国を捨てて自由を掴む

神谷アキ

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1、『ブックカフェ ラーシャ』

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「サラお姉ちゃん、次はどうするの?」


 ヒナが手をベタベタにしながら聞いてくる。今日は週に1回の定休日。テル達と一緒におやつ作りの真っ最中だ。

 まず、小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、牛乳、溶かしバターを順番に混ぜ合わせる。そして手で伸ばして形を作るのだけれど、これに中々の時間をかけている。


「見てー、ハートできた!」

「僕は星!」


 私はシンプルな丸い形を作ろうと思っていたが、子ども達はここで異常な創作意欲を出した。すでにいくつか作っており、中にはよくわからない形やうずまき形のものもある。揚げた時にくっついてしまわないか心配だ。


「作りすぎても勿体ないし、そろそろ終わりにするよ」

「えー、もっと作りたい! もうおしまい?」

「今日作って美味しかったらまた今度たくさん作ろっか」

「えー、わかった」


 あとは揚げる作業なので、油がはねても大丈夫なように子ども達をカウンター席へ向かわせる。慎重に揚げないと、すぐにポロっと崩れそうでこわい。ゆっくりと油の中にいれ、様子を見ながら取り出していく。
 最後にグラニュー糖を満遍なくまぶしたら完成だ。

 全部食べ切れるかな? とお皿に盛り付けていく。思っていたより数が多い。小さな山になったドーナツを店内へ持っていくと、なぜかビートが2人と話をしていた。


「よっ、サラ。話があって来たんだが、何を持ってるんだ?」

「ビート。いらっしゃい。今日はみんなでおやつ作りをしていたの。少し作りすぎちゃったから、よかったら食べて行かない?」

「よっしゃ、ラッキー。いろんな形があるな」


 そう言って1番上にあったドーナツを手に取る。


「お、変な形だがうまいな」

「それね、ヒナが作ったの! お花だよ!」


 それは揚げた時に、花びらの切れ目がくっついて丸のような、けれど内側にトゲのあるような変な形になってしまったのだ。


「あっはっはっ。これが花かあ。大方、揚げた時にでもくっついたのか? でも味が美味いから合格」

「ありがとうございます。気をつけていたんだけど、くっついてしまったのよ」


 ビートが笑いながら、少し拗ねている私をチラッと見る。私も食べようとドーナツに手を伸ばすとテルが手渡しでくれた。


「テル、ありがとう」

「うん、それ僕が作ったやつ」

「そうなの?食べてみるね。」


 反応を待っているのか私をじっと見てくる。ビート達を見て、自分が作ったドーナツも食べてもらいたかったのかな?


「おいしい。よくできてるね」


 味は変わらないはずだが、そういうと照れたように笑う。コメントに満足したらしく、また自分の分を食べ始めた。
 その時、最初にビートが言っていたことを思い出してきいてみた。


「そういえばビート、話って何?」

「そうそう、話があって来たんだよ。今月末に祭りがあるのは知っているか?」

「うん、お客さんがよく話してる。現国王の誕生祭だっけ?」

「そうだ。例年、現国王の誕生祭をしてその日は祝日になる。ものすごく活気のある祭りなんだ」

「それがどうかしたの?」

「ああ、そこで色々な部門のコンテストが開かれるんだが少し問題が起こってな。親父の友人に服飾デザイナーがいるんだが、そのモデルが怪我をして出れなくなっちまったんだ。それで代わりのモデルを探しているけれど見つからなくてさ。そこでサラを思い出したんだ」

「私?」

「おう、サラはスタイルがいいしモデルの体格と近い気がして。人助けと思って頼まれてくれないか?」


 スタイルが良いと言われ、少し恥ずかしくなる。しかし、到底自分に務まるとは思えない。

「せっかく誘ってもらって悪いけれど、多分私なんかがそのモデルさんの代わりにはならないと思うよ」


 誘ってもらったのにごめんと断っていると、ヒナが声を上げた。


「サラお姉ちゃんでないの?きれいなお洋服着れるんだよ?」

「代わりになれないって言うけど、サラさんはかなりきれいな顔だと思うよ。だってさっきビートさんが、この店に来る若い男のお客さんは半分以上がサラさん目当てだって言ってたもん。ビートさんもサラさんのこ……ムグ!」

「お客さんが?」

「おい、何を話そうとしているんだ!」


 話しているテルの口をビートが慌てて塞ぐ。しかし、テルの話を聞いて照れていた私は後半をあまり聞いていなかった。


「そういうことだ、サラ。デザイナーさんの為にもコンテストに出てくれないか? このコンテストで優勝したデザイナーの服は売れるようになると評判なんだ」

「ヒナ、きれいなお洋服を着たサラお姉ちゃん見たい!」

「うん、僕も見たいな。その日はお店も休みだし服のサイズが合うかどうかだけでも試してみたら?」

 3人に詰め寄られ少し考える。服を着るだけだったら大丈夫かな。隣国だし、王女としての私の顔を知ってる人もいないだろうし。そう結論を出して、コンテストに出ることにした。


「わかった。コンテストに出る」

「本当か!助かった、ありがとう! じゃあ早速試着しにいくぞ!」

「今から?」

「おう! 早いほうがいいしな。2人も来るか?」

「「行きたい!」」

「じゃあ行くぞ」


 行動が早い。ただ、私もどんな服か興味があるためすぐに出かける準備をする。
 みんなでお店をでてデザイナーさんの所へ歩き出した。
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