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第二部 異世界の争い

218. 異世界1467日目 タイカン国の王都

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 途中の町に寄ったりしながら6日間で王都のタイカンに到着する。途中の町はなんと木造建築が多かった。タイガ国で見た建物は木材も使っているという程度だったんだが、ここタイカンでは完全に木造建築と言えるような建物も多くある。どうやら石材がそれほど採れないため、木造建築が多いという話を聞いた。さすがに藁葺きや瓦葺きではないけど、なんか懐かしさを感じる。

 王都が近づいてくると、かなりの広さの水田が広がっていた。まもなく収穫の時期なのか一面黄金色になっている。今までも小麦畑などを見たけど、ここまで一面に広がっている景色はなかったなあ・・・。まあ水田なので高低差がないから余計に綺麗に見えるのもあるのかもしれない。
 近くに大きな川もあるんだが、魔獣の退治には結構気を遣っているんだろうな。土手も造られて治水にもかなり気を遣っているように思える。


 さすがにやってくる人が多いせいか、王都の入口にかなりの行列ができているのは仕方が無い。でも入口の受付の数もかなり多いので列の進み方が早いのは助かる。手続きが終わるまで60分ほどかかったが、それでも十分早いほうだろう。ここにはもう貴族専用の通路とかもないからね。
 中に入ると町並みは今までと大差なかったが、ここも多くの建物が木造建築で驚いた。もちろん高い建物は石造りなんだが、3階建てくらいまでの建物は木造建築が多い。こっちの世界に来てからここまでの木造建築を見るのは初めてだなあ。
 店の中に入って見てみると、外壁だけが木材というわけでもなく、木の柱も使われているのでやはり木造建築で間違いないだろう。木造建築にしては柱は思ったほど多くないので魔法で強化されているのかもしれない。


 米を取り扱っている専門店を覗いてみると、かなりの種類を置いてあった。米はもともとはタイガ国がルーツらしいが、今はこっちの国の方が色々と発展しているらしい。お米の種類も多いので希望の内容を伝えるといくつか薦められたので少量ずつ買っていく。

「お米ってそんなに味が違うものなの?」

「全然違うよ!!」

 うちは父がかなり米の味にこだわっていたので、外食の時に食べてがっかりすることも多かったくらいだ。こっちの米もちょっと不満があったんだが、異世界だからしょうが無いと諦めていたんだけど、ここにこんなに置いているのはラッキーだった。これだけあれば気に入ったものがあってもおかしくないだろう。
 ジェンに米の良さを力説していると、店主から声をかけられる。

「そこまで米の味にこだわっているのでしたらこれを買ってみてはどうでしょうか?お値段は少し高くなっていますが、美味しいご飯が炊けると評判なんですよ。」

 炊飯器は持っていたんだが、やはり炊き方が不十分なのか、鍋で炊いた方が美味しかったからなあ。時間がないときは炊飯器で炊いていたけど、時間があるときはいつも鍋でやっていたからね。店主からの説明を聞いてから購入することにした。値段は普通の炊飯器の2倍の値段だったが、悔いは無い。

「ふふふ・・・今日から早速おにぎりを造って食べ比べを・・・。」

 なんかジェンに引かれてしまった。いや、ほんとにおいしい米は味が違うから・・・。

 他にも味噌や醤油なども購入していく。醤油は甘みのある醤油もあったのでよかった。これで刺身がもっと楽しめる。あと味噌も色々と購入してみる。八丁味噌のようなものもあったのでかなり味に幅が出そうだ。母から隠し味にいいと色々と聞いていたからね。

 ジェンはいろいろとお酒を購入していた。どうやら米から造ったお酒やその蒸留酒もあったみたいでいろいろと集めていた。かなりの年代物のものも買っていたんだが、値段を見ているよね?一本数千ドールとか言うものまで買っているようなんだけど・・・。なんか秘蔵のお酒とか話しているような気もするけど気のせいだよね?

 いろいろと買い物をしていたら思ったよりも時間がかかってしまった。宿はちょっと高めの宿に泊まることにしたんだが、旅館という雰囲気のところでちょっと贅沢感がある。木造建築のせいもあるかもしれない。残念ながら露天風呂はないが、大きな浴場があったのはうれしい。



 翌日は役場でいろいろと資料を読んだり、いろいろな店を見て回ったりしていたせいでこの町に3泊もすることになってしまった。なんか久しぶりにゆっくりとした日々だったなあ。

 ここでサビオニアの情報が入ってきた。どうやら革命軍が王都を陥落させたらしく、王族は全員捕まったみたいだ。多くの貴族も捕まったみたいで、現在処罰が進んでいるらしい。
 暫定政府が成立し、すでに他国との交渉を進めているようだ。タイカン国とはすでに交渉が始まっていたらしく、タイカン国との直接の交易ルートができるようになると発表されていた。ただ詳細についてはまた後日発表されるみたい。


~ハクSide~
 やっと王都を陥落させることができた。やっと先代から引き継いだタイラス様の夢が叶えられたのだ。

 俺の数代前はタイラス様に仕えていたらしい。平民だったがその仕事ぶりを評価されて重要な仕事を任せられるまでになったようだ。もちろん他の貴族からは影で嫌がらせを受けたりもしたが、それでも尽くす主と決めて仕事に励んだようだ。
 そしてタイラス様が国政改革を打ち出したとき、その改革を手助けするために尽力した。数は少ないが賛同する貴族、多くの平民からの支持を受けて改革は順調に進んでいくものと思われた。
 しかし一部の裏切りにより、タイラス様は捕まり、反乱者という汚名を着せられて処刑されることとなった。改革の中心人物を失ったことで、その改革は中断され、前よりもひどい状況となってしまった。
 俺の祖先は家族、仲間とともになんとか山を越えてタイカン国に逃げることができたが、多くの仲間は途中で亡くなってしまったと聞いている。

 タイカン国ではもちろん苦労したが、仲間とともに商会を立ち上げ、徐々に地盤を固めていった。「いつか夢途中で散ったタイラス様の願いを叶えるために」が我々の目的となった。
 俺が商会の手伝いを始めた頃に、祖先が山越えをしたときの日記を見つけた。その中に気になることが書かれていた。山脈の途中で古代遺跡のような跡を見つけたということだ。
 俺は信頼の置ける仲間とともに遺跡の調査に向かった。まだ発見されていない古代遺跡であれば多くの古代の遺物が期待できるからだ。しかし発見したものは別の意味で期待を裏切るものだった。

 通路を見つけたときは地下遺跡かと興奮した。しかし通路を進んでいっても何もなかった。いつまでも続く通路で、あるのは時々落ちている魔獣石だけだ。途中には一部落盤した跡があったりしたが、特に何の発見も無いまま2日間歩き続けた先にあったのは行き止まりだった。行き止まりだが土砂を除くことができそうだったので掘り進むとそこに見えたのは外の風景だった。
 このときは正直愕然とした。遺跡だと思ったのに何もなかったからだ。現実を直視できず、途中で何か見落としたのかと思ったが、外に出て何か違和感を覚えた。山の位置がおかしいのだ。太陽や月の位置や時間など調べて現在地を確認したところ、山脈の反対側に来ていることがわかった。山脈を貫く連絡道路と言うことがわかったのだ。

 ある程度商会も大きくなっていたことから、サビオニアでの商売を考えて金の力で貴族相当の権利を購入した。もちろんそれぞれの国にも証明するための相応の金額を払う必要があったが、サビオニア国内で商売をするのに必要なものだった。

 そしてサビオニアでも商会を立ち上げ商売を始めた。形式上はモクニク経由で輸送してきているようにしていたが、実際にはこの通路を使って物資の輸送をした。サビオニアでは特に食料などの物資が不足していたため、これを取引することで一気に商会の規模が大きくなった。
 そして商売とあわせてサビオニア国内にも同士を増やしていった。俺の商会の名前をみて探りを入れてくる人間も結構いたのである。もちろんこちらでもいろいろと調査して堅実に仲間を増やしていった。
 サビオニア側の領主も仲間に引き入れてからは一気に商売の規模は大きくなった。もちろん領主には形上の仲間であり、同士ではないんだがな。

 先代から商会を引き継ぎ、俺の代になったところでタイカン国の中枢にも話をつけて革命の準備を進めていった。タイカン国はその見返りとして今ある通路の権利やサビオニアでの多くの鉱山などの長期に渡る権利を主張された。革命を成功させるには援助も必要なため、ある程度飲まざるを得ない内容だった。
 あまりに権利を渡してしまえば革命が成功したとしても国として運営ができなくなってしまう。このためできるだけ短期間で決着をつけるしかなかった。革命が1年にわたってしまえば、大半の鉱山を渡さなければならなくなってしまう。ただそこまでかかってしまえば、革命が成功してもタイカン国やモクニク国に蹂躙されてしまう可能性もある。

 そして俺たちの意思とは関係なく起こった反乱を好機と判断し、国中に決起の依頼書を発行した。思った以上に賛同者が出たのには驚いたが、それでも思ったよりも時間がかかってしまったのはしょうが無いだろう。


 あの二人との出会いは本当に偶然だった。優階位の魔獣を倒した能力は使えると思い、町の入口の行列に並んでいる二人を誘ってみた。
 もし味方に付いてくれればと言う軽い気持ちだったんだが、話をしていてかなり驚いた。まさかそこまで知っていたとは思わなかった。どこでその内容を知ったのかわからなかったが、タイラス様のこともかなり詳細に知っていたからだ。
 何より驚いたのは連絡通路のことだった。複数の連絡通路があるというのはたしかに考えられない話ではない。古代遺跡の調査を行っていると聞いていたが、まさかそのようなことまでわかっているというのは正直驚きだった。
 そのあと急遽関係者を集めて会議を行ったが、ほとんどの人間が「信じられない」ということだった。それは連絡通路があるということではなく、たかが国を出るためだけにその情報を渡すと言うことが信じられないと言うことだった。ただ、こちらにとっては損はない話なので許可証を発行してもらうこととなった。
 それに加えて、できるだけ早めにこの国から出てもらいたいという意見もあった。タイカン国に出してしまえばもし何かあったとしてもこっちに直接手出しはできないはずだからな。


 ハーマン爵を救出に向かうというのは予定外だった。ただこれについては後をつけさせて監視を行ったが、純粋に助けに行ったようだった。連絡が遅れたせいで危うく救出が間に合わなくなるところだったが、なんとかなって良かった。

 タイカン国に抜けた後、二人は調査に向かうと言うので後をつけさせたが、残念ながら追いつけなかったらしい。そのあとロンも一緒に行くことになったようだが、あまりの速さに着いていくのが精一杯だったらしい。ロンがついて行けないと言っていたが、二人にはまだ余裕があったようだ。
 二人は良階位の冒険者と言っていたがどこまで実力があるのか正直わからなくなってしまった。途中に優階位の魔獣も出ていたらしいが、なんとか倒していたようだ。二人組の良階位のパーティーが優階位の魔獣を倒すというのは結構大変なことだと思うんだが・・・。

 連絡通路はもちろん補修の必要があるが、十分使えるものだった。しかもモクニク国東部への直接ルートであり、かなり重要なことというのがわかった。
 このルートのおかげでタイカン国との交渉は予想以上にうまくいった。それはそうだ。今までは西側に一つしか無かったルートが直接東エリアと取引できるようになるのだ。鉱石の優先的な輸出は仕方が無いが、鉱山の長期貸し出しについては帳消しにできたのが大きい。モクニク国への交渉にも使えたのも大きなことだ。さらにも一つのルートまで可能性があるからこれはそのうちに開発できるかもしれない。おそらくこの大陸の流通ルートが大きく変わるだろう。それだけの価値があるのだ。

 あの二人はこの利益について正確には把握していないと思っていた。しかしロンの報告を聞くとそういうわけではなかったようだ。今後の流通による経済効果などについても具体的な金額などを含めて話をしていたらしい。
 そのときにもらった資料を見て俺を含めて経済担当の者達はかなり驚いていた。もちろん基本となる金額については仮定の額と書かれていたが、それに対する数値についてはかなり具体性があったのだ。しかも今後の対応案なども書かれていたのだ。あの二人を経済の顧問に雇えないのかという話まで出たくらいだ。
 それだけのことがわかっているのに、見返りが国を出るための権利だけでいいのかと聞いたところ、この国のことを考えるとその方がいいというかなりお人好しな回答だったらしい。
 二人のことは一部の人間にしか話していない。もちろんこの話を提供した人間のことはある程度広まっているが、あくまで架空の英雄という形で広まっている。本人達にはあまり広めないでくれと言われているが、いずれは何かのお礼をしたいところだな。


~サビオニア簡易年表(後の歴史書より)~

946年 暗黒王即位 多くの貴族、平民が粛正される
956年 タイラスの反乱
967年 暗黒王崩御
968年 継承権2位の三男が王位継承 平民王即位 平民登用への改革
978年 平民王崩御 毒殺という噂がある
979年 継承権3位の三男が王位継承 貴族王即位 貴族主体の政権
1005年 貴族王崩御 愚王即位
1018年 サビオニア革命(タイラスの革命)
1019年 新生サビオニア国誕生


~あとがき~
 今回の章について、異世界に行った人が革命などを手助けするという話もよくありますが、革命などかなり秘密裏に行わなければならないことを会ったばかりの人に打ち明けるか?重要な役目を任せたりするか?と考えるとやはり違和感しかありませんでした。このため今回はこのような関わりとなりました。
 実際にこのような交渉をするとなるともっといろいろな駆け引きが必要となりますが、話の主軸とは違うこととなってしまうこと、自分の知識と執筆能力のことから、かなり明確にわかる内容となっています。
 このあと少し番外編(ジェンSide)のような話になりますので本日中に一気にアップします。
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