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十四話

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僕と真白は夜道を歩き出した。言葉無く歩き、公園の近くにあるコンビニに立ちよった。

闇夜に白色と緑色の明かりをを煌々と光らせている。夜道に歩く人を吸い込むライトトラップみたいだ。

コンビニに入ると、力の抜ける軽快な入店音と共に、外国人店員のぎこちない挨拶が響く。

僕と真白は別々に動いた。

僕はおにぎりを五個程手に掴み、レジへと向かった。レジの外国人店員が慣れた手捌きでバーコードを読み込んでいく。

僕は会計を済ませ、コンビニを出た。コンビニの前でおにぎりを頬張りながら、レジを眺めていた。

真白が籠一杯にお菓子を入れてレジに現れた。店員が何か言うと、真白は素直にお金を渡した。

僕はそれを見届けて安堵し、おにぎりを頬張った。

コンビニから出た真白は僕の手元を見て吹き出した。口に手を当ててコロコロと笑っている。

「おにぎり五個だけなの、お菓子とか買えば良いのに」

「軍資金に限りがあるのに、そんな無責任に使えないだろ」

「死ぬ前くらい欲出せば良いのに」

真白の言葉に、外の喫煙所で煙を燻らせていた男の人が、目を丸くして僕らを見つめた。

僕らはその人にお辞儀をしてその場を去った。男の困惑しきった顔が可笑しくて、僕らは笑った。

公園に戻ろうとして僕が歩き出すと、真白は僕の手を掴んで引き留めた。コンビニの明かりに照らされて、真白の整った顔がはっきりと見える。

僕はドキリとして咄嗟に目線をそらしてしまった。

「どこ行くの?ロケハンするって言ったじゃん」

そう言えば真白は公園を出る前に、夜ご飯とロケハンしに行くって言ってたっけ。

「ロケハンって、何のだよ」

「死に場所だよ」

真白はそう笑って言って、僕の手を引いて歩き出した。

痩せていて骨張った手が僕の手首を掴んでいる。手を繋いでいるみたいで、僕の頬が紅潮する。

こんなことで照れてしまう初心な自分が恥ずかしい。

僕は真白に連れられ歩き出した。歩いているうちに外は完全な夜になり、星が瞬き始めている。

かなり歩いて足が棒に成り始めたとき、真白は僕を連れて山に入っていった。

夜の深山の異様な雰囲気に僕は縮こまっていた。木々の間から、何か怪異でも出てきそうな、夜の街とは違う、深い闇に包まれている。

「どこに向かってるんだ?」

「着いたら分かるよ」

詳しいことを言わない真白と周囲のヤミが僕を一層縮こませた。

「あっ、着いたよ!」

真白の嬉しそうな声に顔を上げると、目の前に大きな建物が姿を現していた。

建物の周りは切り開かれていて大きめの広場になっており、その中心にその建物はそびえ立っていた。

塔のように見えるその建物は、星空を背景にしてまるで異世界のような様相を帯びている。

塔に付いていた外付けの階段を登ると、塔の屋上へとたどり着いた。

屋上は円形の大きな広場になっていて、ベンチと望遠鏡のような物が幾つか点在しているだけの場所だった。

「ここは、一体?」

「展望台だよ」

真白はそう言って設置されている大きな双眼鏡を覗いた。

「やっぱり何にも見えないね」

そう言って双眼鏡から目を離した。

僕は展望台のフェンスに手を掛け、遠くに見える夜景を見渡した。

車やビル、家の明かりが何処までも続いている。

「綺麗だな……」

「そっちじゃないよ、私が見せたかったのは」

そう言って真白は僕の顔を掴んで上を向かせた。

「痛いな、何するん……」

上を向かされた僕の視界に飛び込んできたのは、夜空一杯の星空だった。

街中では電灯の光に隠されて一つ二つ位しか見えない星たちが、ところ狭しと輝いている。

あまりの美しさに僕は絶句して何も言えなかった。

「最高の場所じゃない?」

真白の言葉で正気に戻った。

「六日後にここから飛び降りようと思ってるんだ、相沢くんに希望がなければね」

真白はフェンスに寄りかかり下を見つめた。真白に倣って下を見やると、この展望台が予想より高いことに気がついた。

優にビル十階建て分はあろうかという高さが、フェンスの前に広がっている。下はアスファルトになっていて、落ちたら助かりそうにない。いや、助かる必要は無いのだ。

僕はまた夜空に視線を戻して、感嘆の息を漏らした。

「凄くいい場所だね、よくこんなところ見つけたね」

「昔家出して、この山に逃げ込んだ時にここを見つけたんだ。その時に、私が死ぬ時はこんな星空の下で死にたいって思ったんだ」

昔を懐かしむようにして真白は言った。こんな綺麗な星空を前に死を思うなんて。そんな昔から死ぬことを考えていたのだろうか。

「昼間のこと、ごめんね」

真白は申し訳なさそうに俯いて言った。僕は驚いて真白を見つめた。

「もうしないよ、誓って」

真白の言葉には強い意思と、激しい怒りが込められているように感じた。

真白も悩んでいるんだ。自分の中にある父親への影響のなかで。僕の中にあるお母さんのように。

「分かってるよ、真白さんはもうやらないって」

「真白で良いよ」

「えっ?」

僕は驚いて間抜けな声をあげた。
それを見た真白が噴き出す。

「一緒に死ぬ仲間に、さん付けってのも可笑しいじゃない、私も相沢って呼ぶからさ」

何の交換条件にもなってない提案をして真白は笑った。少し迷ったけど、僕は提案に乗ることにした。

真白に手をさしのべる。

「短い間だけど、よろしくね、……真白」

ぎこちなく呼び捨てをする僕を見て真白はさらに笑った。自分の口角も上がっていくのを感じる。

ひとしきり笑い終えると、真白は眼を拭って僕の手を取った。

「よろしくね、相沢」

初めて僕らの間に、絆が生まれるのを感じた。
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