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カルマル防衛戦

50.覚悟を決めたなら

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「君を守るぞベネット。今度は私が守ってみせる」



 ナツキさんはそう力強く言い切っていた。

 —————だがその直後だった。


【ズゴォォオオン!!!】


 突如ナツキさんの周りが大きな爆発に襲われていた!
 あまりに一瞬のことすぎて、俺は夢を見ているような感覚に陥る。


「ナ、ナツキさん!?」


 目を見開いて驚く俺に対して、おそらく爆発を起こした本人が声高らかに叫ぶ。


「何が”守ってみせる”だ!?お前も調子に乗るなよナツキ・リードッ!!」


 そう、仮面男が空中の魔法陣から放った隕石が、ナツキさんに何発も着弾していたのだ!

【ドォン!ドゴォオン!!】

 止まる事を知らない隕石の雨が、容赦なくナツキさんを襲い続けている。

 クソ、さっきまでとは魔法陣生成のスピードが段違いだ。これが仮面男の本気ってコトか……!


「ナツキさん、今助けますっ!!」


 そう言って俺は爆発に包まれるナツキさんの元へと駆け出そうとしていた。
 だがスグに爆煙の中から、いつもの落ち着いたナツキさんの声が響く。


「ベネット、その必要はない。私のスキルを忘れたのか?おとりになると決めたなら、それに徹しろ。私は君を信じているんだ」

「…………は、はい!」


 そう、ナツキさんのスキルは【身体硬化・解】。
 並大抵の攻撃ではかすり傷すらつける事のできない、最強の防衛スキルだ。

 そうだよな、ナツキさんの事を過小評価するな。
 俺が助けなきゃいけないような、そんな弱い人じゃないだろ!?

 信じてもらえたなら、俺も信じ返すのみ……!!


「もう行くしかねぇだろ!!おぉぉぉらぁあああ!!」


 残り少ない魔力を振り絞り、俺は身体1つだけでアテラたちへと向かっていくのだった。



 とりあえず俺がするべき事は、ナツキさんが最大の技を放つ準備時間を稼ぐ事だ。

 だが既にその作戦は相手にはバレている。
 つまり俺はアテラと仮面男が無視できないような囮をしなければいけないって事なんだ。

 とはいえ今の俺に刀はない、残された肉体のみでできる事と言えば1つ……。


「ブン殴る事しか無いよなぁあ!?」


 そう、拳を使った肉弾戦だっ!!

 え?さすがに脳筋すぎるって?
 いやいや、俺の肉弾戦をなめてもらっちゃ困るね。

 なにせ俺のスキルの1つ【重量知覚軽減・解】は、俺自身が知覚する重量を1000分の1にまで減らす事ができる。
 つまり言い換えれば、俺のパンチは普通のパンチの1000倍の威力を持つって事だ。これに魔力による肉体強化も組み合わせれば……!


「意外と戦えちゃうんだよオラァ!!アゴの骨砕いてやるよアテラッ!!!」

【ガァァアア!!】


 最初はナツキに攻撃を放とうとしていたアテラだったが、どうやら俺の殺気は無視できなかったようだ。
 口に溜めていた閃煌せんこうをこちらに向けて放ち、見事囮としての役割を俺に果たさせてくれた!

 さぁ、あとは攻撃を避けるだけ……。


「あ、待って。百雷鳴々の電撃が無いから、空中で方向転換できないじゃん」

【ドゴォォオン!!!】


 直撃ッッ!!閃煌が直撃しましたッッ!!

 そのまま勢いよく地面に叩きつけられた俺。
 さすがにコレは死んだ、あー完全に灰になったわ……。

 ………ってアレ、意識があるな。死んで無いぞ?
 ていうか、こんな所で死ねるわけないよな?
 ここで死んだら。残されたナツキさんはどうなるんだよ。

 守られるって決めたんだ、絶対に死なねぇ……!!


「まずはサン・ベネットを処理出来ましたねぇ!!よくやったアテラ、あとは刀を構えたまま動かなくなったナツキ・リードを仕留めるまでですっ!!」

「………勝手に殺すんじゃ………ねぇよ!!」


 爆煙の中から叫んだ俺は、残った体力の全てを使って立ち上がる。
 閃煌が当たる直前に、残り全ての魔力を使って【身体回復・解】と【魔力(神力)耐性・解】を最大限にまで高めた結果、灰にはならずに済んだようだ。

 とはいえ右腕と左足の感覚は無くなり、流れ出る血が地面に溜まり続けている。
 回復スキルも作動していないから、どうやら本当の本当に限界が来たようだ。

 けど、これでいい。
 死ななかったなら俺の勝ちだ。

 あとは任せましたよ、ナツキさん……!
 

「は、はぁあ!?なぜまだ立っていられるのですかサン・ベネット!!アナタはいったいどこまで死に損ないなのですかぁ……!?!?」

「死に損ないじゃ……ねぇよ……。ただの……生きたがり……だっ!!!」


 するとそれを聞いたナツキさんは、フッと口角を上げて呟く。


「まったく、君の頑丈さを信じて良かったよ。もう十分だ、これで決めるッ……!」


 —————その瞬間だった。 


【ブゥゥォォオオオオオオ!!!】


 ナツキさんの刀から溢れ出したのは、視認できるほどにまで濃くなった魔力の波動だった。
 もう魔力がなくなった影響で俺の魔力感知眼は作動していないが、刀に押しとどめていた溢れ出る魔力は、もはやスキルなどなくても十分に恐ろしさが伝わってくる。

 そして同時に、ナツキさんの背後に30mほどの”人影”のようなモノがユラァ……と浮かんでいた。

 それは甲冑かっちゅうを着た武将のようであり、まるで陽炎かげろうのように景色をゆがませている。


「ス……ゲェ……」


 初めて見るナツキさんの本気の魔力。
 それを見た俺は、もはや安心すらし始めていた。

 それは俺の精神が、肉体が、俺の全身に至る全ての組織が、完全に”戦いが終わった”と確信していたのだから。


「ア、ア……アテラァ!?!?何をボーッと眺めているのですかっ!?お前も閃煌よりもさらに上の攻撃を準備しなさいっ!!私も魔力抑制の魔法陣を用意しているのです!!こんなところで出し惜しみなどするなぁあああ!!!」


 仮面男は俺とは正反対に、死期をさとったようだ。
 それは仕方のない事だと思う。この殺意しかない魔力を自分に向けられて正気でいられる生物など、おそらくこの世界にはいないのだから。

 だがその正気を失った事が、最後の最後にヤツの首をさらに締める事となる。


【………私ニ命令スルナ、悪魔族ノ分際ガ。私ト共ニ、今ココデせいヲ全ウセヨ】


 そう、まさかの剣竜アテラが自我を取り戻していたのだ。
 おそらく仮面男の魔力が大きく乱れた事により、アテラを洗脳していたスキルが解けてしまったったのだろう。

 もはやそこに、仮面男の命令しか聞けなくなった哀れな神の剣竜など存在はしなかった。


「ほぉ……、やはり操られていたのか剣竜アテラよ。悪いがこのまま攻撃は放たせてもらうぞ」

「気ニスルナ人間ヨ。早クコノけがレテシマッタ魂ヲ浄化シテクレ」

「あぁ、任された」


 そして大きく息を吸ったナツキさんは、とうとう最後の一撃を放つのだった。
 それは俺の想像とは全く違う、静かながらも間違いなく戦いを終わらせる異次元の技—————


燭絶火怨渺茫しょくぜつかえんびょうぼうそめ


————————
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