上 下
39 / 119
カルマル防衛戦

36.戦士の基本は食事から!

しおりを挟む
「うおお!デッカい肉だぁあ!!」
「……僕の盾ぐらい大きいね」
「私の身長ぐらい大きいよぉ……」


 既に夕暮れに差し掛かっているカルマルの街並みだが、飲食店はこここかが本番だ。
 夕食を控える客たちがドンドンと増え、店の前にゾロゾロと列を成し始めている。


「お前たち何が食いたい!?」

「「肉!!!!」

「若い男2人は肉だな。魔導師の君は?」

「に……肉」

「素直でよろしい!!ナツキさんも肉でいいっすよね?」

「あぁ、彼らの好きなモノを食べさせてやれ」

「了解っ!!」


 そして俺は自分の鼻を頼りに、美味しい肉料理店を探し当てる。
 貧困時代に鍛え上げた俺の嗅覚きゅうかくは、その辺の魔獣より精度が高い自信があるからな。


「よし、あそこだ!若者たち、雷霆らいていの俺に遅れるなよっ!!」

「「「はいっっ!」」」


 隣で”やれやれ”という表情を浮かべるナツキさんをよそに、俺たち4人は肉料理店へと駆け足で向かっていく。
 けど俺はそんなナツキさんのリアクションすらも横目で見て、少し嬉しくなっていた。

 人との関わりを通じて、もっと彼女の色んな表情を見ていけたらいいな……なんて事を考えてしまったのだ。


「ナツキさんも、早く!!」

「あぁ、スグに行くよ。料理は逃げないからね」


 その笑顔を一生見ていたいと思う自分がいた。




「よし、次はデザート食べ尽くしだっ!!!」

「ちょ、ちょっと待って下さいベネットさん……少し休憩を……」


 既に5店舗をハシゴした俺たちは、いよいよ食後のデザートの時間を迎えようとしていた。

 ……だがどうやら若者3人は満腹が近づいている様子である。


「おいおい、そんなんじゃ強くなれないぞお前たち!
 アクタ、リジェ、メイジー、お前たちの胃はそんなもんか!?」


 先ほど知った3人の名前を叫んだ俺は、彼らの限界に訴えかける。 
 だがどうやら本当にしんどそうな様子だ。

 ちなみに剣士がアクタ、盾がリジェ、魔導師がメイジーという名前である。
 彼らには既にナツキさんの事も紹介済みだ。


「ベネット、もうその辺にしておいてやれ。普通の人間は君ほどイカれた消化器官を持ってはいない」

「そういうナツキさんもピンピンしてるじゃないっすか」

「私は……体が大きいだけだ。物理的に沢山食べられる」

「え、遠回しに俺の事チビって言ってます?

「そんな事言っていないだろう、気にしすぎだチビット」

「はっきりチビって言った。オブラートって知ってます?」


 この様に普段通りの会話を続ける俺たち。
 しかしどうやら若者3人から見れば、この光景は異常に映っていたようだ。


「なんであんな量の食事をして、普通に話しているんだ……。やっぱりSランク冒険者は食事から違うんだ……」

「信じられない」

「私、もう歩けないですぅぅ……」


 結局3人はその場から動けずに、座ってしまっていた。

 さすがに悪い事をしたかな?
 でもこれも冒険者として強くなるためには必要な部分だ。
 大きくなれ若者達……!!



「ベネット、私はそろそろ小屋に帰ろうかと思っているんだが」

「え?あぁ、了解っす。じゃあ若者達が動ける様になったら俺も戻りますね」


 ここでナツキさんは小屋に帰ることを報告してきていた。
 元々小屋に帰る予定だったのに、わざわざ頭に厚い布を被ってくれてまで食事についてきてくれたナツキさんの優しさには感謝だな。

 ちなみに厚い布は、ナツキさんが”赤竜の女王”という事がバレないために被っている。

 ……まぁそこまでして付いてきてくれたのは、沢山美味しい料理を食べたかっただけかもしれないけど。


「じゃあナツキさんも気をつけて帰って下さい」

「あぁ、3人を頼んだぞ。念の為に言っておくが、それ以上無理に食べさせたりはするんじゃないぞ?」

「分かってますよ~!俺もそこまで鬼じゃないっす」

「まったく心配だよ……」


 ナツキさんは3人を気にかけつつも、渋々帰路についた。
 さて、じゃあここからは3人の回復具合も見つつ、俺も明日以降の食材を買っておかないとな。


「お前たち、そこで座って休んどきな。俺は買い物の用事があるから、終わったらまた帰って来るよ」

「う、うっす……」
「……おぇ」
「た、食べ過ぎて死んじゃうぅぅ……」

「耐えろ耐えろ、強い肉体作りは戦闘においての基本だぞ。スグ帰ってくるから」


 こう言い残した俺は、本来の目的でもある食材の買い出しへと向かう。
 とはいえもう日は沈んでしまったので、以前立ち寄った市場の露店も閉店に向かいつつあった。


「ヤバいヤバい、早く行かないとっ。残り物は少しぐらいあるだろ」


 こうして俺は、駆け足でカルマルの街並みを抜けていくのだった。

 厄災が間近に迫っているとは気付かずに………。


————————
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

異世界ハニィ

ももくり
ファンタジー
ある日突然、異世界へ召喚されてしまった女子高生のモモ。「えっ、魔王退治はしなくていいんですか?!」あうあう言っているうちになぜか国境まで追いやられ、隙あらば迫ってくるイケメンどもをバッサバッサとなぎ倒す日々。なんか思ってたのと違う異世界でのスローライフが、いま始まる。※表紙は花岡かおろさんのイラストをお借りしています。※申し訳ありません、今更ですがジャンルを恋愛からファンタジーに変更しました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...