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学園編
魔法師選別大会⑤
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《side:アレク》
第二審査が始まり、三つの魔塔の代表者たちの発表が終わった。
僕の番はまだ先だ。
他の魔塔の代表者たちは結構真面目に発表してるなあ。
そういえば、むかしガルシア師匠から魔法を教わった時はとにかく魔力を増やすために限界まで魔法を使いまくるといった荒業ばかりだったわ。
あの時のことを思い出しただけでもなんか吐き気がしてきた。
なんか胃酸が込み上げてくる。
しかし、こういった魔法での社会貢献の発表はとてもスマートに見えるよな。
そういえば師匠に魔法陣の組み方も教わったっけ。
あれは難しかった。
前世でもパソコンの簡単なプログラミングとかやったけど全然わからんかったし、魔法陣の組み方も原理は似てて子供には難しかった。
そういや、まだ現世では魔法陣の授業は受けてないんだった。
たしか一般的には二年になってからやるんだったよな。一年生の時はひたすら魔力を増やして魔法を使うのをやらされるんだったよな。
あれ?そう考えたらやっぱり一年生の僕がこの大会に出る事自体ありえないんじゃないか?
ま、出ちゃったものはしょうがない。
どうせ負けたところで何も言われないだろうし、それに的当ては満点だったからもう勝負ぐらい負けても大丈夫でしょ。
そう考えたら気が楽になってきたわ。
「それでは次は毒の魔法、ファントム!」
お、次は無属性魔法の代表者が呼ばれたみたい、そういや、あの人なんか暗いな。
痩せぎすで目は大きく目の下にはクマがあり鼻は高くて口は大きい、ニヤっと笑うその笑みはなんとも不気味だ。
呪いの藁人形とか持ってそう。
「皆さんこんにちは……私たちは無属性代表のファントムです。主に毒の魔法の研究を行なっています」
周囲は皆大丈夫か?と心配の眼差しでファントムを見ていた。
「毒は多種多様であり、さまざまな毒によって人や動物たちの生命を簡単に奪うことが出来ます」
クッ、クヒッ。
気持ち悪い引き笑いをしながらファントムは話を続けた。
「私はこの毒の性質を分析して毒消しの薬草の組み合わせを研究しました。そして毒消しポーションの品質を更に向上させることに成功しました」
おぉぉぉ!
さすがに人に毒を飲ませるわけにはいかないため実験用のネズミを籠に入れて持ってきていた。
「それではこの毒を飲ませます。毒かどうか疑う人はどうぞ飲んでみてください」
クックッ、クヒィーヒッヒ!
皆がゾッと恐れながらファントムの実験を見ていた。
ファントムはネズミを掴んで籠から出すと毒を飲ませ始めた。毒を飲み込んだネズミは苦しそうに暴れ出す。再び籠に入れられたネズミはしばらく暴れていたがやがて動かなくなってピクピクと震えながら苦しみ始める。
そして毒消しポーションを飲ませるとすぐに元気になった。
「これまでは解毒までに半日以上に時間を費やしていました。この毒消しポーションはネズミには一瞬でしたが、人間でもおそらく10分ぐらいで解毒が完了します」
おぉぉぉぉ!
観客の拍手が湧き上がるとファントムはヒィーヒッヒッヒと引き笑いをしながら一礼して会場を去った。
「それでは水の魔塔の代表者、アレク王子!」
いよいよ僕の番である。
「さて行くか」
僕は前に出た。
「そういえばフラン先生にどんな発表にするか言うの忘れてたな」
こんなので大丈夫かと思うが、実はフラン先生も今回の魔法師選別大会の代表者決めを直前まで忘れいたのがそもそもの原因である。
そう、巻き込んだのはフラン先生の方なのだ。
だから何があっても僕は悪くない。
どうなっても僕のせいではない。
ここ大事。
フラン先生の上司である魔塔主も僕には特に何も言ってこなかった。
フラン先生からの推薦だったということと僕がガルシア師匠の弟子だったからということもあったからだろう。
したがって僕にはまったくもって非はない。
そもそもフラン先生は期日間際に慌てて僕に出場を頼んだのが悪い。
僕がどんな魔法を発表するかなんてさほど気にもしてなさそうだしな。ま、ジョージとは一応打ち合わせもしたし、なんとかなるだろう。
さて、始めますか。
♢
アレクの内心など誰も知ることもなく発表が始まった。
アレクの晴れ舞台。
こんなんで大丈夫かと思うが、実はフラン先生も今回の魔法師選別大会の代表者決めを直前まで忘れいたのがそもそもの原因である。
フラン先生はとにかくバレないようにとアレクを巻き込んだ。
フランの上司である魔塔主もフランに任せたきりで特に何も言わなかったようだ。発表者がもう決まっているかと思い込んでいた事もあったため、こんなことになったのだ。
したがってアレクに非はない。
フラン先生は期日間際に慌ててアレクに出場を頼んだので、アレクがどんな魔法を発表するのかを報告するのが遅くなったとしてもアレクのせいだけでもないということだ。
ただ発表に関しては、アレクはなんとなく考えてた事をやるだけだし、フラン先生はアレクが何かしてくれるのだろうとワクワクしているだけだし、水の魔塔主はアレクとフランが二人で考えているものだと思い込んでいるだけだ。
実は三人とも揃いも揃って無責任だった。
これも「Be water-水の如く柔軟であれ」という水の魔法師の教えが原因かもしれない。柔軟に対応するのは良いが、その場の雰囲気に流されるような判断や行動も多い。
水の魔塔の魔法師たちはじつはこんなにも危うい状態だったのだ。
こうして水の魔塔の事情などまったく知らない国王夫妻は息子の晴れ舞台を楽しみにしていたようで特等席にてしっかり応援していた。
マリアは「アレクお兄様~!」と可愛く手を振っている。
イスタルは面倒臭そうに座っていた。
アイリーンはマリアと同じく「アレク様♡~!!」と可愛く手を振っていた。
ローズマリアは既に自分が優勝すると思い込んで自信満々に踏ん反り返っていた。
♢
《side:ジョージ》
さて、今オレはアレク王子の手伝いで闘技場に来ている。
今回助手にと言われたので仕方なく手伝いにきたけど、正直アレク王子がこんなにもすごいとは思ってもいなかった。
だってさ、さっきなんかアレク王子、的当てで満点取ってたんだぜ?
水魔法ってポーションばっかり作ってて正直たいしたことないなと思ってたんだけどさ。
アレク王子が魔力を込め始めたら、なんか巨大な水の塊が突然空に出現してびっくりしたよ。
しかもよくわかんないうちに満点でさ。
本当に脱帽ですよ。
ほんと、わけわかんない。
ま、でも本来ならオレなんかが此処にいていいような立場じゃないしな。
あの王子の晴れ舞台だし、
せっかく助手として来たんだから少しぐらい頑張ってやろうかな。
打ち合わせ通りなら、観客の奴らかなり驚くだろうな。
「皆さんこんにちは。私は第一王子アレク・サトゥーラです。今回初めての発表となりますのでよろしくお願いします。」
ぺこり。
アレク王子は丁寧にお辞儀をした。
「それでは水の魔塔から発表を行います。本来水の魔法は単純に魔力を使い、水を出すというものです。そしてその力を利用してポーション作りや他の病気の治療を主に水の魔塔が管理し、品質の向上を目指して日々研究をしています」
観客は静かにアレク王子の発表を聞いていた。
「そこで私は水の魔法の可能性について更に追求をしてみました。」
観客は皆よくわからない顔をしている。
アレク王子を推薦したはずのフラン先生もよくわからない顔をしている。
「まずは水の力です。ジョージ、木を持ってきてもらえますか?」
おっとオレの出番だ。
あらかじめ魔塔から許可をもらっていた丸太の棒を台車に乗せて持ってきた。それなりに長いものでけっこう重い。
オレはその丸太棒を土魔法で土台を作りその上に丸太棒を立てて固定させた。
「それではご覧ください」
アレク王子はそういって水をカッターのように薄く勢いよく出して丸太木を切った。
これには観客は驚いて歓声を上げた。
これよこれ、水があんな硬い木を真っ二つに出来るなんて誰が思いつく?
本当、あの王子やべえよ。
それにこれだけじゃないんだよな。
おっと、次の丸太を用意しなきゃ。
「これは先程的当てに使った水魔法の応用です。そして……この魔法は私しか出来ないかもしれませんがご覧ください」
そう言ってアレク王子は上空に杖を向けて魔力を込める。
しばらくするとアレク王子の頭上に薄黒い雲がもやもやと現れた。
観客達はざわざわとと騒ぎ出し何が起きるのだと雲を必死に見つめていた。
黒い雲はどんどんと大きくなりそして雨雲のようになる。
「これは雨を作り出す魔法です。この魔法は農業にとっても必要だと思います」
おぉぉぉ!!
観客達は拍手を送る。
「この魔法は雨雲だけではありません」
雨雲はどんどん大きくなり、やがて雲の中がピカピカと光り出す。
観客達は驚きながら目を凝らして雲を見つめていた。
大きくなった雲を見て、アレク王子は杖を上に振り上げた。
ピカッ!!
ドーン!!
ゴロゴロゴロゴロ……。
なんと黒い雲から雷が発生し、アレク王子の目の前にある丸太の上に落ちたのである。
これよ!これ!
ほんと、なんでこんなこと出来るんだ?
あの王子、ほんとやべえよ!
♢
《side:アレク》
突然現れた稲妻に観客達は驚き過ぎていた。
ほとんどの者が呆けた顔をしており、ただ静かに息を呑む。
沈黙が場を支配する。
しばらくして誰かが声を出した。
「・・・あれは、まさか、ラ、ライデ◯ン!?」
「なんだと!?」
「あ、あれが初代アルテマ国王のみが使えた秘術ライデイ◯ではないか?」
「おおっ!!なんと!!」
「そうか!あれが!あの!」
「あれがアルテマ王の伝説ドラゴンスレイヤーの魔法か!」
へっ?
今度は僕が驚いた。
雷の魔法がラ◯デインって、やっぱり初代国王って僕と同じ転生者なのかも。
そう言えばサトゥーラって国名だったもんな。初代国王って旧姓、里浦ってやつかも。でもアルテマって名前はどうなんだろ。
いやー、名前から、キラキラネームでもなさそうだしな。
んー、アルテマだもんなあ。
まさか・・・厨二病?
初代って、
厨二病患者か?
異世界に来たし、ちょっと好きな名前に変えてみた的な?
まあ、異世界だし、あの病に罹るのはまあ、仕方なし。
自称アルテマですよ。
自分で名乗るって、なかなか勇気あるよ?
雷魔法よラ◯デインだし、
ゲームやりまくってたんだろうなあ。
ライデ◯ーーン!!
なんてさ、そう言っちゃってるのはなあ。
ご先祖様とはいえ同じ転生者としても、こりゃなかなかつらいものがあるかも。
けどまあ、仕方なし。
よほど好きだったんだろうな。
魔法の全属性も同じ転生者だからかもしれないな。
誰かが言い出した雷魔法で会場は大騒ぎになっていた。その後驚き過ぎた観客達は皆、ハッとして慌てて盛大な拍手を送ってくれた。
「この魔法は水だけではなく火と風の属性が必要になります。いずれは水、火、風の魔法師達が力を合わせればこの魔法を使うことができるでしょう。発表は以上です」
観客達は大きな声で僕を称えてくれた。
盛大な拍手を送る中、僕は会場を去った。
その時チラッと観客席を見たら父上と母上がとても喜んでくれていた。
両親の喜ぶ顔を見るのは久しぶりだな。
なんか嬉しいかも。
マリアも「さすがお兄様!」と喜んでいた。
うん、お兄ちゃん頑張ったよ。
イスタルは普段無表情だからわかりにくいな。
アイリーンは、ちょっと見つからないな。
まあ、どこかで観てくれてるかな?
「それでは全ての発表が終わりました!これから審査の時間となります。それまでの間は休憩時間となりますので、皆さまどうかしばらくの間お寛ぎください」
会場には司会からのアナウンスが流れる。
僕は選手の待機部屋に戻った。
中に入るとローズマリアや他の生徒たちが僕を見るやしてやられたとばかりに僕を睨んでいた。
(ん?なんだこれ?なんか気まずいな)
待機部屋が嫌な空気に包まれていたところに片付けを終えたジョージが戻ってきて僕のそばに来てくれた。
「アレク殿下、片付けが終わりました」
「ジョージ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「いやあ、アレク王子の魔法がすごすぎて、ほんと観客のみんなびっくりしましたよ。初代国王の魔法の再現だって驚いてましたね!」
「ああ、そうみたいだね。僕も初代国王が雷魔法使えるなんて知らなかったよ」
「そうだったんですか?てっきりご存知なのかと思ってましたよ」
「いや、全属性魔法使いとしか聞いてなかったかも」
「でも王国史とか、ドラゴンスレイヤー伝記とかにアルテマ王が雷魔法で竜を倒した話が記されてましたよ?」
「だってさ、昔の話だし、伝記だから作り話って思うんじゃない?」
「そうですか?オレあの話子供の頃大好きでしたよ?子供の頃なんてみんなアルテマ王に憧れてましたけどね」
「そっか、まあ僕はアルテマ王の子孫だし、子供の頃はとにかく毎日魔法と剣術の特訓であまり憧れる余裕なんてなかったかもしれないな」
「え?殿下、子供の頃から魔法の訓練してたんですか?」
「うん、まあ、五歳ぐらいからやってた」
「そりゃ、凄すぎますよ。たしかにガルシア様のもとで幼少期から魔法の特訓してたらこんなにも強くなるわけですよ」
「え?そうなの?」
「ええ、オレなんて学園に来てから魔法習いましたから、子供の頃なんて木の棒で剣術ごっこしてたぐらいです」
「そうなんだ。ああ、だからかぁ」
(そういや前世の子供の時は僕も棒切れで遊んでたなあ。なんか、懐かしいな。ああ、たしかに、今世は、違うんだ。そうだった)
なんか、過去世の事を思い出したら、少し寂しくなってきたな。
なんでだろ。
「殿下、どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。ちょっと疲れたかも」
「それじゃあ殿下、そちらの椅子に座られてはどうですか?少し休みましょう」
「うん、そうする」
僕は椅子に腰掛けるとアナウンスが流れてきた。
そして選手全員が今回の審査の結果発表のため、再び会場に呼び出されることになった。
第二審査が始まり、三つの魔塔の代表者たちの発表が終わった。
僕の番はまだ先だ。
他の魔塔の代表者たちは結構真面目に発表してるなあ。
そういえば、むかしガルシア師匠から魔法を教わった時はとにかく魔力を増やすために限界まで魔法を使いまくるといった荒業ばかりだったわ。
あの時のことを思い出しただけでもなんか吐き気がしてきた。
なんか胃酸が込み上げてくる。
しかし、こういった魔法での社会貢献の発表はとてもスマートに見えるよな。
そういえば師匠に魔法陣の組み方も教わったっけ。
あれは難しかった。
前世でもパソコンの簡単なプログラミングとかやったけど全然わからんかったし、魔法陣の組み方も原理は似てて子供には難しかった。
そういや、まだ現世では魔法陣の授業は受けてないんだった。
たしか一般的には二年になってからやるんだったよな。一年生の時はひたすら魔力を増やして魔法を使うのをやらされるんだったよな。
あれ?そう考えたらやっぱり一年生の僕がこの大会に出る事自体ありえないんじゃないか?
ま、出ちゃったものはしょうがない。
どうせ負けたところで何も言われないだろうし、それに的当ては満点だったからもう勝負ぐらい負けても大丈夫でしょ。
そう考えたら気が楽になってきたわ。
「それでは次は毒の魔法、ファントム!」
お、次は無属性魔法の代表者が呼ばれたみたい、そういや、あの人なんか暗いな。
痩せぎすで目は大きく目の下にはクマがあり鼻は高くて口は大きい、ニヤっと笑うその笑みはなんとも不気味だ。
呪いの藁人形とか持ってそう。
「皆さんこんにちは……私たちは無属性代表のファントムです。主に毒の魔法の研究を行なっています」
周囲は皆大丈夫か?と心配の眼差しでファントムを見ていた。
「毒は多種多様であり、さまざまな毒によって人や動物たちの生命を簡単に奪うことが出来ます」
クッ、クヒッ。
気持ち悪い引き笑いをしながらファントムは話を続けた。
「私はこの毒の性質を分析して毒消しの薬草の組み合わせを研究しました。そして毒消しポーションの品質を更に向上させることに成功しました」
おぉぉぉ!
さすがに人に毒を飲ませるわけにはいかないため実験用のネズミを籠に入れて持ってきていた。
「それではこの毒を飲ませます。毒かどうか疑う人はどうぞ飲んでみてください」
クックッ、クヒィーヒッヒ!
皆がゾッと恐れながらファントムの実験を見ていた。
ファントムはネズミを掴んで籠から出すと毒を飲ませ始めた。毒を飲み込んだネズミは苦しそうに暴れ出す。再び籠に入れられたネズミはしばらく暴れていたがやがて動かなくなってピクピクと震えながら苦しみ始める。
そして毒消しポーションを飲ませるとすぐに元気になった。
「これまでは解毒までに半日以上に時間を費やしていました。この毒消しポーションはネズミには一瞬でしたが、人間でもおそらく10分ぐらいで解毒が完了します」
おぉぉぉぉ!
観客の拍手が湧き上がるとファントムはヒィーヒッヒッヒと引き笑いをしながら一礼して会場を去った。
「それでは水の魔塔の代表者、アレク王子!」
いよいよ僕の番である。
「さて行くか」
僕は前に出た。
「そういえばフラン先生にどんな発表にするか言うの忘れてたな」
こんなので大丈夫かと思うが、実はフラン先生も今回の魔法師選別大会の代表者決めを直前まで忘れいたのがそもそもの原因である。
そう、巻き込んだのはフラン先生の方なのだ。
だから何があっても僕は悪くない。
どうなっても僕のせいではない。
ここ大事。
フラン先生の上司である魔塔主も僕には特に何も言ってこなかった。
フラン先生からの推薦だったということと僕がガルシア師匠の弟子だったからということもあったからだろう。
したがって僕にはまったくもって非はない。
そもそもフラン先生は期日間際に慌てて僕に出場を頼んだのが悪い。
僕がどんな魔法を発表するかなんてさほど気にもしてなさそうだしな。ま、ジョージとは一応打ち合わせもしたし、なんとかなるだろう。
さて、始めますか。
♢
アレクの内心など誰も知ることもなく発表が始まった。
アレクの晴れ舞台。
こんなんで大丈夫かと思うが、実はフラン先生も今回の魔法師選別大会の代表者決めを直前まで忘れいたのがそもそもの原因である。
フラン先生はとにかくバレないようにとアレクを巻き込んだ。
フランの上司である魔塔主もフランに任せたきりで特に何も言わなかったようだ。発表者がもう決まっているかと思い込んでいた事もあったため、こんなことになったのだ。
したがってアレクに非はない。
フラン先生は期日間際に慌ててアレクに出場を頼んだので、アレクがどんな魔法を発表するのかを報告するのが遅くなったとしてもアレクのせいだけでもないということだ。
ただ発表に関しては、アレクはなんとなく考えてた事をやるだけだし、フラン先生はアレクが何かしてくれるのだろうとワクワクしているだけだし、水の魔塔主はアレクとフランが二人で考えているものだと思い込んでいるだけだ。
実は三人とも揃いも揃って無責任だった。
これも「Be water-水の如く柔軟であれ」という水の魔法師の教えが原因かもしれない。柔軟に対応するのは良いが、その場の雰囲気に流されるような判断や行動も多い。
水の魔塔の魔法師たちはじつはこんなにも危うい状態だったのだ。
こうして水の魔塔の事情などまったく知らない国王夫妻は息子の晴れ舞台を楽しみにしていたようで特等席にてしっかり応援していた。
マリアは「アレクお兄様~!」と可愛く手を振っている。
イスタルは面倒臭そうに座っていた。
アイリーンはマリアと同じく「アレク様♡~!!」と可愛く手を振っていた。
ローズマリアは既に自分が優勝すると思い込んで自信満々に踏ん反り返っていた。
♢
《side:ジョージ》
さて、今オレはアレク王子の手伝いで闘技場に来ている。
今回助手にと言われたので仕方なく手伝いにきたけど、正直アレク王子がこんなにもすごいとは思ってもいなかった。
だってさ、さっきなんかアレク王子、的当てで満点取ってたんだぜ?
水魔法ってポーションばっかり作ってて正直たいしたことないなと思ってたんだけどさ。
アレク王子が魔力を込め始めたら、なんか巨大な水の塊が突然空に出現してびっくりしたよ。
しかもよくわかんないうちに満点でさ。
本当に脱帽ですよ。
ほんと、わけわかんない。
ま、でも本来ならオレなんかが此処にいていいような立場じゃないしな。
あの王子の晴れ舞台だし、
せっかく助手として来たんだから少しぐらい頑張ってやろうかな。
打ち合わせ通りなら、観客の奴らかなり驚くだろうな。
「皆さんこんにちは。私は第一王子アレク・サトゥーラです。今回初めての発表となりますのでよろしくお願いします。」
ぺこり。
アレク王子は丁寧にお辞儀をした。
「それでは水の魔塔から発表を行います。本来水の魔法は単純に魔力を使い、水を出すというものです。そしてその力を利用してポーション作りや他の病気の治療を主に水の魔塔が管理し、品質の向上を目指して日々研究をしています」
観客は静かにアレク王子の発表を聞いていた。
「そこで私は水の魔法の可能性について更に追求をしてみました。」
観客は皆よくわからない顔をしている。
アレク王子を推薦したはずのフラン先生もよくわからない顔をしている。
「まずは水の力です。ジョージ、木を持ってきてもらえますか?」
おっとオレの出番だ。
あらかじめ魔塔から許可をもらっていた丸太の棒を台車に乗せて持ってきた。それなりに長いものでけっこう重い。
オレはその丸太棒を土魔法で土台を作りその上に丸太棒を立てて固定させた。
「それではご覧ください」
アレク王子はそういって水をカッターのように薄く勢いよく出して丸太木を切った。
これには観客は驚いて歓声を上げた。
これよこれ、水があんな硬い木を真っ二つに出来るなんて誰が思いつく?
本当、あの王子やべえよ。
それにこれだけじゃないんだよな。
おっと、次の丸太を用意しなきゃ。
「これは先程的当てに使った水魔法の応用です。そして……この魔法は私しか出来ないかもしれませんがご覧ください」
そう言ってアレク王子は上空に杖を向けて魔力を込める。
しばらくするとアレク王子の頭上に薄黒い雲がもやもやと現れた。
観客達はざわざわとと騒ぎ出し何が起きるのだと雲を必死に見つめていた。
黒い雲はどんどんと大きくなりそして雨雲のようになる。
「これは雨を作り出す魔法です。この魔法は農業にとっても必要だと思います」
おぉぉぉ!!
観客達は拍手を送る。
「この魔法は雨雲だけではありません」
雨雲はどんどん大きくなり、やがて雲の中がピカピカと光り出す。
観客達は驚きながら目を凝らして雲を見つめていた。
大きくなった雲を見て、アレク王子は杖を上に振り上げた。
ピカッ!!
ドーン!!
ゴロゴロゴロゴロ……。
なんと黒い雲から雷が発生し、アレク王子の目の前にある丸太の上に落ちたのである。
これよ!これ!
ほんと、なんでこんなこと出来るんだ?
あの王子、ほんとやべえよ!
♢
《side:アレク》
突然現れた稲妻に観客達は驚き過ぎていた。
ほとんどの者が呆けた顔をしており、ただ静かに息を呑む。
沈黙が場を支配する。
しばらくして誰かが声を出した。
「・・・あれは、まさか、ラ、ライデ◯ン!?」
「なんだと!?」
「あ、あれが初代アルテマ国王のみが使えた秘術ライデイ◯ではないか?」
「おおっ!!なんと!!」
「そうか!あれが!あの!」
「あれがアルテマ王の伝説ドラゴンスレイヤーの魔法か!」
へっ?
今度は僕が驚いた。
雷の魔法がラ◯デインって、やっぱり初代国王って僕と同じ転生者なのかも。
そう言えばサトゥーラって国名だったもんな。初代国王って旧姓、里浦ってやつかも。でもアルテマって名前はどうなんだろ。
いやー、名前から、キラキラネームでもなさそうだしな。
んー、アルテマだもんなあ。
まさか・・・厨二病?
初代って、
厨二病患者か?
異世界に来たし、ちょっと好きな名前に変えてみた的な?
まあ、異世界だし、あの病に罹るのはまあ、仕方なし。
自称アルテマですよ。
自分で名乗るって、なかなか勇気あるよ?
雷魔法よラ◯デインだし、
ゲームやりまくってたんだろうなあ。
ライデ◯ーーン!!
なんてさ、そう言っちゃってるのはなあ。
ご先祖様とはいえ同じ転生者としても、こりゃなかなかつらいものがあるかも。
けどまあ、仕方なし。
よほど好きだったんだろうな。
魔法の全属性も同じ転生者だからかもしれないな。
誰かが言い出した雷魔法で会場は大騒ぎになっていた。その後驚き過ぎた観客達は皆、ハッとして慌てて盛大な拍手を送ってくれた。
「この魔法は水だけではなく火と風の属性が必要になります。いずれは水、火、風の魔法師達が力を合わせればこの魔法を使うことができるでしょう。発表は以上です」
観客達は大きな声で僕を称えてくれた。
盛大な拍手を送る中、僕は会場を去った。
その時チラッと観客席を見たら父上と母上がとても喜んでくれていた。
両親の喜ぶ顔を見るのは久しぶりだな。
なんか嬉しいかも。
マリアも「さすがお兄様!」と喜んでいた。
うん、お兄ちゃん頑張ったよ。
イスタルは普段無表情だからわかりにくいな。
アイリーンは、ちょっと見つからないな。
まあ、どこかで観てくれてるかな?
「それでは全ての発表が終わりました!これから審査の時間となります。それまでの間は休憩時間となりますので、皆さまどうかしばらくの間お寛ぎください」
会場には司会からのアナウンスが流れる。
僕は選手の待機部屋に戻った。
中に入るとローズマリアや他の生徒たちが僕を見るやしてやられたとばかりに僕を睨んでいた。
(ん?なんだこれ?なんか気まずいな)
待機部屋が嫌な空気に包まれていたところに片付けを終えたジョージが戻ってきて僕のそばに来てくれた。
「アレク殿下、片付けが終わりました」
「ジョージ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「いやあ、アレク王子の魔法がすごすぎて、ほんと観客のみんなびっくりしましたよ。初代国王の魔法の再現だって驚いてましたね!」
「ああ、そうみたいだね。僕も初代国王が雷魔法使えるなんて知らなかったよ」
「そうだったんですか?てっきりご存知なのかと思ってましたよ」
「いや、全属性魔法使いとしか聞いてなかったかも」
「でも王国史とか、ドラゴンスレイヤー伝記とかにアルテマ王が雷魔法で竜を倒した話が記されてましたよ?」
「だってさ、昔の話だし、伝記だから作り話って思うんじゃない?」
「そうですか?オレあの話子供の頃大好きでしたよ?子供の頃なんてみんなアルテマ王に憧れてましたけどね」
「そっか、まあ僕はアルテマ王の子孫だし、子供の頃はとにかく毎日魔法と剣術の特訓であまり憧れる余裕なんてなかったかもしれないな」
「え?殿下、子供の頃から魔法の訓練してたんですか?」
「うん、まあ、五歳ぐらいからやってた」
「そりゃ、凄すぎますよ。たしかにガルシア様のもとで幼少期から魔法の特訓してたらこんなにも強くなるわけですよ」
「え?そうなの?」
「ええ、オレなんて学園に来てから魔法習いましたから、子供の頃なんて木の棒で剣術ごっこしてたぐらいです」
「そうなんだ。ああ、だからかぁ」
(そういや前世の子供の時は僕も棒切れで遊んでたなあ。なんか、懐かしいな。ああ、たしかに、今世は、違うんだ。そうだった)
なんか、過去世の事を思い出したら、少し寂しくなってきたな。
なんでだろ。
「殿下、どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。ちょっと疲れたかも」
「それじゃあ殿下、そちらの椅子に座られてはどうですか?少し休みましょう」
「うん、そうする」
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