上 下
29 / 41
第1章 プロローグ + ルフェンベルク編

第25話 お見送り!

しおりを挟む
【先が見えないぃーー時だってあるけれどー!君となら何かできる気がしているからぁー!手を取って さあ!!】

 静かな病室には似合わない音楽が流れている。だが不思議と不快感はない。
 それはきっと、このライブ映像を見ている人の笑顔がこの世界で一番美しいモノだったからだと思う。

「小野さん、本当にありがとうございます。娘の元気な姿が、やりたい事をやっている姿が見れて、ワタシは世界で一番幸せな親ですね」
「じゃあこれから、もっと幸せになれますよ。彼女はこれからもっと素晴らしいアイドルになりますから」
「アイ……ドル?それはきっと、沢山の人の心を潤す、素晴らしい職業なのでしょうね」
「ええ、おっしゃる通りです。それでは僕はこの辺で失礼します。また会いましょう、マルちゃんファンの方」

 そして俺はビデオカメラを病室に残し、次の目標へと再び歩き出した。

————————

「私、小野さんのこと少し嫌いになりましたっ!ふんっ!!ちょっと話しかけないでください!」

 夢川が怒っている。割とこれはガチっぽい感じだ。

「ごめんって夢川、でもライブ楽しかっただろ?もうマルちゃんのプロデューサーじゃなくなったんだし、許してくれよ~」
「マルちゃんは私の親友ですけど、アイドルとしてはライバルです!なのに私を捨ててマルちゃんの指導してたなんて、やっぱり……許せなーーい!!」
「これは参ったな……」

 こうなるとしばらく夢川はいう事を聞いてくれない。
 もちろん時間が解決してくれるのは分かっているのだが、なにせ今はその”時間”が惜しいのだ。

「とにかく夢川、しばらくこのルフェンベルクから離れるのは変わらないからな?ちゃんとした作曲家を探しにいくため、引きずってでも連れていくから!?」
「マルちゃんの新曲でも作ってもらえればいいんじゃないですか~?」
「…………耳がカリカリに焼けた食パン、この世界の甘ーいジャム付き」
「(ピクッ)」

 わずかに反応したのを、俺は見逃さなかったぞ夢川。

「ウルブの丸焼き、ピリ辛バーベキューソース付き」
「う……うぅ……」
「ルフェンベルクでしか取れないフルーツをミックスした超濃厚ジュース、ポ○キーみたいなお菓子が5本刺さったヤツ」
「さぁ小野さん!早く作曲家の人を探しに行きましょう!その前にまずカリカリの食パンでいいですよ!!!」

 育ち盛りの小娘め、単純な提案に引っかかりおって。
 ……あれ、ちょっと待て、やばいな。
 言ってて俺もメッチャ腹減ってしまったやん。
 よし、こうなったら作曲家を探しに行こう、食パン食べてからね!

————————

「本当に行くんだね?気をつけるんだよ椎菜?」

 俺たちの見送りに来たヒューメルは、そっと夢川を抱きしめて囁いた。
 ”ヒューメルの”大きな胸が邪魔をして抱きしめにくそうだが、愛情はシッカリと伝わってはいそうだ。

 そしてもちろんマルちゃんも見送りには来てくれていた。
 少し恥ずかしそうだが、それも変わらず彼女らしい。

「アンタが帰ってくる頃には、ワタシがこの街で一番のアイドルになってるから!そしたらアンタはアイドル辞めて、酒場で頑張って働いてなさい!!」
「ふーん、アイドルのこと馬鹿にしてたマルちゃんが、街で一番のアイドル目指すなんて……マルちゃんツンデレ可愛いねぇええ!!」
「ちょ、ちょっと!?急に抱きつかないで夢川ぁ!暑苦しいわよっ!!」

 そう言っているマルちゃんだけど、尻尾を千切れるほどブンブンと振っている。
 まったく、獣族は感情が分かりやすくて助かるな。てか可愛いなオイ。

【じゃあな椎菜ちゃーん!悪い奴にはついていっちゃダメだぞーー!!】
【椎菜ちゃーーん!私達のこと、忘れないでねーー!?】
【うわぁぁ!椎菜ちゃんのいない世界なんて、この世界に生きる価値なんてあるのかぁ!?】

 酒場の常連や、先日のライブで夢川のファンになったオタク達も、大きく手を振りながら馬車に乗る夢川を見送り始めた。
 うん、みんな夢川を見送っている……。夢川だけを見送っている……。

「いや1人ぐらい俺の旅立ちも惜しんでくれないかね!?!?」

 ダメだ、我慢できず言ってしもた!
 だって誰も俺の名前一回も口にすらしないんだもん!?おかしくない?
 いや、仕方ないのか?仕方ないのかルフェンベルク!?

【誰だあれ?知ってるか?】
【さぁ?いっつも椎菜ちゃんの隣にいる、邪魔者だよな】
【どうする?椎菜ちゃんのために、捕まえておくか?】
【それいいね!椎菜ちゃんに手を出されたらエラいこっちゃだ、捕まえて処刑しよう!!】
「うん、もう出発してください御者さん。なぜか僕捕まりそうなんで、馬を爆走させちゃってください」

 クソ!嫌いだ!こんな街、早く出ていってやるわよ!
 アンタ達のことなんて、大嫌いなんだからね!!

 みんなドラゴンにでも食われて……ん?

【フリフリ…………】

 誰かが、俺を見て恥ずかしそうに手を振っている。
 周りには見つからないように、顔を赤くしながら手を振っている。

「いってらっしゃい…小野……」

 そう動いた口を俺は見逃さない、見逃さなかったぞ!

「あぁ、行ってくるよマルちゃん!お母様によろしくな!!」

 ルフェンベルク、やっぱそんなに嫌いじゃないかもしれない。

————————
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る

瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。 ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。 長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。 4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。 3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。 「このうつけが!」 そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。 しかし、人々は知らない。 ノアがうつけではなく王の器であることを。 ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。 ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。 有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。 なろう、カクヨムにも掲載中。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...