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第壱章

第十八話 大久保さん

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ーーピンポーン

インターホンの音だ。誰か来たのか…あ、隣だ。あーどうしよ、体が重い。

なんて考えてると、

「答真ー、勝手に入るからなぁー!」
玄関の方から隣の声が聞こえた。

「大久保さん、こっちです」

「分かった」

隣の声ともう一つ、低く渋い声が次第に近づいて来る。玄関から僕の部屋は近い。すぐに足音は止まった。

「ここです、入りましょう」

「ああ」

ーーーガチャ
ーーーキィ

ドアの前には隣の頭一つ分背の高い、スーツを着た男が立っていた。この人が大久保さん…何というか、でかい。隣だって170センチ以上あるんだぞ。

大男もとい大久保さんはこちらを向いて僕をぐっと見つめる。目力が強い。それに体格も相まってまるで熊と対峙しているようだった。勿論、熊に遭遇した経験はないのだが。

大久保さんがずんずんとこちらに来る。
「君が答真くん、だね?」

「は、はい」

そう言うと大久保さんは目を瞑りふぅーっと深く息を吸い込んだ。そして目を開く。

「何を考えているんだ君は!!危ないと分かっていた筈だろう!!」

それは静かな怒鳴りだった。

「君は反省しているのかい!!自分が何をしたのか分かっているか!!もしかして、何故自分がこんな目に、自分だけが呪いを受けるなんて不公平だ、何て考えをしたんじゃないかい?」


その言葉に僕は、はっとさせられた。


大久保さんの言う通りだった。
口には出さずとも僕は隣のことを妬みかけていた。一緒に肝試しをしたのに、アイツは呪いにかからなかった。何故僕だけが、と。


「僕は馬鹿だ。なぜ僕だけなんだ、隣はなぜ呪いを受けないんだという考えばかりで頭がいっぱいでした。僕の責任なんだ、これは。ごめん、隣」

「謝ってくれんなよ!元はと言えば俺が誘ったのが悪かったんだ。俺の方こそごめんな」


………………

………………

「ふぅー」

長い沈黙を破ったのは大久保さんの吐き出した息だった。

「答真君、いきなり怒鳴ってすまなかった」

「いえ、僕が悪かったです」

「分かってくれて嬉しいよ。私は叱るのは得意じゃないけど、君に肝試し、いやあちら側の世界に踏み入れる恐怖をきちんと理解して欲しかったんだ。驚かせて悪かったね」

大久保さんは先程と一転、優しそうな笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、大切な友達を失う所でした」

「いやいや、何を言ってるんだ。謝るのも礼を言うのもまだ早いんだよ、答真くん」

「え?」

「まだお祓いをしてないからね。ここからが本番だ。気を抜いてはいけないよ」

そうだった。大久保さんはそのために来てくれたのだった。


「よし、じゃあまずは答真くんはお風呂に入りなさい」

「はい?」




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