高校生、戦国を生き抜く

神谷アキ

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2、居候が3人

41、敏之side

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「お待ち下さい。ここは羽川ではありません。斎賀の屋敷で勝手なことをされては困ります!」


 真人が広間を出ていくのを見送ってから使者の人に向き直る。ここからが正念場だ。後を追わせないようにこの場で食い止めないと。


「羽川家の方々。少々お待ちいただきたい」


 いまだに真人を追いかけようとしている人たちを見て静かに、でもよく通る声でじいが呼びかける。
 野呂田寛斎、自称じい。普段は私や二郎丸の世話を焼いてくれる好々爺だが、実際は違う。長年の間、先代当主の右腕として名を馳せてきた。

「そちらの言い分に少し引っ掛かりを覚えましてな」

「引っ掛かりとは?」


 じいの言葉に怪訝な顔を隠そうともせず八津左の使者が尋ねる。


「左様。先程はそちらの勢いでつい頷きそうになり申したが、そもそもの問題で田辺殿を引き渡す必要はないのでは?」

「どう言う意味ですかな」


 言葉を聞いた途端に目をすっと細める使者に対し、じいは目から鱗の話をし始めた。


 「田辺殿になついており、儂等も予定外のことで客人扱いしていたので失念しておりましたが、重孝殿は本来は捕虜という立場。いくら次期当主とはいえ捕虜を連れ去った人を引き渡せとはおかしいのではないですかな? 停戦中ならまだしも、今は戦時中ですぞ」


 当たり前だ。戦時中に敵の人間を人質にしたからって責められる言われはない。
 その話を聞いた斎賀の家臣達はざわめき始める。言葉巧みに誘導され、使者寄りに傾いていた雰囲気が今の言葉でこちら側に傾き始めた。


「そうだ! 人質や捕虜をとるのは戦の常套手段ぞ。あたかも田辺殿を罪人のように言うが、そしたら八津左に田辺殿を連れ去ったやつはどうなる」

「しかし捕虜ではなく罪人として囚われていたとはどういうことだ?」

「もっともらしいことを言いよってからに……」

「逃げようとする田辺殿を無理やり捕まえようとした態度と、わざわざ罪人が逃げ出したからと南部鉄の引き取りの許可。何を考えている?」


 だんだんと広間が紛糾し始める。その時、使者を引き留めようと立ち上がっていた私の横で、一言も話さず静かに話を聞いていた男が口を開いた。


「八津左の狙いは重孝殿の救出に見せかけているが、違うのではないか?」

「十兵衛、説明しろ」


 小さく呟かれた言葉に反応して父上が続きを促す。体勢を整えて、十兵衛が父上に事の顛末を明らかにすべく気づいた事を語りはじめた。


「まず、大前提として重孝殿の保護。これも間違いではないでしょう。ですが、本題は別にあります。それにかこつけて田辺殿と南部殿の引き渡しを要求してきたことが大きな意味を持つのです」


 いつのまにか広間が鎮まりかえっている。皆が十兵衛の言葉に耳を傾けるようにして聞き入っていた。


「今回の件ではおかしなことがいくつかありました。今までとは違う五千もの兵の動員、田辺殿を連れ去ったこと、そして兵の撤退。しまいには理不尽な引き渡しの要求。田辺殿が来られてから今までの小規模な戦ではなくなり、矢を受けた者をわざわざ連れ去っています。以前軍議でも議論いたしましたが、確信が持てました。これら全てに田辺殿が関わっているのです」


 十兵衛の言葉を聞いていた使者達が次第に顔色を変え始める。中央の男を除き、視線を彷徨わせはじめた。


「八津左の狙いは田辺真人を手に入れること。その証拠に、八津左領にいる間に関所を撤廃しております。対策を立てず無闇に開放したため、逆効果のようでしたが……。大方、こちらに送り込んだ間者から情報を得たのでしょう。それで領を豊かにさせるとともに税を上げ、搾取できる量を増やそうとしたのでは? 現当主殿は側室が増え続けているようですし」


 蔑むように中央にいる男をみながら言葉を発した。平然と、さもその解釈が間違っているかのような佇まいをしているが、私も十兵衛の話は的を得ていると思う。

 目を閉じて話を聞いていた父上も頷いている。だが、鉄のことはどう説明する? 待っていると続けて話し始めた。


「そして南部鉄。南部というのは有名な忍びの一族であろう?」


 城下町で見かけたという話から、真人と鉄が一緒にいることは知られていないはず。
 今度は使者に話しかけるような口調になる。
 鉄のことを知られているのか、そうではないのか。相手の反応を確かめながら答えを導き出していく。


「なにをして罪人になったのかは知らないが、その者を捕らえると言う名目で斎賀の城下町を調査するつもりだったのだろう。人の出入りは多いが、不審な者や間者は容赦なく始末している。しかも戦中ならなおさらのこと。情報収集の手段として、あるいは田辺殿のことを悟られないため、目立たなくさせるために言ったのでは?」


 つまりは真人を手に入れるための手段ということか。牢に入られたというのは逃さないためにしたことなのだろう。なんと大掛かりな。
 ある意味感心していると、それを聞いていた中央の男が口を開いた。


「何を根拠に。全て憶測の話ではないですか。私たちの1番の目的は重孝様の保護。まだ戦にも参加できない年齢の方を騙して連れてきたのですから返してもらいに来ただけです。また2人は罪人ですので」


「またいい加減なことを言いおって……!」

「まだ認めぬのか!」


 のらりくらりと、あくまでも戦時中であることを視野に入れず重孝を連れ戻しに、そして罪人だからと自分勝手な自論を展開する使者に父上が裁決を言い渡す。


「今回そちらの言い分を聞くことはできぬ。早々にこの領から出て行け。敏之、こやつらに監視をつけて八津左に帰るのを見届けさせろ」

「はっ」


 その場にいた小姓に指示を出して城の門を出て行かせる。
 これでひとまずは安心だ。どこに行ったかはわからないが後で真人達を呼び戻さないと。


 その後、二郎丸から話を聞き城下町に向かったがどこにも真人と鉄は見つからなかった。
 3日後、真人のよく訪れていた工房に行くと重孝が匿われていた。よくわからない質問をされたが、真人の好きなものを答えたら正解したらしい。
 奥にいた重孝に軽く説明をして、2人で城に戻った。匿まっていた職人に後で礼をせねばな。真人のことを心配していたが、もしここに来たら城に戻るように伝言をたくしておいた。

(早く戻らないと、ちーずとやらを食べてしまうよ?)

 鉄がいるなら大丈夫だろうと安心するも、いつもより少しばかり静かな食卓に早く帰ってくるように願うのだった。
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