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幼少期編
元英雄は嗤う
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ワシの名はガスタル・サラトムと申す。
此度はワシの愛する孫娘アイリーンと第一王子アレク殿下が婚約することとなった。
アレク殿下は凡庸な外見をしておる。ゆえに他の貴族からはその外見ゆえに見下され、国王陛下が王子の婚約者探しに難儀しておるという話を我が友であり王国黒鉄騎士団の団長であるボルトから聞いた。
さらには我が友ボルトと盟友ガルシア殿からアレク殿下は外見こそ凡庸なれど、年不相応なほどに剣と魔法の実力は非凡であると賞賛しておったのじゃ。
あの二人が師事しておることもあるだろうが、それでもあの二人は自身の実力ゆえに自分たちの門下の者を軽々しく褒めることはない。唯一あの二人の厳しい指導に乗り越えた者の中で確固な実力を有した者のみ賞賛する。
その二人がアレク王子が王太子となるのは間違いないと太鼓判を押したのだ。
ワシは歓喜した。
幸いに殿下にはまだ婚約者が決まっていなかったことと孫娘であるアイリーンが殿下と同じ歳だったということがワシの中で今が好機だと告げたのじゃ。
いよいよ我が辺境伯家の飛躍の時が来たのだと。
そうと決まれば即行動あるのみよ。
これがワシの信条。
意外だったのがアイリーンまでもがアレク殿下に好意的だったことじゃ。
ワシもまさかアイリーンがすんなり婚約を受け入れるとは思わず、何か不思議な運命を感じたほどじゃ。
まあ息子たちが何やら小鳥のようにピーチクパーチクと小煩く反対しておったが、ワシが当主じゃ。決定権はワシにある。ワシが健在であるうちは息子などに文句は言わせんわい。
そう思っておったら、あのバカ息子、第二王子派に寝返りおった。しかもスパイ紛いのようなことまでしおって、本当に廃嫡してやろうかと思ったが、せっかくじゃからしばらく勝手にやらさて泳がせることにした。
ふん!ヨーゼフなんぞにいいように使われよって、腹が立つ!
敵側である第二王子派の連中も息子たちの事を信用しとるみたいじゃから、こちらも偽の情報を流してやったわ。
向こうはアレク殿下の命を狙っておるようだし、ヨーゼフなんぞはアイリーンの命まで狙っておるそうじゃから、奴らがどう犯行に及ぶのか、その手段と証拠さえ掴んでしまえば、あとは牢屋にぶち込んでくれるわ!
必ず奴らを始末してくれる。
ワシを怒らせるとどうなるか、第二王子派の奴らに目にもの見せてくれるわ。
我が宿敵ヨーゼフにもな!
彼奴の悔しがる顔を思い浮かべるだけで胸がすくわい。
見ておれ!
フフフ・・・・・・。
ガスタルは不敵な笑いを示しつつ、アレク王子暗殺の証拠を掴むべく動きだすのであった。
♢
《ヨーゼフ視点》
いよいよ明日が第一王子の婚約発表じゃ。
いまやガスタルの息子もこちら側に寝返ったおる。息子に裏切られるとは、彼奴も耄碌したもんじゃのう。
可哀想に、
フフ、良い気味じゃ!
まあ第一王子が死に、第二王子派の貴族共が力を持ったとすれば、辺境伯家は放っておいても没落するじゃろうし、奴の息子もその時騙されたことに気づくじゃろう。
これで積年の恨みを晴らすことができる。
ワシの好敵手よ、
智力においてはワシが最強なのだと思い知るが良い!
フハハハ!!
ああ、忌々しい!
ワシと奴は先の戦いで大戦果を成し遂げた英雄じゃった。ワシとてその頃は奴を盟友として互いに協力し合い、王国のため身命を賭して騎士として闘いの世界に身を投じておった。
当時、ガスタルはまだ騎士ではなく傭兵じゃった。ワシは伯爵家の嫡男であり騎士団に属しておった。じゃからワシの方が生まれも育ちも立場も偉かったのじゃ。
ワシの方が偉いのはわかっとるが、貴族の誇りとして、大人の態度でな、たとえ平民だった奴が出世したとしても、まあ他の貴族共が悔しがっておったのは知っておったが、ワシは奴の友として、まあ祝福してやろうかと、このワシが祝福してやっとるのだからありがたいと思え、とまあ、このような寛大な態度を示してやっておったわけじゃ。
しかしな、
いつもいつもいつも、奴との実力は席巻しつつもついぞ奴には勝てんかった。そしていつも奴と比較され続けたワシの誇りは常に傷つけられておったのじゃ。
しかも奴はワシより出世した。
それでもワシは奴を友として認めておった。
しかし、奴はそうではなかった。
侮辱。
ある日のことじゃ、酒の席でちょっとした口論となった時に奴はワシを見下す発言をしおったのだ。ささいな喧嘩とはいえ、人を見下す態度は普段からそう思っておるということじゃ。
思わず拳を振り奴と対決したが、力では敵わなかった。
屈辱。
挑発され、力で敵わかったあの時の負けなんぞ認めたくない。それ以降、ワシは奴を敵として認識を改めることにした。それほどショックだったということじゃ。
それ以降、ワシは奴と距離を取った。
二人の英雄が仲違いしたことで、どちらにつくかと部下たちは悩んでおったな。
もはや歳を取り、老先短いワシらが再び剣を交えて闘かったとしても、もはや奴には敵わぬ。
じゃが年の功として、智力は歳を重ねた分の力量差とあるということを思い知らせてやるわ!!
こちらの方が強いということを見せつけてやるわ!!
さあ辺境伯家の奴らに恥をかかせてやろうじゃないか。
フフフ、
フハハハ!!
元英雄の老人二人は、ほぼ同時刻に互いの屋敷にて高笑いしていた。
そして自問自答のように明日からの抱負を語るのであった。
此度はワシの愛する孫娘アイリーンと第一王子アレク殿下が婚約することとなった。
アレク殿下は凡庸な外見をしておる。ゆえに他の貴族からはその外見ゆえに見下され、国王陛下が王子の婚約者探しに難儀しておるという話を我が友であり王国黒鉄騎士団の団長であるボルトから聞いた。
さらには我が友ボルトと盟友ガルシア殿からアレク殿下は外見こそ凡庸なれど、年不相応なほどに剣と魔法の実力は非凡であると賞賛しておったのじゃ。
あの二人が師事しておることもあるだろうが、それでもあの二人は自身の実力ゆえに自分たちの門下の者を軽々しく褒めることはない。唯一あの二人の厳しい指導に乗り越えた者の中で確固な実力を有した者のみ賞賛する。
その二人がアレク王子が王太子となるのは間違いないと太鼓判を押したのだ。
ワシは歓喜した。
幸いに殿下にはまだ婚約者が決まっていなかったことと孫娘であるアイリーンが殿下と同じ歳だったということがワシの中で今が好機だと告げたのじゃ。
いよいよ我が辺境伯家の飛躍の時が来たのだと。
そうと決まれば即行動あるのみよ。
これがワシの信条。
意外だったのがアイリーンまでもがアレク殿下に好意的だったことじゃ。
ワシもまさかアイリーンがすんなり婚約を受け入れるとは思わず、何か不思議な運命を感じたほどじゃ。
まあ息子たちが何やら小鳥のようにピーチクパーチクと小煩く反対しておったが、ワシが当主じゃ。決定権はワシにある。ワシが健在であるうちは息子などに文句は言わせんわい。
そう思っておったら、あのバカ息子、第二王子派に寝返りおった。しかもスパイ紛いのようなことまでしおって、本当に廃嫡してやろうかと思ったが、せっかくじゃからしばらく勝手にやらさて泳がせることにした。
ふん!ヨーゼフなんぞにいいように使われよって、腹が立つ!
敵側である第二王子派の連中も息子たちの事を信用しとるみたいじゃから、こちらも偽の情報を流してやったわ。
向こうはアレク殿下の命を狙っておるようだし、ヨーゼフなんぞはアイリーンの命まで狙っておるそうじゃから、奴らがどう犯行に及ぶのか、その手段と証拠さえ掴んでしまえば、あとは牢屋にぶち込んでくれるわ!
必ず奴らを始末してくれる。
ワシを怒らせるとどうなるか、第二王子派の奴らに目にもの見せてくれるわ。
我が宿敵ヨーゼフにもな!
彼奴の悔しがる顔を思い浮かべるだけで胸がすくわい。
見ておれ!
フフフ・・・・・・。
ガスタルは不敵な笑いを示しつつ、アレク王子暗殺の証拠を掴むべく動きだすのであった。
♢
《ヨーゼフ視点》
いよいよ明日が第一王子の婚約発表じゃ。
いまやガスタルの息子もこちら側に寝返ったおる。息子に裏切られるとは、彼奴も耄碌したもんじゃのう。
可哀想に、
フフ、良い気味じゃ!
まあ第一王子が死に、第二王子派の貴族共が力を持ったとすれば、辺境伯家は放っておいても没落するじゃろうし、奴の息子もその時騙されたことに気づくじゃろう。
これで積年の恨みを晴らすことができる。
ワシの好敵手よ、
智力においてはワシが最強なのだと思い知るが良い!
フハハハ!!
ああ、忌々しい!
ワシと奴は先の戦いで大戦果を成し遂げた英雄じゃった。ワシとてその頃は奴を盟友として互いに協力し合い、王国のため身命を賭して騎士として闘いの世界に身を投じておった。
当時、ガスタルはまだ騎士ではなく傭兵じゃった。ワシは伯爵家の嫡男であり騎士団に属しておった。じゃからワシの方が生まれも育ちも立場も偉かったのじゃ。
ワシの方が偉いのはわかっとるが、貴族の誇りとして、大人の態度でな、たとえ平民だった奴が出世したとしても、まあ他の貴族共が悔しがっておったのは知っておったが、ワシは奴の友として、まあ祝福してやろうかと、このワシが祝福してやっとるのだからありがたいと思え、とまあ、このような寛大な態度を示してやっておったわけじゃ。
しかしな、
いつもいつもいつも、奴との実力は席巻しつつもついぞ奴には勝てんかった。そしていつも奴と比較され続けたワシの誇りは常に傷つけられておったのじゃ。
しかも奴はワシより出世した。
それでもワシは奴を友として認めておった。
しかし、奴はそうではなかった。
侮辱。
ある日のことじゃ、酒の席でちょっとした口論となった時に奴はワシを見下す発言をしおったのだ。ささいな喧嘩とはいえ、人を見下す態度は普段からそう思っておるということじゃ。
思わず拳を振り奴と対決したが、力では敵わなかった。
屈辱。
挑発され、力で敵わかったあの時の負けなんぞ認めたくない。それ以降、ワシは奴を敵として認識を改めることにした。それほどショックだったということじゃ。
それ以降、ワシは奴と距離を取った。
二人の英雄が仲違いしたことで、どちらにつくかと部下たちは悩んでおったな。
もはや歳を取り、老先短いワシらが再び剣を交えて闘かったとしても、もはや奴には敵わぬ。
じゃが年の功として、智力は歳を重ねた分の力量差とあるということを思い知らせてやるわ!!
こちらの方が強いということを見せつけてやるわ!!
さあ辺境伯家の奴らに恥をかかせてやろうじゃないか。
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