上 下
29 / 46
第1章 Reborn

第29話 美鈴スパーク

しおりを挟む
西門は美鈴と別れた後、煙の中レベル3のラボに移動した。
目的は発信機を取り除いた後に接続するバッテリーだ。
煙はまだ立ち込め、逃げている職員のシルエットが見える。

室内では退避命令とアラートがけたたましく鳴っている。
白衣を着た職員が機材を移動したり、ラボの中は混乱していた。
西門が誰かの机の上に小型のモバイルバッテリーが置いてあるのを見つけ、ポケットにしまう。
あとは白衣を拝借し、置いてあった眼鏡とマスクをつけた。
椅子に掛けてあった移動用のPCバッグに使えそうなるものを押し込みながら、
キョロキョロと周りを見渡すが、諦めて直ぐにレベル4の部屋へ移動する。
その部屋は入口にビニールのカーテンが吊るされ、防護服等が壁に掛かっている。
恐らくワクチン研究等を行っている部屋だろう。西門は目的のものを見つけたようだ。
「よしよし」と目的のものを手に入れ、混乱に乗じてさっさと合流場所へ急ぐ中、レベル5の部屋でぴたりと止まる。
渡辺と書いてある。
さっきの拝借した警備員のIDカードを使って中に入ると誰もいない。
何か思いついたようにタブレットをカチャカチャやっていた。
部屋の中で『ブーン』と何かが起動した。
「さて」と美鈴と合流するため移動する。

西門が更衣室まで近づくと、看護師が部屋の前に立っている。
こちらに気付いた様子で走ってくる。
これは不味い。と思って逃げようとすると、凄まじい速度で看護師が追いかけて肩を掴まれた。
「私だ。あ、ちょっとまて」

見る見る間に顔が美鈴に戻るのをみて驚いた。
「大分、戦力は削いでおいた」
美鈴が親指で室内を差す。中を見ると裸にされた男たちが床に転がっている。
「これは」
「中にいるのは17人だ。全員気絶している。ドアもロックしてるし、暫くは時間を稼げるな。
 多分警備室に残っているのは連絡係ぐらいだから、一人か二人ぐらいだろ。
 今のところ私が美鈴だとはバレていないが、身体の機能を知ってる人間なら時間の問題だろう」
ほれと言わんばかりに、美鈴は警備員の服と無線を渡してきた。
西門は着替えながら考えている。
このスーツを使いこなしているのか。
振り返ると顔がまた変わっている。
勿論スーツ自体の能力は僕も知っているが、ここまでとは。
脳自体の拒否反応を感じていないのか。
精神力が強いのか。
軽々しく平凡とか凡人と言ってしまったことは悪い癖だった。後で謝ろう。



     ◇

「次はエレベータ横の警備室を制圧だな。あそこは情報の塊の筈だ」
施設にサイレンと、緊急放送が流れている。
『不審者は、テロリストの可能性あり。レベル3及びレベル4生物研究エリアに侵入の形跡があります。
 発見の場合、速やかに警備室に連絡してください。
 繰り返します。不審者はテロリストの可能性あり。レベル――』
放送を聞いた美鈴は落胆する。
警察官のこの私もとうとうテロリストの仲間入りか。
西門が無線を聞いている。
「どうやら、警備室に応援が向かっている様ですね」

西門と美鈴はロッカールームを出て柱の陰に隠れながら移動する。
「17人からの連絡が途絶えて約10分、地下の警備員室からの増援か。
 集まっているのは確実だから、目視で数えるしかない」

沢山の荷物を持っている西門を見る。
「窃盗か? 逮捕するぞ」
「んー。今は緊急事態ということでちょっと借りてきただけです」
美鈴はよく考えたら服を拝借している身だ。しょうがない。

[エル]警備室までのルートを。
>ハイ。約50メートル先ノ突キ当リノ部屋デス

煙の中と放送の中、警備室の周りは厳戒態勢が敷かれている様だ。
壁側に隠れ、様子を伺う。
美鈴が一瞬、顔を出して覗く。

[エル]静止画出して。
>ハイ。ミスズ
目を閉じ、止まった画面の中の隊員の人数を数える。

「15人いるな。うち、中央の椅子に座っているのがリーダーだろう。後ろにやたらデカいのが二人居る」
装備も迷彩柄の服を着用し、ヘルメット、更には機関銃まで持っているのもいる。一個小隊並みの装備だ。
「一体この施設はどれだけ雇ってるんだ」
「篠原でも最高機密の実験施設ときいていますので、このくらいは当然ですね」
ここで待っていてもしょうがないが、人数が多すぎる。

西門は美鈴の肩を叩く。
「これを渡しておきます」
渡されたのは液体の入ったビニール袋だった。
「これ、何? 危ないものじゃないだろうな」
「いえ。これは酸素に触れると煙が発生する液体です。煙幕代わりになるかと」
西門が何かを思い付いたようだ。
美鈴に耳打ちをする。

美鈴は足を引きずった演技をしながら進む。
先頭の10名ほどの男達が銃口を向ける。
「そこで止まれ!」
「所属と氏名を名乗れ!」
「チーフの田中です! 助けてください!」
男がPCをカチャカチャやっている、恐らく社員データを見ているんだろう。
「確認できました。田中チーフ、こちらにゆっくりと進んで下さい」
男は別のデータに気付き、もう一度慌てて田中を見る。
田中だけしかいないはずなのに山本美鈴の位置と重なっている!
しかしどう見ても田中本人だ。
男は慌ててリーダーにデータを見せる。
「これは、どう言う事だ?」
確かに田中しかいない筈がどうして。
山本美鈴の取り扱いには厳重な注意が必要と本部から連絡があったのを思い出す。
暴走するととんでもない破壊力を持つ兵器同然のパワーを出すことが出来るらしい。
もう一つ信じられないが容姿を変えられる機能も持っている。
男は青ざめる。
いかん!
美鈴はゆっくりと隊員達の前まで移動した。
リーダーは叫んだ。

[エル]格闘パターンをサイレント・キリングモードへ。
>ハイ、ミスズ。モードONにシマシタ

「その女は、田中チーフではない!」

よろけながら一人の隊員に寄りかかる。
「きゃ! ごめんなさい」
隊員の手をつかむと、そのまま蹴り上げながら美鈴は宙に浮く。
リーダーが叫ぶ!
「その女は実験体の山本美鈴だ! 暴走している気を付けろ!」

強烈なローリングソバットが二人を吹っ飛ばす。
美鈴はゆっくりと着地し周りを見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ベル・エポック

しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。 これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。 21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。 負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、 そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。 力学や科学の進歩でもない、 人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、 僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、 負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。 約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。 21世紀民主ルネサンス作品とか(笑) もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正で保存もかねて載せました。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...