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第二部 異世界での訓練

244. 異世界1912日目 短い夏

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 ジョニーファンさんの屋敷を出てからすぐに走って町の方へと向かった。今回のことでかなり注目を集めているという話を聞いていたからね。やはり変装しておいて良かった。雑踏に紛れた後は変装を解いて素知らぬ顔で町を出る。


 クリアレントから北上していくが、前に盗賊がいたこともあったから気をつけた方がいいだろう。治安は大分良くなったとは聞いているが、まだ南部に比べると悪いみたいだしね。何かあったら飛んで逃げればいいけど、不意打ちをもらって車を傷つけられたり怪我をするよりは先に気がついた方がいいに決まっている。

 途中の町には寄っていくが小さな町では泊まらずにお店を覗くくらいにして、前に行ったトルイトの町よりさらに北にあるクリアノアの町へ。この町は夏の間のみ港が使えるのでその期間だけ漁業が盛んだが、冬は完全に凍結して港が使えなくなってしまうためかなり人が少なくなるらしい。今はすでに漁が開始されてかなりの賑わいを見せていた。
 朝早くから一般の人も買うことの出来る市が出るので魚介類の他、かにやエビなどを買いあさる。なかなか見ない種類の魚も多いので調理方法なども聞いておかなければならないが、結構細かく教えてくれたので助かった。

 折角なので少しの間だけでも寒いエリアにしかいない魔獣を狩っていくことにした。良階位の大白兎、大毛巨牛、巨白鹿、巨白熊、氷大蜥蜴、氷蛇あたりがその対象だ。優階位の氷鹿、銀豹、銀白兎、金狼、氷熊とかもいるんだが、さすがにちょっと手を出すのは怖い。まあ単独だったらなんとか倒すことが出来るかもしれないけどね。
 役場に行って魔獣の分布や生態について再度確認する。今は魔獣も本格的な活動を始めた時期なので結構気性が荒くなっているようだ。ただその分体力が劣っているみたいなのである意味いいのかもしれない。肉や皮などの素材の買い取り額は下がるようだけどね。

「こんにちは。しばらくこの町で活動しようかと思っていますので登録をお願いします。」

 役場の受付に行って登録の申請を行う。

「分かりました。少々お待ちください。

 えっと、討伐記録を見させていただきましたが、良階位だけでなく優階位の魔獣も狩られていますよね。特別依頼を受ける資格は十分と思いますので受けてみますか?」

 どうやらこの地域は高階位の魔獣を狩れる冒険者は少ないみたいで、良階位以上の魔獣の討伐を促進するため、良階位以上の魔獣には定期的に特別依頼が出されているようだ。素材の買い取り額は変わらないが、実績ポイントが上乗せされるらしい。どうせ討伐するなら受けていて損はないな。

「分かりました。どのくらい狩れるか分かりませんがお願いします。」

「対象の魔獣のリストをお渡ししますので、後で確認しておいてください。基本的に良階位以上の魔獣が対象を考えてもらって良いです。この時期だと数が上限に達することはないと思いますのであまり意識しなくても大丈夫だと思いますよ。」

 どうやら生息数などにあわせて依頼数が変動するようだ。数は少ないがこの特別依頼を目的に来ている冒険者もいるみたい。まあどうせ狩りをするなら実績ポイントを多くもらえた方がいいよな。



 二日ほど町に滞在してから出発する。魔獣の収納量はまだ大丈夫なのである程度長期間の遠征になりそうだ。事前に他の冒険者からも情報を得られたので人が少なそうなエリアへと向かう。

 さすがに技量も上がってきているせいか、魔法を使いながら狩りをすると良階位の魔獣であれば格段に討伐が楽になった。さすがに良階位上位の巨白熊は手こずったけどね。
 どの魔獣も最初に魔法でダメージを与えられるのでかなり優位性が高くなる。今なら剣だけでも倒すことが出来るだろうが、余計なリスクは抱えたくないので、必勝パターンでの戦闘だ。折角魔法が使えるのなら魔法と組み合わせて戦う方法を考えた方がいいのは間違いないからね。
 素材の確保には水弾や風弾が有効だ。ダメージも結構大きいからね。風斬で首とかが切り落とせればいいんだけど、さすがに高階位の魔獣だとそう簡単にはいかない。

 優階位の魔獣は単独でいた氷鹿、銀豹を何匹か倒したが、やはり安全を見て魔道具を使った。前に優階位の魔獣を倒したときのように気配を消して近づいてから魔法で攻撃する手段だ。今のところこの戦法だと単独の場合はまず倒すことが出来る。
 他の優階位の魔獣は優階位上位でさすがにちょっと怖すぎるので、気配を感じたときにはすぐに逃げ出した。まあ見かけたのは一回だけだったけど、索敵の時点でちょっとかなわないと思ってしまったからね。

 結局1ヶ月ほどの遠征となってしまったが、かなりの数の魔獣を狩ることができた。良階位以上の魔獣だけでも100匹は余裕で狩ったんじゃないだろうか?優階位の魔獣だけでも9匹倒したからね。
 解体はやっていたが、さすがに容量は結構ぎりぎりになってしまった。持ち歩いているものが多すぎるというのが理由なんだけどね。普通は二人で200キリルもあれば十分すぎるはずなのにね。


 町に戻ってから役場に顔を出す。

「お久しぶりです。」

「ああっ、無事だったんですね。あまりに期間が長かったので心配しましたよ。」

「せっかく遠くまで行ったので戻るのも面倒でそのまま狩りをしていたんです。」

 記録を確認すると、討伐数も結構な数だったのでかなり喜んでいた。素材についてもすべて解体は終わっているのですぐに引き取ってもらえたが、肉関係はあまりに量が多いので出さなかった。おそらく持って帰れないので肉は捨ててきたと思われているだろうな。
 正直なところ、今持っているお金に比べると金額はたいしたことはないが、それでも普通に考えるとかなりの収入だ。まあお金はあって困るものでもないし。



 当初の目的の魔獣の狩りはできたので、遺跡調査へと向かう。こっちには大きめの遺跡が3カ所あり、結構な数の壁画が残っている。遺跡の一部は鍵が取り付けられて入れないようになっているが、夏の間は管理人がいるので、調査許可証を見せるとすぐに開けてくれた。
 すでに調査は終えているんだが、やはりなにか手に入らないかとやってくる冒険者もそれなりにいるので、壁画が壊されないように監視しているみたい。

 各遺跡を回り、壁画の調査をしていくが、今まで見たような絵ばかりで目新しい物はなかった。文字も少なかったのもその理由の一つだろう。
 もともとはいろいろと書かれていたかもしれないが、調査の時に多くの壁が壊されてしまっているのだ。今残っているのは結構大きな絵が描かれているところだけだ。やはりまだ見つかっていない遺跡じゃないと新しい発見は無理だなあ。


 途中少し大きめの町のハルイやマルサカにも寄っていく。マルサカ付近は治安があまり良くないとは聞いていたのでかなり慎重に索敵しながら走って行く。
 そう思っていると、森の中で気配を消して潜んでいる集団を発見した。気配を消してはいるが、隠密レベルがそれほど高くない人もいるので自分たちにはばればれだけどね。盗賊の可能性は高いけど、いきなり殺すわけにもいかないよなあ。気配を押さえているので冒険者と思わずに攻撃してくる可能性はある。

 知らない顔をして通り過ぎると後ろから車で追いかけてきた。スピードを上げたら追いつけないとは思うが、盗賊ならそのまま野放しにも出来ないだろう。人を殺したりはしたくないが、そういうことをやっている人に情けはかけない。

「車が壊されてもいやだからいったん収納するよ。」

「分かったわ。あと、前方右手にも隠密を使っている集団がいるわよ。仲間かどうか分からないけど、注意してね。」

 道路から左方向に外れて近くの木陰に入る。様子をうかがっていると、特に注意を払うこともなくこっちに向かって走ってきた。あまりに素直すぎるけどおとりなのか?しかし、辺りを警戒するが、やって来ている2台の車の他は先ほどの気配くらいしか見当たらない。あまりにも手際が悪い気がするなあ。

 装備を調えて茂みから様子をうかがっていると、近くまでやって来て車が止まり、中から10人の男達が下りてきた。

「逃げられないと思って観念したのか?素直に言うことを聞くなら命だけは助けてやる。」

 盗賊の台詞って何でこうも一緒なんだろう?車にはまだ一人ずつ乗っているので逃げ出したら車でも追いかけてくるつもりだろう。強さは二人ほど強いけど、あとはそうでもないな。最初に魔法を打ち込めばどうとでもなりそうだ。

 徐々に近づいてくるが、気になるのは先ほど隠れていた人たちだ。少しずつこちらに近づいてきているが、この人達が仲間なのか?盗賊に比べて隠密のレベルも高いし、動きも統制されている。
 そう思っていると、魔法が放たれて盗賊達を攻撃し始めた。混乱する盗賊達を尻目に統制された動きで一気に盗賊達は地面に押さえつけられていた。かなり訓練された動きだな。

 鎮圧が終わった後、その中の一人がこちらに向かってやって来た。服装などを見ると、盗賊ではなく警備隊のような感じだ。青っぽい鎧に統一されているので正規軍なのだろうか?ただ向こうも警戒しながらやって来ているのでこちらも警戒を解くわけにもいかない。

 声が届くくらいのところで止まって、大きな声で話しかけてきた。

「我々はアルモニア青の魔術団の一員です。おけがはありませんか?」

 こちらが警戒しているのが分かったのか、それ以上は近づかずに証明となる剣を掲げてきた。アルモニアの国の紋章が入ったもので、前に説明を受けたことがある。おそらく正規兵で間違いはないだろうな。

「ええ、大丈夫です。盗賊の討伐ですか?」

「最近この辺りに盗賊が出るという話があったので警戒していたところなんです。申し訳ありませんでしたが、確認をするためにおとりになっていただきました。」

「いえ、こちらもおかげで助かりました。ありがとうございます。」

 お互い警戒は解かないまま一定の距離を保ちながら話して出発する。向こうもどういう人間か分からないのでそうそう近づいてこないよな。

 まあおそらく正規兵で間違いないだろうし、あとはあの人達がちゃんとやってくれるだろう。青の魔術団と言っていたので国の魔術団なんだろうな。前にアルモニアには4つの魔術団があると聞いていたからね。

「国の魔術団が遠征して盗賊討伐するなんて結構大変だよなあ。ハクセンでも言っていたけど、サビオニアの影響もあって治安維持に力を入れているのかね?」

「それだけ革命が起きたのが衝撃だったんでしょうね。」

「革命が起きてその周辺の国まで波及するというのは地球でもあったからね。」

「確かにね。でもそれで治安が良くなったり、たちの悪い貴族が粛正されるならいいことだよね。」

「まあね。」

 しかし、盗賊がいると、討伐してしまおうと思ってしまうのはこっちの世界に染まってきているのかねえ。地球に戻ってこの記憶があるとちょっとまずいかもしれないよな。
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