転生したら王子だったけど僕だけ前世のまま(モブ顔)だった( ゜д゜)

あんこもっち

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幼少期編

アイリーン

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お茶会が終わった後、アイリーンは王都にある辺境伯家の屋敷へと戻った。

そして部屋に入るなり軽い足取りで姿見の鏡の前へと立ち、今日のお茶会のために用意したドレスのスカートを摘んで優雅にくるりとターン、横に一回転すると同時にスカートがふわりと宙を舞った。

そして優雅な姿勢で鏡の前で丁寧なお辞儀をする。その姿勢仕草はダンスを踊った後の相手への敬意と感謝を込めたお辞儀そのものであった。

「うふふ♡」

アイリーンは鏡に映った自分の美しい顔立ちを見て満たされた顔で微笑む。

「ああ、楽しいお茶会でしたわ」

今回お茶会の主催たる王族側からすれば主役たるアレク王子の気絶(自滅)事件で下手を打てば大惨事となるやもしれなかった。だが、晴れて第一王子の婚約者となったアイリーンにとってお茶会自体は成功だったと言わんばかりに上機嫌である。

辺境伯家の可憐で清楚なお嬢様。
アイリーン・サラトム
お歳はアレクと同じ11歳である。
美しい顔立ちに白い肌、
ぱっちりとした大きな目に愛くるしい唇、
小柄ながらもスラリとした体躯、

このような美少女が王都の街中を呑気に歩こうものなら街ゆく人々の視線の全て集めることになるだろう。

そして誰もが囁くのだ。
あの美しい令嬢は誰だろうと。

アイリーンは空想の中で目の前にいる街の人々が自分に対して羨望と渇望に満ちた目で見てくる姿を思い描いた。

そしてスカートを摘むとまたくるりと回りだす。

次の動作はカーテシー、
彼女は鏡の前で丁寧なお辞儀をした。

「ふふ♪わたくしは誰でしょうか♪」

アイリーンは微笑む。
彼女は自身に対する他人の評価を理解している。自己評価もそれなりに高い。

アイリーン・サラトム、
辺境伯家の可憐で清楚なお嬢様、・・・・・・ではなく、
可愛い容姿に似合わぬほど少しクセの強い女の子だった。


 
《アイリーン視点》

わたくし、今回のお茶会を楽しみにしていましたの。

第一王子との婚約は今の自分にとって大事な目標のための過程のひとつですわ。

今日のお茶会を振り返っても、

国王陛下からの感触は良し、
王妃と王女からの反応も良し、
アレク王子からの反応はすぐ気絶したのでよくわからない結果となりましたけど、でもわたくしを見つめる眼差しは明らかに好意的でした。それよりも、少し熱っぽい、恋焦がれるような眼差しにも見えましたわ。

「うふふ♡」

成果は上々。

「次はアレク様との婚約発表と舞踏会ですわね」

楽しみ♡

次の王城で開催されるアレク王子との婚約発表と舞踏会でのダンスの事を考えると期待で胸が熱くなりますわ。

「アレク王子は剣術と魔法に秀でていらっしゃるそうですけど、ダンスの腕前はいかほどかしら」

強い方は好き。
お祖父様は強く賢い方でわたくしの憧れ。
アレク様もお祖父様のように強い方かしら。

「ああ、学園に入った時が楽しみですわ」

アレク様の剣術の腕前はわたくしのお祖父様と仲の良いボルト団長様が褒めていらっしゃったとお聞きしました。魔法の才もあり、ガスタル様の評価では今の歳であっても王宮魔法師となれるほどと評されておられました。だからこそ、わたくしは殿下の凡庸な顔立ちなど一切気になりませんの。むしろ自分の美しさが引き立つのであれば喜んで受け入れる覚悟はできています。

まあ、お父様とお兄様は第一王子との婚約に反対でしたけど、当主たるお祖父様がこの婚約に賛同してくださるのですから、いまのところ何の問題もありませんわね。

ただ一つ心配なことを除けば、・・・ですけど。

「お母様が今のところ何も言ってこないのが恐ろしいですわね」

わたくしのお母様、
キャサリン・サラトム。

もともとお母様は王都の貴族の出であり辺境の地に嫁いだことにいつも不満を漏らしていましたの。でもお兄様アランが学園に行かれることになったことをチャンスと捉えて、それ以来お父様と共に王都の屋敷に移り住んでいますわ。

わたくしはお祖父様と一緒にいたいからとお母様たちに着いていかず辺境伯領地に残りましたけど、

今でも自身の判断が間違っていたとは思っていませんわ。むしろお母様と一緒でなくて本当に良かったと思います。

「だって、わたくしが此処にいるのに、全く会いにも来ないだなんて、お母様って本当にわたくしと血がつながっているのかしら?」

もちろん理由はわかっていますけど、

「今回の婚約の件、よほど怒っていらっしゃるのね」

せっかく辺境伯領地から王都の屋敷に入る際にお母様に挨拶に伺ったのに、侍従長から体調が優れないからと門前払いを受けましたわ。

「まあお母様が婚約を反対したところでお祖父様の意向を覆すことは無理でしょうけど」

もうお父様もお母様も無視して、わたくしはやりたいようにやらせていただきましょう。

アイリーンは鏡と空想に飽きたようだ。

早く疲れを癒やしたくなったようで湯浴みをすべく、呼び鈴を鳴らし側使いを呼ぶのであった。



アイリーンはもともと小さい頃から自由奔放な性格で割とお転婆だった。

もちろん母のキャサリンとは性格が合うはずもなくアイリーンは母から淑女になるための躾として厳しく教育を施されることを心底嫌がった。

キャサリンは幼いアイリーンを部屋に閉じ込めて淑女教育を受けさせるのだが、その度アイリーンはこっそり抜け出し、祖父ガスタルのもとに逃げていたのだ。

アイリーンはお爺ちゃん子であった。

末っ子特有の甘え上手で賢いところもあり、ガスタルもアイリーンには甘かった。

そしてガスタルがアイリーンを王都に上京するのを拒んだのも、このままキャサリンとエリックの元に置いておけばアイリーンの良さがダメになってしまうと思ったことが大きい。

そのおかげかアイリーンは表向き、素直で清楚な淑女として見事に成長した。そして家族の中で一番祖父のガスタルの考え方に似ている。

質実剛健、外面ではなく中身が大事。
そして強さこそが全てであるということ。

辺境の地は防衛の要。

ガスタルが若い頃は隣国との小競り合いが多く、頻繁に戦に出ていたのだ。

隣国との戦争はここ数十年なく平和が続いている。しかし、そうはいっても国境を護るために領地を預かっている身である。

甘っちょろい考えでは領地は護れない。

常に己を鍛えて万全の備えをしておかなくてはならないと永らく辺境の領地を治めてきたからこその考え方であった。

そしてアイリーンも小さい頃からずっと領地で育ってきたため、一番にガスタルの影響を受けたのである。

だからこそアイリーンはアレクを選んだのだろう。

それは、アイリーンが求めているものは単純に力、権力が欲しいのだ。

しかし、他の家族はそうではなかった。

キャサリンもそうだが、エリックなんかは結婚してからやたらと中央貴族の機嫌を伺うようになり、外見ばかりを取り繕って肝心の中身が育っていなかった。

もちろんアランも同じである。もともと母であるキャサリンのおかげでひ弱でプライドだけが高く、いつも誰か強い者の側で偉そうにしている狐のような性格になったために後継者としての素質の無さにガスタルは心配していた。

さらに王都の学園に行くようになってからは父と同じように外見ばかりを取り繕うようになり大局的なものの見方ができていなかったためにガスタルもエリックとアランには厳しかった。

そのため、アランもキャサリンもアイリーンだけを可愛がるガスタルを嫌い余程のことがなければ領地に戻ることはなかった。

そうしたものだからアイリーンは新しい王都での学園生活が楽しみではあったものの母の介入が頻繁になることに嫌気がさすのであった。

「アレク様とお会いできるのは嬉しいのですが、そうなればお母様もどこかで介入してくるのでしょうね」

きっと母はこの婚姻に対して頭から否定してくるに違いない。
それでも今回の王太子との婚約は当主の意向であり、王が決めた婚姻にたいして反対などできるはずがない。

愚かな両親と兄にはそれがわからず、いつも第二王子派のことばかり話していた。

アイリーンにとっては学園に行ってからが試練なのだろう。

「負けてはいられませんわね」

将来の王妃に相応しい器となるために。
そして自分の夢を叶えるために。
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