて拡大中という話も聞こえてくる。まあ国の発表と実際に遭遇した人からの伝聞とかの情報が違っているのはよくあることだね。
 このあと平民エリアにも行って、ちょっと遅い時間だったけど人の多そうな店で軽く食事をとる。こちらでも周りから聞こえてくるのは同じような内容だった。ただ小さな声で反乱に合流しようかと言っている人達もいたのが気になった。

「正直なところ正確な情報を知っている人はいないと考えた方がいいみたいだけど、東の方の町にはしばらく行かない方が良さそうだな。」

「そうね。今後も状況が変わってくるかもしれないけど、遺跡の調査が終わったら早めに町を出た方がいいかもしれないわね。
 本当ならすぐに出た方がいいのかもしれないけど、ここまで来て遺跡の調査が出来ないというのはちょっとね。それにもしかしたらしばらくこの国に入ることが出来なくなるかもしれないしね。」

「そうだよね。遺跡の調査が終わったらまた情報収集だな。」

 店を見て回るが、特に購入するようなものはなかった。役場と店で魔獣の素材を買い取ってもらってから出発する。このあとは西にある遺跡に向かうことになるけど、道があるとは思えないので途中からは走って行くしかないだろうなあ。



 遺跡に向かう方向には漁村の小さな町があるために最低限の道路は整備されているけど道の状態はあまり良くない。そもそもほとんど車は走っていなくて歩きの人が多い印象だ。車に乗っているのは商人の仕入れ関係の車だろう。
 内陸から海岸線に出てしばらく走ったところにタニアという港町があった。特に寄るつもりはなかったんだけど、町の方から血の臭いがしてきた。

「ジェン!!なんかおかしくないか?」

「ええ、血の臭いがするわ。なにかあったのかも。ちょっと寄っていきましょう!!」

 すぐに戦闘になる可能性もあるので、車を収納バッグに入れてから装備を調えてから町へと向かう。入口までやってきたんだけど、門番の姿がいない。

「門番の待機場所みたいなところはあるのに人がいないね?」

「とりあえず中に入ってみましょう。」

 あたりを警戒しながら町の中へと進んでいくと、あちこちに血が飛び散っていた。特に魔獣の気配はないが、魔獣にやられた後だろうか?

「な、なにが・・・。魔獣でも出たのか?」

 近くで片付けをしている人に声をかけてみる。

「一体どうしたんですか!?」

「ああ、魔獣にやられたんだよ。ちょっと前に大熊がやってきてあたりの住人に襲いかかったんだ。小さな子供も大勢やられた。くそっ!!」

 それでこの惨状か。大熊は上階位上位の魔獣だから良階位の実力が無ければ倒すのは厳しいからなあ。気配を感じないと言うことはもう討伐されたのか?

「もう討伐されたんですか?」

「ああ、貴族の冒険者が退治してさっさと町を出て行ったよ。」

「討伐されたんですね。良かった。」

「良くねえよ!!あいつらが倒せなくてこの町まで魔獣を連れてきたんだぞ。そして住人が襲われている隙を突いて討伐したんだ。それなのに討伐を終えたらさっさと町を出て行きやがった。俺たちの命をなんだと思っているんだ!!」

「えっ!?」

「そ、そんなことって!!!」

 ジェンがかなり青ざめている。でも、いくら何でもひどすぎる。倒せないとわかって逃げるのは悪いとは言わないけど、他人を巻き込むなんて最悪だ。しかもその後何もなかったように立ち去るなんて・・・。

「け、怪我をした人達は今はどこにいるんですか?」

 どこまでできるかわからないけど、できるだけのことをしてあげないと不憫すぎる。

「今は教会で治療しているが・・・。あんたたちは?」

「一応治癒魔法の心得がありますので加勢してきます。」

「そ、そうか、頼む。この通りをまっすぐ行ったところにあるからすぐにわかるはずだ。」

 言われた方向に向かって駆け出す。

「たぶんこんな田舎だから治癒魔法を使える人がどこまでいるか分からないから場合によって制限なく治癒魔法を使うよ。」

「ええ、わかったわ。」

 大急ぎで教会へと向かうと、多くの人でごった返していた。どうやら怪我をした人達の家族なんだろう。中に入られると収拾が付かないので入口で止められているようだ。近くに水を運んでいるシスターと思われる人がいたので声をかける。

「すみません。多くのけが人が出たと聞きました。治癒魔法の心得がありますので、手伝いができればと思いまして。」

「ほんとですか!?助かります!!」

 特に確認もしないまま教会の中に案内される。よほどテンパっているのだろう。


 教会の中にシーツが敷かれてその上に怪我をした人達が並べられていた。かなりの深手を負っている人達もいるが、まだシーツを掛けられていないところをみると亡くなった人はいないのかもしれない。看護をしている女性が5人ほどいるけど、治癒魔法を使っているのは2人だけのようだ。
 話を聞くと使える治癒魔法は初級レベルらしく、止血するのが精一杯のようだ。まあこんな地方の教会にいるのはそのくらいだろう。このため重体の人達はすでに諦められているように見える。

 まずは怪我をした人達の状況を見てみる。この部屋に連れてこられているのは怪我のひどい人だけのようで、かなりやばそうな人が5人、深い傷を負っているが命は大丈夫そうな人が6人という感じだ。他の部屋に軽い怪我をした人達が20人ほどいるらしいが、後回しにされているようだ。

「まずは止血から先に進めていきます。」

 そう言ってジェンと二人でまずは止血から取りかかる。血が止まらないとまずいからね。自分たちの治療を見てシスター達は驚いていたが、すぐにサポートに入ってくれた。
 全員の応急処置を終えたところで一息つく。あとは一人一人きちんと治療していく感じだな。これだけでも結構疲れてしまったが気力を振り絞るしかない。

「申し訳ないけど今回の治療のことは秘密にしてもらえないでしょうか?」

 自分の言葉を聞いたシスター達は納得したようにうなずいてくれた。

 治療できるシスター二人は軽傷の人達の治療に行ったので、治療をしながら残った人に今回のことについて詳細を聞いてみた。
 最初は町の近くに強い魔獣が出たので討伐依頼を出したらしい。そこにやってきたのが良階位の貴族の冒険者達で、やってきて早々に宿で豪遊していたらしい。討伐を依頼した手前、むげにもできず、数日泊まった後、やっと討伐に向かったようだ。
 すぐに倒してくれたらまだ良かったんだが、やられそうになって町の中まで逃げてきたそうだ。しかも手負いの魔獣を連れてだ。そのあと町の住人が襲われている隙に討伐したんだんだけど、倒した冒険者達は住人のことは無視してそのまま立ち去ったらしい。しかも討伐証明を強引にもらっていったようだ。

 話を聞くと怒りがこみ上げてきた。なんて奴らなんだ。こんなことが普通なのか?・・・いかんいかん、集中しなければまずい。

「なんてひどいことを!!人間としてあり得ないわ!!冒険者の真義はどこに行ったのよ!!」

 ジェンは怒りが収まらずに叫んでいた。

「ジェン、怒りはわかるけど、今は治療に専念しよう。」

「わ、わかってるわよ。イチ、絶対に傷跡も残さずに治すわよ!」

「もちろん!」


 精神を鎮めてから治療を再開する。女の子の顔なんか傷が残ると大問題だからね。足が切れてしまった人もいたけど、切れた先が残っていたからまだ治療はしやすかった。どのくらい時間が経ったのかわからないけど、怒りの感情のせいか逆に集中して治療ができたのは良かったかもしれない。
 治療が終わった人達はそのまま眠りについていたので、起きてから確認してもらわないといけないけど、おそらく大丈夫だろう。血がかなり流れているので安静にしておかないといけないからね。

「大丈夫ですか?もうすぐ夜明けの時間となりますよ。」

「そんなに時間が経っていたのか!?」

 なんとか治療を終えて一息ついたところでシスターが声をかけてきた。結構な時間ぶっ通しで治療をしていたんだな。

 起きたら食事をしてもらおうとサンドイッチなど簡単に食べられそうなものと一緒にいくつかの食料を出しておく。いくら治療しても栄養がなければちゃんと治らないからね。


 治療が終わったと思ったら急に疲れが押し寄せてきた。でもそろそろ起こして体調の確認しないといけないよな。

「ちょっと朝日を浴びてきます。すぐに戻りますので、もし目を覚ましたら食事をさせておいてください。あと体調についても問題ないか確認をお願いします。」

 ジェンと二人で建物を出ると朝日が昇ってくるところだった。

「なんとかなったかな?」

「うん。たぶん大丈夫だと思うわ。」

「助けられて良かったなあ。」


 ジェンと表にある水場で顔を洗いながら話をしていると、不意に声をかけられる。

「お前達、貴族なのか?」

 首にかけていたペンダントを見た住人がすごい目つきでにらんできた。

「ええ、そうですけど、自分たちは・・・」

「こんな状況になったのはお前達貴族のせいだぞ。いくら貴族でもこんなことをしてもいいのか?治療をしたと言っても形だけのことだろう?何人亡くなったかわからんが、自己満足にはなったか?もういいからこの町から出て行ってくれ!!」

 周りの人たちから厳しい目を向けられる。まああんなことがあったのだからしょうが無いだろうな。下手に弁解すると危なそうだ。

「わかりました。できる限りの治療は行いましたのであと2、3日は安静にするように言っておいてください。」

 これ以上言ったら貴族でも本気で襲われそうなので車に乗ってすぐに出発する。まあこんなことがあったので誰かに当たらないと気が済まないんだろうな。経過が気にはなるけど、仕方が無いか。
 帰りにも近くを通るからそのときには誤解も解けているだろうから、治療があればそのときでもいいだろう。


~町の住人Side~
 二人を追い出した住人達はそのあとも悪態をついていた。怪我した人達が心配だが、シスターから中に入るのを止められていたので状況がわからないからだ。

「けっ!!なにができる限りの治療を行っただ。うちの娘は一生残るような傷を顔に受けたんだぞ。どうしてくれるんだ。」

「うちの息子も片足がなくなったんだぞ。この後の生活はどうしてくれるんだ。」

 いろいろと悪態をついていると教会のドアが開いてシスターが顔を出した。

「あらっ?あのお二人はどこに行かれたんですか?治療をした人達が目を覚ましたのでお礼を言いたいと言っているんですよ。」

「あいつらに何もされなかったか?貴族だったから手伝いを強要されたんだろう?追い出したからもう安全だ。」

「え・・・・?」

「ほんとに貴族だからって偉そうにしやがってふざけんなって。」

「何を言っているんですか!?あの方達は徹夜で必死に治療してくれたんですよ!おかげで誰も亡くならずに、しかも完璧に治療をしてくれたのに・・・!!す、すぐに追いかけないと!!」

 あわててシスターが町の外に向かった。


 話を聞いた住人達は教会に入り驚きの声を上げていた。顔をえぐられた子供の顔の傷がなかった。足がちぎれていたはずなのに普通に歩いていた。他にもかなりの傷を負った人達の傷がなくなっていた。
 そこに先ほど出て行ったシスターが戻ってきた。

「どういうことなんですか!?同じ貴族として許せない、絶対に傷跡が残らないように治してみせると言って徹夜で治療に当たってくれた人達に対してなんということを・・・」

 先ほどまで暴言を吐いていた人達は何も言えなくなってしまった。ここまでの治療ができる治癒士はそうそういない。これだけの治療をするにはどれほどのお金を積む必要があるのかも・・・。

「治癒魔法の能力は秘匿するのが普通なんです。特にここまでの治癒能力を持つことがわかればいろいろと面倒なことになってしまうんです。でも今回はそんなことはいっていられないと言って全力で治療をしてくれたんですよ。それなのに・・・。」


 治療を終えた子供達は差し入れしてくれたと思われるサンドイッチやジュースなどを食べながらきょとんとしていた。

「ねえ、おにいちゃんと、おねえちゃんは?僕達お礼を言いたいんだ。」

 その言葉に応えられる住人はいなかった。町の恩人に貴族と言うだけでとんでもないことをしてしまったという後悔しかなかった。


~シスターSide~
 とんでもないことになってしまった。なんでこんなことになってしまったんだろう。平民はこんなことをされても我慢しなければならないの?

 多くのけが人が教会に運び込まれたけれど、とてもではないけど治療なんて無理だ。私と見習いのシスターは初級治癒魔法しか使えない。もちろん治癒薬なんてものはここには置いていない。まだ亡くなった人はいないが、おそらく時間の問題だろう。申し訳ないけど、助かる見込みのある人だけに治療をするしかないわ。

 そう思っていると、治癒魔法を使えるという冒険者がやってきた。少しだけでも手助けになればと思って治療を手伝ってもらうことにしたが、手伝ってもらうレベルではなかった。使える治癒魔法のレベルが私たちとは桁違いだったのだ。ここまでの治癒魔法を使える人は国にもそんなに居ないのではないだろうか?

 浄化魔法もそうだが、治癒魔法ですぐに止血できているし、もうだめだと思っていた子供達から順番に治療を始めているのだ。

 応急治療が終わったと言うことで一息ついたところで男の人が話しかけてきた。

「申し訳ないけど今回の治療のことは秘密にしてもらえないでしょうか?」

 言いたいことはわかった。これだけのレベルの治癒魔法を使える人は教会でもほとんどいない。きっとこのことがわかってしまえばこの人物を取り込もうと動くだろう。

「言いたいことはわかりましたが・・・、いいのですか?」

 いくら口止めしてもこのことは他に伝わるかもしれないし、私たちが本当に黙っているという保証もないのにいいのだろうか?

「ええ、今はこの人達を助けることが重要です。」

 確かにその通りなのだけど・・・。そのときに胸のペンダントを見て驚いた。貴族の人達だったんだ。

「き、貴族の方なんですか?」

「あ・・・、たしかに貴族の地位は持っています。でもそんなことは関係ありません。こんなことをしてほっていくなんて貴族以前に冒険者、いや人ととしてやってはならないことです。絶対に助けて見せます。」

 峠を越したとは言え、傷跡の治療にも取りかかったため、時間がかかってしまっている。まさか傷跡を消すことまでできるなんて驚きだった。


 明け方になってやっと治療が終わりこれを食べさせてくださいと多くのサンドイッチやジュースを出してくれたのはとてもありがたかった。「しばらくは血が足りなくなっていると思うので栄養はとるようにしてくださいね。」と言って、他にも食料を出してくれた。

 顔を洗ってくると二人が出て行ったのに、なかなか戻ってこなくておかしいと思って外に出ると待っていた住人達がとんでもないことを言い合っていた。
 追い出した?なぜ?あわてて追いかけたんだけどすでに町を出てしまった後だった。みなさんなんてこと・・・。
 戻ってから住人達に説明をするとかなり驚き、治療を終えた人達を見て言葉を失っていた。子供達のお礼を言いたいという言葉に悲痛な顔をしたけど、今更どうしようもないわ。


~魔獣紹介~
巨魔鹿:
良階位中位の魔獣。暖かい地域の森や草原に生息している鹿の形態をした魔獣。体の大きさは2~3キヤルドあり、頭には500ヤルドくらいのまっすぐな角が2本生えている。
獲物を見つけたときの突進力は強力で、トップスピードからの突撃はかなりの実力を持った盾職しか止めることはできないと言われるほど強力。草原で遭遇した際にはまずは突進への対応が必要で、角に串刺しにされることもある。
近距離からの突進と角を使った攻撃をしてくる。特に弱点はないため、倒すには持久戦を覚悟した方がいいだろう。
素材としての買い取り対象で最も高価なのは角となるが、折れてしまうと価値が下がるため、できるだけ原形をとどめた状態が喜ばれる。素材は武器に加工されたり、工芸品として加工される。毛皮や肉の人気も高い。



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