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第一部 異世界らしい冒険

66. 異世界265日目 新たな収入源

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 できるだけ快適な拠点を作ってはいたんだが、やっぱり宿にはかなわないようでかなりぐっすり眠っていたみたいだ。

 朝はゆっくりと起きてから宿の朝食をとる。そのあと部屋に戻ってジェンと今後の話をする。

 数日はゆっくりするけど、そのあとは年末まで2ヶ月くらいはルイサレムに滞在して狩りや技能のレベルアップ、1月になったところでオーマトの町に移動して、3月くらいにサクラに戻る感じで考えようと言う話になった。


 狩り場のことや魔獣や素材について改めてガイド本などで調べてからお昼を食べに行く。そのあと魔道具についての話を聞くためにカサス商会へと行ってみる。

 受付に声をかけると、すぐに奥の部屋に通された。なんかえらく焦っている感じだったんだけど、何かあったんだろうか?出されたお茶を飲んでいると、ステファーさんだけでなくコーランさんもやってきた。

「ジュンイチさん、ジェニファーさん、お久しぶりです。」

「ど、どうも。お久しぶりです。こちらに来られていたんですね。」

「お久しぶりです。相変わらず精力的にやっていますね。」

「ええ、建物に閉じこもっているよりもいろいろなところに行く方が性に合っていますからね。」

 コーランさんがいきなり現れたのでちょっとびっくりだ。まあ、あちこち回っているらしいからここにやってきてもおかしくないんだけどね。


 少し最近の話をした後、ステファーさんから先日の試作品についての話があった。

 いろいろ検討した結果、今のものよりも少し小さな80ヤルドの大きさに発動の刻印をしたものに効果増強の補助刻印をするのが最も効率がよいという結論となったらしい。魔符核の素材については渡していた鉄でいいようだ。
 現在のものは1日の消費魔素100くらいで20%の重量軽減の効果だったが、今回のものだと消費魔素30くらいで50%の重量軽減が見込めるらしい。一人が10~20kg運ぶとして、今まで12~25kgだったものが、20~40kgまで持てるようになるというのは大きいように思う。

 現在の重量軽減の魔道具が5千ドールで売られているが、これよりも高くても十分需要が見込めるだろうという話である。
 ある程度消耗品であること、冒険者は壊してしまうことも多いため、今までの性能では手を出さない人も多かったらしい。
 価格については現在調整中だが、一つあたり少なくとも3000ドール以上で買い取りを考えていると説明を受ける。

 そこでどのくらいのペースで納入できるかについて考えてほしいと言われるが、これは少し時間をもらうこととなった。ただそこまで大量には無理だと話をしておく。
 額が額なのでいきなり大量に売れないかもしれないが、商人や冒険者にとってはすぐに元を取れる物だとわかるはずと思っているようだ。
 とりあえずまずは最初に50個以上、できれば100個欲しいようだ。今のところ合計1000個までは買い取り、そのあとは需要を見ながら発注をかけると言う感じとなった。

 一個3千ドールだとしても300万ドールか。かなりの額になるなあ。



 商談についての話が一段落したところでコーランさんが真剣な表情になって話してきた。

「ジュンイチさん、ジェニファーさん。一つ重要な話をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 なにやらかなり重そうな話のようだ。

「お二人のことについてはあまり詮索するつもりありません。ですが、お二人の知識、技術は我々が考えているよりも高いように思われます。現在いろいろと助言をさせてもらっていますが、あなた方のことについての詳細は商会の中でも限られたメンバーにしか伝えていません。
 もしあなた方の知識や技術が外に漏れた場合、あなた方の安全が犯される可能性があります。これらの情報を我々だけで独占したいという気持ちがないとは言い切れませんが、できるだけ広めないようにしていただいた方がよいかと思っています。」

 やはりこっちの世界では自分たちの知識はちょっと常識外れだったか。このあたりについてはジェンとも少し話をしていたので考えていた話をする。

「自分たちの知識が一般的なものとは異なることはある程度自覚しています。ただこのことを特に広めるつもりはありません。コーランさんのことは信頼していますので、今まで通りの関係を維持できたらと思っています。
 自分たちのことについていずれは話したいとは思っていますが、今の段階では詳しくは話せません。自分たちも自分たちの知っていることがどこまで応用できるのか、どこまでできるかについてはわかっていない状態ですので、いろいろと試している段階です。」

 ちなみにこちらの世界でも自然科学を研究している人たちもいる。実際に本に書かれていることもある。ただ魔法の力が大きすぎて魔法での説明の方が簡単なこともあり、一般的には受け入れられていないのが現状なのである。

「・・・わかりました。いずれ話していただけたらと思います。また信頼していただいいていることとてもうれしく思います。」

「ただ魔刻印については変わった文字を使っているという認識はありますが、それほどのことなんでしょうか?」

「驚いたのは文字というより従来のものより格段に効率が高いことですね。かなり簡単な文字で火や水を出す効果も得られたと聞いています。今回の重量軽減の効果は目を見張るものがありました。
 またジェンさんの調合についても治癒魔法を使えていたとしても指導もなく良レベルの薬をいきなり作れるというのはやはりすごいことですね。あと錬金の効率も初心者としてはかなり早かったと聞いています。」

 魔刻印だけじゃなくて調合や錬金についてもちょっとやらかしていたのか・・・。

「そうでしたか。いろいろとやってみることが好きで、どうやったら効率よくできるかを常に考えるようにしていることがよかったのかもしれません。」

 ジェンがフォローしてくれた。

 一通りの話が終わったところで、また夕食の時間に迎えにきてくれるようなので、それまでに納品できる量と価格について決めておくこととなった。



 いったん宿に戻り、今回のことを相談する。やはりちょっとこちらの世界では自分たちは異質すぎるようだ。今後どうなるかは今の段階では分からないが、どこかに信頼する人を作っていかなければダメだと思うので、コーランさんを信用することで進めることにした。

 納品数についてどうするか悩んだが、あのレベルの魔符核を造るのに1個あたり30分かかっている。慣れてくればもっと早くなるかもしれないが、頑張っても精神的に連続2時間が限度なので最大で8個くらいか?1週間で80個なので二人で160個となる。
 ただこれだけに集中する気もないので寝る前に少し作って行くと考えると1日二人で3~4個、すると1週間で35個くらいか?とりあえずは月に100個くらいかなあ。
 最初に100個と言われているけど、狩りの途中とかで作ったものがあるので大きさを変えるくらいでなんとかなりそうだな。



 夕方にコーランさんが車で迎えに来てくれたので一緒に食事へ向かう。夕食は海鮮を使った料理のお店で、いつものように個室を用意してくれていた。

 まずは食事の前に商売の話となった。まあお酒が入ったらどうしようもなくなってしまうからね。

 魔符核の納入について、まずは最初に100個は今月末に納入できること、そのあと月末に100個くらいということで話をする。現段階ではどこまで対応できるか分からないのでこのくらいにしておかないと対応は厳しいと言うことで了解を得ることができた。
 ちなみに魔道具は8千ドールで売り出すつもりらしく、補助の術式や販売を考えて買い取り価格としては1個あたり3500ドールでお願いしたいというので了承する。

 あとインスタントラーメンの売れ行きは好調で、今月入金されるのは15000ドールほどだが、来月からは他の町でも販売を始めるため10万ドール以上は振り込めるだろうという話である。

「あと、勝手なお願いで申し訳ないのですが、カサス商会のアドバイザーと言う形にしてもらえないでしょうか?」

 コーランさんがなんか変なことを言ってきた。

「現在、商売のやり方に助言をしていただいている点についてはカサス商会の社員内でも結構知れ渡っている状態です。ですが、魔道具などについては支店長クラスしか話は伝わっていません。
 お金の支払いや商品の納入について便宜上何かしらの役職を与えた方がスムーズにできますのでお願いしたのです。
 もちろんカサス商会に取り込みたいという気持ちがないわけではありませんが、他の商会に対する牽制にもなりますので、こちらの方が良いかと思っています。」

 ジェンとも相談の上、この話を受けることにした。すでに肩書きの入った名刺まで準備していたようで、受け取っておく。状況によって使わせてもらうのもありかもしれないね。

 食事はかなりおいしくていろいろな話も聞けて楽しかった。さすがに商売を手広くやっているだけあって他の町や異国のことについてもかなり詳しい。今のところヤーマン国のあるホクサイ大陸、南方のナンホウ大陸、東にあるトウセイ大陸まで支店を広げているらしい。



 宿に戻ってからジェンと話をする。

「魔道具やラーメンの収入だけでそれなりに収入が見込めるように思うけど、せっかくなので今のまま冒険者として活動していきたいんだよね。正直お金を貯めてもいつか地球に帰ることになると思うと、いろんなことをやってみたいと思っている。たとえ記憶がなくなるとしてもね。」

「そうね。私も同じ考えよ。確かに普通に暮らして行くには十分だと思うし、他にもお金になる魔道具は作れるかもしれない。でもせっかく普通じゃ体験できないことができるのにそれをしないというのももったいないわ。」

「ただ何かの時に対抗できる力もいると思うので、自分たちの能力を高めていく必要はあると思っているんだ。幸いある程度の固定収入のめども立ったので、あまりケチらずに訓練していこうと思う。」

「たしかにそうね。武術系の個人レッスンでも1日千ドールくらいだから、そっちの方が効率いいわね。」

「あとお金がある程度貯まったら車の購入も考えているよ。」

「いいわね~~~。バスでの移動もいいのだけど、やっぱり車があると自由がきくからね。ただ運転が大変なのがつらいかも。」

「最悪運転手は雇うこともできるから、それも考えてもいいかもしれない。」

「やっぱり、お金って、あればできることも広がるから必要だねえ。」

「たしかにね。泊まるところも最初の頃は一泊200とか300ドールのところに泊まっていたからなあ。それでもまだ相部屋じゃなかったからいい方だったんだけどね。」

 収入がある程度確保できそうになったので、いろいろとやりたいことができてきた。少しでも生存率を上げるためにお金を使うのは悪いことではないはずだ。
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