国を捨てて自由を掴む

神谷アキ

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1、『ブックカフェ ラーシャ』

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 一歩ずつ、光の中を歩き進める。夜ではないのに、下から光が当たっているような設計になっていて面白い。

 モデルのランウェイを意識して、背筋を伸ばし顎を引く。目線は真正面に。指定された位置まで来ると、ワンピースの裾を広げくるっと回る。そしたらまた来た道を戻り幕の中へ入っていった。

 1分ほどの短い時間だったが、大勢の人に注目されていた。お兄様やお姉様たちとは違い、あまりパーティーでも人前に出たことがない。こんな景色を見ていたのかとまだドキドキする胸を押さえる。
 するとノーラさんが私のところへ走ってきた。


「サラちゃん、すごくよかったわよ。モデルがあなたで本当によかった!!後は、他のモデルが歩き終わったら人気投票をして終わりよ。うまくいけば1位を狙えるわ!」


 テンション高く私に抱きついてくる。うまくできていたようで安心した。2人で他のモデルさんがショーをしているのを楽しんでから、人気投票に移った。


「それではファッションショーの結果を発表したいと思います! 多くの素晴らしい衣装とそれを着こなすモデルさん達が魅力的でしたね! ではまず3位から!」


 司会者がテンション高く進行する。ジャジャーンと効果音がなり、3位になったデザイナーとモデルが発表された。


「まず3位……カーラさんとジュリさんのペアです! おめでとうございます! シンプルだけど肩を出すと言うセクシーで斬新なファッションが評価されたみたいですね。」


 歓声の上がる中、名前を呼ばれた2人組が前に出て行く。観客に手を振って2人で喜んでいる。


「それでは次。2位の肩の発表です! ……2位はシェリーさんとマリーさんの双子ペアです!おめでとうございます! ポップな印象で元気ハツラツなデザインが好評だったみたいです」


 双子のペアだったんだ。確かに顔が同じだ。ハイタッチをして2人でキャーキャー言っている。それを見て微笑ましく思っていると、司会者が話し始めた。


「そして栄えある第1位の発表をしたいと思います。このペアは2位のペアと大差をつけての圧勝でした。それでは……」

ジャジャジャジャーン!

 今までよりも大きく効果音がなる。そして、会場の雰囲気も高まったところで、司会者が発表した。


「……1位は、サラさんとノーラさんのペアです! おめでとうございます! 洗練されたデザインのワンピースでふんわりとしたスカートが好評でした。模様により、体の線が美しく見えるのも若い女性に人気が出たようです」

「え?」


 呼ばれた名前にびっくりして呆然としていると、ノーラさんが飛びついてきた。キャーッといいながら抱きしめてくる。


「サラちゃん、私たちが優勝よ! 何回もコンテストに出場してきたけど初めてだわ! 本当にありがとう……」


 私の肩に水滴が落ちる。ノーラさんの背中に手を回すと、体が震えていた。


「こちらこそありがとうございます。素晴らしい衣装を着させてもらって、しかも優勝なんて……。すごく素敵な体験でした」


 優勝なんて驚いたけど、すごく嬉しい。泣いているノーラさんと抱き合って喜びを噛み締める。
 その後、軽く表彰式がありコンテストが終わった。


「入賞者が出揃ったところで、このコンテストを終了したいと思います! 皆さん、ありがとうございました! 入賞したデザイナーさんのお店はこれから忙しくなること間違いなしですね! それではまた来年お会いしましょう」


 司会者がステージから降りていく。私たちはビートとトマさん達を見つけようと混雑する人混みの中を歩いた。衣装は、宣伝のためにくれるらしい。最低でも今日1日は着ることが条件のようだ。

 やっと人混みを抜けると肩車をしてもらっているヒナを見つけた。背が小さくて見えないから、ビートがしてくれたのかな。

 4人を見つけたノーラさんがテンション高く歩いて行った。私も置いていかれないように小走りでついていく。


「ねぇ、私たち優勝しちゃった!」

「見てたぞノーラ。おめでとう。サラちゃんも、すごい綺麗だったよ」

「ありがとうございます、トマさん」

「あのね、キラキラ光って綺麗だったの!」

「ヒナは1番騒いでいたよな」


 やっぱり女の子だからかわいい服に興味があるみたいだ。ビートからヒナを受け取り、優勝商品のティアラを頭に乗せる。


「うわあ、きれい! ヒナがつけていいの?」

「うん、とても似合ってるよ。かわいい。ね、ビート」


 ビートにも同意を得ようと振り返った。しかし、また私と目を合わせようとしない。
 またか、とため息をつきながら少し屈んで無理やり目を合わせた。
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